2019.12.26 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

ワイヤレス基盤拡充に向けて ~ICTインフラの整備

2020年、令和2年の新年を迎えています。昨年は平成から令和への御代替わりがあり、新天皇が御即位になる祝儀が取り行われた一方で、一年を通じて風水害や猛暑による被害が続いて多難な年でもありました。新年にあたり今年こそ穏やかで平和な年であることを願っています。今年は干支では「庚子(かのえね)」、変化が生まれる状態、新しい生命が兆し始める状態を示すとの意味なので新しいことを始めるのに適した年と言えそうです。

そこで情報通信サービスに当てはめてみると、今年春にいよいよ5Gの本サービスが日本で開始されますし、ローカル5Gというまったく新しい事業形態のモバイル通信が始まる見込みとなっています。庚子の年にふさわしい出来事です。情報通信産業では既に無線(ワイヤレス)通信が基盤となってインフラを形成していますが、その中核となる携帯電話基地局の整備やICTインフラ整備・5G利活用促進について総務省は昨年6月に「携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会報告書」及び「ICTインフラ地域展開マスタープラン」を公表して、その方向性と方策を打ち出しています。即ち、“5GをはじめとするICTインフラ整備支援と5G利活用促進策を一体的かつ効果的に活用し、ICTインフラをできる限り早期に日本全国に展開するため”以下の施策のロードマップを提示しています。

  1.  条件不利地域のエリア整備(基地局整備)
  2. 5Gなどの高度化サービスの普及展開
  3.  鉄道/道路トンネルの電波遮へい対策
  4. 光ファイバ整備

5Gサービスの開始を前に、5G基地局の開設計画を2023年度末までに2割以上前倒しする目標を打ち出していて、携帯3社も2022年度末までにそれぞれ1万局以上の5G基地局の整備を完了する見通しとなっています。5G基地局の整備促進については、既存エリアへの5G基地局の導入推進だけでなく5G基地局向けの光ファイバ整備の推進が併せて盛り込まれており、それぞれの整備事業に補助支援策が講じられています。

この「ICTインフラ地域展開マスタープラン」の核心は、ICTインフラの整備としながらも、もっぱらモバイル通信、特に5Gを中心課題に取り上げて、日本国内のワイヤレス基盤の拡充に焦点を当てていることです。携帯サービスのエリア人口カバー率は99.99%、エリア外人口約1.6万人にまで減少しているので、これを2023年度までにすべて解消するという世界的に見てとても先進的な整備目標を立てており、さらに、非居住エリアにおいても住民や観光客の安心安全確保が必要な場所及び農地など従来モバイルサービスが想定されていなかった地域のエリアカバーを推進するところまでロードマップが広がっています。また、5G基地局の設置数・個所がミリ波の利用によって、これまでの3G・4Gと比べて数十倍以上多くなるので、その5G基地局向けの光ファイバの整備と電力供給設備の構築がワイヤレス基盤拡充の必須条件となります。つまり、単純に5Gサービス開始時期の先陣争いを追求するのではなく、5Gを始めとするワイヤレス基盤拡充を図ろうというのが、我が国の姿勢と捉えるべきでしょう。ワイヤレス基盤の拡充においては、従来のネットワークの進化で追及してきた高速化の性能だけでなく、低遅延と多数同時接続性能の発揮をも同時に実現していかなければなりません。だからこそ、98%以上に達している光ファイバの世帯カバー率を活かしたワイヤレス基盤の拡充、ICTインフラの整備を進める方策こそが、地方創生やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じての構造変革に対してより効果があると考えられます。なかでも、今回創設されたローカル5Gによるエリア展開の加速や利活用の促進は電波免許制度の革新であるだけに、ワイヤレス基盤を拡充する上で最重要の取り組みとなるものです。ワイヤレス基盤はこれまでモバイル通信事業者によるインフラ構築と非免許周波数帯域を利用したWi-Fiなどの活用の2系統によって整備されてきましたが、5Gの免許帯域を用いるものの土地・建物内の利用に限定して所有者等多くの者に電波免許を与えるという免許と非免許の中間形態ともいえるローカル5Gが加わるので、3系統に重層化することになります。モバイル通信インフラが居住エリアでは100%に達する目標が立てられるという世界最高水準にあるので、次なる目標は5GやIoTを用いた社会全体の活性化(地域創生など)であり、産業としての利活用(DXや構造変革など)に的を絞ったものになって当然です。この点で、世界初の5Gサービス開始を競った韓国と米国でも4Gからの移行や固定無線の利用では進んでいるものの、いわゆるキラーアプリケーションの創出にまでは進んでいません。単純に新しいネットワークの整備と新しい端末(スマホなど)だけでは5Gのキラーアプリケーションは立ち上がらないでしょう。

高速・大容量という性能向上では過去の経験がありますが、新機能の低遅延や多数同時接続では未知の領域が多く、協創パートナーとの価値創出や社会実装が必要になってきます。これこそ新しいイノベーションの生み出し方であり、日本における価値創出方策の取り組みであると思っています。また、IoTデバイスの多数接続もまだ基盤技術のレベルから大きく踏み出してはいません。社会実装の検証、ビジネスモデルの確認といった大きな課題に直面しています。ワイヤレス基盤の拡充では国際的に見てエリアカバー率や光ファイバの整備率など優位にあるので、これらを活かしてワイヤレスを中核に据えたICTインフラの整備が進められようとしています。ここは世界における5Gの先陣争いに惑わされることなく5GやIoTの社会実装、産業利活用、地域活性化の取り組みの前提となるワイヤレス基盤の拡充に政策当局や通信事業者はもとより、産業界をはじめ学界や地方自治体の関係者なども共通の理解を持つことが期待されています。情報通信事業分野ではいつも事業当事者間の利害衝突と事業に関する価値観の対立構図が見られて、技術と産業・社会の相互循環関係の成熟が難しい状況にあるので、尚更、今こそワイヤレス基盤の拡充に力を入れて、政策的にICTインフラのより一層の整備を進める好機だと感じています。モバイル通信サービスの人口カバー率も光ファイバの世帯カバー率も世界最高レベルにあり、次はこの基盤を5Gによって活かす方策こそが我が国の課題であり、国際競争力の源泉となるはずです。

最後に、ワイヤレス基盤においては周波数の領域でサブ6と呼ばれる(6GHz以下)帯域は既に満杯状態で、これからはより高い周波数のミリ波帯が利用されることになりますので、これまでにない取り組みが必要になります。従来の携帯基地局設置方法ではとても対応できそうにないし、コスト面でも負担し続けることは到底不可能でしょう。基地局の建設・設置方法や伝送機器類の開発(大きさやコストを含めて)が必要ですし、ネットワークの監視やコントロールもまた人手では絶対無理な事態となるので、AIの活用が必須です。加えて、ネットワークも汎用製品とソフトウェアで制御すれば大幅なコスト低減を図ることができるので期待が集まっています。しかし、残念ながら全体の絵姿を描いてロードマップ上にスケジュール化する研究・検討は具体化していません。5GやIoTサービスの先陣争いではなく、ICTインフラ整備が世界最高水準に達している我が国こそ、5G時代、ミリ波利用時代、コンピューターパワーとAIの活用時代を迎えて、ワイヤレス基盤の拡充で最先端となれる可能性を持っています。

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