2020年7月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

働き方変革の動向 ~内田洋行の自社での取り組みと新たなオフィス環境整備に向けた対応



働き方変革としてのテレワークの動向

新型コロナウイルスの感染防止対策として、時差出勤やテレワークの積極的な活用が推奨されている。

テレワークの導入動向は、どのような状況にあるのか。東京都の「テレワーク『導入率』緊急調査結果[1]」によると、4月緊急調査ではテレワークの導入率は62.7%と3月緊急調査(38.7ポイント)に比べ上昇している。テレワークを実施する社員の割合も、平均約5割と昨年12月の約2割に比べ上昇している。加えて、4月の勤務日数(約20日)のうち、テレワークは約12日実施されており、12月比で実施日数は10倍に増え、テレワーク利用は進展している。従業員規模別では、企業規模が大きくなるにつれて、導入率は高くなっており、小規模企業(従業員30-99人)の導入率は54%にとどまる(図1)。

【図1】テレワークの導入率(規模別、3~4月)

【図1】テレワークの導入率(規模別、3~4月)
(出典:東京都「テレワーク『導入率』緊急調査結果」(2020年5月))


また、内閣府の調査[2]によると、地域別のテレワーク実施状況について、東京23区では「テレワーク(ほぼ100%)」と「テレワーク中心(50%以上)で定期的に出勤を併用」を合わせると、全体の4割を占める。一方、大阪・名古屋圏ではその値は2割、地方圏では1割強と、地域別で実施状況は異なり、都市部での導入が進んでいる。テレワーク利用に必要な課題としては、「社内の打ち合わせや意思決定の仕方の改善」「書類のやり取りを電子化、ペーパーレス化」「社内システムのアクセス改善」等が挙げられている。不便な点として考えられるものの中で、重要なものとしては「社内での気軽な相談・報告が困難」「取引先などとのやり取りが困難(機器、環境の違い等)」「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」が上位に挙がっており、ICT環境を整備することに加えて、業務遂行や社内のコミュニケーションのやり方の面での課題解決が重要な要素になっている。

今回、オフィスの働き方変革や、働く人の知的生産性向上を支援、追求し続けている内田洋行の担当者に、自社の働き方変革の取り組み、ユーザー動向や、コロナ環境下で求められるオフィス環境の改善に対してどのような支援、提案をしているかについて、話を聞く貴重な機会を得た。

内田洋行の働き方変革

経営企画統括部第2企画部部長矢野氏に、自社の働き方変革のこれまでの取り組みと新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の環境下での自社の動向について話を聞いた。以下はその内容である。

働き方変革について矢野氏は「2要素あり、メンタリティに関する行動変革と、制度・仕組み等の支援環境整備(ワークスペース、ICT)」である。その狙いは「行動変革と制度・仕組みの両面から、創造性、効率性、躍動性のある働き方改革を支援することによって、ハピネス(従業員の働き甲斐、経営としての生産性向上)を実現すること」と言及している。内田洋行は、1989年に企業内研究所「知的生産性研究所」を設立し、働き方の調査・研究、企業や組織のワークスタイル変革を長期にわたり、遂行してきた。その経験を活かして働き方変革については、「2つのハピネス(強い組織を作るという経営者の思いと、従業員の働き甲斐)、3つの物差し(創造性、効率性、躍動性)、2つのアプローチ(行動・意識の変革、支援環境整備)と捉えている」(図2)と同社は働き方変革に関して、独自のアプローチを持っている。従業員の生産性向上に加えて、働き甲斐を重要視している点が特徴であり、これは以前本誌でも紹介したパナソニックの取り組みに通ずるものがある[3]。

【図2】内田洋行の考える働き方変革[4]

【図2】内田洋行の考える働き方変革[4]
(出典:内田洋行HP)

 

