2020年8月31日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

欧米のデジタルプラットフォーム規制の現状(前編)~欧州



1.はじめに:日米欧で活発化するプラットフォーム規制の見直し

日本、欧州、米国でオンライン・デジタルプラットフォーム(以下、「プラットフォーム」)市場を巡る規制の動きが活発化している。

日本では、2019年9~10月、首相官邸にデジタル市場競争本部 (本部長:菅官房長官、副本部長:西村経済再生担当大臣) と専門家会議、ワーキンググループが設置され、2020年1月には「デジタルプラットフォーム取引透明化法」の概要を決定した。同法は国会で同年4月に成立し、6月に公布されている。また、同会議は同年6月にデジタル市場全般の競争状況や、デジタル広告市場の競争評価に関する報告書(案)を発表するなど、矢継ぎ早に施策を展開している。官邸の動きに先立ち、総務省は2018年10月に「プラットフォームサービスに関する研究会」を立ち上げ、2020年2月に最終報告書を発表している。その間、総務省、経産省、公正取引委員会は2018年12月に「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定するなど、3者が連携して、あるいは単独で、プラットフォーム市場に関する様々な調査の実施や規制の検証を進めてきた。

欧米の状況を見ると、欧州連合(EU)は世界に先行して2010年代前半からプラットフォーム規制に取り組んできたが、2015年5月には域内のデジタル市場の統一を増進する目的で、「デジタル単一市場(Digital Single Market:DSM)戦略」を発表した。それ以降、DSM戦略に盛り込まれた広範な施策に従い、プラットフォーム規制の諸相に応じた個別課題対応型の法規制の整備が加速した。それは、公正競争の確保のみならず、デジタル世界の個人データや著作権の保護など多岐にわたる。日本でも大きな話題となった「一般データ保護規則(GDPR)」や、Googleニュース、YouTubeなどの著作権処理に大きな影響を与える「デジタル単一市場の著作権指令」などがその例である。しかし、少なくともオンライン取引のあり方などについては、そのような個々の課題対応型ではなく横断的な規制枠組みの再構築が必要だという認識がEU内で高まり、2020年末の採択を目指して「デジタルサービス法(Digital Services Act:仮称)」の準備が進められている。

米国はEUのプラットフォーム規制の強化について、GAFAなどの自国企業がターゲットになると考えて牽制してきたが、2016年大統領選挙におけるフェイクニュースや個人情報流用の横行を契機として、国内でプラットフォーム規制に対する機運が高まっていく。最近では、2019年に連邦取引委員会(FTC)と連邦司法省(DoJ)が、それぞれプラットフォーム市場の競争に関連する調査を開始した。また、2019年に連邦議会下院の司法委員会はデジタル市場の競争に関する調査を開始したが、2020年7月にはその公聴会にGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4名の最高責任者(CEO)が初めて揃って登場し(オンライン参加)、反競争的行為の有無について議員から厳しい追及を受けた。その際、委員長は彼らの分割にまで言及した。分割論は突飛な話ではなく、一時は2020年大統領選挙の民主党の有力候補だったElizabeth Warren議員がプラットフォーマー分割論を公約に据えていたことはよく知られている。アカデミズムの動きとしては、2019年9月にシカゴ大学のビジネススクールが大手プラットフォーマーの市場独占の高まりに警鐘を鳴らす報告書を発表し、規制の必要性を訴えている。

以上の通り、主要国でプラットフォーム規制に対する関心がますます高まっていることから、本号(前編)では欧州、そして次号(後編)では米国におけるプラットフォーム規制の現状と注目すべきトピックスについてまとめる。なお、プラットフォーマーのうち、グローバル規模の巨大企業群は欧米では「テック巨人(Tech Giants)」、「IT巨人(IT Giants)」、「巨大テック企業(Big Tech)」など様々な言葉で語られるが、日本ではGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と総称されることが多いため、本稿でもGAFAという用語を使用する。

2.世界に先行した欧州(EU)のプラットフォーム規制の執行

2.1. EUのプラットフォーム規制の構造

EUは図1の通り、ネットワーク、プラットフォーム、コンテンツ/アプリケーションの各サービス層(レイヤ)から構成される情報通信(ICT)市場について、2002年に汎欧州レベルの統一的な規制枠組みを構築した。そして、ネットワーク層には電気通信(EUの正式名称は「電子通信」)の法規類に基づく事前規制を課した。その際、プラットフォーム層以上の部分については、主に従来型の放送サービスに対する事前規制としての放送法(名称は「オーディオビジュアル・メディアサービス(AVMS)指令」)を適用した。

