2019年9月27日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

「eポートフォリオ」は高校生の新たな必需品?! 〜ICTによる“学びの記録”の活用と可能性



はじめに

東京オリンピック・パラリンピックの開催まで1年を切ったこともあり、様々なスポーツで活躍するアスリートの話題を目にする機会が増えてきた。そんなアスリート達への密着取材などで、よく目にするのが「練習ノート」の存在だ。「練習ノート」には練習内容や試合結果はもちろん、感想や反省といった自分の思い、対戦相手攻略策やフォーム改造など勝利のための研究、目標や夢といったものまで様々な記録が綴られており、更なる高みに挑むための原動力として「練習ノート」を記録し、見返しているアスリートの姿が見られる。

近年、高等学校を中心に、ICTを活用して日々の様々な“学びの記録”を蓄積する「eポートフォリオ」を構築し、学習活動やキャリアプランニングなどに役立てようという動きが急速に広がっている。先の「練習ノート」の高校生活版とでも言えばイメージしやすいであろうか。

本稿ではeポートフォリオの概要やeポートフォリオが注目される背景、eポートフォリオの目的や効果などについて論じながら、学校におけるeポーフォリオ活用の可能性を浮き彫りにする。

学生生活を記録・蓄積するeポートフォリオ

eポートフォリオとは「学びの支援・促進のために利活用できることを目的に、学習プロセスにおいて収集できうるあらゆる学習エビデンスを、情報技術を用いて継続的に蓄積した電子データ[1]」と定義される。

ここで言う“学び”とは学校の授業だけには限らない。学校の授業やそれに紐付く家庭学習はもちろんのこと、クラブ活動や部活動、委員会・生徒会活動などの課外活動、ボランティアや海外留学といった校外活動も含まれる。また、将来に向けたキャリアプランニングの一助とするため、自分の長所短所や得手不得手、将来の夢や10年後20年後の自分の姿といった内面的なテーマについて記録することもある。

また、蓄積される“学びのデータ”はレポートなどの成果物や定期テストの点数といった最終的なアウトプットだけではない。目標設定や進捗状況、学習ログといった途中経過に加え、学習活動を通しての気づきや振り返りといった学習者の思いなども含まれている。

極論すれば、学生生活すべての行動や考えを蓄積したものがeポートフォリオなのである。

ところで、eポートフォリオは様々な“学びのデータ”を記録・蓄積するだけでは不十分である。

eポートフォリオに求められるもう一つの機能、それは教員と学習者とにおけるコミュニケーションの誘発である。eポートフォリオをもとに、教員が学習者に対して適切なアドバイスやフィードバックを行う機能や学習者同士での情報交換や議論の場を提供することで、学びの向上へとつなげていくことがeポートフォリオには求められている。

eポートフォリオの2つの役割

eポートフォリオには次の2つの役割がある[2]。

1.学習者の学習・評価を促進させ得るためのツールとしての役割

これはeポートフォリオの中心的な役割であり、継続的な記録・蓄積と教員と学習者とのやり取りを通じて学びのPDCAサイクルを実現するためのものである。

具体例としては、日々の家庭学習の取り組み状況をeポートフォリオに蓄積している学校の取り組みがあげられる。学習者は週初めにその週の学習の取り組み目標(P)を定め、実際の学習状況や学習時間(D)を日々記録していく。週末には自ら学習の振り返りを行い(C)、次週の計画(A)へとつなげていく。この営みを繰り返すことで、学習者が自らの学習状況を客観的に把握し、次に何をすべきかを考え、計画し、実行するという自律的な学習サイクルを身につけることが期待できる。また、指導者にとっては、今まで把握しにくかった授業外での学習状況の「質」と「量」を知ることができることに加え、必要に応じて適切なアドバイスを行うことも可能となる。

2. 学習者の学習成果を引証づけるためのエビデンスとしての役割

これは学校生活において蓄積されてきた様々な学びのデータをもとに、学習の成果をアウトプットとして表出する役割のことである。こうしたアウトプットは「ショーケースポートフォリオ」とも呼ばれている。分かりやすい例としては入学試験における調査票やAO入試などにおける選考資料などであろう。例えば京都大学教育学部が実施している特色入試では、調査票と学びの計画書(研究計画書)に加え、表1のように「学びの報告書」の提出も求められており、これらの書類によって第1次選考が実施されている。

