1.はじめに
大手キャリアによる「オープンRAN」への取り組みが加速している。「オープンRAN」は通信業界で近年注目を集めている技術・手法で、相互に接続可能なオープンインタフェースを採用した機器やハードウェア/ソフトウェアを組み合わせて無線アクセスネットワーク(Radio Access Network:RAN)を構築するものである(図1)。
このオープンRANは、世界的なモバイル業界イベントMWC Barcelona 2022(2022年2~3月、スペイン・バルセロナ開催)でも注目トピックのひとつだった。そこで本稿では、MWC Barcelona 2022におけるオープンRANの議論にも触れつつ、以下の内容について取り上げる。
- オープンRANに意欲的な欧州大手キャリアの取り組み
- オープンRAN導入のメリットと課題
- キャリアによって異なるオープンRANへのスタンス
- オープンRAN時代にサプライヤーとキャリアに求められること
なお、本稿ではキャリアにネットワーク製品を提供する事業者のことを「サプライヤー」と呼んでいる(一般的には「ベンダー」という表現も用いられる)。また、現在オープンRANにおいては業界団体「O-RANアライアンス」の取り組みが中心的な位置を占めていることから、オープンRANのメリットや課題についてはO-RANアライアンスの取り組みの方向性を踏まえて記載している[1]。
2.欧州大手キャリアの取り組み
欧州大手キャリアはこれまでオープンRANに積極的に取り組んできた。MWC Barcelona 2022では、Vodafone(ボーダフォン)、Telefonica(テレフォニカ)、Deutsche Telekom(ドイツテレコム)等から取り組み内容について発表があった。3キャリアの最近の主な取り組みについて以下に記載する。
Vodafone(ボーダフォン)
Vodafoneは欧州大手キャリアの中でもいち早くオープンRANを商用ネットワークに導入しているキャリアである。2020年8月に、英国ウェールズでオープンRANの4Gサイトを稼働させ、英国で初めてオープンRANを商用導入したキャリアになったことを発表した[2]。2021年6月には、欧州でのオープンRAN展開に向けた戦略的パートナーとして、Dell Technologies、NEC、Samsung、Wind River、Capgemini Engineering、Keysight Technologiesの選定を発表した[3]。様々なサプライヤーから調達する製品を統合してRANを構築することを狙う(マルチサプライヤーと表現される)。さらに2022年1月には、これら戦略的パートナーの協力を得て、英国サマセット州の都市バースにおいて英国で初めてのオープンRANの5Gサイトを稼働させている[4]。
MWC Barcelona 2022では、2030年までに欧州のモバイルネットワークの30%をオープンRANベースにする計画を発表した[5]。計画のとおりに進展すれば、約30,000のサイトがオープンRANベースとなる見込みである。Vodafoneはまずはルーラルエリアが展開の対象になるとしている。
Telefonica(テレフォニカ)
Telefonicaも商用ネットワークへのオープンRAN導入に取り組んでいる。2021年9月、Telefonicaのコアマーケットである4カ国(スペイン、ドイツ、英国、ブラジル)において、NECと提携しオープンRANの商用導入に向けた試験を実施すると発表した[6]。2022年にオープンRANベースのサイトを少なくとも800カ所で稼働させ、さらに2025年までに新規サイトの50%をオープンRANベースとする計画である。2022年1月には、独ミュンヘンにおいてスモールセル[7]型のオープンRANサイトを稼働させたと発表した[8]。混雑エリアにおけるネットワークキャパシティの増強を目的としたものである。
同社は、MWC Barcelona 2022でオープンRAN導入計画の全体像を紹介した[9]。まず2020~2022年を「フェーズ0」として試験期間に位置付け、各サービス提供国で10~20程度のサイトにおいてオープンRANを導入する。次の段階として2022~2023年を「フェーズ1」として初期構築期間に位置付け、各サービス提供国で200程度までのサイトにおいてオープンRANを導入する。そして2023年以降は「フェーズ2」として大規模構築期間と位置付け、2025年までに新たに導入するRANの30~50%にオープンRANを導入する見込みである。また、オープンRAN展開における初期パートナーも発表しており、Vodafoneと同じくマルチサプライヤーでのRAN構築を見据えている(図2)。
Deutsche Telekom(ドイツテレコム)
Deutsche Telekomは、ドイツ北東部の都市ノイブランデンブルグにオープンRAN環境を構築して検証を進めている。2021年6月の発表によると、「O-RANタウン」と呼ばれるこの取り組みを通してマルチサプライヤーでのオープンRANサイトを最大で25カ所設置し、4Gおよび5Gサービスを提供する計画である[10]。O-RANタウンの初期サイトは、Dell、Fujitsu、Intel、Mavenir、NEC、Supermicroによって構築される。Deutsche Telekomは今後サプライヤーの組み合わせを変えてO-RANタウンを拡大する方針も示している。
MWC Barcelona 2022のプレス向け発表では、2023年にはO-RANが商用導入の選択肢になるという見通しを示し、現在そのパートナー企業の選定段階にあると述べている[11]。
オープンRANベースのネットワークを構築した(または構築する)事業者として、日本では楽天モバイル、米国ではDish Network、ドイツでは1&1が知られている。これら事業者はモバイルサービスの提供に当たり新たにネットワークを構築した(または構築する)、いわゆる「グリーンフィールド事業者」である。一方、これまでに紹介した欧州3キャリアはオープンRAN到来前から構築・運用しているネットワークを有する、いわゆる「ブラウンフィールド事業者」であり、オープンRAN導入における「出発点」がグリーンフィールド事業者とは異なることは改めて述べておきたい。
InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
以下ご覧になりたい方は下のバナーをクリックしてください。
3.オープンRAN導入のメリットと課題
4.キャリアによって異なるオープンRANへのスタンス
5.おわりに:オープンRAN時代にサプライヤーとキャリアに求められること
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] 「O-RAN」という表現はO-RANアライアンスが策定しているオープンRAN規格を指す場合が一般的だが、オープンRAN(Open RAN)の略称として用いられる場合もある。
[2] Vodafoneニュースリリース“Vodafone becomes first UK mobile operator to switch on live OpenRAN site”(2020/8/6)
[3] Vodafoneニュースリリース“Vodafone selects key partners to build Europe's first commercial Open RAN network”(2021/6/14)
[4] Vodafoneニュースリリース“Vodafone switches on first 5G OpenRAN site”(2022/1/19)
[5] Vodafoneニュースリリース“OpenRAN in ‘30% of Vodafone European network by 2030’ ”(2022/2/28)
[6] Telefonicaニュースリリース“Telefónica and NEC to build Open RAN live pilots in 4 global markets as a key milestone toward mass deployment”(2021/9/14)
[7] 比較的狭いエリアをカバーするサイト。
[8] Telefonicaニュースリリース“O2 / Telefónica aktiviert Deutschlands erste Open RAN Mini-Funkzellen”(2022/1/17)
[9] MWC Barcelona 2022,“OpenRAN: A Vision of 5G and the Future of 6G”
[10] Deutsche Telekomニュースリリース“Telekom switches on O-RAN Town in Neubrandenburg”(2021/6/28)
[11] Deutsche Telekomニュースリリース“MWC Barcelona 2022: From pocket-sized TV productions,‘Angels’and Beethoven and technology for people”(2022/2/21)
当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。