2019.9.27 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

サブスクリプションビジネスの隆盛 ~リカーリングモデルからDX推進の中核へ

最近、サブスクリプション型のビジネスモデルが話題になることが多く、ビジネスの成功モデルとして取り上げられています。具体例として、アンダーアーマー、Amazon、ミシュランなどがあげられていて、またICT関係でもOTTサービス企業や通信会社もサブスクリプション型へ移行しています。こうした動きは、従来からある通信、電力、ガスなどインフラ企業の月別料金や鉄道の定期券利用などにみられるリカーリングモデルとは違った新しい取り組みを示しています。米国のSaaSを取り扱うソフトウェア会社、Zuoraが2019年3月に発表した「サブスクリプション・エコノミー・インデックス」では、(1)サブスクリプション・エコノミーは幅広い経済トレンドの主要指標である、(2)サブスクリプション企業の成長は、サブスクライバーの獲得に牽引されている、(3) B to Cのサブスクリプション企業が回復しているなどと分析していて、調査対象となったサブスクリプションビジネスの収益成長率は直近7年間で300%を超え、年平均成長率では18%となっているとの報告があります。これは同期間のS&P500企業および米国小売業の約5倍となっていて、サブスクリプションビジネスの拡大が近年の大きな潮流となっていることが分かります。

リカーリングモデルが単純に安定的で予測可能な収入に着目しているのに対し、サブスクリプションモデルは顧客との関係を中心に、新規顧客獲得、既存顧客へのアップセル・クロスセル、解約率の低減による収益向上と業務効率化を目指している点が違っています。多くの通信事業者もこのことには気がついていて、顧客を契約者としてだけではなく、他社契約者をも含めて会員とするビジネスモデルを追求するようになっています。その背景には、電話サービスからデータ通信サービスへの移行に伴い定額料金化が進んできたので、ストックベースのビジネスを維持するために、どうやって顧客を獲得し維持(解約防止)していくのか、さらにアップセル・クロスセルを図っていくのかに重点を移さざるを得なくなってきたことがあります。会員を基盤とするビジネスこそサブスクリプションモデルの典型といえます。

サブスクリプションモデルでは顧客との長期の関係を重視して、特に顧客との関係強化を中心課題にあげています。そこが従来の契約形態と最も違うところです。顧客とのエンゲージメント(結びつき)をいかに高めるかに力点をおいたモデルなので、最近よく取り上げられているデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)の課題でもあることに注目しています。先に例にあげたアンダーアーマー、Amazon、ミシュランなどはDXの成功事例としても紹介されています。そこでサブスクリプションモデルがどうしてDXにつながっていくのかを考えてみたいと思います。

DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(DX推進ガイドライン、2018年12月 経済産業省)と定義されています。サブスクリプションモデルは権利料として利用期間に対して対価を支払う方式ですが、より正確にはビジネス面で、顧客の要望に合う内容・価格の異なるプランが用意され、使用した分・期間に応じて課金され、商品・サービスが提供される、商品内容と価格の組み合わせが豊富で、また柔軟に内容を変更できる点に魅力があり、「すること重視」の消費者に対応しているのが特徴です。この点がDXにいう“顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革”に整合して、業務だけではなく組織、プロセス、企業文化・風土の変革にまで影響を与えています。つまり、サブスクリプションモデルへの変革はDXへの道のりのひとつであることがよく分かります。収益の成長率や顧客満足の向上などがそれを示しています。具体的な取り組みにあたっては、顧客の需要と使用量に応じた魅力的で豊富なプライスパッケージが必要であり、顧客とコミュニケーションを取って関係を強めていくことが求められます。さらに実行プロセスでは、基盤となるITシステム開発の重点を社内向けではなく顧客目線のユーザーエクスペリエンスにおく必要があり、既存のレガシーな基幹システムとは異なる価値観を持たなければなりません。

これをDXの推進に向けていくためには、①経営戦略・ビジョンの提示や経営トップのコミットメントなど経営のあり方を改めること、②基盤となるITシステムの構築が条件となります(前述のDX推進ガイドライン)。それにはIT資産の分析・評価・仕分けが必要であり、ITシステム構築のためにITガバナンス機能を発揮しなければなりません。会社内にある既存のレガシーな基幹システムの運用・更新ではサブスクリプションビジネスには対応できないでしょう。若いIT人材による新しい開発方式(アジャイルなど)が求められる所以です。話が逸れますが、昨年9月に経済産業省のデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会(座長 青山幹雄 南山大学理工学部ソフトウェア工学科教授)が、「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」と題するITシステム関係者にとって衝撃的な報告を発表しています。そのなかで、既存のレガシーシステムの複雑化・ブラックボックス化を解消してデータ活用ができないとDXを実現できない、システム維持管理費用がIT予算の9割以上になり技術的負債化する、保守運用の担い手不足でサイバーセキュリティやシステムトラブル、データ滅失等のリスクが高まるとの指摘があり、2025年以降、最大年12兆円(現在の3倍)の経済損失が生ずる可能性があるとしています。これが「2025年の崖」です。要するに、サブスクリプションモデルを実現するためにも、さらに広くDXを推進するためにもITシステムの構築が中核になるし、社内にIT人材を育成し確保することが喫緊の課題ということなのです。ビジネスモデルとして競争優位を築くにせよ、DXによって業務、プロセス、組織、企業文化などを変革するにせよ、すばやい身軽なITシステムの開発ができる人材が必要なのですが、どうもそこにネックがあって日本の潜在成長力が高まらない要因となっている、そんな気がしてなりません。

サブスクリプションビジネスモデルは既に内外に多数の実績があり、またIT開発にも参考事例がありますので(注)、遅れている我が国のDX推進において実現の近道となると思っています。また、加入契約と月別料金方式を採用してきた通信会社にとっては、サブスクリプションモデルへの変革は比較的なじみ易いDXへの道ともいえます。ただし、インフラ設備の拡充に安住してしまい、顧客と徹底して向き合い会員組織の活動として顧客の要望や動向を把握して関係強化に努めることを怠ると、解約の反動を味わうことになるので要注意です。サブスクリプションモデルでの収益創出の主戦場は既存顧客(会員)なのです。DXの推進のためには、経営のあり方とITシステムの構築が第一なので、IT人材を外部・外注に求めるのではなく社内で対応できるようにしておかないと、結局のところ折角のサブスクリプションモデルもDXも競争優位性には結びつかないでしょう。

(注)「攻めのIT経営銘柄2019」 2019年4月23日 経済産業省・東京証券取引所

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