2018年10月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

待望の「5G」サービスが米国家庭向けに提供開始、日本は2020年に本格提供へ~MWCA2018に見る米国5G最新動向



2018年9月12日、世界中の消費者の注目がAppleの新型iPhone発表イベントに集まるなか、米国ロサンゼルスでは世界規模のモバイルの祭典「Mobile World Congress Americas」(以下、MWCA)が開幕した。Mobile World Congressは、毎年2月にスペイン・バルセロナ、6月に中国・上海、そして9月に米国で開催される業界恒例のイベントである。モバイル関連業界の事業者が最新サービス・技術を披露し、業界トップクラスの事業者幹部らが今後の戦略や業界の最新動向について議論を交わす場となっている。業界の今後の方向性を知るうえで欠かすことのできない場と言っても過言ではないだろう。最近では現在の4G/LTEの次世代通信規格である「5G」が議論の中心となっている。

今回のMWCA2018では、会期直前にVerizonが発表した、5G技術を活用した家庭向けブロードバンドサービス「5G Home」に注目が集まった。本稿では、MWCA2018の模様を取り上げつつ、Verizonを含む米国キャリアの5Gへの取り組みについて紹介する。またこれを踏まえ、日本における家庭向け5Gブロードバンドサービスの展開可能性についても考えてみたい。

5Gとは
現在スマートフォン等に提供される4G/LTEの次世代無線通信規格。5Gでは、4G/LTEと比較して、「1.高速」「2.低遅延・高信頼」「3.省電力(センサー等のIoT機器の通信に適した通信)」の3つを軸として通信能力が拡張される予定。消費者目線では、従来よりも高解像度の動画をスムーズに視聴できたり、身の回りの機器が常時インターネットに接続されることで、生活がより便利になったりすることが期待される。日本では2020年から本格的に5Gサービスの提供が開始される見込み。

Verizonは家庭向け「5G Home」でケーブルテレビ事業者に対抗

Verizonの展示ブースでは、同社が10月1日から家庭向けに提供する新サービス「5G Home」が注目を集めていた。Verizonは「5G Home」を「世界初の商用5Gサービス」と位置付けている。「5G Home」は、家庭の近くに設置するVerizonの5Gアンテナと、各家庭に設置する専用の通信機器とを無線で接続することにより、家庭内まで光ファイバーを敷設しなくても高速なブロードバンド環境を実現するものである。一般に5Gで用いる予定の高い周波数帯は電波の直進性が高いため、「5G Home」ではVerizonのスタッフが専用の通信機器を家庭内の適切な位置に配置することで接続の安定性を確保する。その結果、Verizonによると、通信速度は最大940Mbps、典型的には300Mbps程度を見込めるという。料金は、Verizonのモバイル契約があるユーザーは月額50ドル(そうでないユーザーは月額70ドル)となっている(図1、写真1)。

5Gアンテナのイメージ

【図1】5Gアンテナのイメージ
(出典:Verizon YouTube動画)

Verizon「5G Home」

【写真1】MWCA2018展示ブースのVerizon「5G Home」
(出典:MWCA2018会場にて筆者撮影)

Verizonは「5G Home」をケーブルテレビ(CATV)事業者に対抗する手段として位置付けているようだ。米国では現在でも多くの家庭が有料CATVサービスに加入し、CATV網による固定ブロードバンドサービスを利用している。近年ではNetflix等の有料動画配信サービスを利用する家庭が増え、「コード・カッティング」と呼ばれるCATV解約も進みつつあるが、CATV契約数は米国全体で4,600万程度と依然として多い(2018年第2四半期時点、Strategy Analytics調べ)。

