2021年6月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

昔の世界の街角から:発電所めぐりとカーボンニュートラル



今号の「巻頭"論"」でも触れられていますが、昨年10月菅首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という脱炭素社会への宣言をしたこと、さらにはこの4月「2030年度の排出量を2013年度比46%削減する」と明示したことに伴い、カーボンニュートラルが俄然注目されることになり、ICTの世界でもこれら目標を実現するための手段やDX等による間接的な貢献も含めて、今後注目に値するテーマとなっていくことは言うまでもありません。

このカーボンニュートラルへの動きに絡めながら、今回の「昔の世界の街角から」では、筆者がこの10数年で私的に訪問したことのある発電所などエネルギー関連施設について、身近な例として旅行記形式でそのいくつかを紹介したいと思います。筆者はこれまで日本の47全都道府県を訪問してきましたが、その中の目的地として、ルート上にある大規模インフラ施設、特に広報センターなどの見学用施設が充実している原子力発電所などに立ち寄ってきました。今後のカーボンニュートラルを語るうえで、どのようなエネルギーミックスを日本の現状と合った形で再構築していくかが重要なこととなるわけですが、再生可能エネルギーはもちろんのこと、原発の扱いをどうしていくかは肝の部分であり、様々な議論があることは周知のとおりです。本稿ではそのような問題を考えるうえでの基本的な部分の一助として、何かのお役に立てばと思う次第です。

原子力発電所

日本の原発立地エリアのうち、筆者がそれに併設される広報センターを訪問したことのあるのは、北から挙げてみると、泊(北海道)、東通(青森)、女川(宮城)、柏崎刈羽(新潟)、東海(茨城)、伊方(愛媛)、玄海(佐賀)の6カ所になりますが、このほかすぐ近くを通過しただけではありますが、志賀(石川)、浜岡(静岡)、美浜、大飯、高浜(福井)なども訪れた扱いとすると、日本の大半の原発サイト至近の地に一応行ったことになるます。

初めて訪問した原子力発電所は2006年11月に訪問した柏崎刈羽原発でした。原発の安全性への注目は、1999年に茨城県東海村のJCO(当時)において臨界事故が発生して以降顕著になったと思いますが、このころから比較的大きな地震が発生すると、報道で「〇〇原発は安全です」といった主旨のニュースをすぐ流すようになったと思います。しかし、よくニュースでその名前は聞いても自分で一度もそのような原発サイトがある地域に行ったことのないことを改めて認識し、原発とはどのような場所にあるのか関心を持つようになったのがきっかけです。その流れで関東から比較的近い場所ということで、新潟方面にドライブした際に柏崎刈羽原発に立ち寄りました。ちなみに、同原発は柏崎市と刈羽村にまたがって立地していますが、両者は刈羽村がほぼ四方を柏崎市に囲まれているような位置関係にあります。原発立地エリアなどにはよくあることですが、原発の存在により税収が豊富で村民向けの様々な施設が建設されるため、平成の大合併の時代にも村のまま独立を保っているケースが大半と思われます。このあとに出てくる他の原発や大規模インフラサイトでも同様のことが言え、これは実際に現地に行ってみるとそのようにもともとの地場産業が弱く、原発などとの相互依存のもとに繫栄してきたことがよくわかりました。2006年当時の写真になりますが、柏崎刈羽原発広報センターの様子を見てみましょう。

写真1は海岸沿いの森林のような場所の中にある柏崎刈羽原発の広報用サービスホールというところです。発電所は左側奥の通りをはさんで海沿いの広大な敷地の中にあります。ここは新潟県で東京電力エリアではありませんが、運営は東京電力です。後述する下北半島の東通原発(計画)や、事故のあった福島第一原発などもそうですが、東電エリアである関東地方から遠く離れた場所に東電の発電所があるということを東京に住む人々がどれほど意識することがあるでしょうか。このとき、筆者は予約なしで行ったのでホールの見学だけでしたが、当時は事前に予約をしておけば1時間コースのホール内のガイドツアーのほか、1時間半コースでさらにバスに乗って発電所内の見学も無料でできました。写真は原子炉の壁が何重構造にもなっていて、いかに安全かをガイドが説明している場面と思われますが、このタイミングでは数年後に福島の事故があるとは誰も想像だにしていないときだったので、傍で説明を漏れ聞いて、その安全性には正直何ら疑問を持つことはなかったと思います。

【写真1】柏崎刈羽原発PRセンター

【写真1】柏崎刈羽原発PRセンター
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

【写真2】柏崎刈羽原発見学ツアー

【写真2】柏崎刈羽原発見学ツアー

写真3は原子炉の1/5原寸大の模型。一番上の階まで上がると展望台になっています(写真4)。この木々の奥が発電所のサイトになっています。

【写真3】柏崎刈羽原発の原子炉模型

【写真3】柏崎刈羽原発の原子炉模型

【写真4】柏崎刈羽原発の見学用デッキ

【写真4】柏崎刈羽原発の見学用デッキ

2つ目は2007年1月に訪問した茨城県東海村のサイト(ここも行政単位は刈羽村と同様に「村」です)。ここは原発そのものというよりは原子力発電の博物館という趣で、前述した1999年9月に発生した臨界事故を後世に伝えるための展示も行われていました。

写真5が「原子力科学館」で、入場無料でした。中には放射能、原子力などの全体的な展示がありましたが、写真6は原子の大きさをイメージするための展示と思われます。左上の女性の大きさを標準として、10倍ずつ拡大していくと後ろに並ぶ写真のようになっていくことを説明するものだと思いますが、ミクロの世界で引き起こされる核分裂のエネルギーの大きさに改めて驚かされます。写真7は臨界事故がどのようにして起こったかを説明しているものです。この年「臨界」という言葉が流行語にもなったことを改めて思い出しますが、現在この事故を覚えている人はどれだけいるものでしょうか。

【写真5】東海村原子力科学館

【写真5】東海村原子力科学館

【写真6】東海村原子力科学館の展示

【写真6】東海村原子力科学館の展示

【写真7】臨界事故の説明

【写真7】臨界事故の説明

東日本大震災以降

2011年3月に発生した東日本大震災までは、原発の存在そのものを日ごろの生活の中で意識する日本人は立地エリア以外にはほとんどいなかったのではないかと想像されますが、津波に起因する福島第一原発の事故以降は筆者にとってもより身近になり、いろいろな議論が活発になりました。そこで、実際のところはどうなのかという観点から現地を自分の眼で見てみたいという気持ちが湧くようになりました。そのような流れで2012年5月、大震災の約1年後に東北地方を旅行した際に、原子力発電関連施設に立ち寄ることとしました。特に、下北半島にある原発関連施設の立地場所への訪問が大きな目的でした。下北半島の付け根にある青森県六ケ所村(ここも「村」です)はそれまでもよく報道で名前が出ていましたが、ここには使用済み核燃料の再処理施設があります。写真8は再処理施設の近くにある六ヶ所原燃PRセンターというものです。この広大な施設の周辺には、この再処理施設だけでなく、国の石油備蓄基地や、大規模な風力発電施設などもあり、六ケ所村はエネルギー関連の象徴のような村であることが改めてわかりました。

【写真8】六ケ所村原燃PRセンター

【写真8】六ケ所村原燃PRセンター

ちなみに再処理施設とは、写真9のように原発における使用済み燃料からプルトニウムやウランを取り出して、再度原発の燃料に使うMOX燃料という形に変える施設ですが、まだ試運転段階で全面的な稼働が行われているわけではなく、現在もその状況は変わっていないはずです。写真10は放射性廃棄物の模型ですが、使用済み燃料はこのようなドラム缶に入れて一定期間地下に埋めて貯蔵しておくことになります。しかし、最終処理というわけではなく、あくまでも中間貯蔵施設であり、核燃料サイクルというのは人間が何世代もかけて処理を行わないといけないというのも事実です。

【写真9】再処理工場の展示

【写真9】再処理工場の展示

【写真10】使用済み核燃料の展示(模型)

【写真10】使用済み核燃料の展示(模型)

周辺には再処理工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、ウラン濃縮工場などもあって、まさに核リサイクルの村といった感じです。写真11はPRセンターの展望台からの景色になりますが、正面が「むつ小川原国家石油備蓄基地」といって、1970年代の石油ショック後に日本初の備蓄基地として建設されたそうです。また、少々見えにくいですが、写真12のように備蓄基地の奥には風力発電の風車が無数のように立っています。ここが「むつ小川原ウィンドファーム」という場所です。東京にいるとあまり気が付きませんが、関東でも例えば房総方面など海岸沿いの風が強い丘の上などに風力発電の風車を数多く目にすることがあります。メガソーラーなども同様ですが、素人目には、日本国内にもエネルギーのベストミックスを実現するためのリソースがそれなりにあるようにも感じられます。あとはこれらを効率的に、制度面も含めどのように運用できるか、デメリット面のみが強調されて何もできないような風潮をいかに変えられるかにかかってくるものと思うところです。

【写真11】石油備蓄基地の方角

【写真11】石油備蓄基地の方角

【写真12】風力発電用風車の群れ

【写真12】風力発電用風車の群れ

六ケ所村見学のあと、下北半島をさらに東側突端に向け北に進むと、東通(ひがしどおり)村(ここも「村」です)の東北電力・東通原発があり、こちらのPRセンターも訪問しました(写真13)。ここには東北電力の原発がありますが、隣接する場所で東京電力の原発も建設途上であることを知りました。建設は今はストップしていますが、首都圏からこのように離れたところから電力を持ってくる計画であったことに驚きました。首都圏居住者もエネルギー問題を考える際は、日本全体の視点が不可欠であると感じるところです。ところで、下北半島の突端でマグロで有名な大間にも原発建設の計画があります。

【写真13】東通原発のジオラマ

【写真13】東通原発のジオラマ

地熱発電所

日本のエネルギーを考える場合、今後の可能性のあるものとして地熱発電所があります。筆者は温泉好きでもありますので、地熱の可能性については個人的にも非常に関心を持っています。そのような流れで、2014年11月には大分県の山奥、筋湯温泉という温泉地にもほど近い九州電力の「八丁原(はっちょうばる)地熱発電所」(写真14、15)を訪れましたが、ここも広報センターが見学できるだけでなく、発電設備そのものもツアーで見学ができました。写真にあるように建物の背後から物凄い蒸気が出ています。さすが地熱発電といった感じです。

【写真14】八丁原地熱発電所

【写真14】八丁原地熱発電所

【写真15】地熱発電所内

【写真15】地熱発電所内

現在の状況は確認していませんが、ここでは地熱発電所のガイド付き見学ツアーが無料で行われていました。展示施設内のホールでビデオで説明を受け、その後外の施設の見学ができたので、地熱発電の仕組みが理解できました(写真16、17)。「工場萌え」にも通ずる「発電所萌え」的なものを感じます。このサイトの地下深くにマグマ溜まりがあり、そこで熱せられた地下水の蒸気を取り出してタービンを回し発電する仕組みですが、地熱源からは一部直接熱水(いわゆる温泉)も出るのでそれを混合させてより効率を上げる形をとっていました。タービンを回したあとの蒸気は冷やされて水になりますが、その水は循環させるという環境にやさしい構成になっています。日本は地熱が豊富なので今後の可能性はあるはずなのですが、地熱源が国立公園エリアにあり開発が難しいこと、温泉事業者からの理解や両立に問題があることが課題として挙げられます。また、ここの地熱発電所は日本最大級の出力ではありますが、原発に比べれば発電出力はかなり小さいという難点があります。九州電力管内にある原発(川内、玄海)に比べれば10分の1以下という小さなものだそうです。が、日本の地理的特性を考えた場合、今後再度注目される可能性はあるのではないでしょうか。

【写真16、17】地熱発電所内見学ツアー

【写真16、17】地熱発電所内見学ツアー

アイスランド

「世界の街角から」ですので、最後はこれも少々昔の話ですが海外の地熱発電について触れておきたいと思います。筆者は温泉好きの流れから海外の温泉にも過去足を運びましたが、特に印象的だったのは、2014年8月に訪問した、北欧アイスランドのBlue Lagoonという「世界最大の露天風呂」です。アイスランドの首都レイキャビクから、溶岩が流れた後の原野のような景色の中を40分ほど車で走るとそれはあります。日本で言えば浅間山の麓にある「鬼押し出し」を巨大化したようなところです。

【写真18】アイスランドの大地とBlue Lagoon

【写真18】アイスランドの大地とBlue Lagoon

【写真19】Blue Lagoonのエントランス

【写真19】Blue Lagoonのエントランス

【写真20、21】Blue Lagoon

【写真20、21】Blue Lagoon

このBlue Lagoonは、半島の突端部のようなところにありますが、隣にある地熱発電所から出る熱水を再利用した人工の露天温泉だったかと思います。地熱発電所の方は海水を使用して地熱で蒸気を発生させ発電していると聞いた記憶があります。ちなみに、ここは日本の風呂とは違って水着着用ですが、シーズンになると欧米各国からの訪問客で相当賑わっているそうです。日本人観光客は少ないですが、それでも脱衣所のロッカーには日本語で書かれた説明も付いていました。この日は気温20℃弱くらいだったでしょうか。温泉は平均すると大体30℃台後半の温度で、ゆっくりと長風呂するにはちょうど良い状況でした。温泉の底には白い泥がたまっていて、顔に泥パックしたりして楽しんでいる人たちも大勢いました。

露天風呂の裏手には地熱発電所が見えます(写真22、23)。この発電所からの排水はパイプラインでレイキャビク市内まで運ばれ、冬は厳寒となるレイキャビクの住宅などへの暖房にも使用されるそうです。国全体の人口が30万人程度のアイスランドと日本を単純に比較するわけにはいきませんが、同じ火山国・地震国で温泉に恵まれるアイスランドは地熱発電の比率が大半を占めていると聞きました。今後の日本のカーボンニュートラルを考えるには、周辺を広く俯瞰して、いろいろと新しい発想や身近な組み合わせで考えていくことが必要ではないでしょうか。

【写真22、23】露天風呂と地熱発電所

【写真22、23】露天風呂と地熱発電所

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