内田洋行では、本社オフィスの1フロアに90名弱が在席しているが、通常の環境下でのActive Commons(利用可能な座席数)は58席(定員に対して8割程度)にしており、フリーアドレス制である。新型コロナの緊急事態宣言時は、人と人の距離を2.5mあけ、この時の実際の出社率は12%(最大可能出社率は25%)であった。3月は通常は業務繁忙期である中での外出自粛であり、社内では、本当に生産性が上がっているのか、移動時間の削減をはじめとする従業員の満足度の上昇のみになっているのではないか、それでは良くないという議論が一方であった。加えて、外出規制の中で、新規営業を行うことは難しい状況であったとも評価されている。その後、2020年6月時点(withコロナ環境下)では人と人の距離を最短2メートル、最大可能出社率を42%に設定し、同社は業務を遂行している。

同社では、働き方改革の実態に関する社内アンケートを6月1日に実施している。日本生産性本部が5月22日実施した調査[5]と同様の調査である。具体的には、在宅勤務の実施状況、勤め先への出勤日数や業務の効率性について調査をしている。その内容の一部を紹介すると、勤め先への週当たりの出勤日数は、0日が45%、5日以上が11%である(参考:日本生産性本部調査結果では、0日が32%、5日以上が10%)。在宅勤務について矢野氏は「効率が下がって、満足度が上がっているようでは問題だ。在宅勤務の満足度は、通勤時間の低減や感染リスクの低減などによるものであり、仕事上の満足ではない。仕事をどう変えるのかが問題である」と指摘しており、業務のやり方の変化による効率性向上を重要視している。単に在宅勤務を行うことにとどまらない目的意識が、「知的生産性研究所」設立以来の取り組みの中で存在している。

また、自宅の部屋、机、椅子やWi-Fi等の通信環境の整備、職場に行かないと閲覧できない資料があることについて、課題感がある従業員が一定数存在していることも明らかとなった。コミュニケーションについては、同一部署の人とは実施できていたが、他部署の人とのインフォーマルなコミュニケーションはできていなかった(76.5%)と回答する人が多く、社員間の非公式のコミュニケーションの不足が指摘された。

オフィスにおいては、「セミオープンブース(図3)は今後必要になってくるだろう。なぜならWeb会議を同一の場所で行うと、ハウリングや他の人の声が聞こえるなどの問題がある」と矢野氏は新たに生じている職場環境での課題を指摘した。

【図3】セミオープンブース

【図3】セミオープンブース[6]
(出典:内田洋行HP)

 

そのため、内田洋行では、クッションパネルシステム「Pilvio2 」、フレームシステム「Schema」を提供しており、ユーザー企業が導入しやすくするため、レンタルでのサブスクリプションモデルでの提供(「Trend rent[7]」)を開始している。この引き合いがホームページ経由で多くきている。大企業からの問い合わせもあるが、小企業、特に、会議室を持っていないところからの問い合わせもある。このようなオフィス環境の改善、変革は大企業に限らず、必要性が増しているのである。

自社サービスの開発方針については、「我々は『ハピネス』を追求しており、行動変革と、支援環境の整備が必要である。商品開発においては、使い勝手を自社で確認し、データをとり、その効果をみてから、お客様に提案している。」と、自社で試行、評価、効果判断を行った商品・サービスをユーザー企業に提案しているとのことだ。社会の変化、方向性について、皆がその方向性を問う前から、自社で地道に取り組み、対応を進めている点が同社の強みであり、今後の動向も注目される。

ユーザー動向

ユーザー企業の動向や、コロナ環境下での新たな取り組みについては、営業統括グループネットワークビジネス推進統括部統括部長村田氏に話を聞いた。以下、その内容を紹介する。

内田洋行では、MicrosoftのOffice365で利用可能なTeamsの導入サポートを行っているが、日本企業はコロナの前はOffice365を導入しても、Web会議(Teams)の利用度は欧米と比べて高くなかったとのことだ。

内田洋行の会議室予約・運用システム「Smart Rooms」は、日経225の採用銘柄の5割の会社が利用している。ユーザー企業において、コロナ下の外出自粛中は、リアルな会議が減少し、Web会議、音声会議(Skype)が増加した。この春はWeb会議はコロナ前に比べ10倍利用が増加したが、日本企業の利用実態について、村田氏は「テレビ電話をしているような状況である。ネットによる音声通話も増えているがこれは単純なコミュニケーションに過ぎない。より、コラボレーションツールとして利用していくことが重要ではないか。Web会議だけで成果が生まれているのか。」との疑問を投げかけた。まだ、リテラシーの問題があり、国内企業においてはコラボレーションツールとして活用している企業が多くはない現状を課題視したものだ。在宅勤務は大企業では導入されたが、中小企業での導入はこれから進展していくものであり、働く人々それぞれが働き方におけるDX化においてステージアップしていく方向性にあることが指摘された。

