2020年7月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

新型コロナの逆境に負けないスタートアップたち ~米PNP Summer Summit 2020に見るトレンド

1. はじめに

米国は新型コロナウイルスの感染者数が世界で一番多い。シリコンバレーでは、Google社、Facebook社などの企業が在宅勤務を徹底したり、レストランやカフェでは、店内での食事を禁止したりして、感染拡大を防いできた(2020年7月1日時点)。ただ、新型コロナウイルスの影響でレンタカー会社のHertz社等、大企業が倒産するなど、経済に暗い影を落としている。そんな中でもスタートアップは元気に活動している。不景気は既存のビジネスには容赦なく襲い掛かるが、ユニークなアイデアで世界に勝負を挑んでいるスタートアップにとっては絶好のチャンスだ。過去を振り返ってみても、Google社やUber社などは不景気の後にキラ星のように現れた。

本稿では、スタートアップを支援しているシリコンバレーで著名なPlug and Play Tech Center(以降、PNP)社がコロナ禍で開催したPNP Summer Summit 2020に見るスタートアップの活動からアフターコロナのトレンドについて考察する。

【図1】PNP Summer Summit 2020のタイトル

【図1】PNP Summer Summit 2020のタイトル
(出典:PNP社)

2. PNP社とは

PNP社は、シリコンバレーで有名なベンチャーキャピタルで、スタートアップへの投資やIoT、Mobility、Enterpriseなど15のカテゴリーでスタートアップの支援を行っている。PNP社は、創業間もないGoogle社やeBay社などを支援していたことでも有名である。さらに、PNP社はスタートアップだけでなく、イノベーション活動に積極的な企業も支援していて、シリコンバレーの他、東京、京都を含めた世界の30箇所以上の活動拠点で、NTTコムなど、250社以上の企業のイノベーション活動を支援している。

【写真1】PNP社の本社

【写真1】PNP社の本社
(出典:筆者撮影)

 

3. PNP Summer Summit 2020とは

PNP社はスタートアップおよび、企業のイノベーション活動の支援のために、定期的にイベントを開催している。PNP社が主催するイベントはさまざまだが、"Summit(サミット)"と呼ばれるものが一番大規模で、年間で4回開催される。例年であれば、カリフォルニア州サニーベール市にあるPNP社の本社で開催されるのだが、今回はコロナ禍でZoomによるオールバーチャルでの開催となった。

PNP Summer Summit 2020においては、IOT、Real Estate & Construction、Mobility、Energy、FinTech、Enterprise、InsurTech、Healthの8分野の167社のスタートアップがピッチを行い、3,281人がオンライン視聴した。また、14の基調講演やパネルディスカッションがピッチの合間に行われ、コロナ禍のイノベーション活動の状況、アフターコロナの業界トレンド、スタートアップへのアドバイスなどが語られた。

【図2】PNP Summer Summit 2020のプログラム

【図2】PNP Summer Summit 2020のプログラム
(出典:PNP社)

 

4. 基調講演

ここでは、コロナ禍における今後の戦略、トレンド、スタートアップへのアドバイスを分かりやすく説明してくれた2人の基調講演の内容を紹介する。

(1)FCA社

Mobility分野の基調講演のスピーカーとして登場したFCA(Fiat Chrysler Automobiles)社のChief Digital Officer & Chief Information OfficerのMamatha Chamarthi氏は、新型コロナの影響で新たなカテゴリーにも注力すると説明した。FCA社も他の自動車メーカーと同様にAutonomous(自動運転)、Connected(コネクティッド)、Electrification(EV化)、Shared Mobility(カーシェア)に注目して研究開発・製品開発を進めてきたそうだ。それが、今回の新型コロナの影響で"Contactless(コンタクトレス)"にも力を入れるという。特にオンラインでのユーザー体験を大切にして、ユーザーとディーラーが直接会うことなく自動車販売、メンテナンスができるような世界の実現を目指そうとしている。

なお、シリコンバレーでは、Carvana社が検索、販売、配車をすべてオンラインで完結できる"自動車の自動販売機"ともいうべきサービスを提供し、話題になっている。

(2)Google社

Mobility分野の基調講演のスピーカーとして登場したのは、Google社でGoogle PayのHead of New Business DevelopmentおよびConsumer Payments and CommerceのGlobal Business Development Leadを務めるUzma Makhdumi氏だ。Uzma氏は、"BC to AD(Before Covid-19 to After Domestication)"として、アフターコロナのFinTechにおける大きな流れについて語った。

【図3】Google社の基調講演のポイント

【図3】Google社の基調講演のポイント
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

 

Uzma氏はまず、コロナ禍、アフターコロナに関する考えについて、概要次のように話してくれた。

  1. 新型コロナは、ユーザー、政府、金融機関、小売事業者の行動、考え方を変えた。ユーザーや小売事業者は、モバイルペイメント、コンタクトレスペイメント(Contactless Payment)の対応と普及に期待し、政府や金融機関は、オンラインペイメント、デジタルトランスフォーメーションを加速させようとしている。
  2. 破産の危機に直面している米国経済においては、サプライチェーンなどの自動化と多様化に高い関心が持たれ活動が始まった。
  3. 新型コロナは、Anxiety(不安)、Adjustment(適応)、Acceleration(加速)の3つの段階で考え、Adjustment以降の段階では、Digital Onlyではなく、Digital Firstで考えた方が良い。Accelerationの段階で最も難しいのは、既存のビジネスモデルを破壊し、新しいビジネスモデルを構築することだ。

そして、最後に、Uzma氏はコロナ禍で挑戦を続けているスタートアップに、

  1. 支出とキャッシュフローをきちんと管理すること。
  2. 優先事項を決め、開発、パートナーシップ、営業に注力すること。
  3. 短期間で成果を出すことを考えること。

とメッセージを送って基調講演を締めくくった。

5. スタートアップピッチ

ここでは、スタートアップピッチの中から、コロナ禍、アフターコロナで必要とされるSocial Distancing(ソーシャルディスタンス)、Prevention(予防)、Contactless(非接触)、WFH(Work From Home、リモートワーク)の4つ分野のイノベーティブなアイデアについて紹介する。

(1)Social Distancing(ソーシャルディスタンス)

人と人との物理的距離の確保を感染防止策の一つとして、ハードウェアもしくはソフトウェアでソーシャルディスタンスを確保できるサービスを提案するスタートアップがいた。

BST社(https://www.bstco.us/)は、元々はIoTタグを用いて、工事現場における重機と作業者の接触事故を削減するためのソリューションを提供している。同社のIoTタグは、IoTタグ同士の距離を計測できるため、作業現場におけるソーシャルディスタンスを確保するソリューションとして提案されていた。

また、Kinetic Eye社(https://kineticeye.io/)はコンピュータービジョンを用いて、工場や倉庫内の監視カメラの映像をもとに、そこで働く作業員の安全を確保するソリューションを提供している。同社のソリューションは、映像データから作業員同士の距離を計測することができるだけでなく、マスクの装着状況も分析できるため、リアルタイムに作業員に注意喚起できる。

IoTタグを用いた作業支援ソリューションや位置情報を用いた人流分析ツールを提供するスタートアップは他にもいるが、同社は自社のソリューションを新型コロナの影響でソーシャルディスタンスを確保するツールとして応用することで市場拡大の機会を窺っている。

【写真2】Kinetic Eye社の技術によるSocial Distancing Solution

【写真2】Kinetic Eye社の技術によるSocial Distancing Solution
(出典:PNP社)

 

(2)Prevention(予防)

これからの季節、窓を締め切ってエアコンをつけたり、自粛が緩和されてオフィスに行ったりする機会が増えると、空間衛生やどこで新型コロナの感染者が発生しているのかが気になるところだろう。

Wynd Technologies社(https://www.wynd.ai/)は、空気を清浄するソリューションを個人向け、企業向けに提供している。同社は空気清浄機のほかに、室内の空気の状態をモニターできる機器(Wynd Halo)を提供している。同社ソリューションでは、Wynd Haloで収集されたデータがクラウドで分析され、自社の空気清浄機やHoneywell Homeなどのパートナー企業の製品を自動的に制御してくれる。また、Wynd Technologies社は、ベビーカーやオフィスのデスクに置けるポータブルな空気清浄機も開発・販売している。

【図4】上: Wynd Technologies社のアーキテクチャーと製品詳細

【図4】上: Wynd Technologies社のアーキテクチャーと製品詳細
下: Dorothy社のダッシュボードとコロナ対策ソリューション
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

