2019年11月29日掲載 ITトレンド全般

米国5Gが新たなステージに突入 ~MWC19ロサンゼルスにみる米国5Gの現状と今後


【写真1】MWC19 ロサンゼルス 会場外観 (出典:文中の写真はすべて筆者撮影)

2019年4月、米最大手の通信キャリアVerizonがスマートフォン向け5Gサービスを複数都市で提供を開始したのを皮切りに、競合のSprint、AT&T、T-Mobile USも続々とサービス提供を開始し、米国モバイル通信市場は目まぐるしく変化している。提供都市の拡大や通信速度等に関する情報が飛び交うなか、モバイル通信業界の恒例イベント「MWCロサンゼルス」が10月22~24日の3日間にわたり開催された。どうやら米国の5Gはサービス開始の黎明期から次の段階へと移りつつあるようだ。本稿では、MWC19ロサンゼルスの模様を取り上げつつ、米国5Gの最新動向と今後の見通しについて述べたい。

はじめに:MWC19ロサンゼルス 概況

本展示会は米国モバイル業界の最新情報が集まる場である。米国通信キャリア、設備メーカー、モバイル向けサービス提供事業者等が一堂に会し、最新の技術やサービスの展示、業界のトレンドや課題の議論、事業者間での商談などを行う。昨年に続き、議論の中心は「5G」であり、今年はおよそ2万2,000人が参加した(写真1)。

モバイル5Gは着実に前進

大手キャリアのなかで、展示会場に大きなブースを構えていたのはVerizonとSprintだ。両キャリアとも現在取り扱う最新の5Gスマートフォンをブースに展示した(写真2)。

最新5Gスマートフォンの展示(左:Verizon、右:Sprint)

【写真2】最新5Gスマートフォンの展示(左:Verizon、右:Sprint)

しかしながら、既に商用5Gサービスが一般ユーザーに提供開始されている米国ではそれほど珍しくもないからだろうか、両キャリアの5Gスマートフォンの前に人だかりができている様子はなかった。各キャリアともサービス開始時点では対象都市が限定的(Verizon:2都市、Sprint:4都市)だったが、その後は着実に対象都市を拡大している(図1)。また5Gスマートフォンも種類が増えてきており、キャリアによるがユーザーには少ないながらも端末の選択肢がある。

米国大手4キャリアのモバイル5Gサービス展開都市

【図1】米国大手4キャリアのモバイル5Gサービス展開都市 [2019年10月末時点]
(出典:各種公開情報に基づき筆者作成)

Verizonは2019年末までにモバイル5Gの対象都市を30都市以上に拡大する計画を示しており、今後も新たな対象都市が順次発表されるものと思われる。

なお、試しにSprintブースで展示端末(Samsung Galaxy S10 5G)を用いてスピードテストを行ってみたところ、ダウンロード278 Mbps、アップロード6.77 Mbpsという結果だった(写真3)。5GではGbps級の通信速度が謳われていることからすると物足りない数字だが、公表されている調査結果によると米国4Gの平均ダウンロード速度は数十Mbps程度のため、それと比較すると5Gで高速化しているとは言えそうだ。ちなみに、Verizonがニュースリリースで公開したスピードテストのひとつはダウンロード速度が1.4 Gbps程度と非常に高速だった。

5Gのスピードテスト結果

【写真3】5Gのスピードテスト結果(Sprintブース)

Verizonの住宅向け「5G Home」が第2世代へと進化

「第1世代」と「第2世代」の 5G Home概要比較

【表1】「第1世代」と「第2世代」の5G Home概要比較(出典:Verizon公開情報に基づき筆者作成)

大手キャリアのうち、Verizonはモバイル5Gだけでなく住宅向けブロードバンドサービスに5G技術を用いる「5G Home」も提供している。MWC19ロサンゼルス会期直前の10月21日、Verizonは5G Homeを新たにシカゴでも提供すること、ユーザー宅用の機器をバージョンアップすることを発表した(本稿ではバージョンアップされた機器を「第2世代」と呼ぶこととする。展示は写真4、概要は表1参照)。