京都大学が求める学びの報告書

【表1】京都大学が求める学びの報告書(一部抜粋)
(出典:http://www.tokushoku.gakusei.kyoto-u.ac.jp/assets/uploads/pdf/%E6%8F%90%E5%87%BA%E6
%9B%B8%E9%A1%9E%E6%A7%98%E5%BC%8F/R2/R2_activity_report_educ.pdfより一部を抜粋)

一見して分かるとおり、成果物といった具体的な証拠資料の添付や関与の程度の記述、自分が生み出した成果や自分にとっての活動意義など具体的かつ詳細な記載が求められている。

こうした一朝一夕には困難な学びの報告書(学びの履歴書)の作成において、高等学校における3年間(あるいは中学校を含めた6年間)の学びのデータがeポートフォリオによって蓄積されていることは大きな助けになるであろう。

ここまで述べてきたことをeポートフォリオの全体像としてまとめると図1のようになる。

eポートフォリオの全体像

【図1】eポートフォリオの全体像
(出典:関西学院大学「文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業
(主体性等分野)研究成果途中報告」(平成30年4月17日)などをもとに情報通信総合研究所が作成)

eポートフォリオが注目される背景

eポートフォリオが注目されている主な背景としては次の3点があげられる。

(1)   新しい学力観

社会環境や産業構造が大きく変わろうとしている今、未来の担い手である子供たちにおいては、急激な環境変化や価値観が多様化する社会を生き抜いていく力を身につけることが求められている。

工業化社会においては「早く正確に正解にたどり着く力」が重視されていたが、複雑かつ変化の激しい社会では「正解のない課題への対応力」や「新たな価値を生み出す力」「他者と協働する力」などが必要になると言われている。

文部科学省においても、2020年度から実施される学習指導要領の改定において、新しい社会を生きる子供たちに必要な能力・資質として、次の3つを育成することを目指している[3]。

  1.  学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性」
  2.  実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
  3.  未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」

今後、こうした新しい学力観(特に①について)に対する学習成果の把握(可視化)も必要となるが、従来の知識偏重型テストのみで測ることは難しい。eポートフォリオは結果に至るまでの過程や定性的な記録などを蓄積できることから、こうした新しい学力観に基づく学習成果の把握に役立つことが期待されている。

(2)   アクティブ・ラーニングへの対応

新しい学力観を受け、今回の学習指導要領では授業の進め方についても変革を求めている。それが「主体的・対話的で深い学び」の実現である。これは従来の一斉教授型授業に加え、生徒児童が学ぶことに興味関心を持ち、主体的に学びを進めていくアクティブ・ラーニングの視点から授業改善を求めているものである[4]。

アクティブ・ラーニングにおいては、個人あるいはグループごとに学習を進めていくため、個別のフィードバックといった個の対応と共に、クラス全体の進捗管理が必要となる。eポートフォリオは、こうしたアクティブ・ラーニングの実践を支援するためのツールとして役立てることが期待されている。

(3)   大学入試における主体性評価の導入

現在、文部科学省では「高大接続改革」として「高等学校」「大学」「大学入試」の三位一体の改革を様々な形で行っているところである。

その一環として、2021年度からの大学入学者選別においては「知識・技能」「思考力、判断力、表現力」に加え、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ姿勢(主体性評価)」の3点を総合的に評価する入試を実施することが求められている。このため、今後の大学入試においては一般入試においても「学びの活動記録」や「学びの計画書」といった「主体性評価」を測るための資料の提出を求める大学が増えることが予想される。

eポートフォリオに蓄積された学びの記録は、こうした書類を学習者が作成する際に有用となるだけでなく、eポートフォリオにある学習成果などを学習者が具体的な証拠として提示することも可能とする。

ICT活用のメリット

eポートフォリオはその名のとおり、ICTを活用することが前提となっているが、冒頭に紹介したアスリートの「練習ノート」のように、ポートフォリオはアナログで構築することも可能である。ここではICTを活用することのメリットについて考える。