内田洋行の新たな取り組み

今後の対応については「我々は先進的なユーザー企業における実践事例をもとに、現在のコロナ下のみならずアフターコロナ時代でも有効な利用ができるシステムを開発中である。これはスマートフォンで、各事業所、サテライトオフィスのフリーアドレスの座席や会議室を事前に予約できるもの。QRコードでチェックインして、利用できる」と、村田氏は新たなオフィス利用のスタイルを支援していることを語った。このメリットについて同氏は、「経営者は、個々の従業員が今どこで仕事をしているのか、見える化し、管理することができる。会社が支給したスマートフォンで操作可能で、Wi-Fiルーターの情報とQRコードによって従業員の位置を特定できる。システムから取得したデータで会議室と座席の利用率について分析可能なので、会議室と座席が足りるか足らないか、利用状況とログ分析によって、最適な提案を行うことができる。従業員は会社に着いてから、席がなくて座れないということがなく、安心して出社できる。また、社員同士が『密』にならないように、事前に予約できる座席を少なくすることもできる」と、経営者、従業員双方にメリットがあるとする。これは、緊急事態宣言が解除され、在宅勤務から通常の出勤体制に戻ろうとする大企業からの相談が多いことによるものだ。企業の課題について村田氏は、「今後、オフィススペースをどうするのか。マネジメントをどうするのかについては経営課題になってきている。コロナ環境下で、追加的な投資が難しいため、投資コストを下げて、運用しやすいシステムを提供している」と、働く場としてのオフィスの在り方の検討を支援するサービスを、導入しやすい形態で提供していることを明かす。このシステムはまた、AIカメラで、マスクをつけていない社員を検出したり、ビーコン、測温装置をつけて、オフィスでの社員の位置情報と健康情報を把握したりすることもでき、今後、出社率を上げていく際にも有効な手段となっている。

加えて村田氏は「BCP対策の観点で、人の動きを把握することは重要だ。システムを使うと、オフィス全体の見える化ができるので、ファシリティ環境の最適化を図ることができる。経営者はエビデンスをもとにオフィスの改革ができる」とBCP対策の観点からも重要であることを指摘した。働き方改革においては、従業員個人、グループ単位の仕事の見える化については、パソコンのログ情報等を蓄積、見える化し、把握する取り組みが行われ始めているが、さらにオフィス環境という空間面の見える化によるBCP対策の強化という面で働き方改革が支援されている。

内田洋行の創業と変遷

市場の変化の先読みと顧客動向の把握により、商品・サービス開発を行う内田洋行の姿勢は、創業とこれまでの変遷に起因するものと想定される。経営企画部兼広報部部長佐藤氏に、創業110年の歴史から主な転換期について聞いた。

これまでの内田洋行の歴史について佐藤氏は「当社は、市場密着と変化対応を同時に繰り返してきた。戦前は、満鉄への測量・製図器械の販売会社(貿易商)として創業し、国内では『ヘンミ式計算尺』の卸業で発展した。需要拡大が見込まれる商材ごと(欧米文具、タイプライター、国産化初のトーホー自動番号器等)に多面的に顧客接点を作り、販売ルートを開発してきた。その後、市場変化への対応が中心となり、事務器械、OA、IT、エンジニアリング、ICTの変遷に対応してきた。

