情報通信審議会特別委員会の包括的検証開始
総務省は、今年8月23日に情報通信審議会に「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」を諮問しました。諮問理由は、平成27年の電気通信事業法等の改正法附則9条に、施行後3年経過後、施行状況について検討を加え、必要があるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされていて、今回、電気通信事業分野における規律に関連して検証を行うと述べられています。
基本認識として、近年の情報通信の著しい役割の増大や移動通信と固定通信それぞれで5Gサービスの実現および中継網のフルIP化の進展があること、SDNやNFV等ネットワークの仮想化技術の実装が進んでおり、また、プラットフォーマーの影響が大きく拡大していることを取り上げています。
そこで、これまでの電気通信事業分野における競争ルールや基盤整備、消費者保護等の在り方について見直しが急務であるとの立場から、平成27年改正法の施行状況を含めて、これまでの政策について包括的に検証した上で、2030年頃を見据えた新たな競争ルール等について検討を行うことで総務大臣諮問となったものです。
具体的に答申を希望する事項として、以下の7項目が取り上げられていて、これらの項目別に審議会内の電気通信事業政策部会の下に特別委員会が設置(9月19日)され、併せて、3つの研究会と1つのワーキンググループが設けられて、10月4日の第1回特別委員会を皮切りに検討が始まっています。特別委員会の主査は、上位の政策部会長の山内弘隆一橋大学大学院経営管理研究科教授が担当していて、検討体制の規模の大きさからも総務省担当部局の力の入れようが伝わってきます。
この包括的検証の諮問に携わる、特別委員会と3研究会・1ワーキンググループ全体の構成員は延べ62名、そのうち複数担当の構成員もおられるので実人数では43名ですが、それでも相当規模の大検討プロジェクト体制となっています。ここまで大規模で多重で複雑な検討体制となったのには、まさに電気通信事業・サービスおよびその周辺関連分野の包括的検証を行う総務省当局の熱気が感じられます。ここで検討体制中の構成員メンバー(有識者)のバックグラウンドを見てみると次のようになり、非常に構成上のバランスに配慮していることが分かります。ここで、お断りをしておきますが、今月のこの巻頭”論“では検討項目や内容などには触れません。この小論を書いている10月下旬時点では、まだ方向性が十分によく見えていませんので、もう少し経過を把握しながら評価をしていくつもりです。御理解下さい。(注)
構成面で特徴的なことは、制度面の検証から、法律・経済などの大学教授が中心となっていること、他方、事業の実務サイドから弁護士やコンサルタント・シンクタンクからの有識者を配置すると同時に、実際のサービス面から消費者団体のメンバーを加えていることです。ここには、経済団体や企業関係者、マスコミ関係者は入っておらず、検証というフィールドなので構成員には相応しくないとの判断なのでしょうか。企業関係者はともかく経済団体やマスコミ関係者が1人もいないのも不思議な感じがします。また、女性のメンバーは延べ18名(29%)、実人数14名(33%)で、特に、消費者保護ルールに関するワーキンググループでは12名中5名、42%を占めています。これから来年6月の中間答申に向けた集中的な議論において、制度、法律、技術、事業、経営、消費者など多様な視点で検証が進むことを期待しています。
ここで見方を変えた懸念にひとつだけ触れておきます。43名の特別委員会・研究会・ワーキンググループのメンバーのなかには、当然、担当を2~3持っておられる方がいます。本業のほかに、こうした短期間の精力的な検討、会合への参加と稼働面で難しい状況が予想されますので、効率的な検討の進捗が望まれます。特別委員会と各研究会・ワーキンググループの会合にそれぞれ月1回参加して議論するだけでも相当の負担が想定されます。特に、大学関係者は期末の1月から2月は繁忙期になるだけに、効率的な検討を図る必要があります。利害調整を離れた本質的な審議をお願いします。中間答申までの検討期間が短いことが心配です。通信事業者など関係する事業者などは、逆に、構成員のメンバーに、この機会にじっくり話を聞いてもらいたい、理解を求めたいと考えているでしょうから、検討スケジュールを考慮するとかなり難しい綱渡りが予想されます。建前ではなく、本音の議論ができるようリードして頂くよう関係の方々に、よろしくお願い申し上げたい。併せて、検討体制を支えている総務省の事務方、総合通信基盤局電気通信事業部各課の担当メンバーの皆様に、会合開催事務や討議資料の作成、また、局内や省内調整、他省庁折衝など数々の業務をこなしながら、効率的な議論が進むよう努めて頂きたいと思います。私自身、若い頃に、大臣諮問の基本問題を扱う審議会の下の委員会の事務方を務めた経験がありますので、裏方作業の煩雑さはよく理解できます。今回の諮問事項が10年先を見据えた検討なので、マスコミを賑わしている料金値下げの観点だけではなく、多様な視点から、関係者の意見や主張に耳を傾けたものとなることを期待しています。
最後に、今回の方策のベースとなったのは平成27年改正法に基づく施行後の検証規定ですが、その時の改正事項は、(1)公正競争の促進、(2)サービス利用者の保護、など直面する課題解決のためのものでした。しかし、今回の検証のタイムスパンが10年後を見据えたものであるだけに、この機会に、現状に至る過去30年の政策決定の検証、即ち、電気通信サービスの多様化、NTTグループへの規制と事業分離、ユニバーサルサービスの変化、グローバルな競争力、電波周波数不足などにまで踏み込んだ検証となることを希望しています。
(注)10月31日、NTTドコモは、来年度第1四半期に2~4割程度の値下げを行うと発表
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