2019年4月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Lightがもたらすイメージングのイノベーション



2018年7月、米国のLightというスタートアップがSoftBankのVision Fundなどから新たに1億2,100万ドルの資金調達に成功し、脚光を集めた。Lightはイメージング技術を専門とする2013年創業のスタートアップで、複数台のカメラ撮影を高度に同期させることによる測距技術や複数枚の写真を1つの高品質な写真に合成するというアルゴリズムをコア・コンピタンスとして持っている。そのため、SoftBankの孫正義CEOは出資にあたり、Lightの技術が自動運転車や監視カメラなどに応用できる可能性を高く評価したという趣旨の発言をしていた。

しかし、Lightはスマートフォンを当面の注力分野と位置付けているようだ。スペイン・バルセロナで開催された2019年のMobile World Congress(以下「MWC」)における発表や展示を通じ、Lightの戦略を窺い知ることができた。本稿では、筆者がかねてより注目してきたLightの最近の動向についてレポートする。

スマートフォンのマルチカメラ化

Lightが創業された2013年当時、スマートフォン・メーカーはマルチカメラ搭載のモデルを挙って開発していた。つい数年前までは、リアカメラが1つ搭載されているだけのスマートフォンが普通だった。しかし、MWCで発表された主要スマートフォンを見ると、マルチカメラ搭載は既に標準仕様となっている。例えば、Samsungの“Galaxy S10 5G”は4つのリアカメラ(1,200万画素広角、1,600万画素超広角、1,200万画素望遠、3D Depthカメラ)と2つのフロントカメラの合計6つのカメラを備えている。これと同様に、Sony Mobile Communicationsの “Xperia 1”も3つのリアカメラ(いずれも1,200万画素で広角、超広角、望遠)を搭載している。上記のスマートフォンはいずれもフラッグシップ・モデルだが、ミドルエンドのスマートフォンでもマルチカメラ搭載は明らかなトレンドとなっており、今後は搭載されるカメラがさらに増えるものと考えられる。

Galaxy S10 5G

【図1】Galaxy S10 5G
(出典:Samsung)

Xperia 1

【図2】Xperia 1
(出典:Sony Mobile Communications)

MWCで発表されたパートナーシップ

また、より重要なこととして、LightはMWCにおいて3件の提携を発表している。パートナーはフィンランドのNokia、中国のXiaomi、日本のSonyだ。これら3社の狙いは、スマートフォンをはじめとする様々なデバイスにLightの強みを取り込むことだろう。5つのカメラを搭載する“Nokia 9”には早くもLightの技術が採用されており、冒頭に記載したように、5つのカメラで撮影した写真を1枚の高品質な写真に合成できる機能が具備されている。Sonyは周知のとおり、スマートフォン向けのイメージング・センサーのサプライヤーとして大手のポジションを築いている。イメージング・センサーに強みを持つSonyは、一眼レフカメラやミラーレス一眼レフカメラといった高級カメラ市場において他社に大きく水をあける1強状態となっており、Lightとの提携を通じて大きなシナジー効果を得ることでさらなる地位固めが期待できそうだ。

Nokia 9

【図3】Nokia 9
(出典:Nokia)

「16眼」カメラというコンセプトモデル

Lightは2016年に台湾の鴻海科技(Foxconn)から3,000万ドルの資金を調達し、それを元手に“L16”という言わば「16眼」カメラを開発している。これは2017年に1,700ドル程の価格で発売され、Lightによれば、販売実績は「数万台」に上ったという。この“L16”には28~150mmと焦点距離のそれぞれ異なる16のカメラが搭載されており、各カメラが撮影した写真を1枚の5,200万画素の写真に合成することができる。そのため、写真を撮影した後にピントを調整することも可能だ。しかし、“L16”はやや嵩張るデザインである他、シャッターボタンを押してから写真が生成されるまである程度の時間を要するといったユーザーのレビューが散見され、高度な技術が駆使されている割に、必ずしも評価の芳しいモデルではなかった。