【図1】EUの情報通信(ICT)市場の規制構造とプラットフォームの位置付け

【図1】EUの情報通信(ICT)市場の規制構造とプラットフォームの位置付け
(出典:EU及び欧州委員会(EC)の各種の公式情報を総合して作成)

 

その後、2010年代にプラットフォーマーのプレゼンスが増大するにつれて、電子通信法の一部の規定がプラットフォーム層とコンテンツ/アプリケーション層に拡張されていく。また、AVMS指令では、従来型の放送サービスと比べてオンデマンド系のビデオサービスには大幅に緩和された規制が適用されてきたが、改定によりその部分にもヘイトスピーチ禁止、マイノリティ保護などの規制が同レベルで課されることとなった。さらに、AVMS指令がカバーしない放送サービス以外のデジタルサービス(オンライン新聞、電子商取引、ゲームなど多数)は「情報社会サービス」というEU固有の名称で呼ばれ、電子商取引全般の公正競争を担保する事前規制(電子商取引指令など)が適用されていたが、2010年代半ば以降、デジタル時代に合わせてチューニングしたデータ保護や著作権保護の規定が強化されるようになっていく。ただし、それらはコンテンツ/アプリケーションそのものを規制対象とするのではなく、その処理や流通を行うプラットフォーマー、ネットワーク事業者、そしてユーザーを主に規律するものである。前述の通り、2020年現在、EUは電子商取引指令と関連する法規の一部を集約して改定する「デジタルサービス法」の準備を進めている。

以下、図1の細部について追加的な解説と反響などを紹介する。

2.2. EUデジタル単一市場(DSM)戦略とプラットフォーム規制

EUでは2014年11月に委員の顔ぶれを刷新した欧州委員会(EC)が成立するが、彼らがまず取り組んだのは、EU域内のデジタル市場の更なる統一に向けた、「デジタル単一市場(DSM)」戦略の構築であった(2015年5月発表)。それは図2のように、16項目の実現施策から構成される非常に広範な戦略であったが、その多くはプラットフォーム規制の強化を視野に入れたものだった。ECはまた、DSM戦略の発表と同日、競争法に基づき、電子商取引分野の競争慣行に関する包括的調査も開始している。

【図2】EUのDSM戦略を構成する16施策とロードマップ

【図2】EUのDSM戦略を構成する16施策とロードマップ
(出典:EC(2015.5.6)“Roadmap for completing the DSM”(翻訳は筆者))

2.3. DSM戦略を懸念する米国とEUの反論

Wall Street Journal紙はDSM戦略の発表当日の記事(“EU Makes Play for Leverage Over E-Commerce”)において、「この計画は欧州の統合されたオンライン市場を目指しているが、米国のインターネット企業の市場力乱用の可能性を取り締まるものだ」と書いた。それは、DSM戦略の行方を心配する米国の見方を反映したものだった。当時、ECの副委員長でDSM戦略担当であったAndrus Ansip氏(元リトアニア首相、現欧州議会議員)は、米国のこのような懸念を察知して、DSM戦略の発表からわずか20日後、ワシントンDCの有力シンクタンクであるBrookings研究所において、DSM戦略は反米アジェンダではないとする講演を行った。Ansip副委員長はその理由として、「過去5年間のEU競争法の調査対象の中で、米国企業は少数である」、「米欧はオープン・インターネットで理念を共有している。ネットワーク中立性に取り組んでいることが好例だ」などと力説していた(EU競争法の最新の執行状況については後段で説明を行う)。

2.4. EUのプラットフォーム規制はトライアングル構造

本稿を執筆している2020年8月時点において、EUは予定していたDSM戦略に関連する法規類の策定や改定をほぼ完了している。DSM戦略の以前から存在した法規類も含めて、現在のEUのプラットフォーム規制の構造を具体的な法規類の名称や事実を盛り込んで、筆者なりに整理したのが図3である。その体系は、(a)産業分野に横断的な事「後」規制、(b)産業分野に横断的な事「前」規制、そして、(c)特定の産業分野に固有の事「前」規制の3種類から成るトライアングル構造である。