Verizonはウェブサイトの「5G Home」ページ内で「Cut the Cord(ケーブルを切ろう)」というキャッチフレーズを打っている。また「5G Home」加入者には、Apple TV 4K(様々な動画配信サービスをテレビで視聴可能にするApple製品。4K HDRに対応)もしくはGoogle Chromecast Ultra(スマートフォン等で表示している動画等をテレビで視聴可能にするGoogle製品。4K HDRに対応)をプレゼントし、さらに加入後3カ月間はYouTube TV(従来のテレビ放送60チャンネル以上をインターネットで視聴できるGoogleサービス)を無料で提供するキャンペーンを展開している(ただし、4カ月目からは月額40ドルが発生)。「5G Home」と映像サービスを組み合わせ、従来のCATVに代わる体験として消費者に訴求する狙いだろう。MWCA2018のブース展示では「5G Home」に大型スクリーンを含む複数デバイスを接続し、4K等の高解像動画を同時再生しても、すべての機器で問題なくスムーズに視聴できることをアピールしていた。「5G Home」の提供開始となる10月1日時点では、サービス提供エリアはロサンゼルス、ヒューストン、インディアナポリス、サクラメントのそれぞれ一部地域に限られるが、提供エリアは今後拡大していくと思われる。

なお、少し技術的な話になるが、Verizonは「5G Home」のサービス展開において、業界標準規格ではなくVerizonの独自規格を採用している。そのため「『5G Home』は世界初の商用5Gサービスとは言えないのではないか」と指摘する声もある。独自規格は標準規格と比較して将来的なスケール面で不利になるリスクがあるが、Verizonとしてはリスクを取ってでも5G技術を市場に先行投入し、顧客に訴求したいということなのだろう。確かに家庭向けの据え置き利用であれば、モバイルとは異なり他キャリアネットワークへの接続は想定されないことから、独自規格を採用するリスクは比較的小さいと言えそうだ

繰り返しになるが、「5G Home」は家庭向けにブロードバンド環境を提供するものであり、屋外においてスマートフォン等のモバイル端末で利用するサービスではない。日本では、4G/LTEを活用してKDDIは「auスマートポート」、ソフトバンクは「ソフトバンクAir」を提供しているが、「5G Home」はそれらの5G技術版と言えるだろう。なお、Verizonはモバイル向けの5Gサービスも計画しており、2019年の提供開始となる見込みである。

AT&Tは「標準規格」「モバイル中心」の5Gを強調

Verizonの競合キャリアであるAT&Tは、2018年内に米国12都市で5Gを展開する計画である。MWCA2018のカンファレンスセッションでは、独自規格を採用して家庭向けの「5G Home」を市場投入するVerizonとは対照的に、AT&Tは「標準規格」「モバイル中心」のスタンスであることを強調した。また2019年早期に5G展開を予定している5都市も新たに発表しており、モバイル向け5Gサービスへの積極的な姿勢を見せている(本稿執筆時点)(図2)。

AT&Tのモバイル向け5Gサービス展開予定エリア

【図2】AT&Tのモバイル向け5Gサービス展開予定エリア(◆・★マーク箇所)
(出典:AT&Tサイトに加筆)

Sprintは5GでもT-Mobile USとの統合メリットを強調

モバイル契約者数で業界4位であるSprintは、同3位のT-Mobile USとの統合に向け、規制当局の審査を受けているところだ。MWCA2018ではSprintの会長(マルセロ・クラウレ氏)がキーノートに登壇し、2社の統合により周波数帯が相互補完され、ローバンド(600MHz帯)~ミッドバンド(2.5GHz帯)~ハイバンド(ミリ波)が揃うことで、「世界をリードする5Gネットワークを構築可能なキャリアが誕生する」と述べた。統合後の新会社のモバイル契約者数はVerizonやAT&Tと並ぶ規模となる見込みである。

なお、これまでにSprintは、2019年上半期における米国9都市での5G関連技術(「Massive MIMO」と呼ばれるアンテナ技術)の展開計画を発表している。またT-Mobile USもこれまでに、ローバンド(600MHz帯)を活用したモバイル向け「5Gサービス」を2020年までに全国カバレッジで提供する計画を発表している。2社の統合が実現するか、そして統合が今後の5G展開計画にどのように影響するか、注目されるところである(写真2)。

