2019年3月26日掲載 IoT InfoCom T&S World Trend Report

スマートスピーカーの活用モデル



海外、特に米国ではかなり普及した印象のあるスマートスピーカー(音声アシスタント)だが、日本においてはあまり利用が広がっているという話を聞かない。しかし、音声や会話によるユーザーインターフェース(VUI/CUI)の典型的デバイスであるスマートスピーカーの事業への活用について、真剣に検討を始めたり既に実際にアプリ(機能)を開発して顧客に対してサービス提供を行ったりしている企業も増えている。こうした例をみながら、今後スマートスピーカーがどのような場面で活用されうるのか考察してみた。

スマートスピーカーの普及と課題

スマートスピーカーそのものの詳細については、本誌で既に何度も取り上げているので省くが、日本における普及率は2018年12月の時点で5.9%とかなり低調で(電通デジタル2019/2/18、スマートスピーカー利用実態調査)、約23%の普及率(Voicebot.ai 2018, Voicebot Voice Assistant Consumer Adoption Report 2018)となっている米国にはかなり水をあけられている。

音声アシスタント全体で考えれば、スマートフォンではGoogle Assistantが、iPhoneではさらにSiriが使えることから、もう少し普及率は上がると想定されるが、それでも日常的にVUI/CUIを活用している人は少数派だろう。

筆者が考えるスマートスピーカーの普及率が低い原因は、大別すると、(1)スマートスピーカーそのものを知らない/興味がない、(2)スマートスピーカーを知ってはいるが、使うと何が良いのか、何が便利になるのかわからない、(3)使ってみたいが価格が高い、(4)使ってみたいが設置できるか不安/設置できる環境にない、(5)セキュリティやプライバシーなどが心配、といった点だ。

スマートスピーカーに対する認知度は、内容や特徴まで知っているのは18.1%(電通デジタル2019/2/18、スマートスピーカー利用実態調査)と高いとは言えない。しかしながら、便利で役立つ機能(アプリ)、すなわち音声アシスタントやスマートスピーカーを使ってできること、が増えていけば、米国と同じように認知度も上がり普及していくだろう。価格についても、提供される価値が値段相応であれば普及の障壁ではなくなる。

設置の面倒さは、他の家電に比べて極端に難しいわけではなく、スマートフォンを操作できるリテラシーがあれば問題ないと考える。Wi-Fi環境がないと面倒だが、DSL、CATV、FTTH、FWAを使ってインターネットに接続している世帯は、2017年で81.4%と高い水準にあり(総務省2018、平成29年通信利用動向調査)、こうした世帯は既にWi-Fi環境を導入しているか、導入していなくても容易に導入可能である。ただ、スマートスピーカーに家電を連携したり、さらに赤外線リモコンを接続したりするなどして活用しようとすると、若干設定が面倒になるのは否めないだろう。

セキュリティやプライバシーの問題は、深刻ではないが根が深い。スマートスピーカーを提供する各事業者は、当然こうした問題に配慮してポリシーをしっかりと定めてはいるが、プライベートな空間にマイクが置かれて話した内容が外部に送信され記録されるとなると、その扱いを気にする人が多いのは当然だ。スピーカーには、マイクを切断するスイッチもついているが、切ってしまうと当然だが呼びかけには反応しなくなる。結局、セキュリティ事故が起こることなく普及が進んでくれば、気にしないようになる人も増えてくる、ということだと考える。

スマートスピーカーがなくても、スマートフォンで音声アシスタントを活用していれば、スマートスピーカーでできること、便利になることはわかるはずだが、音声アシスタントを活用している人もあまり見かけない。公衆の場では、特に日本人は機械に向かって話をするのをためらいがちではないかと思う。数十年前留守番電話が世に出てきたころ、電話をかけて録音された音声が応答すると、用件を録音することなくいきなり電話を切る人が非常に多かった。一方、米国では、インターネットが広まる前から“ボイスメール”の利便性が認識され、例えば企業内のコミュニケーションでも幅広く活用されていた。こうした国民性の違いも、普及率の差に多少影響しているのではないかと思われる。

スマートスピーカーは、スピーカーそのものよりマイクの性能と音声認識の機能、すなわち、様々な環境の中でいかに正確に音声を拾って認識できるか、が非常に重要である。筆者は自宅でGoogle Homeを活用しているが、音声認識という点では、100%とは言わないが、ほぼ実用的には問題ないレベルで正しく認識してくれている。