「第2世代」の5G Homeサービス用機器

【写真4】「第2世代」の5G Homeサービス用機器の展示模様

第2世代のポイントは、(1)ユーザーが自分で機器を設置できるようになったこと(セルフインストレーション)、(2)業界標準の5G規格に対応したこと、の2点だ。

(1)ではサービスの申し込みから利用開始までの期間、いわばユーザーの待ち時間が短縮される。「第1世代」(本稿では従来のユーザー宅用機器のこと)では、5Gの電波を受信するアンテナを建物外壁に設置するしくみだったため、Verizonによるアンテナ設置工事を待つ必要があった。この点はユーザー目線では、住宅向けブロードバンド市場で5G Homeの競合となるケーブルテレビ会社の固定ブロードバンドサービスと同様に「すぐ使い始められない」という課題になっていたと言えるが、これを第2世代で克服した格好だ(写真5)。第2世代では、ユーザーはVerizonのアプリ等が示す手順に従って機器を設置する。

「第1世代」と「第2世代」の 5Gアンテナの比較

【写真5】「第1世代」と「第2世代」の5Gアンテナの比較

(2)は、5G Home提供エリアの拡大に寄与するだろう。同じく業界標準の5G規格を採用する同社モバイル5Gの設備を活用して5G Homeを提供できる可能性があるからだ。第1世代は、独自規格(5GTF[1])の採用により5Gサービスの早期導入を図る格好だった(2018年10月当時、業界標準の5G規格はいわば「決まったばかり」の段階だった)。しかしながら、異なる技術規格を用いて同一エリアに2種類の「5G」を整備することは、一般的には設備投資やサービス運用の二重化を招くという点で効率的ではない。また独自仕様の機器は標準仕様の機器よりもスケールしづらく調達コストの面でも不利になりやすい。Verizonは早期から標準規格への移行を宣言しており、第2世代でそれを実現した。

米国5Gの次のステージは「スピードとカバレッジの両立」か

Verizonが2019年4月に「世界初[2]」のモバイル5Gサービスの提供開始を宣言し、その後サービス提供キャリアと対象都市の拡大を経てきた米国の5Gは、サービス立ち上げという黎明期から早くも次のステージへ移行しようとしているようだ。それは4Gの次世代に相応しいスピードと、カバレッジ(つながりやすさ)の両立である。

少し技術的な話になるが、米国大手キャリアが現在提供する5Gの電波について述べたい。大手4キャリアのうち、4番手のSprint を除くVerizon、AT&T、T-Mobile USの上位3キャリアが現在提供するモバイル5Gでは「ミリ波帯」と呼ばれる周波数の高い電波を用いている。電波の特性として、周波数が高いほど伝送できるデータ容量が増加するため高速化では有利となる一方で、カバレッジ構築では不利となる特性も目立つようになる(例︰大気減衰がしやすくなる、建物の陰に回り込みづらくなる、など。図2参照)。

モバイル通信に用いられる電波の特徴

【図2】モバイル通信に用いられる電波の特徴[3]
(出典:各種公開情報に基づき筆者作成)

そこで、ミリ波帯よりも周波数が低く、4Gで用いている帯域と周波数が同程度かもしくは少し高い「ミッドバンド」と呼ばれる帯域への期待が高まっている。5Gにおいてスピードとカバレッジのバランスを期待できるからだ。MWC19ロサンゼルスのパネルセッションでは、ミリ波帯でカバレッジを構築することの難しさや、5Gにおけるミッドバンド活用の重要性に関するコメントなどが聞かれた(写真6)。

「Urban Densification and Taking 5G Indoor」セッションの様子

【写真6】「Urban Densification and Taking 5G Indoor」セッションの様子

米国の周波数管理を行うFCCは、より多くのミッドバンドを5Gサービスで活用可能にする方針を示している。まずはCBRS[4]と呼ばれる共用帯域(3.5 GHz帯)[5]を優先的に利用可能とする免許の周波数オークションを2020年に計画しているほか、欧州やアジアでは既に5Gでの活用が進む3.7~4.2 GHz帯(通称Cバンド)の割り当ても検討している。