以下において、図3の主要点を(a)~(c)の順に詳述する。

【図3】EUのプラットフォーム規制のトライアングル

【図3】EUのプラットフォーム規制のトライアングル
(出典:EU及びECの各種の公式情報を総合して作成)

(a)産業分野横断的な事「後」規制

EUのプラットフォーマーに対する取り締まりで注目を浴びるのは、税法や競争法の執行による巨額の追徴や制裁金である。EUは世界に先駆けて、2000年代からそれらの法規類を駆使して、米国の巨大プラットフォーマーに対する違反審査や制裁の発動を展開してきた。米国には自国が圧倒的な競争優位を持つハイテク分野のスタープレイヤー(GAFAなど)を欧州が狙い撃ちしているとの思いが強く、マスコミも動向を懸念する記事を投稿していた。例えば、New York Times紙は2015年4月13日の記事「欧州はいかにしてApple、Google、その他の米国テック巨人を追い回しているのか(“How Europe is going after Apple, Google and Other U.S. Tech Giants”)」において、規制強化の実態を克明に伝えている。その記事では、GAFA(+Microsoft)が追及されている項目を「税金」、「反トラスト」、「忘れられる権利(すなわち個人情報保護)」、「データ保護」と整理していたが、そのことからも欧州のプラットフォーマー追及の範囲が多様であることが分かる。

税金に関しては、アイルランドに置かれているAppleの欧州法人に対する税制上の優遇が問題視され、ECは2016年、アイルランド政府に対して過去に遡り130億ユーロ(約1兆6,250億円:1ユーロ=125円)という巨額の追徴をAppleに行うよう要請した。この決定にはアイルランド政府、Appleともに反発したが、2018年にとりあえず納税処理を行った。しかし、両者は決定を不服として共同でECを提訴した。そして、2020年7月15日、EUの第1審裁判所(General Court)はアイルランド政府による不当な税優遇の証拠が見当たらなかったとして、EC決定を覆す判決を下した。ECは判決を上訴審(欧州司法裁判所)に控訴することが可能だが、EU内部でECと裁判所が異なった判断をしたことは、プラットフォーム規制の難しさを示している。なお、本件は国家による税制面での不当な優遇という観点から、競争法上の問題と整理されることが多いが、本稿では特に税金にスポットライトが当たった事案として、図3においては便宜的に競争法の枠外に括りだしている。

プラットフォーマーと税金の別の問題として、欧州ではデジタル課税導入の動きが活発化しており、米国との間で新たな火種となっている。この問題に関して、2020年6月3日の日経記事「米、デジタル税で孤立深める 欧州・新興国へ報復検討」は、米国がEU、英国、イタリア、スペイン、オーストリア、チェコ、ブラジル、インド、インドネシア、トルコの10カ国・地域への報復に向けた調査を行っていると報じている。米国も含むOECD加盟国はデジタル課税に関する多国間の交渉を進めているが、このような米国の姿勢もあり、2020年末までに合意に至るかどうか不透明である。既に自国で法案を可決しているフランスなどはOECD合意(すなわち米国の承認)を待たずに固有のデジタル課税の徴収を開始することも可能だが、米国はワインなどに対する報復関税で対抗する姿勢を見せており、先行きを見通すことは難しい。

続いて、競争法(反トラスト)の問題であるが、ECがGAFAの行為を競争法の観点から取り扱った事案について、ECの競争法事案データベースで筆者が検索した結果が表1の通りである。ただし、これら事案のすべてが違法とされたわけではない。特に、M&Aは一定以上の規模の事案は競争法の評価を受ける決まりとなっているため、表1に示された事案は通常の審査を受けて問題なく認められた数も含んでいる。

【表1】ECによる競争法の審査対象となったGAFAの事案(2020年8月現在)

【表1】ECによる競争法の審査対象となったGAFAの事案(2020年8月現在)
(出典:ECの競争法事案のデータベースより作成(2020年8月11日検索))

 

