2020年4月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:台湾 ~空港のある街・桃園スマートシティ



2月上旬に台湾・桃園(Taoyuan)市で開催されたスマートシティ関連イベントに参加する機会を得た。本稿執筆時点(2020年3月16日)で新型コロナウイルスの先行きが依然としてまだ不透明な状況であるが、台湾は新型コロナ対策でも30代の若いIT担当大臣の活躍による特徴的な対策で注目されている。今月号の「世界の街角」では、この台湾の桃園市についてご紹介してみたい。

桃園市について

「桃園」についてどれだけの方がその名前を知っているだろうか。台湾に行かれたことのある方であれば一度は無意識のうちに足を踏み入れたことのある場所かもしれない(「桃園」の日本語読みはルールに従えば音読みで「とうえん」が正しいが、思わず日本語のような訓読みで「ももぞの」と呼びたくなる。実際同市の市章は桃の図柄で何とも可愛い)。

桃園は、台湾最大の国際空港・桃園空港があるところだ。2006年までは「中正(蒋介石の意味)国際空港(英語ではChiang Kai Shek International Airportといった)」という名前が正式名称だったため、その空港が何という街にあるのかほとんど知られていなかったと思う。

台北市内には主に国内線や国際シャトル便などが発着する台北松山空港もあるが、ちょうど東京でいえばこれが羽田空港に相当し、桃園空港は成田空港といってよいような距離感にある(実際、桃園市と成田市は友好都市関係を結んでいる)。桃園空港から台北中心部までは、この10数年で様々な交通手段が開通したことで非常に便利になり、MRT(「台北捷運」、地下鉄に相当)で35分程度、また空港ではないが桃園には高速鉄道(高鉄、いわゆる日本の新幹線)も通っていて、台北中心部まで15分程度ということなので、東京から見た成田空港に比べれば感覚的にはより近さを感じる(図1)。

台湾における桃園の位置

【図1】台湾における桃園の位置
(出典:Googleマップ)

 桃園はかつては行政的には「桃園県」にある小さな市であり、その市域は狭かったが、2014年に周囲の市町村と統合し、市域を大幅拡大して人口220万人を擁する直轄市に昇格した。台湾では新北市、台北市、高雄市などに次いで人口では第5位の直轄市になった。日本でいえば市域を大幅拡大して政令指定都市に昇格したようなイメージであろうか。桃園市では、桃園空港をハブとして交通の要衝、物流や産業の集積地であることをドライバーにスマート化する「Aerotropolis(桃園航空城)」構想をもとにスマートシティ計画を推進しており、台北首都圏に含まれる、空港のある都市であるメリットを最大限活用した都市競争力強化を図っているところだ。

桃園のスマートシティイベント

ちょうどこの桃園で、2月10日、「2020 ICF Top 7」という国際会議が開催された。米国に本部を置き、スマートシティの研究・評価等を行う非営利のシンクタンクであるIntelligent Community Forum(ICF)が主催して毎年世界各国のスマートシティから特筆すべき活動内容について表彰しているのであるが、2019年の「大賞」として桃園市が「Top」に選ばれ、その記念を兼ね同地で世界各都市のスマートシティ関係者を集めて開催された会議である。関心のある者にはオープンなイベントだったので、弊社からも近隣諸国のスマートシティ研究や情報収集の観点から参加したというのが経緯だ。

2020 ICF Top 7

【写真1】2020 ICF Top 7
(出典:文中掲載の写真は、一部記載のあるものを除きすべて筆者撮影)

蔡英文総統もスピーチ

蔡英文総統

【写真2】蔡英文総統のあいさつ

会議は桃園市郊外の大規模施設で丸一日行われ、小規模ながらスタートアップを含めた台湾のスマートシティ関連企業による展示も行われた。冒頭のあいさつには、台湾の蔡英文総統が登場(写真2)するなど、台湾政府としてもこのイベントを重視していることが見て取れた。あわせて、欧米アジアの各数都市の代表が一部はTV会議方式で自身のスマートシティの取り組みについてプレゼンテーションを行ったほか、台湾関係では地元の主要通信キャリアである中華電信(Chunghwa Telecom)やCisco Systemsなどが自社のスマートシティにおけるユースケースなどについて紹介した(写真3、4)。

交通ビッグデータ分析(中華電信)

【写真3】交通ビッグデータ分析(中華電信)

桃園インテリジェントカメラ監視プロジェクト(中華電信)

【写真4】桃園インテリジェントカメラ監視プロジェクト(中華電信)

個人的に感じた印象としては、国際的には中国との関係から様々な制約を抱える台湾ではあるが、スマートシティだけでなく、あらゆる産業政策の中でICTを積極的に取り込んでいるとともに、その成果が身近なところにいくつも発現されていると感じた。ICTの社会実装に関しては中国本土の色々な例がこの数年話題にされ、台湾への注目度はそれに反してあまり高いとはいえないが、この数年で台湾のICT環境はかなり進んだといえよう。今回お会いして話をした方々は皆流暢な英語を話していたが、10年くらい前の印象ともだいぶ変わった気がする。その点でも台湾のICT分野におけるドラスティックな変化と先進性を感じることができた。

