2021年3月29日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

データ寡占を克服する動き ~NFT(Non-fungible token)に注目



GAFAに代表されるプラットフォーマーによるデータの集中・寡占への規制論議が進むなか、新興の技術勢力の動きが活発になっています。取り組みの背景にはGAFAの隆盛は利用者利便を高めるものの他方で利用者の選択肢を減らしている、クリエーターなどの作る(創造する)人達をないがしろにして疲弊させているとの思いが見られます。具体的には米国のEpic Games社が人気ゲームの配信手数料を巡ってApple社を提訴した事例が典型です。巨大IT企業は無料サービスを梃子に利用者のデータを集めてプラットフォームを強化しており、検索ではGoogleが9割、ネット広告ではGoogleとFacebookの2社で5割の世界シェアに達しています。デジタル社会でデータの集中・寡占が進むなか、これを克服しようとする挑戦もまた活発になっているので取り上げてみたいと思います。

巨大プラットフォーマーに対抗する方法としてはGAFAなどの経済圏から自立する技術やビジネスモデルを背景に、データの個人主権の回復やデジタル社会のモラル改善を求めるところが共通して見られます。個人が分散してデータを持ち合うブロックチェーン技術を使って巨大プラットフォーマーによるデータの囲い込み・寡占化を克服しようとするものやネット広告に頼らない課金型の検索サービスを開発する動きがあります。例えば、ブロックチェーンの決済技術を使ってプラットフォーマーからの囲い込みに対抗するオープン戦略を展開する取り組みが自動運転車の開発で見られます。これはプラットフォーマーの囲い込みによって技術革新が停滞することを懸念した動きです。無料サービスを梃子にした巨大プラットフォーマーによるデータの囲い込みは信頼性の問題を引き起こしていることも広く知られるところとなっています。民主主義の根幹である選挙時の不正情報の拡散を始め、データの不正利用や本物と見間違う動画等を合成するディープフェイクによる犯罪の多発などに対してデータの信頼性を高める技術開発が今ほど求められている時はありません。その基本がデジタル社会での個人主権回帰でありモラル改善なのです。

そのなかで特に私はブロックチェーン技術を活用するNFT(Non-fungible token:非代替性トークン)に注目しています。NFTはブロックチェーン上で代替・改ざん不能なデータを担保する技術であり、既に米国では会員権などの各種証明、不動産取引、ゲームなどで実用化されつつあります。ブロックチェーン関連サービスではどうしてもフィンテックの領域に片寄ってしまいがちですが、このNFT技術によって日本が強みを持つコンテンツやエンターテインメント産業をさらに活性化し国際競争力を高めることができるのではないかと考えています。NFT技術を用いてデジタル社会を象徴するサイバー空間上のデジタル資産を明示・特定して権利保護を可能にできます。デジタル資産のコピーや改ざんをできなくするだけでなく、所有者が明示・特定されることでデジタル資産の価値が生み出されて稀少性から投資資産化することになります。例えば、電子書籍なども取引のトラッキングが可能となるので2次流通時にも課金が可能となりクリエーターに還元できるようになりますし、電子書籍1冊1冊に違いができるので初版本や作者サイン入りなどの付加価値が付けられるようになります。取引のトラッキングが可能となるということは逆に転売防止もできるということなので、チケット類の販売時に活用して転売を防ぐこともできるようになります。デジタル資産の価値化によってNFTはGAFAのような巨大プラットフォーマーに依存しない新しい取引環境を作ることを可能とするのです。NFTの社会実装が進むことでこれからのパラダイムシフト、ゲームチェンジが起こり得ます。また、巨大プラットフォーマーがデータの囲い込みの際に用いているクッキーに頼らずブラウザーで適切な広告を配信できる技術開発も行われています。クッキーだとネットの閲覧履歴が分かるのでプライバシー保護の面で懸念があり新しい広告宣伝方法として注目を集めています。こうしたプラットフォーマーへの手数料がいらない取り組みと前述のNFT技術を基盤にしたデジタル資産の活用によって、コンテンツやエンターテインメント分野でよりクリエーターの利益が図られる新しいシンプルな経済が成立できるようになります。これによって日本が強みを持つ産業の活性化・強化が進められると考えています。

NFTはブロックチェーン上で代替・改ざん不能なデータを担保する技術なので、経済的に見るとデジタル資産の取引サイクルを早める(流通市場の拡大)ことにつながります。つまり、はやりそうなものに投資する行動を促すことになるし、逆に誰もがクリエーターとしてそれに挑戦できる社会が近づくことになります。ブロックチェーン技術は単純にモノ・サービス・金融などの取引コストを大幅に低減するだけではなく、クリエーターの挑戦という新しい価値を創造するものなのです。これは共通的資産である「お金」だけでなく個人個人に分散した「信用」を基礎にした社会を許容する変化かも知れません。利便性は増すが選択肢が減る経済社会であってはなりません。

巨大プラットフォーマーに席巻されている今日、情報通信事業者は決済や金融サービスなど非通信事業分野の取り組みに力を入れてきましたが、プラットフォーマーとしてグローバル競争で対抗し得るレベルからは各国とも遠い存在となっています。グローバルプラットフォーマーへの道には険しいものがあり、引き続きM&Aなどの資源投入が求められますが、他方、前述のNFT技術を活用した分野に絞り込んだ新しい経済圏にそれぞれの地域で取り組むことで各自の強みを活かせる産業の強化を図ることができると考えます。通信事業者としても非通信分野でアニメやゲーム、アートなどのコンテンツ、エンターテインメント産業の国際競争力を高めることに貢献することができます。フィンテックだけでなくブロックチェーンやNFT技術を活用するベンチャービジネスは多数存在しますので提携等をさらに追求してはどうかと思います。

もちろん会員権等の証明や不動産取引では現実の法制度や事業規制などデジタル化への抵抗も大きいので、まずはサイバー空間上でのデジタル資産という新しい領域での取り組みに集中するのが得策でしょう。また、資産価値の評価となると一定の公定力(例えば市場取引価格や鑑定制度など)がないと会計上の価値や企業価値評価に当面は反映されることはないでしょう。しかし、いずれデジタル資産を価値認識して投資取引する構造へと経済社会が変化していくことになります。情報通信事業者が非通信領域の事業を行う際にはこうした基本認識が不可避です。通信はもちろんのこと、非通信の領域においても社会実装を進めることで新しい産業を生み出し、国際競争力を高めることができます。フィンテックだけでなく新しいNFT技術やサービスの動向に注意が必要です。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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