その前提で改めて表を眺めると、M&A以外の事案の総数(計22件)が意外と少ないと感じるかもしれない。しかし、図3に書いたGoogleの2件の事案の制裁金が合計58.3億ユーロ(約7,300億円:1ユーロ=125円)に達しているように、その規模は巨額でインパクトが大きい。また、最初の反トラスト審査が開始されたのが、Appleで2007年、Googleは2010年であり、EC対GAFAの争いが長い歴史を持っていることが分かる。前述のアイルランドのAppleに対する税制優遇の事案は表1では「国家支援」として整理されているが、そのような国家支援の件数は合計で9件に上っており、Appleがオランダ、イタリア(3件)、アイルランド、ベルギー(2件)、Googleがポーランド、Amazonがルクセンブルグと6カ国に及んでいる。もうひとつの意外な点は、FacebookがM&A以外では競争法の正式な審査を受けていないことである。ただし、同社はデータ保護など、競争法とは別の観点から批判を受けることが多い。

(b)産業分野横断的な事「前」規制

EUはDSM戦略の発表以降、デジタル時代のデータ、著作権保護の法規類改正に熱心に取り組んできた。それらは日本でも大きな話題となった「一般データ保護規則(GDPR):2018年5月」や「デジタル単一市場の著作権指令:2019年4月」という形で結実している。GDPRは欧州展開する日本の一般企業にも影響が及ぶため、複数の大手会計事務所をはじめとして多くの専門家から日本語で詳しい解説が出されている。よって、本稿では詳細に立ち入ることはしないが、必要に応じてそれらの解説を参照されたい。

著作権指令については、図3の中に説明を書いたように、第15条と第17条が特に注目されている。分かり易く言えば、15条はGoogleニュースのようなニュースまとめサイトにおいて、プラットフォーマーが記事タイトルやリンクなどを引用する場合に、該当記事を書いた新聞社、出版社などに了解を取る必要があり、引用部分が多い場合には一定の金額を支払う必要があることを定めている。それに対して17条は、YouTubeのような動画共有サイトを運営するプラットフォーマーに対して、著作権侵害を犯しているコンテンツを事前に発見して削除する最大限の努力を行うように義務付けている。いずれもプラットフォーマー側の負担が増大するだけでなく、デジタルコンテンツ配信の範囲や柔軟性を制約する可能性があるため、EU内でも賛否が激しく対立する中での決着となった。

(c)特定の産業分野に固有の事「前」規制

①ネットワーク分野:欧州電子通信法典(EECC)
EUで日本の電気通信事業法に相当するネットワーク事業者に対する事前規制と言えば、2002年に採択され、その後、2007~2009年にかけて改定されたアクセス、相互接続、ユニバーサルサービスなどを規定する指令と、それを補完する規則、決定類であった。EUはその主要なものについて、2016年から約10年ぶりの包括的改正に着手し、2018年12月に「欧州電子通信法典(EECC:European Electronic Communications Code)」という名のもとに一本化した。EECCは加盟国の電気通信法に移植され、2020年12月までには各国で発効する予定である。EECC以前の各指令類は基本的にネットワーク市場を対象としており、プラットフォーム規制の条項はほとんど存在しなかった。しかし、EECCは従来の規定の一部をプラットフォーム市場にも拡張している。そのポイントは以下の2点である。

(1)「電子通信」の定義の変更
EUは従来、「電子通信(Electronic Communications)サービス」は「電気通信(Telecommunications)サービス」と「放送用の伝送(Transmission)サービス」から構成されるとしてきたが、EECCにおいては前者(「電気通信」)をさらに「個人間通信サービス(Interpersonal Communications Service)」と「インターネット接続サービス(Internet Access Service)」の2つに区分した。その結果、回線(すなわちインターネット接続)を保有しないプラットフォーマーであっても、「個人間通信」の提供事業者に該当することとなり、電子通信サービスの規制対象として補足することが可能となった。

(2)電話番号を利用する有料プラットフォームサービスの扱い
EECCの電子通信サービスの定義は「通常は報酬を得て、電子通信ネットワークを介した完全、もしくは、主に信号の伝送を行うサービス」である。ここでポイントは「報酬」の有無である。プラットフォーマーのサービスが無料である限り、それは個人間通信に該当せず、電話会社やケーブルテレビ会社などのネットワーク事業者に適用される事前規制は免除される。唯一課されるのは、表2の①の契約情報の明確化の要件だけである。しかし、プラットフォーマーのサービスが有料である場合、個人間通信として規制が課される可能性が生じる。その場合でも、EECCはそれが電話番号を使用するサービスなのか、それとも使用しないサービスなのかの違いで区分し、前者には一般のネットワーク事業者と同じ事前規制を適用するが、後者の場合(有料だが電話番号を使用しない)には、表2(①~⑤)のより緩和された事前規制のみが課されるとした。具体的なサービスで説明すると、Skypeの会員同士がアカウントを介して通信する場合には、電話番号を使わない無料サービスのため①の要件だけをクリアすれば良い。しかし、公衆電気通信網と電話番号を介して接続する有料サービスとしてのSkypeOutやSkypeInには、電子通信サービスの事前規制が課される。ただし、プラットフォーマーかネットワーク事業者かに関わらず、EUで電子通信の事前規制が課されるのは、そのサービスが市場支配的な場合(市場シェアが概ね50%以上)に限ることに注意されたい。