L16

【図4】L16
(出典:Light)

LightのDave Grannan CEOによれば、“L16”は実質的にはコンセプトモデルだったという。Grannan CEOは「Lightの創業当時、まず専用カメラを作るかどうかは分からなかった。その後、真に必要なのは基準となるデバイスを作ることだと気付いた。すなわち、どのようなことができるのかを世界に示すことができるものだ。当初考えていたのは実現可能なことを世界に証明するということで、まずはスマートフォンを対象として当社の技術をライセンス提供する事業を始めることにした」とコメントしている。

スマートフォン分野で期待される飛躍

この先、少なくとも短期的には――“L16”のような16眼とまでは一足飛びにいかないだろうが――スマートフォンに代表される様々なコンシューマー・デバイスに搭載されるカメラの数は増加していくだろう。このようなトレンドが形成されることをLightが創業時点で明確に想定していたかどうかはともかく、マルチカメラ化の始まりと同時に同社が名を馳せるようになったことには、ただならぬ因縁を感じさせる。Instagramへの投稿など、より高品質な写真に対するユーザーの需要がなくなることはない。フォームファクターの点で限界はあるかもしれないが、スマートフォンに10程度のカメラが搭載されるようになる日もそう遠くないのではないかと思われる。そのようなハードウェアが当たり前になれば、Lightの技術が本領を発揮することになるだろう。

Lightについて、Leica Camera AGのAndreas Kaufmann会長は「コンピュテーショナル・イメージング(計算機を使って光学情報のコーデックを行うことで画像を構成する撮像法)が急速な進化を遂げている中、Lightとの提携によって、当社はコンピュテーショナル・イメージングの時代においても従来持っている強みを発揮することができる」とコメントしている。そのLeicaと言えば、2018年にリリースされたHuawei製“P20 Pro”の背面にトリプルカメラが採用されており、やはりスマートフォン市場を重要視していることが推察される。なお、Leicaは2018年7月にSoftBank Vision Fundが主導したLightによるシリーズD資金調達への出資に参加している。

Lightによれば、今日撮影される写真の実に85%超がスマートフォンによるものだという。一眼レフカメラなどの高級カメラ市場はスマートフォンに駆逐されずに残っているものの、一般ユーザーにとって写真を撮影する主なデバイスはスマートフォンに他ならない。故に、Lightがスマートフォンを注力分野とするのはごく自然かつ合理的な経営判断だと言えるだろう。

ハードウェアの価値を最大限に引き出すソフトウェア

もちろん、Lightが自動運転車や監視カメラなどの分野で活躍できる可能性も大きい。Lightの技術を使えば、現行のLIDAR(Light Detection and Ranging:レーザー光による検出と測距)より低コストでより高品質な画像処理ができるようになることが期待される。しかし、これらの分野では、既に大手企業に加えて多数のスタートアップがしのぎを削っている状況にあり、Lightは完全に後発として新規参入することになる。そのため、短期間でプレゼンスを向上させるためには、スマートフォンと同様に他社との提携がカギになるかもしれない。

Lightはハードウェアではなくソフトウェアを強みとするスタートアップであることから、その性質上、他社との提携が必要不可欠だ。Lightはこれまでにも、一度に複数のカメラで撮影できる専用SoCの調達に関してはQualcommと、カメラ・モジュールの調達に関しては中国の舜宇光学科技(Sunny Optical)と、それぞれ必須のコンポーネントについて提携してきた経緯を持つ。

この先、スマートフォン以外の分野に乗り出すにしても、Lightのコア・コンピタンスが変わることはない。Grannan CEOは、Lightはあくまでイメージング技術を専門とするスタートアップであり、スマートフォンやドローン、自動運転車、監視システムなどに搭載されるカメラで撮影した写真を高度化することこそがミッションだと強調している。

Lightにとって、2019年のMWCは今後の躍進を予感させるのに十分な舞台だったと言える。ますます重要度の高まるイメージングの世界においてLightがもたらすであろうイノベーションには刮目する必要がある。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS