2021年2月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ESGは新たなスタンダード、SDGsへの進展 ~世界の共通言語へ



世界的なコロナ禍の中、日本の経済・産業活動は多大な影響を受け、withコロナ、afterコロナやニューノーマルなどこれまでとは違う状況への適応が求められ変化を遂げてきました。この間、特に昨年末にはESG関連の動きが数多く見られ本格化しています。日経新聞記事の主なものだけでも次のような見出しが並んでいます(12月以降の朝刊)。

  • ESG開示基準統合計画-投資家、リスク比較容易に(11.27)
  • 「会計外交」舞台はESG-情報開示で新たな国際組織(12.21)
  • 産業界変わる「時代精神」-ESG重視で利益、常識に(12.4)
  • ESG債、最高の6兆円超-資金調達の柱に(2020.12.4)
  • 役員報酬ESGと連動-中長期目線を重視(12.6)
  • 女性役員拡充へ数値目標-ESG重視、株主に明示(12.16)

このようにESGに関し、情報開示基準の国際的な整備統合の動きから、経営や投資・資金調達のあり方、さらには役員報酬や人事など企業経営全般に及ぶ動きが明らかになっています。ESGは投資家側の問題から既に国際的な基準、企業経営のスタンダードへと移行し経済・社会に定着しつつあることが分かります。

現状、債券やローンなどの資金調達の分野では数多くのグリーンボンドが発行されていて活況を呈していますが、背景には信用格付機関による“ESG要素の考慮”が見られます。例えば、日本格付研究所(JCR)は2017年9月のニュースリリースでESG要素が、(1)発行体の持続可能性に影響を与える、(2)債務償還に必要なキャッシュフローに影響を与える、(3)資金調達力に影響を与える可能性に留意して信用格付を行うと明らかにしています。またESG関係では、グリーンファイナンス、ソーシャルファイナンス、サステナビリティファイナンスの3つの手法を設定して多数の債券とローンの評価が行われています(分野別にはグリーンボンド・ローンが多い)。

他方、株式投資に関しては、世界最大級の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2017年7月と2018年9月に採用するESG指数を発表していて、その指数に基づいてパッシブ運用を実施しています。採用されているESG指数は国内株4つ、外国株1つで、運用資産額は2020年3月末で約5.7兆円に達しており、毎年増加しています。指数は統合型2つとテーマ型3つ(環境2、社会1)に分かれていて金額的にはやはり環境分野が多くなっています。GPIFの特色は、運用を受託する金融機関にESGを考慮して投資することを定めていて、投資先企業と積極的な対話(エンゲージメント)を行うスチュワードシップ活動を求めていることです。こうしたスチュワードシップ活動は企業側に対して幅広いステークホルダーとの対話を要求することになり、また産業界や金融界にサステナビリティ重視の時代精神への変化を求めることにつながっています。

ESGの情報開示においても、温室効果ガス排出などで開示基準を定めて一定の水準に達していない企業には株主総会で反対票を投じる機関投資家も出てきています。KPMGジャパンの「日本企業の統合報告に関する調査2019」によると、2019年の統合報告書発行企業は513社で近年は前年比増加率20%で推移していますし、特に日経225構成銘柄における統合報告書発行企業の割合は175社78%に達していて主要企業に特に普及しています。発行時期も多くの企業では評価機関の活動に合わせて毎年12月までに行われています。加えて、企業の統合報告書ではESGに止まらず、国や自治体、学校等を含めて世界の共通言語となっているSDGs(持続可能な開発目標)を取り上げることが多くなっています。

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、17のゴール・169のターゲットで構成されています。世界の共通言語であるだけに課題は幅広く、企業にとってはビジネスチャンスになり、労働生産性の向上や環境負荷低減などを通じた外部経済効果を考慮すると、2030年までに年間12兆ドルの市場機会が生まれる可能性があると試算されています(国連開発計画)。SDGsの特徴はルールではなく目標作りから始まる目標ベースガバナンスであり、目標の提示からスタートするバックキャストが基本となること、実施には法的拘束力はなく進捗評価で計測されることなど新しいアプローチとなっています。17のゴール・169のターゲット・232(244)の指標の中からどの目標を提示するのかが最初の取り組みになります。企業経営においては投資家側にESG投資が定着するのに伴って、消費者の動向変化やサプライチェーン全体のマネジメントの重要性から世界の共通言語たるSDGsへの取り組みが強く意識されるようになっています。金融機関による評価や自治体による推進企業の認定など具体的な動きが始まっています。SDGsは非財務情報の定量的計測と定性的評価の組み合わせが基本で、ESGとの違いはESGがリスクと現在の財務効果を評価するのに対し、SDGsは機会と未来の財務への影響を計測することにあります。企業経営ではゴールやターゲットへの対応を自ら提示することが出発点となります。

SDGsでは昨年11月に日経新聞がSDGsに関するフォーラムを開催して注目を集めました。その際に「SDGs経営」総合ランキングが発表されています。企業向けアンケートと公開データなどから17の指標を定めて評価し、SDGs戦略・経済価値、社会価値、環境価値、ガバナンスの4分野で構成される総合評価では環境とSDGs戦略・経済の2分野に高い配点となっています。総合評価最高ランク星5つは、キリンホールディングス、コニカミノルタ、リコーの3社で上記の4分野すべてで高ランクとなっていてバランスの良さを示しています。情報通信サービス業界では、星4.5にKDDIとソフトバンク、星4つにNTTデータとNTTドコモがランクインしています。両社とも最高ランクの3社と比べてガバナンスの評価が一段低くなっているので、通信業界の取り組みの方向性を示しているように感じられます。

ガバナンス評価は取締役の構成や業績連動報酬の状況などで構成されていますが、ポイントは役員報酬に非財務目標を取り込む企業が56.6%あり、非財務の決定要素としてSDGsの目標達成度を取り入れた企業が16.6%になっていることです。短期・中長期の取り組みの中にSDGsの目標に対する達成度や第三者機関のSDGs評価を組み込む流れにあることに注目しています。SDGsに対する消費者動向の変化、国際的なサプライチェーンの見直しなど企業経営に対する評価は年々厳しくなっています。株主至上主義からステークホルダー資本主義への変化の本質がそこにあると感じています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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