【表2】EUでプラットフォーマーに課される可能性のある事前規制

【表2】EUでプラットフォーマーに課される可能性のある事前規制
(出典:EU官報(2018.12.17)“Directive 2018/1972 establishing the EECC”より作成)

 

②放送分野:オーディオビジュアル・メディアサービス(AVMS)指令
EUで放送法に該当するのは「オーディオビジュアル・メディアサービス(AVMS)指令」である。同指令は2005年に前身の「国境なきテレビ指令」を改定する形で誕生し、2010年と2018年に大幅に再改定されている。現行の2018年版のAVMS指令は加盟国で2020年9月までに施行されるが、EUが整理したその特徴は表3の通りである。EUは放送サービスを番組表に従って時間通りに放映される「テレビ放送」と、ユーザーが好きな時にリクエストして視聴可能な「オンデマンド・サービス」に分けている。前者の主な提供主体は従来のテレビ局であるが、後者の主役はAmazon、Apple、Netflixなどのプラットフォーマーである。その区分を念頭に置いて表3を読むと、EUの既存の放送規制がプラットフォーマーに拡張的に適用されていることがよく分かる。

【表3】2018年AVMS指令のプラットフォームサービスへの拡張

【表3】2018年AVMS指令のプラットフォームサービスへの拡張
(出典:EC(2020年8月10日閲覧)
“Revision of the Audiovisual Media Services Directive (AVMSD)”より作成)

 

③プラットフォーム分野:デジタルサービス法(DSA)案
EUのオンライン取引サービス全般に関する法的枠組みとしては、2000年に制定された「電子商取引指令(e-Commerce Directive)」が存在する。内容的には、「情報社会サービス(放送以外のオンラインサービス)」の提供事業者の本拠地、事業者や商業通信の透明性の確保、電子的契約の締結と有効性、そして、インターネット接続事業者の責任などを定めている。当然であるが、同指令は策定時において、オンライン市場におけるプラットフォーマーの市場力の2010年代以降の著しい伸張を想定していなかった。EUは2015年のDSM指令で「製品のオンライン取引及びサービスのオンライン提供に関する電子商取引における競争分野の調査を行う」とし、引き続く2016年の通達では、新規に関連する包括的な法規類を策定する可能性に言及した。しかし、ECはその後、既存の電子商取引指令を見直すことはせず、市場で確認された個別の問題に対処する施策を整備するという、個別課題対処型のアプローチを採用した。その結果、2019年6月に「ビジネスユーザーに対するオンライン仲介サービスの公平性と透明性の促進に関する規則」(以下,「オンライン仲介サービス規則」)が採択された(2020年7月発効)。しかし、そのカバー範囲はタイトルの通り、企業向けサービスに限定されている。

2019年12月に始動したVon der Leyen(フォン・デア・ライエン)委員長(任期2019~2024年)が率いるECは、域内のオンライン取引規制にいっそうの主導権を発揮する姿勢を示し、分散した法規類の整備から脱却して、統一的な「デジタルサービス法(DSA)(仮称)」の策定作業に着手した。同法案の諮問は2020年9月までの予定で実施されているが、並行して欧州議会内の複数の委員会がDSAの内容の議論を進めており、2020年末の法案提出を目指している。

肝心のDSAの内容だが、ECのDSAの説明サイトでは「デジタルサービス法とは何か?」という質問を設定して、以下の2つであると答えている。

第一に、ECはユーザーの直面するリスクに対処し、ユーザーの権利を保護するために、デジタルサービスの責任を構成する明確なルールを提案する。法的義務は、プラットフォーム監督のための近代的な協力システムを保証し、効果的な規制執行を保証する。