結局、スマートスピーカーならではの便利な機能、新しい活用方法が開発され理解されることが普及へのカギということだろう。

機能開発のサポート(Google、Amazon)

それぞれのスマートスピーカーの利便性と価値を高めるため、GoogleとAmazonは、第三者が行う機能開発に対して積極的なサポートを提供している。

1. Google

Google Assistantを通じて提供される機能(アプリ)は、正式にはActionsと呼ばれる。開発者向けのウェブサイト[1]では、開発者向けのドキュメントから、プロジェクト作成のためのコンソール画面、簡単に自然言語を使った会話形式のやり取りをプログラムできるDialogflowなど、いつくかのリソースにアクセス、リンクさせることができる。

Googleは、Actionsを開発した技術者に対してクラウドサービス(Firebase)の利用料を月額$200まで無料にするなどの開発支援も行っている。さらに、開発が一定のレベルに達すれば、開発者グループの集まりへの招待や、スマートスピーカーの提供を行うとしている。

2. Amazon

Amazonの音声アシスタントであるAlexaで提供される機能(アプリ)は、スキルと呼ばれる。スキルを開発する技術者は、ウェブサイト(https://developer.amazon.com/ja/alexa-skills-kit)で動画などでの解説も含めかなり手厚いサポートを受けることができる。開発者の登録とクラウドサービスの利用登録が必要となるが、ウェブ上のコンソールを使って機能開発をすることが可能となる。

Google同様、開発者向けに、クラウドサービス(AWS Lambda)の利用が無料枠分を超えても、月額最大$200まで無料とする支援を行っている。さらに、優れたアプリに対して報奨金を払う取り組みを始めることを検討しているという報道もある(日本経済新聞2018年8月6日)。

いずれも簡単なものであれば、プログラミングの深い知識がなくても機能(アプリ)を開発することが可能だが、企業が注文を受けたり、自社の持つデータと連携して動的なサービスを提供したりするためには、サーバー等のリソースとそれなりのプログラミングが必要となる。

既にソフトウェア会社やSI事業者が、企業向けに機能開発のサービスを提供しており、いくつかの企業が音声スピーカーの活用に取り組み始めている。

活用事例

機能(アプリ)の数については正確な数は公表されていないが、Amazonの担当者によると現時点で既に全世界で8万以上のスキルがあるとのことである。日本でも2018年6月末時点で1千以上のスキルが公開されている。Googleについても、2019年1月時点で4千以上のActionsが公開されているようだ。(Voicebot.ai 2018, Voicebot Voice Assistant Consumer Adoption Report 2018)

GoogleとAmazonで公開されている機能(アプリ)をざっと確認してみたが、実はかなりの数が個人ベースで作成されているものだ。その中には、便利で使えるものもあるが、多くが使い物にならないようないわゆる“ごみアプリ”である。それでも、排除されることなく公開されているのは、VUI/CUIを利用する裾野を広げていくことも大事だということなのであろう。

日本において、企業が開発、提供している具体的な活用事例をカテゴリー毎に挙げてみたのが表1である。

提供機能事例

【表1】提供機能事例(2019.3時点調べ)
(出典:Google社およびAmazon社のホームページを参照し筆者作成)

上記のうち、例えばヤマト運輸のサービスは、宅急便を受け取ることが多い人にとっては非常に便利だと言える。企業も不在配達となるリスクを減らすことができ効率化を図れる。

米国では、Domino’s Pizzaが2014年から独自のAIアシスタント(DOM)を使って注文を受けるシステムをスタートさせていたが、現在はスマートスピーカーも活用して注文や配達状況の確認などができるようになっており、広く利用されているようである。

企業以外に、自治体でもスマートスピーカーの活用を検証している事例がある。

株式会社ボイスタートは、スマートスピーカーを活用し、シニア世代向け音声サービスを提供する企業で、2018年10月に鎌倉市とスマートスピーカーを用いて、シニア世代の孤独の解消や認知症予防等に役立て、生活の利便性の向上に寄与することを検証する実証実験を行った。ボイスタート社は、“声のトレーニング”や“防災情報”、”地域イベント情報“などの独自の機能(アプリ)をいくつも開発して提供する一方、鎌倉市の協力を得て在住のシニア世代に設置サポーターとなってもらい、一人暮らしの高齢者が地域コミュニティとつながることも目指して、実験を行った。鎌倉市の担当者によると、実験は概ね好評のうちに終了し、反響も大きかったようである。

ボイスタート社の回谷社長は、「想定以上に高齢者がスマートスピーカーを活用してくれ、どういったニーズがあるのか分析することができた」とのことで、利用した一人暮らしの高齢者からは、(スマートスピーカーとであっても)会話をすることで心が和んだ、という声もあったそうだ。話すだけで活用できるスマートスピーカーは、高齢者が使うIT機器としては利用のハードルは低い。さらに、今後提供を予定している、昼間に一定時間利用されないとアラートメッセージが送られるという“耳守り”という独自機能(アプリ)は、本来のスマートスピーカーとしての使い方とは異なるものの、高齢者見守りサービスとして一定のニーズがあると思われる。

音声AIが、増えつつある一人暮らしの高齢者の話し相手になれれば、彼らの健康維持や利便性向上に大きく貢献できるだろう。Amazonの担当者に聞いた話では、毎日数万もの人が、長い時間一人でAlexaと会話をしているらしい。また、子供を持つ親から、子供がAlexaに対してPlease(お願いします)と言わなかったら、Alexaは質問に答えないようにして欲しい、と要望されたこともあるそうだ。スマートスピーカーが生活の中に入り込んで、擬人化までされている例と言えるだろう。

期待される効果と利用拡大のためのポイント

現在、企業により提供されている、もしくは今後提供されうると考えられる機能(アプリ)によって期待される業務プロセスの自動化やその他の効果を分類すると、表2のようになると考えられる。

業務プロセス毎のスマートスピーカーの活用ポイント

【表2】業務プロセス毎のスマートスピーカーの活用ポイント
(出典:筆者作成)

現在提供されている機能(アプリ)は、その多くがブランディングを意図した情報発信のレベルにとどまっている。しかし、今後は重要な顧客接点になりうることを考慮し、積極的にマーケティングツールや顧客接点として活用していくべきではないだろうか。

スマートスピーカーそのものだけではなく、VUI/CUIのマーケットは広がりつつある。Amazonによれば、2019年1月時点で、AVS(Alexa Voice Service)と呼ばれるAlexa搭載の製品が世界で150以上、Alexaを使って制御したり、ON/OFFしたりできるデバイスは2万8千以上あるとのことである。こうした広がりによって、さらに便利な製品や機能(アプリ)が開発されていくことになる。

Amazonは、消費者向けのスマートスピーカーのサービスだけでなく、”Alexa for Business”と呼ばれる、スマートスピーカーを事業所で活用するためのサービスも提供している。会議室や電話会議の予約、スケジュール管理、他のビジネスアプリケーションとの連携など、業務効率化を図ることが期待できるとしている。

企業が提供する機能(アプリ)を活用しなくても、例えばIFTTT( https://ifttt.com/)を使えば個人でも簡単に他のアプリと連携させ、さらに便利に使うことができる。また、日常使っている他のアプリ(サービス)が音声アシスタントと連携し便利で使いやすいサービスを提供すれば、ユーザー層も広がり様々なメリットも期待できる。

こうした機能(アプリ)が広まり、今後さらにスマートスピーカーが普及してくれば、企業は消費者との接点となるプラットフォームとしてスマートスピーカーをますます活用することになるだろう。そのためにも、手軽ではあるが提供できる情報が一過性で限界があるVUI/CUIをうまく使いこなすことが必須であり、世界で膨らむスマートスピーカーの市場から日本だけが取り残されないためにも、なるべく早く機能(アプリ)開発に取り組んで消費者や市場の求めているものをつかむことが重要だろう。

また、GoogleやAmazonは、スマートスピーカーを通じて膨大な情報を収集するだけでなく、将来は広告メディアとして活用することも想定される。直接広告を流すだけでなく、例えば、個別の機能(アプリ)につなげなくても直接“ピザを注文したい”と話すと、特定のピザ屋を呼び出して注文できる、となれば、価値が生まれることになる。

日本のスマートスピーカーが、米国と同水準まで普及するにはしばらくかかるかも知れないが、その時は確実に来ると考える。ただ、日本の特殊事情もある。Edward T. Hall博士が著書Beyond Cultureの中で、“日本のような高文脈文化の言語は、物事の核心を言葉で伝えなくても相手に意図が伝わることが期待されている”と書いたのは40年以上も前のことで、以降電子メールやSNSなどコミュニケーションの形態が大きく変わり言葉に込められる意味も変化してきた。それでも我々日本人は無意識に行間を読むことを相手に期待しているように思う。AIがその行間を読めるようになることも、日本において普及するために必要な点なのかもしれない。

[1] https://developers.google.com/actions/

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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