 

自然災害のリスクと過去の自然災害について地図と連携して可視化するソリューションを提供しているDorothy社(https://dorothymap. com/)は、自社の技術を活用して、新型コロナの感染者が発生した場所を地図上に表示して可視化できるようにしたそうだ。日本では、感染者の発生場所をはっきり伝えないが、米国では、包み隠さず情報公開する。そのあたりは、文化、データに関する日米の考え方の違いだろう。

(3)Contactless(非接触)

Google社のUzma氏の基調講演にあったように、新型コロナの影響で、Contactlessのニーズが高まっている。モバイルペイメントの普及で、キャッシュレジスターのキーパッドや電子ペンを持つ必要がなくなった。しかし、Contactlessが必要とされるケースは支払いだけではない。例えば、ホテルに泊まったときの鍵の授受、扉の解錠、照明のオン/オフなどもできれば非接触にしたい。Butlr社(https://www.livebutlr.com/)が開発したIoTデバイスは商業施設などの天井に設置すると、人の行動をモニターし、クラウドで行動を分析してくれる。ホテルの宿泊者が部屋の扉の前に立つと自動的に解錠してくれたり、部屋に入ると自動的に照明をつけたりしてくれるなどContactlessの可能性は広がる。同社のIoTデバイスは複数人の行動を分析できるため、密な状態のモニター・通知などにも使える。

PNP Summer Summit 2020ではこの他、非接触を実現するソリューションとして人気が高まっているVR Tourやロボットを活用した遠隔検査など、多くの非接触ソリューションが披露された。

(4)WFH(リモートワーク)

リモートワークではビデオ会議、チャットシステム、セキュリティに注目が集まっているが、個人的にはコンテンツ管理も重要な要素だと考えている。単なる資料の「保管庫」ではなく、メンバー同士で共同で編集したり、シェアしたりできるサービスの利用をお勧めする。自分のパソコンだけでなく、複数のクラウド環境を利用してコンテンツを管理するケースが増えてきている昨今において、「あの資料、どこに保管してあったっけ?」と隣にいる同僚や部下に気軽に聞けない今の状況に鑑みると、目的のコンテンツを簡単に検索できる機能は必須だ。

そういう観点で見たとき、提案資料を一元管理し、顧客からのフィードバックをもとに共有メンバーが協力してより良い資料にアップデートできるプラットフォームを提供しているContiq社(https://contiq.com/)のソリューションがぴったりだ。顧客への提案資料をチームメンバーが共同でアップデートし、共有することで、提案の成功率を上げることができるそうだ。

PNP Summer Summitでは、Enterpriseカテゴリーのスタートアップも参加し、デジタル化、自動化のソリューションを提案していた。業務はデジタル化、自動化することで、電子メール、チャットをトリガーに効率的にすすめることができるが、ことはそう簡単ではない。一つ一つのシステムが独立していることが多い企業システムを連携させるためには、API(Application Programming Interface)の整備が不可欠で、APIの開発ソリューション、セキュリティソリューションも今後注目のエリアであることは間違いない。

6. まとめ
- New Normal(アフターコロナ)に向けて

先述したソリューション以外にも、アフターコロナ時代のNew Normalを実現するソリューションは数多く提案されている。Google社のUzma氏は、基調講演で「Microsoft社は、『この2カ月間のデジタルトランスフォーメーションは2年分に相当する』と同社の第3四半期の決算発表で説明している。」と話をしてくれた。米国のある調査会社は「eコマースの普及率を見ると、過去10年間の伸び率をこの3カ月で超えた。」と発表している。おそらく、デジタルトランスフォーメーションの加速はさまざまな業界で進むであろう。

【図5】行動分析技術によるリアルタイムプロモーション(左)とコロナ感染対策(右)

【図5】行動分析技術によるリアルタイムプロモーション(左)とコロナ感染対策(右)
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

【図6】新型コロナにより普及が拡大したeコマース市場

【図6】新型コロナにより普及が拡大したeコマース市場
(出典:PNP社)

 

先行きが不透明なこんなときだからこそ、大きな流れに乗り遅れないようにクイックに動き、ユーザーの期待に応えられるサービスを開発し、業務の自動化・効率化に向けたデジタルトランスフォーメーションを加速させるべきではないだろうか。

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