2019年10月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

iPhone 11はスマートフォン市場に何をもたらすか



Appleは2019年9月、例年通りに最新機種であるiPhone 11を発表した。機能面ではカメラの性能が大きく向上した点がフィーチャーされているが、それと同等以上に、従来機より販売価格を抑えるというAppleの経営判断に多くの注目が集まった。米国におけるiPhone 11(64GBモデル)の販売価格は700ドルに設定されており、前年の2018年に発売されたiPhone XRの750ドルを下回った。下げ幅は50ドルとそれほど大きくはないものの、2007年に初代iPhoneが登場して以来、概ね650~750ドルの範囲で高止まり傾向にあったiPhoneの販売価格をAppleが敢えて抑えたというのは興味深い。そこで本稿では、スマートフォンの販売価格について考察してみたい。

iPhone 11 / iPhone XR

【図1】iPhone 11 / iPhone XR
(出典:Apple)

iPhoneとAndroidスマートフォンの大きな価格差

販売価格が高止まりしているiPhoneに対してAndroidスマートフォンは、Galaxy Foldなどの一部の例外を除くと、販売価格は全体的に下降傾向にある。その結果、iPhoneのAndroidスマートフォンに対する価格差は、2008年には1.5倍程度と比較的小さかったが、2016年には3倍超へと大きく拡大し、現在に至っている。

また、iPhoneのベンダーは当然ながらAppleだけであるため、出荷数や販売価格はコントロールしやすい。しかし、iPhoneは富裕層向けの高級機種だと位置付けられる市場が多く、これまではApple自身もブランドイメージや利益水準を維持するという観点から、安易な値下げには踏み切れない状況にあったと思われる。一方、Androidスマートフォンは、多数のベンダーが製造しているため、常に価格競争に晒される環境にあり、下方圧力が効いている。

大まかに説明すると、iPhoneとAndroidの価格差にはこのような背景事情がある。

1,000ドルは当面のピーク価格か

AppleがiPhone 11の販売価格を700ドルにとどめたのは、従来機まででユーザーの受け入れられる価格の上限に達したという判断があったからだろう。2017年に発売されたiPhone Xは事前の予想通り1,000ドルの大台に乗った(64GBモデルが1,000ドル、256GBモデルが1,150ドル)。結果的にはiPhone XをリリースしたことがiPhone史上最高の業績につながってはいるが、消費者心理を含め、Appleの社内外で1,000ドル(日本国内で言えば10万円)というのが一定の閾値だと認識されたのではないかと考えられる。

そもそも、Appleの事業基盤がiPhoneであることは言うまでもないが、それを軸として各種のコンテンツやサービスから構成されるエコシステムが構築されていることから、ユーザーの維持・増加に重点を置くのであれば、iPhoneの販売価格を抑えることは理に適う。10%未満の下げ幅であれば、ブランドイメージや利益水準を大きく毀損するには至らない。

他メーカーへの影響

既に各方面から指摘されているとおり、iPhone 11の販売価格が700ドルとなったことにより、競合メーカーは自社スマートフォンの価格戦略の見直しを迫られるだろう。中でも特に注視すべきは、Androidスマートフォン市場を牽引しているGoogleのPixelシリーズとSamsungのGalaxyシリーズの販売価格だ。これまでもAndroidスマートフォンの販売価格はiPhoneの影響を受けてきたと言われるが、今回もその影響を受けるのか否か、受けるとすればどのような影響が及ぶのかは注目に値する。

まとめ

しかし、Appleの最大の競合は自分自身だと言える。というのも、iPhoneだけに限った傾向ではないが、ユーザーの端末買い替えサイクルが以前よりも長期化しているからだ。最近の新機種は機能向上の内容の割に価格が高額であることから、ユーザーは手持ちのスマートフォンをより長く使うようになっている。かくいう筆者も、数年前までは1年足らずで買い替えていたが、現行のスマートフォンの利用期間は2年を超えた。そのため、新機種を待ち望んでいたユーザーにとってiPhone 11が非常に魅力的なスマートフォンであることは確かだが、一般的なユーザーにとっては型落ちとして値下がりするiPhone XR以前の従来機も同等レベルに検討すべき選択肢となる。

2007~2019年における四半期ごとのiPhone売上

【グラフ1】2007~2019年における四半期ごとのiPhone売上(金額ベース)
(出典:Apple、Statista)

実際、売上ベースでのiPhoneの販売状況を四半期ごとに見ると、2018年第1四半期(1~3月期)をピークとして、陰りが見え始めている。2019年第1四半期の販売状況は、2015~2016年の水準に落ち込んでいる。iPhone 11でも、少なくとも2018年を上回る程には達しないのではないかと思われる。

成熟度と共に複雑さを増しつつあるスマートフォン市場において、今回のiPhone 11の販売価格設定が何らかの変曲点となるのかどうか、今後つぶさに見極めていく必要があるだろう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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