2021.2.26 イベントレポート InfoCom T&S World Trend Report

CES 2021レポート

1. はじめに

今年で54回目を迎え、1月の風物詩となっている世界最大級の展示会CES(旧Consumer Electronic Show)はコロナ禍で大きな転機を迎えた。

CES 2021レポート

例年であれば、CESはネバダ州ラスベガスのLVCC(Las Vegas Convention Center)、Sands Expo and Convention Center、大型ホテル内の劇場やイベント会場で行われる。年末年始をラスベガス市で過ごした観光客と入れ替わるように、多くのCESの関係者、出展者、参加者でラスベガス市は賑わいを見せる。CESを主催するCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)の発表では、CES 2020には17万人を超える参加者が世界各地から訪れた。

【図1】CES 2020の参加者の状況

【図1】CES 2020の参加者の状況
(出典:CTAの資料を参考に筆者が作成)

街のネオンにはCESのスポンサー企業のロゴが絶え間なく表示され、スポンサーのロゴでラッピングされたモノレールやバスが行き交う。

しかし、今年の1月のラスベガス市にはその賑わいはない。新型コロナの影響で54回目のCESは巨大な会場をギューッとデジタルの世界に閉じ込めたオールバーチャルになったからだ。CESを主催するCTAのPresident 兼CEOのGary J. Shapiro氏は、「CESは毎年ラスベガス市で開催されているが、今年は世界中で開催されている。」とコロナ禍の逆境の中でも自信をみなぎらせていた。

【図2】CES 2020とCES 2021の会場の違い

【図2】CES 2020とCES 2021の会場の違い
(出典:CTAの資料を参考に筆者が作成)

【図3】CES Daily(左: 2020年版、右: 2021年版)

【図3】CES Daily(左: 2020年版、右: 2021年版)
(出典:Twice社)

【図4】CESに見る注目トレンドの変化

【図4】CESに見る注目トレンドの変化
(出典:CTAの資料を参考に筆者が作成)

2. CES 2021に見る変化

(1)Anchor Desk

CES 2021がオールバーチャルになったことによる新たな参加体験も生まれた。例年であれば、Twice社がCES Dailyという小冊子を会場で毎日配布し、前日に開催されたプログラムのまとめ、当日開催される注目のプログラムや製品の紹介をしている。CES 2021でそれを担ったのがAnchor Deskだ。Anchor Deskでは有名なテック系ブロガーなどが見所の説明、Keynoteのまとめ、過去のCESの振り返り、CTAのPresident 兼 CEOのGary J. Shapiro氏によるKeynoteの紹介を行う。個人的には、Keynoteなどで聞き逃した内容をAnchorの解説で補完し、Anchorの解説を聞いた後に改めてKeynoteを視聴して理解を深めるなどの目的で活用した。

(2)業界トレンド

CTAは毎年、CESの開催前に開催されるプレスカンファレンスで、その年のCESの注目トレンドを紹介する。今年は、Digital Health、Robotics & Drones、5G Connectivity、Vehicle Technology、Digital Transformation、Smart Cityを注目トレンドとして紹介していた。過去2年間の注目トレンドと比較してみると、Digital Health、Robotics & Drones、5G Connectivity、Vehicle Technologyは2019年、2020年も注目トレンドとして紹介されていた。CTAは注目トレンドとして発表しなかったが、実際にCES 2021に参加して筆者は、Startup、COVID-19も注目トレンドだと考える。展示会場を歩き回るとCOVID-19対応のためのマスク、空気洗浄機、検査機などが多く出展されていた。CTAもプレスカンファレンスの中で、COVID-19の影響で、オンラインショッピング、遠隔医療、ビデオストリーミング、遠隔授業の分野でDigital Transformationが加速し、ロボットの活用が進み、教育、ウェルネスの分野でもITの活用が進んだと紹介していた。

(3)Keynote

 

KeynoteはCESでは見逃せないプログラムの一つで、これまで時代を反映するKeynoteが数多く開催されてきた。例えば、Microsoft社が基本OSの分野で栄華を極めていた頃、同社の当時のCEOのBill Gates氏は6年連続でCESのKick off Keynoteを務めた。

2014年はAudi社がKick off Keynoteを務め、CESがConnected Carに大きく舵を切るきっかけを作り、2015年にMercedes社、2016年にVolksWagen社がそれに続き、"Automotive"がCESにとって欠かせないコンテンツとなった。

2018年は、センサーとDroneの時代の到来を予感させるように、Intel社がKick off Keynoteを務め、Bellagio Hotelの噴水の上で繰り広げられる、プログラミングされた250機のDroneによる航空ショーは話題となった。

2020年のKeynoteでは、Delta社がRoboticsやDXによるUX向上の取り組みを紹介した。Keynoteが始まる直前にシステムトラブルで開始が遅れたが、このKeynoteを見て「Delta社のサービスを体験してみたい。」と思った人もいるだろう。

【図5】CESを彩ったKeynote

【図5】CESを彩ったKeynote
(出典:筆者撮影)

 

(4)女性リーダーの活躍

CES 2015ではCES 2021のKeynoteを務めたMary Barra氏が、CES 2020ではHPE社の元CEOのMeg Whitman氏がQuibi社のCEOとしてKeynoteを務めるなど、これまでも女性CEOがCESでKeynoteを勤めてきたが、今年は例年以上に多くの女性CEO、女性PresidentがKeynoteに登場した印象を受けた。今年、Keynoteに登場した女性CEOは俗にいう"成長請負人"ではなく、長い間会社に貢献してきた結果、会社の舵取りを任されたエキスパートだ。GM社のCEOのMary Barra氏もAT&T Business社のAnne Chow氏も30年以上も同じ会社でさまざまな要職についてきたため、会社の課題や今後の方向性、マーケットの動向、お客様ニーズを熟知していると思われる。

(5)トップのメッセージ

CESのプレスカンファレンスやKeynoteは企業のトップから直接メッセージを聞ける絶好の機会だ。毎年多くの企業のトップが自社の製品や技術、将来ビジョン、パートナーシップについて説明する。例えば、2020年のトヨタ社のプレスカンファレンスで発表されたWoven City構想やソニー社のVIsion-Sなどだ。しかし、今年はそれらに加えて、"解決すべき社会課題への取り組み"について説明する企業トップが多かったと感じた。例えば、Bosch社は"Sustainable"を掲げ、「健康、家庭、産業、モビリティにとってSmartでClimate-Friendlyなソリューションを提供する」とし、世界中にある400の拠点すべてでCarbon Neutralを達成した初めてのグローバル企業だとアピールした。また同社は、Climate Changeに向けて4つのゴールを設定した"#LikeABosch"というキャンペーンを展開すると発表した。

GM社のKeynoteのテーマはEV化に向けたものだったが、その冒頭で、COVID-19に関する医療機関への支援や世界中で問題となっている差別や偏見、気候変動などの課題解決のために行動していると説明した。また、EV化を推進するために交通事故、大気汚染、交通渋滞といった都市交通が抱える3つの課題のZeroを目指すと説明した。

【図6】Bosch社取り組む社会課題(左)とGM社が環境改善のために開発中のEV Platform(右)

【図6】Bosch社取り組む社会課題(左)とGM社が環境改善のために開発中のEV Platform(右)
(出典:CESの資料をもとに筆者が作成)

3. 出展トレンド

CES 2021のWebサイトによると、CES 2021には1,950社以上の企業・団体が出展した。CTAの発表ではCES 2020には4,419の企業・団体か出展していたことを考えると、COVID-19によるオールバーチャル化の影響は否めない。参加者についてもCES 2021のWebサイトでは約69,000人が参加登録をしているようだが、CES 2020の参加者171,268人の半分以下だ。

【図7】出展者の傾向

【図7】出展者の傾向
(出典:CESの資料をもとに筆者が作成)

CES 2021の出展者の傾向を見てみると、IoT/センサー、AI、Digital Healthなどのトップ10カテゴリーが全体の51%を占める。また、トップ10には入らなかったが、AR/VR、Robotics、5Gなどのカテゴリーの企業・団体も多く出展していた。このトップ10の中には家庭で利用する製品やサービスも含まれているが、いわゆる"家電"と呼ばれる製品は少なく、CTAが言うように「CESはもはや家電ショーではない。」ということが分かる。

一方、CES 2021でも存在感を示していたのがStartupだ。CESのWebサイトを見る限り、少なくとも出展者の7.2%以上がStartupだ。近年、フランス、イスラエル、韓国などの各国の政府がStartupの活動を積極的に支援しているのだが、コロナ禍のCES 2021でもその流れは継続されていた。

CTAの発表では出展者として参加したStartupは645ということだったが、各国のパビリオンに出展しているStartupはカウントされていないため、実際はもっと多くのStartupが出展していたはずだ。その上で、Startupを活動拠点別に順位付けすると、1位が米国、2位が韓国、3位がフランスで、日本は7位となっている。

【図8】出展したStartupの活動拠点

【図8】出展したStartupの活動拠点
(出典:CESの資料をもとに筆者が作成)

4. CES 2021 Innovation Awards

CESの人気コンテンツの一つにInnovation Awardsがある。毎年多くの企業が自社の製品・サービスを登録し、CTAの審査員がBest of Innovationを決める。CES 2021では222社の386の製品が登録され、26の製品がBest of Innovationを受賞した。CES 2021には26のカテゴリーの出展があり、各カテゴリーから満遍なくBest of Innovationが選ばれた印象だが、コンピューター、ウェアラブル、ディスプレイ、オーディオ、ロボット、自動運転モビリティ、カメラなどのハードウェア系が多く、この点にだけはCESのDNAを感じだ。

【図9】CES 2021 Innovation Award

【図9】CES 2021 Innovation Award
(出典:CESの資料をもとに筆者が作成)

5. バーチャルか?リアルか?

CES 2021はCESの54年の歴史の中で初めてオールバーチャルで開催された。CES 2021のバーチャル環境はMicrosoft社のTeamsを利用して構築された。準備の段階において十分な情報が行き渡らずに、困惑する出展者もいたようだが、Anchor Deskによるナビゲーションなど、参加者の満足度を向上させるための工夫が見られた。例年は、CESはテーマごとに会場が異なるため、交通渋滞の中を移動しなければならなかった。また、人気のセミナーは事前に登録していても入場制限があるため、早めに並ぶ必要があった。オールバーチャルのCES 2021では、会場の移動や行列を回避できるという点で、個人的にはとても便利だった。

その一方、人混みを頼りにした人気のブースの発見や、思いがけない発見はオールバーチャルでは難しかった。また、試食やAR/VRなど体験型のデモに参加できないのもオールバーチャルでは仕方がないことだろう。

急ごしらえのプラットフォームの影響かもしれないが、アクセスが集中する人気のコンテンツは視聴するのに苦労した。ただ、次回もオールバーチャルでの開催となれば、プラットフォームの品質には今回の経験が活かされるだろう。

6. まとめ

CES 2021はコロナ禍でオールバーチャルで開催され、出展者、参加者は大幅に前年を下回ったが、注目すべき製品、サービス、トレンドは多かったと思う。振り返れば、2008年のリーマンショックの影響で、CES 2009の参加者は前年より28,000人以上減少したが、CES 2010では回復に転じ、ここ数年は参加者が毎年過去最高を記録していた。

CTAはCES 2022は現地で開催したいと発表しているが、オールリアルになるかどうかは新型コロナ次第だろう。だが、もしまた、オールバーチャルになったとしても今年の経験を活かしてより良いカンファレンスになることは間違いない。そして、リアルとバーチャルがミックスされるようであれば、リアルの良いところとバーチャルの良いところを組み合わせたメリット型のカンファレンスになることを期待したい。

【図10】RealとVirtual

【図10】RealとVirtual
(出典: 筆者が撮影した写真とCESの資料をもとに筆者が作成)

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