また、ミッドバンドを活用するソリューションとして、現在の4Gの周波数帯域に5Gを動的に共存させる「ダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)」も注目を集めた(図3)。参加者の関心が高く関連セッションの会場が満席になったほどだ。ちなみにSprintは、これまで4Gに用いてきた2.5 GHz帯を5Gにも活用することで現在の5Gサービスを提供している[6]

4Gと5Gの「ダイナミックスペクトラムシェアリング」のイメージ

【図3】4Gと5Gの「ダイナミックスペクトラムシェアリング」のイメージ
(出典:Ericsson)

5Gにおけるミッドバンド(さらにはローバンド)の活用に向けて、大手キャリアのなかで最も進んでいるのは現在3番手のT-Mobile USだろう。現在、同社は5Gではミリ波帯(28 GHz帯、39 GHz帯)を用いて複数都市でサービスを提供、4Gではローバンド(600 MHz帯)も活用して全国規模でサービスを提供している。2018年4月に競合Sprintの買収を発表して以降、同社はSprintが保有し現在5Gサービスにも用いているミッドバンド(2.5 GHz帯)を組み込んだ、ローバンド〜ミッドバンド〜ハイバンド(ミリ波帯)を総合的に活用[7]する5G展開戦略を新生T-Mobile USのビジョンとして示してきた(写真7)。規制当局の承認を得てSprint統合の目処もたち、2019年11月7日、全米5,000都市、2億人以上をカバーする5Gサービスを12月6日から開始すると発表している(図4)。Sprintの2.5 GHz帯の5Gには2020年に接続可能になるという。ローバンドはデータ伝送容量ではミリ波帯に劣るが、カバレッジ面での優位性を生かし、同社はこれまでの米国5Gサービスを大きく上回るカバレッジ計画を出してきた。T-Mobile USによるローバンドの5Gがどの程度のパフォーマンスとユーザー満足を実現するのか注目したい。

新生T-Mobile USの5G展開戦略

【写真7】新生T-Mobile USの5G展開戦略(MWCA2018より)

新生T-Mobileの全米規模の5Gサービス計画

【図4】新生T-Mobileの全米規模の5Gサービス計画
(出典:T-Mobile USリリース、2019年11月7日)

おわりに

これまでGbps級スピードを実現するミリ波帯を主として、スポット的に展開されてきた米国のモバイル5Gは、Sprintを統合し誕生する新生T-Mobile USのローバンドとミッドバンドを活用する全米規模の5G展開戦略や、FCCが計画する2020年以降のミッドバンド周波数オークション等が変曲点となって、スマートフォンで利用しやすい「スピードとカバレッジの両立」へと次第に向かっていくのではないだろうか。

ちなみに日本では、ミッドバンド(3.7 GHz帯および4.5 GHz帯)およびミリ波帯(28 GHz帯)が2019年4月の周波数割当によって既に通信キャリア各社に割り当てられている。日本で5Gサービスが開始される見込みである2020年春以降に、通信キャリア各社がどのようなスピードとカバレッジの5Gを構築してくるか楽しみである。

  1. 5G Technical Forumの略。Verizonとパートナー企業により5G技術の開発を行うもので、2015年に設立された。
  2. Verizonは2019年4月3日にモバイル5Gサービスの提供を開始し「世界初」として発表。同日付で、韓国大手3キャリア(SK Telecom、KT、LG U+)も5Gサービスの提供開始を「世界初」として発表。
  3. 各区分に分類される周波数帯は国・地域や事業者等によりばらつきがあるため参考程度とされたい。
  4. Citizens Broadband Radio Servicesの略。
  5. 海軍レーダー等に用いられる3.5 GHz帯(3,550 ~ 3,700 MHz)を民間と共同利用するもの。利用には優先度が設定されている。
  6. 2.5 GHz帯の5G利用に関しては、2017年5月にSprint、Qualcomm、ソフトバンクグループの3社が技術開発の合意について発表している。
  7. 600 MHz帯の5G利用に関しては、2019年7月にT-Mobile US、Qualcomm、Ericssonの3社がQualcomm Snapdragon X55モデムを用いた5Gデータ通信の成功について発表している。

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