(1)   多様なアウトプットの一元管理

学習者が作成するアウトプットはレポートやワークシートといった文字情報でだけではない。学校現場へのICT機器の広まりと共に、校外活動での写真、スピーチコンテストや外国語の音読などの音声、プレゼン発表の動画などアウトプットの形は多様化している。そうした多様化の中で、従来は媒体ごとにバラバラに管理をする必要があったものを、デジタル化することによって一元的に管理することが可能となる。さらに劣化や破損、紛失といったリスクの低減といった部分にもデジタル化して管理・保管することのメリットがある。

(2)   シームレスなデータアクセス

eポートフォリオはサーバーやクラウド上に構築されるため、授業時間外や自宅からなど、“いつでも”“どこから”でもeポートフォリオにアクセスでき、データ入力やデータ確認を容易に行うことが可能となる。これは指導者にとっても学習者にとっても大きなメリットであろう。

(3)   労力やスペースの削減

学習者に対して必要な情報や資料の一斉配信機能や学習者からの提出物を管理する機能を備えたeポートフォリオシステムを導入することで、指導者のクラスマネジメントに係る労力を削減することが期待できる。また、デジタル化して保管することで、物理的な保管スペースを削減できるといったメリットも生まれる。

eポートフォリオは校務支援システムと何が違うのか?

eポートフォリオと似たものとして校務支援システム[5]があげられる。学習者に関する様々な記録を蓄積し、活用するという点では同じである。しかしながら、詳細を見ていくと、両者には差異が見られる(表2)。

校務支援システムとeポートフォリオの主な違い

【表2】校務支援システムとeポートフォリオの主な違い
(出典:情報通信総合研究所作成)

まず、大きな差異として指摘できるのが、eポートフォリオは指導者と学習者の双方が参画し、メリットを享受しているという点である。

校務支援システムでは指導者がデータを入力し、集計・加工した結果についても成績処理や校務処理といった校務業務を支援する側面が強い[6]。いわば「教員が教員のため」に利用しているシステムである。対して、eポートフォリオの情報入力のメインは学習者である。様々な学びの記録の多くは学習者によって入力され、蓄積された情報を学習者と指導者が共に活用できる点がeポートフォリオの大きな特長である。

次に、校務支援システムでは定量的な事後の記録が中心であるのに対し、eポートフォリオは過程の記録であり、定性的な情報の記録・収集も行えるという点も違いとして指摘できる。

例えば、校務支援システムで扱われている児童生徒の評価情報は、出席日数やテストの成績など数量化された結果データが基本となる。それに対し、eポートフォリオは結果となる成果物とともに、そこに至るまでの様々な学習ログも記録・蓄積することが可能だ。

また、eポートフォリオをアクティブ・ラーニングに活用する場合、まずは設定したテーマについて各自が調べた成果をeポートフォリオにアップして情報を共有させる。その上でeポートフォリオのSNS機能を活用して、どのようにまとめていくかの議論を行い、教員からのフィードバックなども踏まえた完成までの計画を立てさせる。、その後、成果物の作成に取り組み、完成した成果物をeポートフォリオにアップするという形で学習を進めることが考えられる。

こうした完成に至るまでの途中経過や議論の内容などを記録・蓄積することで、学習者の主体的に学びに取り組む姿勢や思考プロセス、グループ内における役割、当初の成果物と最終成果物との比較による学びの深度などが把握できるようになる。eポートフォリオを活用することで、今まで評価できなかった部分にスポットを当て、学習者の成長をみていくことが可能となるのだ。

eポートフォリオサービスの状況

中学校・高等学校向けのeポートフォリオサービスは既に実用化、商用化の段階にある(表3)。

主な高等学校向けeポートフォリオサービス

【表3】主な高等学校向けeポートフォリオサービス
(出典:情報通信総合研究所作成)

この中で特に注目すべきは文部科学省の主導により開発されたJAPAN e-Portfolioであろう。JAPAN e-Portfolioの特長は、蓄積したデータをもとに必要となる提出資料を作成し、JAPAN e-Portfolioのプラットフォーム経由で志望大学に提出することができる機能を備えている点である。

