2022.4.13 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

5Gビジネスの現在地

はじめに

日本の5G商用サービスは2020年春から開始され、早くも2年が経とうとしている。各通信事業者の5Gエリアも点から面へと徐々に拡大され、5G対応スマートフォンも増加したことで、5Gサービスを利用する環境が急速に整いつつある。また、世界各国でも、5Gビジネス競争が進んでおり、CESやMWCなどの世界的な大規模展示会でも、各通信事業者・メーカーの最新動向が紹介されている。そこで本稿では、サービス開始2年が経過した現時点での、5Gサービスを取り巻く環境と新しいビジネス状況について注目すべき事例を取り上げ紹介することとする。

日本の5Gエリア

5Gは「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を有しており、これらの特徴を十分に活かすためには高周波数帯での通信が必要となるが、実際のエリア戦略では各社で方針が異なっている。

ドコモは5Gを「瞬速5G」と命名し、3つの新周波数帯(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)を利用した高速・大容量な5Gエリア展開を実施してきた。また、SA(スタンドアローン)方式は2021年12月から法人の顧客向けに提供を開始、2021年度末には2万局、人口カバー率55%を目標としている。一方、ソフトバンクとKDDIは、4G既存周波数を5G転用とするエリア展開が主体となっており、通信速度が4G程度に制限されてしまう方式となっている。ソフトバンクは、22年春には5万局、人口カバー率90%を目標としている。KDDIは「鉄道路線5G化」を宣言し、2021年度末には関東21路線、関西5路線の主要区間の駅ホームの5Gエリア化を目指すとしている。

このような状況の中、総務省は2021年12月、携帯電話大手各社に対し、「人口カバー率」を2023年度までに9割へ引き上げる目標の達成に向け、5G基地局整備の加速化に向けた対応を要請した。5Gのインフラ整備は、政府が新たな成長戦略の柱とする「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた基本施策の一つとなる。「デジタル田園都市国家構想」では、5Gやデータセンター等をデジタル田園都市のデジタルインフラとして定めている。この要請を受けて、各通信事業者は今まで以上に5Gエリアの基盤整備を早急に進めていくこととなる(図1)。

【図1】デジタル田園都市国家構想のイメージ

【図1】デジタル田園都市国家構想のイメージ
(出典:第一回デジタル田園都市国家構想実現会議資料 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai1/siryou4.pdf)

5Gエリア拡大整備と並行して、5G時代の新しいサービスも次々に検討されている。新しいビジネス構想は、CESやMWCなどでも数多く発表されており、早期の普及が期待されている。

そこで、筆者が注目しているビジネスに関して、コンシューマー向けサービスと企業向けサービスの2つの視点から以下に紹介する。

XR技術を活用した次世代のエンターテインメントビジネス

高速大容量・低遅延の5G通信の拡大に伴い、VRコンテンツを身近に体験できる時代がすぐそこまで来ている。VRコンテンツの中でも、ボリュメトリック・ビデオ技術を利用したコンテンツが現在注目を浴びており、日本国内でもこの技術に投資する企業が増えている。ボリュメトリック・ビデオ技術とは、複数のカメラで撮影された映像を空間立体モデルとしてデータ化して、3次元空間を再構成する技術を指す。この技術を利用すれば、撮影したデータを3次元空間上に再構成することで、被写体を自由な位置・角度から視聴でき、通常の撮影では見ることのできない角度からも空間を捉えることができる。

国内企業では、キヤノンとNTTドコモがいち早くボリュメトリック・ビデオ技術活用に向けた制作スタジオを開設し、ビジネスへの応用を推し進めている。

キヤノンは2020年9月より、「ボリュメトリックビデオスタジオ‐川崎」を開設した[1]。スタジオでは100台以上の高解像度カメラで多方向から被写体を撮影し、高精細な3次元空間データを構築する。そして、そのデータを再構成し、3次元空間内で仮想カメラを自在に動かし、スポーツリプレイや分析、テレビCMやミュージックビデオなどに活用する等、キヤノンは新たなビジネスの創出に取り組んでいる(図2)。一方、NTTドコモは2021年1月に、東京都港区台場のテレコムセンタービルにおいて、XRコンテンツの制作スタジオ「docomo XR Studio」を開設し、コンテンツの撮影から配信まで1カ所で完結させることができる環境を整備している。さらに、ドコモは配信時のビットレートを最適化する技術と長尺コンテンツの再生技術を開発し、高品質で長尺なボリュメトリック映像コンテンツのストリーミング配信を実現する等、5G通信における配信技術開発にも力を入れている[2]

【図2】キヤノンのボリュメトリック分野における取り組み

【図2】キヤノンのボリュメトリック分野における取り組み
(出典:キヤノン株式会社ニュースリリース https://global.canon/ja/news/2020/20200901.html)

なお、キヤノンは「ボリュメトリックビデオスタジオ‐川崎」を利用して、600年以上続く伝統芸能「能楽」の新しい鑑賞方法を提案している。芸能分野におけるデジタルトランスフォーメーションの推進に向け、360度グリーンバックの環境の下、囲むように設置された100台以上のカメラが被写体を撮影すると、実際の撮影から3秒程度で合成済みのボリュメトリック・ビデオが生成され、ほぼリアルタイムでライブ配信することができる(図3)。この技術の応用には、従来にない次世代のプロモーションムービー、視聴者が自ら視点を操縦できるインタラクティブ映像、現実世界に演者を呼び出せるAR(拡張現実)、そして視聴者が舞台に入り込めるVR(仮想現実)等、新しいサービスの可能性が感じられる[3]

【図3】ボリュメトリックビデオ制作模様

【図3】ボリュメトリックビデオ制作模様
(出典:キヤノン株式会社HP(https://global.canon/ja/vvs/noh/)より動画キャプチャー)

ボリュメトリック技術は発展途上の技術ではあるものの、現在話題の絶えないメタバースの世界とも密接な関係があることから、3次元コンテンツの目玉となる重要技術と言える。高速大容量・低遅延の5G時代のキラーコンテンツになる可能性があり、今後の動向を注視したい。

自動運転・MaaSにおけるビジネス

自動運転は、5G通信がターゲットとする大本命のサービスである。現在、自動車業界は「100年に1度の変革期」の真っただ中にあると言われているが、これは、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)やMaaS (Mobility as a Service)などの新しい技術や発想が広がり、産業自体が大きく変わろうとしていることを意味している。また、菅前首相が2020年10月の施政方針演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言し、同年12月に公表された「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において電気自動車の普及を国が強力に推進することを宣言したこともあり、各自動車メーカーでは壮絶な開発競争が繰り広げられている。

特に、自動車業界のメインプレーヤーであるトヨタ自動車は、ソフトバンクと共同出資会社(MONET Technologies)を2019年に設立した後、NTT・KDDIと2020年に資本業務提携を発表した。また、CES 2020で発表した「ウーブン・シティ(Woven City)」については、2021年2月に地鎮祭を実施し、先端技術実用化に向けた”未来の実証都市”を構想段階から実行段階へとステップアップさせている。自動運転については、世界各国の法整備状況や5Gエリア整備状況も国によって異なっており、自動化レベル5の完全自動運転を実現するには相当な時間が必要である。このような状況ではあるが、現時点での自動運転・MaaS分野の取り組み動向を以下に紹介したい。

CES 2022では、ソニーグループが「VISION-S」の試作車を展示するとともに、2022年春には「ソニーモビリティ株式会社」を設立し、EV化が進む自動車市場に対する参入を本格的に検討することを発表した[4]。一方、ゼネラルモーターズがキーノートで基調講演を行い、2025年までに電気自動車と自動運転車技術に350億ドルを投資する計画を発表した[5]。また、子会社のGMクルーズ・本田技研工業と共同で、自動運転電気自動車「Cruise Origin」の開発を進めていることも紹介した。「Cruise Origin」は、ハンドルもペダルもない、配車サービス専用に提供する車両として想定されている(図4)。

【図4】ゼネラルモーターズ基調講演

【図4】ゼネラルモーターズ基調講演
(出典:CES2022より動画キャプチャー)

一方、国内の自動運転については、スマートシティの取り組みを官民連携で加速するための「スマートシティ官民連携プラットフォーム」において、実証実験が数多く行われてきた。その中でも、茨城県境町は、2020年11月、全国の自治体で初めて自動運転バスの定常運行を始めた。同町では2021年8月に、自動運転バスのルートを拡大させ、高齢化が進む地域課題の解決手段としての自動運転車を問題なく運営している(図5)。境町における自動運転バスの社会実装の取り組みは、2022年2月、日本自動車会議所創設の第1回「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」で大賞を受賞するなど、地方部のロールモデルとして期待されている[6]

【図5】自治体初の自動運転バス(茨城県境町)

【図5】自治体初の自動運転バス(茨城県境町)
(出典:境町HP https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html)

現行の道路交通法では、公道で走行可能な自動運転車は自動運転レベル3までのものと規定されている。しかし、2022年3月4日、道路交通法の一部を改正する法律案が閣議決定され、自動運転レベル4の許可制度と自動配送ロボットの遠隔操作型小型車の交通方法に関する規定の整備が定められることとなった。今後は、法整備や5Gエリア拡大と連動して、自動運転技術が着実に発展していくことが望まれる。

おわりに

5Gは「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」という特性から、ビジネスや社会を大きく変える通信方式として、大きな期待を寄せられている。5Gが開始されてから2年経った今、エリア拡大は勿論のこと、具体的なビジネス展開も少しずつ進んできている。今後さらに5Gが広がっていく中で、どのような新しい体験やビジネスが登場してくるか、国内外の動向に引き続き注目したい。

[1] https://global.canon/ja/news/2020/20200901. html

[2] https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/ 2021/01/21_01.html

[3] https://global.canon/ja/vvs/noh/


[4] https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/ 202201/22-002/

[5] https://media.gmc.com/media/jp/ja/gm-new/news.detail.html/content/Pages/news/jp/ja/ 2022/jan/0107-gm.html

[6] https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html

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