はじめに
日本の5G商用サービスは2020年春から開始され、早くも2年が経とうとしている。各通信事業者の5Gエリアも点から面へと徐々に拡大され、5G対応スマートフォンも増加したことで、5Gサービスを利用する環境が急速に整いつつある。また、世界各国でも、5Gビジネス競争が進んでおり、CESやMWCなどの世界的な大規模展示会でも、各通信事業者・メーカーの最新動向が紹介されている。そこで本稿では、サービス開始2年が経過した現時点での、5Gサービスを取り巻く環境と新しいビジネス状況について注目すべき事例を取り上げ紹介することとする。
日本の5Gエリア
5Gは「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を有しており、これらの特徴を十分に活かすためには高周波数帯での通信が必要となるが、実際のエリア戦略では各社で方針が異なっている。
ドコモは5Gを「瞬速5G」と命名し、3つの新周波数帯(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)を利用した高速・大容量な5Gエリア展開を実施してきた。また、SA(スタンドアローン)方式は2021年12月から法人の顧客向けに提供を開始、2021年度末には2万局、人口カバー率55%を目標としている。一方、ソフトバンクとKDDIは、4G既存周波数を5G転用とするエリア展開が主体となっており、通信速度が4G程度に制限されてしまう方式となっている。ソフトバンクは、22年春には5万局、人口カバー率90%を目標としている。KDDIは「鉄道路線5G化」を宣言し、2021年度末には関東21路線、関西5路線の主要区間の駅ホームの5Gエリア化を目指すとしている。
このような状況の中、総務省は2021年12月、携帯電話大手各社に対し、「人口カバー率」を2023年度までに9割へ引き上げる目標の達成に向け、5G基地局整備の加速化に向けた対応を要請した。5Gのインフラ整備は、政府が新たな成長戦略の柱とする「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた基本施策の一つとなる。「デジタル田園都市国家構想」では、5Gやデータセンター等をデジタル田園都市のデジタルインフラとして定めている。この要請を受けて、各通信事業者は今まで以上に5Gエリアの基盤整備を早急に進めていくこととなる(図1)。

【図1】デジタル田園都市国家構想のイメージ
(出典:第一回デジタル田園都市国家構想実現会議資料 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai1/siryou4.pdf)
5Gエリア拡大整備と並行して、5G時代の新しいサービスも次々に検討されている。新しいビジネス構想は、CESやMWCなどでも数多く発表されており、早期の普及が期待されている。
そこで、筆者が注目しているビジネスに関して、コンシューマー向けサービスと企業向けサービスの2つの視点から以下に紹介する。
XR技術を活用した次世代のエンターテインメントビジネス
高速大容量・低遅延の5G通信の拡大に伴い、VRコンテンツを身近に体験できる時代がすぐそこまで来ている。VRコンテンツの中でも、ボリュメトリック・ビデオ技術を利用したコンテンツが現在注目を浴びており、日本国内でもこの技術に投資する企業が増えている。ボリュメトリック・ビデオ技術とは、複数のカメラで撮影された映像を空間立体モデルとしてデータ化して、3次元空間を再構成する技術を指す。この技術を利用すれば、撮影したデータを3次元空間上に再構成することで、被写体を自由な位置・角度から視聴でき、通常の撮影では見ることのできない角度からも空間を捉えることができる。
国内企業では、キヤノンとNTTドコモがいち早くボリュメトリック・ビデオ技術活用に向けた制作スタジオを開設し、ビジネスへの応用を推し進めている。
キヤノンは2020年9月より、「ボリュメトリックビデオスタジオ‐川崎」を開設した[1]。スタジオでは100台以上の高解像度カメラで多方向から被写体を撮影し、高精細な3次元空間データを構築する。そして、そのデータを再構成し、3次元空間内で仮想カメラを自在に動かし、スポーツリプレイや分析、テレビCMやミュージックビデオなどに活用する等、キヤノンは新たなビジネスの創出に取り組んでいる(図2)。一方、NTTドコモは2021年1月に、東京都港区台場のテレコムセンタービルにおいて、XRコンテンツの制作スタジオ「docomo XR Studio」を開設し、コンテンツの撮影から配信まで1カ所で完結させることができる環境を整備している。さらに、ドコモは配信時のビットレートを最適化する技術と長尺コンテンツの再生技術を開発し、高品質で長尺なボリュメトリック映像コンテンツのストリーミング配信を実現する等、5G通信における配信技術開発にも力を入れている[2]。

【図2】キヤノンのボリュメトリック分野における取り組み
(出典:キヤノン株式会社ニュースリリース https://global.canon/ja/news/2020/20200901.html)
なお、キヤノンは「ボリュメトリックビデオスタジオ‐川崎」を利用して、600年以上続く伝統芸能「能楽」の新しい鑑賞方法を提案している。芸能分野におけるデジタルトランスフォーメーションの推進に向け、360度グリーンバックの環境の下、囲むように設置された100台以上のカメラが被写体を撮影すると、実際の撮影から3秒程度で合成済みのボリュメトリック・ビデオが生成され、ほぼリアルタイムでライブ配信することができる(図3)。この技術の応用には、従来にない次世代のプロモーションムービー、視聴者が自ら視点を操縦できるインタラクティブ映像、現実世界に演者を呼び出せるAR(拡張現実)、そして視聴者が舞台に入り込めるVR(仮想現実)等、新しいサービスの可能性が感じられる[3]。
ボリュメトリック技術は発展途上の技術ではあるものの、現在話題の絶えないメタバースの世界とも密接な関係があることから、3次元コンテンツの目玉となる重要技術と言える。高速大容量・低遅延の5G時代のキラーコンテンツになる可能性があり、今後の動向を注視したい。
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自動運転・MaaSにおけるビジネス
おわりに
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] https://global.canon/ja/news/2020/20200901. html
[2] https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/ 2021/01/21_01.html
[3] https://global.canon/ja/vvs/noh/
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