Sprint会長のキーノート

【写真2】Sprint会長のキーノートの様子
(出典:MWCA2018にて筆者撮影)

このように、米国における5G展開はキャリア毎に異なる方針・取り組みとなっている。本稿が公開される頃には、Verizonの「5G Home」の提供開始からおおよそ1カ月程度が経過しているであろうから、「5G Home」に対する最初の評価がなされているのではないだろうか。

日本での5Gサービス提供は2020年から本格化

現在日本国内で4G/LTEを提供しているキャリア(Mobile Network Operator: MNO)であるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は、2020年から5Gサービスの商用提供を本格化する予定である。前年の2019年にはプレサービスも計画されている。2019年10月に4G/LTEを提供開始予定の楽天も、2020年に5Gサービスを開始したい意向だ。5G展開エリアについてはNTTドコモが「都市部から地方まで、必要とされる場所に展開」というスタンスを示しており、KDDIとソフトバンクもネットワーク構築においては地方やIoT機器等も考慮すべきというスタンスであることから、4G/LTEのような「まずは東名阪の都市部から、その後地方へ拡張」とは異なる展開の仕方となるのではないか。その背景には、スマートフォン等での利用以外に遠隔医療・遠隔操縦・スタジアムソリューション等といった利用シーンも想定されていることがあるのだろう。この点は、「まず都市部ありき」「消費者狙い」のように映る米国キャリアの5G展開とは異なる印象である。

考察:日本での家庭向け5Gサービスの展開はあるか

日本国内において、Verizonの「5G Home」のような家庭向け5Gサービスの展開はあるのだろうか。

まず現在のキャリア(MNO)3社は現時点では「5G展開は必要とされる場所から」というスタンスで揃っているように見えることから、(Verizonのように)5Gの提供開始と同時に家庭向けサービスを投入するということは考えづらいのではないか。またNTT東西の光コラボレーションの活用により全国規模で家庭向けブロードバンドサービスの提供が既に可能となっていることから、サービスとしての優先順位も高くないと思われる。これらの点から筆者は、5G展開エリアがある程度広がった頃合いにKDDIやソフトバンク等が既存の家庭向け無線ブロードバンドサービス(前述)を5Gに高度化することで、キャリア(MNO)による家庭向け5Gサービスが登場してくるのではないかと考えている。

その一方、キャリア(MNO)以外では、各地域のCATV事業者において家庭向け5Gサービスが展開される可能性があるのではないか。国内にはNTT東西の固定ネットワークを利用できないエリアも存在しており、そのようなエリアではCATV事業者のCATV網を活用してインターネット環境を得ている場合がある。今後さらなる通信トラフィックの増加に備え、CATV網によるインターネット環境が高度化されるにあたり、5G技術を活用した家庭向け無線ブロードバンドサービスはCATV事業者の設備コスト低減や提供エリア拡大に寄与する可能性があるだろう。2018年8月31日から実施された総務省の「第5世代移動通信システムの利用に係る調査」では、ケーブルテレビ富山を始め複数のCATV事業者が特定地域での5G利用を希望している。5Gの活用によって、より多くのユーザーが高速インターネット環境を利用できるようになることは望ましいことである。キャリアによる家庭向け5Gサービスより先に、各地域でCATV事業者による家庭向け5Gサービスが登場するかもしれない。

おわりに

本稿で見てきたとおり、現状米国キャリアはそれぞれ異なる方針・取り組みを行っており、今後の加入者数競争にどのように影響するか興味深いところである。日本に先立ち5Gサービスの提供が開始される米国市場の動向は、今後の日本市場の行方を占う際の参考になる。米国では今後も5G関連の話題が相次ぐと思われるため、引き続きその動向に注目すると面白いのではないか。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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