2019年3月時点で3,266校・16万4,911人の高校生が利用している[7]。日本の高等学校数は4,887校であるので、高等学校の3校に2校は既に導入していることになるが、316万の高等学校生徒数から見た利用率は5%程度にとどまる。しかし、前述したとおり2021年度からの大学入試における主体性評価の導入を踏まえ、eポートフォリオを利用する高校生は今後も増えていくと考えられる。

eポートフォリオで期待される効果

様々な切り口でeポートフォリオを見てきたが、まとめにかえて学習者・教員・関係者(保護者・大学など)の立場ごとにeポートフォリオの活用によって期待される効果を整理する。

(1)   学習者

学習者においては、学びのPDCAサイクルを通じて主体的に学ぶ姿勢を身につけられることが第一にあげられよう。また、eポートフォリオに蓄積されたデータを見返すことで、学びに対する興味関心や向き不向きを客観的に見極められるようになることが期待できる。さらには高校卒業後の進路やキャリアプランを考える際の一助となることも期待できる。

(2)   指導者

指導者視点では、eポートフォリオに蓄積されたデータを参照することにより、今まで見えにくかった学習者の活動状況や心情などの把握ができるようになることがあげられる。また、アクティブ・ラーニングの進捗管理や、個に応じた指導・アドバイスなどの実施においてもeポートフォリオの活用が期待できる。加えて、学習過程などを読み取ることで、新しい学力観に即した評価や主体性評価など多面的な評価に利用できることも大きな効果の一つと言える。

さらに授業の振り返りや成果のエビデンスとしてeポートフォリオのデータを活用することも可能であり、授業の質の担保・向上への効果も期待できる。

(3)   関係者(保護者・大学など)

保護者や大学などの関係者においては、今までの学業成績だけでは分からない、学びの成果が可視化されるという点が大きな効果であると言える。また、大学などの進学先においても、入学後の学生指導における基本情報として、入試における評価だけではなく、高等学校で蓄積されたeポートフォリオもあわせて活用することは有益である。高等学校と大学とが連携してeポートフォリオの構築・活用をすることで、講義の選択肢がより広がる大学においても、主体的な学びを支援することができる。

学校におけるスマホ規制の再検討の必要性

最後にICTの観点から見ると、eポートフォリオは学校におけるスマートフォンの扱いにも影響をあたえるかもしれないという点を指摘できる。

今まで述べてきたようにeポートフォリオに学びを記録していく主役は学習者である。よりよいeポートフォリオを構築していくためには、学習者がいつでもどこでも簡単にeポートフォリオにアクセスできる仕組みを提供することが必要である。このため、eポートフォリオサービスではスマートフォンやタブレット、PCなど様々な端末を想定してUIが設計され、シームレスにアクセスできる仕組みが備わっている。

ところが学校サイドの取り組みを見ると、スマートフォンの持ち込みを禁止している、あるいは学校内での利用を禁止している学校はまだ多いのが実情である。

学校生活においてeポートフォリオがより身近な存在となり、より良く活用されるためには、BYODを含めスマートフォンとの付き合い方を再検討することが必要ではないだろうか。

[1] 日本教育工学会監修『教育分野におけるeポートフォリオ』(2017)、ミネルヴァ書房

[2] 森本康彦「eポートフォリオとしての教育ビッグデータとラーニングアナリティクス」、コンピュータ&エデュケーション VOL.38、2015

[3] http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/
1383986.htm#section4

[4] 高等学校については必修科目の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に変更し、選択科目でも「理数探究」「古典探究」など探究科目を選択科目に新設するなどアクティブ・ラーニングの浸透に注力している。

[5] 教務系情報(成績処理・出席管理・時数管理等)、保健系情報(健康診断表・保健室来室管理等)、学籍系情報(指導要録等)などの各種情報を統合的に管理し、学校事務や児童生徒の学籍・成績管理、学校運営のための情報処理を支援するためのシステム。

[6] もちろん、分析・集計結果に基づき、学習者へのフォローや授業改善を行うといった事も行われている。

[7] 文部科学省高等教育局大学振興課大学入試室「『JAPAN e-Portfolio』における『情報銀行』の活用について」(2019)

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS