2019年12月13日掲載 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:マルセイユ~さざ波と陽光がきらめく街で聖地訪問


【写真1】エドモン・ダンテス号。この船でイフ島へ向かう。 (出典:文中掲載の写真は、すべて筆者撮影)

先日、フランス南部の都市マルセイユを訪れた。フランス第二の都市、プロヴァンスの中心都市であり、地中海に面する港町マルセイユは、歴史的にも、そして現在でも、アフリカ、中東、そして日本を含むアジアにとっての欧州の「玄関」の一つで、さまざまな人、物、そしてデータ(後述)が行き交う。それ故に、さまざまな物語の舞台になった街でもある。今回の筆者の経験は短い時間の瞥見ではあるものの、物語の舞台と、海を見下ろす教会、名物ブイヤベース、そして、海底ケーブルの玄関でもあるマルセイユについてお届けしたい。

イフ城

マルセイユ旧港から船で20分くらいのところに、イフ城(シャトー・ディフ:Château d'If)がある。これはイフ島という小さな島に築かれた要塞で、マルセイユから約4kmくらいのところにある。当初は要塞であったが、脱獄が困難であるという特性を利用して、監獄として利用された歴史を持つ。このように島に牢獄を設けるのは、サンフランシスコのアルカトラズ島など世界各地で見られるが、この「城」を世界的に有名にしているのは、1844年に出版されたアレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』である。この小説の中で主人公エドモン・ダンテスがこの島に収監されたとされている。船乗りだったダンテスはこの島で自分が奸計により陥れられた真相を知り、後に脱獄して巨万の富を得て、モンテ・クリスト伯として社会に戻り、自分を陥れた人々への復讐に乗り出す。獄中の師であったファリア神父の遺体になりすましてイフ城から脱獄し、命からがら生還するシーンは圧巻である。この物語は日本では『巌窟王』なる別名でも知られているので、この名前に親しみを持つ方も多いだろう。

マルセイユ到着の翌日、この島を訪れることにした。旧港(Vieux Port)の観光船乗り場は長蛇の列である。時刻表によれば船は1時間おきくらいに出ているようであるが、列の長さと船の大きさを見るに、全員が乗れるとは思えない。しかしチケットは時間指定で発券される。一人11.1。ネットでも買えるようでもあるが、優先乗船できるのだろうか。。寄港する島の住民は優先的に乗れるようであるが……。チケットの販売数や定員管理がどうなっているのかなど、いまひとつよくわからないが、とにかく先発の船に乗れることになった。その名も「Edmond Dantes」号である。

快晴の穏やかな港を抜けるとイフ城はすぐそこである。坂を上り、入場料6ユーロを払って場内に入る。さまざまな監獄があり、その中に、「エドモン・ダンテス、モンテ・クリスト伯」と書かれた場所もある。もちろん物語の中の人物ではあるのだが……城内には関連する展示品やパネルも置かれている。日本語の本もあった。実際に監獄として使われていた場所でもあり、その暮らしは想像を絶するが、小説の舞台として想像を巡らせるのは楽しい。さまざまな国から観光客が押し寄せているが、多くの人が物語を読んだ時の頭の中の景色と、目の前の「本物」を重ね合わせていたのではないだろうか。

イフ城

【写真2】イフ城

エドモン・ダンテスの監獄?

【写真3】エドモン・ダンテスの監獄?

ノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院

マルセイユにはいくつも美しい建物がある。建物だけではなく景色も楽しめるのが、マルセイユの街と港、そして海を見下ろす丘の上にあるノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院である。2色の石の組み合わせが特徴的な建物である。白い石材は石灰岩で、近郊の町で切り出されたもの、濃い色の石はトスカーナ産だそうである。

ここは、港町マルセイユにとっての聖なる場所であり、船乗りのための寺院とも言われる。中に入ると、船の飾りが天井から下がっているのが楽しい。ただし、ここにたどり着くにはかなりの坂を登らねばならない。直線距離では近く見えるが、歩こうと考えるのはまず無理な話である。

ノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院

【写真4】ノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院

ノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院の中

【写真5】寺院の中。船の飾りが下がっている。

マルセイユの街と港と海を見下ろす

【写真6】マルセイユの街と港と海を見下ろす

 

ブイヤベース

マルセイユの名物と言えばブイヤベースである。これを外す訳にはいかないと、到着後早速出かけた。事前に予約しておくのが無難で

スープ

【写真7】スープ

魚の山

【写真8】魚の山

ある。海辺にあるレストランでは、店内のあちこちに海にゆかりのある調度品が並んでいる。ホールには大テーブルがあり、スープが入った大鍋が温められている。早速ブイヤベースを頼む。お客さんから見えるところに生魚が置かれている。これを使うらしい。しかしメインは魚ではなくスープである。最初のうちはパンにルイユをつけたりしながら食べているが、そのうちスープだけを食べるようになる。使われた魚や貝、甲殻類も山のように供され、スープにつけて食べることができるが、こちらはダシが出た後という感じである。スープはおかわりできる。後で調べたところ、ブイヤベースは店によって大きな違いがあるようで、筆者の訪れた店は伝統的な製法で作るタイプの店だったらしい。魚介を強く感じさせる勢いのある味で、たいへんに美味しかった。

データの玄関

マルセイユにはもう一つの「顔」がある。多くの海底ケーブルのデータがここに集まっているのである。フランス-シンガポール間のSea-Me-We 5(South East Asia-Middle East-Western Europe 5)や、 フランスから香港に至るAAE1(Asia-Africa-Europe 1)などの14本の海底ケーブルが欧州、中東、アジア、アフリカ各地を結んでいる。マルセイユは人や物が行き交う大商業港の街として知られるが、多くのデータが行き来する、データの「玄関」でもあるのだ。マルセイユ港は、ケーブルの「Digital Gateway」であり、「Plug」となるとアピールしている。(※1)

このような地の利から、データセンターの建設も活発に進められている。データはここを経由して欧州各地と行き交うのである。最近Digital Realtyが買収を発表した欧州大手のInterxionは、海底ケーブルのデータが経由する同社のマルセイユのデータセンターの利便性を強くアピールしており、2019年末までにマルセイユで新たなデータセンターを開設することも発表している。ちなみにこのデータセンター(MRS3)は、第二次世界大戦中にドイツ軍が潜水艦基地として建造し、完成しなかった建物を再利用して作られている。ここにも歴史が感じられる。

マルセイユは危険?

マルセイユは欧州の中でも危険な街だと言われる。在マルセイユ日本国総領事館のサイトにも、ガイドブックにも注意喚起の文言が並ぶ。駅周辺や観光地などは特に危険とされる。こればかりは巡り合わせによることもあり、安全か危険かを一概に言うことはできないが、筆者自身に関しては、今回の訪問では、駅でも観光した場所でも危険を感じることは何もなかった。もちろん、犯罪が多いことは事実であり、普段より一層の注意を払うべきであろう。

イフ島からの帰りの船からは、アルジェリアから来たと思しき大型フェリーを目にした。遠くにはガントリークレーンやコンテナも見える。今後アフリカや中東などの経済がさらに発展すれば、マルセイユの重要性はますます高まるだろう。海底ケーブルやデータセンターなどの今後の動向を見守りたい。そして、陽光輝く海とブイヤベースを楽しみに再訪できればと思う。

(※1)http://www.marseille-port.fr/en/Actualit%c3%a9/1120#
https://sustainableworldports.org/project/port-of-marseille-submarine-cable-landing-plug/
(いずれも2019/11/17閲覧)

※記載の情報は訪問当時の筆者の体験によるものです。ご旅行される場合は、最新の情報をご確認ください。

 

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