第二に、Digital Services Actパッケージは、ゲートキーパーとして振る舞っている大規模なオンラインプラットフォームを対象とした事前規制を提案する予定である。そのようなゲートキーパーは現在、ユーザーと競争相手にゲームのルールを設定している。今回のイニシアティブでは、これらのプラットフォームが公平に振る舞い、新規参入者や既存の競争者からの挑戦を受けることができるようにしなければならない。そうすれば、消費者は最も幅広い選択肢を持つことができ、単一市場は競争的であり、イノベーションに開かれたものであり続ける。

この説明では具体的内容が分かり難いが、このサイトは冒頭で「デジタルサービスのための合法的な枠組みは2000年に電子商取引指令として整備されたが、オンライン世界とデジタル手段の日常的な使用は日々変化している」と書いており、同指令の見直しが中心課題であることが分かる。さらに、DSAは上述の「オンライン仲介サービス規則」や放送法であるAVMS指令の一部もカバー範囲としている。AVMS指令が含まれる理由は、その対象範囲が従来型のテレビ放送からオンデマンド型のビデオサービスに拡大したことを受けて、同指令の扱うビデオコンテンツの一部を他の一般的なオンラインコンテンツ(SNSやブログなど)と同じ位置付けで扱うべきと判断したからである。そのため、ヘイトスピーチ禁止やマイノリティ保護などについて、サービス市場横断的な規律が課される見通しである。

3.まとめ:一枚岩とは言えない欧州、そして米国

以上、欧州(EU)のプラットフォーム規制について、その背景、経緯を踏まえて最近の動向を紹介してきた。本稿の目的は「森を見る」、すなわち全体を俯瞰して規制の構造を把握することに置いた。したがって、木の一本一本の説明は簡略化した部分もあるが、ご理解を頂きたい。

改めて全体像を眺めると、欧州はEU主導で汎欧州的なプラットフォーム規制を築き上げてきたように見える。しかし、Apple欧州の税金優遇問題でECとアイルランド政府が鋭く対立したり、著作権指令の改定では加盟国の多くが反対したりするなど、決して一枚岩でない。その理由は、GAFAに代表されるプラットフォーマーの存在が大きくなりすぎて、その弊害だけではなく恩恵を被っている関係者が多いからである。そして、そのような弊害と恩恵が、ある当事者の中で同時に発生し得ることが、事態をより複雑にしている。

例えば、新聞社や雑誌社はGoogleニュースにより従来の購読者が減る可能性に直面する一方で、そこにタイトルやリンクが掲載されることで、自社サイト(電子版)へのアクセスや自社紙面上の広告閲覧が増大する。Googleは良質なジャーナリズムを守るという名目で、2010年代に入るとマスメディア支援の調査や技術開発に多額の資金を投じており、それを歓迎する声も多い。しかし、広告の取り扱い市場全体で見ると、デジタル広告は新聞広告やテレビ広告を圧倒しており、新聞社、雑誌社の広告ライバルとしてのGoogleに対する警戒感は払しょくされない。弊害と恩恵が何層にも入り組む複雑な構図なのである。

もちろん、プラットフォーマーが本社や工場を置きながら税金を沢山払ってくれればそれに越したことはない。また、Googleが記事のタイトルやリンクを沢山紹介してくれて、それに多くの対価を払ってくれれば有り難い。しかし、そのようなプラスサムゲームのケースは多くない。仮に、GAFAが善きサマリア人として金銭を含む恩恵を多方面に与えてくれたとしても、その過程で彼らのプレゼンスがより高まっていくとすれば、欧州産プラットフォーマーを育成する上でEUは落ち着かない気持ちになるであろう。さらに問題を複雑にしているのは、本件に限らないが、EUの重層的、多元的な統治構造である。「インターネットにおけるジオブロッキング(地理的隔壁)の排除」をスローガンにデジタル単一市場を目指すEUの熱意とは裏腹に、国力で大きな差がある国々(例えば独仏と旧東欧諸国)の思いはなかなか一致しない。さらに、最近の米国のGAFAに対する姿勢が誇りと怒りの間で揺れていることが、EUがどのような規制を取るべきか、その立ち位置の判断をいっそう難しくしている。

次号では、怒りに振れる傾向が強まってきた米国のプラットフォーム規制の現状について報告する。

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