販路では、戦後すぐに、計算尺で学校ルートも築いた。物不足の時代、工場への出資により、商品ブランド(米国から持ち帰って製品化した、マジックインキ等)を持ち、米国型マーケティングであるマスの宣伝で営業するスタイルをとり、業界に先駆けて、実物展示会『ウチダビジネスフェア』を考案、開催するなど、卸業から業態転換させた。高度経済成長期には、顧客の事務能率の向上支援を高度化するため、カシオ計算機の総代理店を経て、超小型電子計算機『USAC(ユーザック)[8]』の開発販売を手がけてコンピュータービジネスに参入した。自由化(外資規制及び輸入制限の徹廃)では富士通と提携で対応し、業界で初めて、ハード・ソフト・保守サービス等のアンバンドリング(分離提供方式)やリース販売を推進して競争優位を築いた。この間、事務能率向上支援、科学教育振興という事業ドメインで展開した。これにより、法人、官公庁、学校向けの3事業の顧客接点を持つようになり、事業部制により現場対応で顧客基盤を広げてきている。80年代に脱工業化社会が唱えられると、製造からエンジニアリングへと事業転換し、各事業の持つソリューションを関連づけ、システム化するため、 デザイン、施工、保守等の機能強化を進め、戦略的子会社を設立した。2000年以降は、政府のe-Japan構想等を契機に将来に向けてICT基盤強化が必須との認識に立ち、IT人材の採用に注力し、グループで1/3を占めている」と言及した。こうした変遷を経て同社は現在の内田洋行グループのICTと環境構築という事業分野の形成に至っている。経済社会の変化とそれに伴う市場変化の把握、ユーザー企業との接点を活かした事業展開をしてきており、これが現在推進されている働き方変革の進め方にもつながるものであると考えられる。

まとめ

働き方変革は、企業にとって大切な従業員をリスクから守り、生産性を維持、向上するために、取り組むべき課題の一つである。国内企業においては、以前から働き方のDX化の必要性が指摘されていたものの、その進展が緩やかであったり、企業属性により異なる状況にあったりするが、内田洋行へのヒアリングにて、3つの重要なポイントが提示された。

第一に、働き方の変革の目的を、その手段をDX化すること自体のみにではなく、DX化することにより、従業員の生産性や働き甲斐を高めることにもおくことである。目的を定め、従業員個々人の視点で、働き方変革の意義を捉え直すことが求められている。

第二に、ICTサービスを含めてサービスを提供する際には、実際に自社で活用して、そのサービスの価値を評価し、ユーザー企業に提案する点だ。取り組みの価値を実感して、ICTサービスを提供することは、ユーザー企業に共感をもたらし、導入、利活用が進むものと想定される。

第三に、従業員の働き方を変革することに加えて、オフィス空間の効率性向上を志向しており、オフィスを経営資源の一つとして評価するために、IoTを活用した見える化(従業員のオフィス内での所在位置や、いつどの会議室が混んでいるのか等を明示すること)を支援している点である。国内企業において、テレワーク(在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス)の実施状況を見ると、従業員のパソコンのログ情報等による見える化は一部の企業で進められてきている。内田洋行では、さらに一歩進んだオフィス空間の見える化により、リスクの軽減(従業員がオフィス内で『密』にならない環境作り)、スペースの効率性向上を検討するための情報が提供されている。テレワークと会社での勤務が併用して行われる中で、オフィス空間の効率化は、従業員の働く場の環境整備、経営資源であるオフィスの最適化につながるものである。今後の同社の事業展開動向が注目される。

[1] 調査対象は都内企業(従業員30人以上)。回収率は40.5%(回答数394社)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/ press/2020/05/12/documents/10.pdf

[2] 調査方法はインターネット調査(国内今日中のインターネットパネル登録モニター)。調査期間は5月25日~6月5日。回収数は10,128。

[3] 詳細は「働き方改革を支援する働き方の見える化ツールの動向」(2019年12月26日、本誌2020年1月号)
https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr369-20191226-teshima.htmlを参照。

[4] https://office.uchida.co.jp/workstyle/think.html

[5] 日本生産性本部「第1回 働く人の意識調査 新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響を調査」(2020年5月22日)https://www.jpc-net.jp/research/detail/004392.html

[6] https://office.uchida.co.jp/products/quie/

[7] https://office.uchida.co.jp/trendrent/

[8] 電子計算機分野に取り組むため、1962年、電子計算機の開発に成功していたウノケ電子工業(石川県)に経営参加。純国産初の超小型電子計算機「USAC(ユーザック)」を発表。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS