2019年10月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

親子上場の是非 ~効用の追求と課題の克服に必要なこと



最近、親子上場、正確には支配的株主のいる子会社の上場問題が数多く指摘されています。これは8月2日に開催されたアスクルの株主総会で取締役選任議案に対し、支配株主となるヤフー他が当時の社長の再任だけでなく、3人の独立社外取締役の再任までも否認したことが契機となっています。以前にも、日産とルノーの関係、ソフトバンクGと子会社ソフトバンクや日本郵政とゆうちょ銀行・かんぽ生命の上場の際にも同様に話題となりました。実際、支配的株主のいる上場子会社は多く、東証上場企業中、628社(17.2%)に達していて、支配的株主と上場子会社の少数株主との利益相反が構造的に存在することから、コーポレートガバナンス上、グローバルスタンダードに反するとの指摘が見られます。例えば「看過できなくなってきた親子上場の弊害(日経新聞社説2019.8.5)」や「上場子会社の統治 支配株主の横暴許されぬ(産経新聞主張2019.8.10)」などがアスクルの株主総会前後に掲載されていますし、また経営者団体からも課題解決を求める意見が表明されています(日本取締役協会「日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方」(2019.7.30)、経済同友会「支配的株主を有する被支配上場企業のガバナンスについて」(2019.8.2))。

いわゆる親子上場問題に対しては、東証ではこれまでも上場子会社の独立性を高める方策に取り組んできましたが、現実には上場子会社の独立社外取締役・監査役の人数は上場会社一般と比べて劣後(取締役1.92人:2.09人、監査役1.63人:1.84人)していて問題が根深いことを示しています。これが直近、以下の政府機関において残された課題として取り上げられる要因となっています。

閣議決定-成長戦略実行計画(2019.6.21)

経済産業省-グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(2019.6.28)

金融庁-スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議・意見書(2019.4.24)

そこでは共通して支配的株主のいる上場子会社のガバナンス強化を取り上げています。1番目の成長戦略実行計画では、以下のとおり、上場子会社に4項目、その親会社に2項目の計6項目の対応を求めています。

上場子会社の対応

  1.  独立社外取締役に支配株主出身者(10年以内所属者)を選任しない
  2. 独立社外取締役の比率を高める(3分の1以上や過半数)
  3. 利益相反局面では独立社外取締役・監査役からなる委員会で審議・検討し、かつ取締役会でもその結果を尊重する仕組みを作る
  4. 一般株主の利益確保のためのガバナンス体制構築と情報開示

親会社の対応

  1. 上場子会社として維持する合理的理由の開示(グループ企業価値最大化の観点)
  2.  上場子会社のガバナンス体制の実効性確保(上場子会社取締役の選解任権限の行使など)

これに加えて経産省策定の実務指針では、上場子会社の独立社外取締役の選任プロセスや経営陣の指名・報酬のあり方に関しさらに4項目を追加しています。以上の流れからは支配的株主のいる上場子会社のガバナンス強化はもはや避けられない成長戦略上の課題であることが分かります。

 私はそのなかでもさらに具体的な態様を次のとおり分類・評価しておく必要性を強く感じています。

  1. 支配的株主の構造

(1)  非上場会社又は個人・団体等⇒一般的な利益相反問題
(2)  上場親会社(親子上場のケース)

  1. 事業持株会社⇒親会社事業との構造問題
  2. 純粋持株会社⇒グループ経営全体の整合(上場・非上場子会社が併存)

  1. グループ経営との関係

(1)  IPOによる子会社上場⇒グループ経営下の取り組み
(2)  M&Aなどにより上場会社を子会社化⇒新たなグループ経営の局面

いわゆる親子上場問題といってもこのように複数のケースが想定でき、例えば、ヤフーとアスクル、ルノーと日産の関係は、上場・事業持株会社×M&A、ソフトバンクGとソフトバンクの関係は、上場・純粋持株会社×IPO、日本郵政とゆうちょ銀行・かんぽ生命の場合は、同時上場・純粋持株会社×IPOとなります。いずれの場合にも利益相反の構造問題は避けられませんが、グループガバナンスによって少しでも解決しようとすると、事前にグループ経営方針を明確にしてグループ事業全体の整合を念頭におく純粋持株会社の方式が望ましいように思えます。その方が市場への情報開示などを通じてグループガバナンスについてのアカウンタビリティが高まるし、支配的株主には少数株主一般への利益保護義務があるとの原則により近いと考えています。親子上場は日本の株式市場の特徴ですが、他方、グローバルスタンダードに反しているとの指摘も続いています。にも拘らず、この事態が今日まで解消に至っていないのは、それには効用があるからです。利益相反を防ぎつつ経営すれば上場子会社にとっては、ブランドの活用等の知名度向上、人材確保、信用力拡充、安定的な経営が期待でき利点も多いので、私は子会社上場問題は個別のグループ企業の取り組みを前提に市場評価に委ねるべきものと考えています。そもそも日本の株式市場の背景には、1.M&Aが世界水準から見て活発ではない、2.人材の流動性が低い、3.リスクマネーの供給が不十分、といった事情があり、IPOによって子会社を上場することは貴重なインキュベーション機能を果たしているといえます。

政府の方針や関係者の意見表明を見た今日、問題は構造的課題の解決のために、法準則を設定するのか、コーポレートガバナンスコードのようなソフトローの運用によるのか、それとも親子上場会社の情報開示とスチュワードシップコードに基づく運用機関の活動に委ねる方がよいのか、との選択の時期となっていることです。法準則を先行する場合、少数株主の利益保護規定だけでは一般的に過ぎるので、前述のとおりさまざまなパターンがあるだけに効果は限定的となりそうです。具体的な法制度となると子会社の少数株主による親会社取締役への(多重)代表訴訟となりますが、これは2014年の会社法改正論議の際に見送りとなった経過があるだけに、さらなる手順や検討が求められるでしょう。2番目はソフトロー、すなわちコーポレートガバナンスコードに取り入れることは現実的な解決方法ですが、これもグループガバナンスの取り組みが各社各様なだけに、どのような内容を定めても結局明確に“comply or explain”方式をとることが肝腎です。さらに、最も現実的かつ効果的な方策としては各社の実態に則った情報公開とそれに応じた運用機関(ESG評価や信用格付け、議決権行使助言などを含めて)の活動といった市場原理に従うことが有効であると思っています。

日本では支配的株主のいる上場子会社の問題が長く指摘されてきましたが、株式市場とコーポレートガバナンスの先進国の米国では近年、多数議決権付の種類株式を含むIPOが相次いで行われていて、上場会社の支配的株主の存在を巡って大手機関投資家から否定的意見が多数出ている状況です。グローバルスタンダードとはいっても支配的株主のあり様は市場によって違っているので、要は市場関係者がその態様を十分に理解・評価して取り組むことが何より大切だと思っています。

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