様々なコロナ対策も

既に2月上旬の時点では、新型コロナの感染が日本や台湾を含めた国々に広がりつつあった段階であり、そのため会議でのプレゼンテーションを予定していた一部の参加者にはキャンセルもあったようであるが、今回訪問した先の印象では、どの場所でもいずれも非接触式の体温測定、マスク配布等の防疫措置がぬかりなく行われており、きめ細やかな体制を感じる場面が多々あった。日本の方がこのタイミングではほとんど対策がとられていない時期だったので、むしろ台湾の方が過去のSARS時の経験による対策が行われており心強さを感じた、実際、台湾の感染者数はこの時点では東アジア諸国の中では非常に少なかった(しかし、日本に帰国後会社に戻ると「中国方面」への出張者は1週間自宅待機という指示が出ていて、中国本土と一緒くたの扱いになっていて呆然とした)。冒頭に述べたように、台湾では、若いIT大臣(オードリー・タン(唐鳳)氏)のイニシアティブで2月上旬には既にマスクの売られている店舗がリアルタイムでわかるアプリが公開され、マスクの買い占めをさせない対応が行われていたが、生活に密着したところでICTの活用が図られている台湾の現状について、この会議やその後に会議の参加者向けに行われた桃園市のICT関連イノベーションハブの見学などでも、その一端が垣間見えたような気がした。

桃園イノベーションハブとスタートアップ企業

会議の翌日、桃園市が運営するイノベーションハブ「虎頭山創新園区」(写真5)やICTの社会実装が行われている様々な施設を見学する機会にも恵まれた。イノベーションハブでは、自動運転バス(写真6)のテスト走行コースがあり、見学者も短距離ではあるが乗車ができる。建物の中は様々な台湾のスタートアップ企業向けの自動運転のためのインフラ開発を始め、彼らの様々な分野の活動を支援する場となっている。

桃園虎頭山創新園区の研究棟

【写真5】桃園虎頭山創新園区の研究棟

自動運転バス

【写真6】自動運転バス

同ハブの後は、電動バイクシェアサービスを開発・展開するGogoro(睿能創意股份有限公司)を訪問。同社は現在台北と桃園でこの電動バイクシェアを展開している。台湾ではバイクの利用が日本より圧倒的に多いが、コンパクトな充電用電池を市内随所に置き、これをスマホアプリと連動することで利便性を高めている。現在同社は急成長中といわれている。

このほか、ICTを活用したいわゆるスマート植物工場であるYesHealth iFarm(源鮮智慧農場)というところも見学した(写真8)。ここでは様々な種類の緑黄色野菜を室内で育てており、オンラインでこれら野菜を販売しているほか、野菜やサラダ中心のレストランも併設している。実際、筆者もここで新鮮な野菜をランチとしていただいたが、日本でこのようなところを訪問したことがあまりないので、サラダ好きとしては嬉しいひと時であった。

gogoro社

【写真7】gogoro社
(出典:ICF)

YesHealth iFarm

【写真8】YesHealth iFarm

YesHealth iFarmのサイト

【写真9】YesHealth iFarmのサイト
(出典:同社)

ランタン祭り

ちょうど桃園を訪問したころは、2020年は1月最終週だった春節(旧正月)から15日後の「元宵節」にあたり、提灯を灯したランタンを飛ばして邪気を追い払うというお祭りが台湾で盛んに行われる時期だ。地域によっては天灯という火を入れた無数のランタンを空高く飛ばすランタンフェスティバルが行われ、最近の台湾ではこの時期の観光上の大きなイベントにもなっている。桃園でも、ちょうとそのランタン祭りが行われていて、宿泊した近くの公園でも、数多くの電飾が施されていたほか(写真10)、別の場所では大規模な龍の舞のパフォーマンス(写真11)が、シルクドソレイユのような雰囲気のフランスのパフォーマーの一団により演じられていた。

桃園のランタン祭り

【写真10】桃園のランタン祭り

巨大な龍のパフォーマンス

【写真11】巨大な龍のパフォーマンス

桃園訪問から感じたこと

筆者はこれまで台湾には、出張やプライベートを含めて数年に一回は訪問しているが、桃園は台北に行く際の空港としての存在以外は、ほとんど何も知らなかったし、交通上の通過点でしかなかった。

空港のある街はどの国でもそのようなスルーされがちという課題があるものの、実際訪れてみるとそこでは空港という存在をドライバーとした都市の発展という考え方が今の時代重要であることに改めて気づかされた。だいぶ前に成田空港の近くで一泊したときにも感じたが、国際空港の近くというのは既に多くの外国人が集まって暮らしていることが多く、桃園でも同じだそうだ。桃園では特に東南アジア方面からの外国人が多いらしい。もともと空港のおかげで大都市中心部とは交通の便もよく、物流が豊富でモノも無数に集積しているのが空港都市の特徴であろう。今回幸運にも桃園市のスマートシティについて学ぶことができたが、桃園のような台湾の地方都市に対してはICTの観点も含めて日本からももっと大きな関心をもって見ていく必要があることを再認識させられる訪問になった。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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