2022.5.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

オープンRAN時代を生き抜く ~大手キャリアの最新動向から~

1.はじめに

大手キャリアによる「オープンRAN」への取り組みが加速している。「オープンRAN」は通信業界で近年注目を集めている技術・手法で、相互に接続可能なオープンインタフェースを採用した機器やハードウェア/ソフトウェアを組み合わせて無線アクセスネットワーク(Radio Access Network:RAN)を構築するものである(図1)。

【図1】オープンRANとは

【図1】オープンRANとは
(出典:NTTドコモ, https://ssw.web.docomo.ne.jp/orec/5g_open_ran_ecosystem/)

このオープンRANは、世界的なモバイル業界イベントMWC Barcelona 2022(2022年2~3月、スペイン・バルセロナ開催)でも注目トピックのひとつだった。そこで本稿では、MWC Barcelona 2022におけるオープンRANの議論にも触れつつ、以下の内容について取り上げる。

  • オープンRANに意欲的な欧州大手キャリアの取り組み
  • オープンRAN導入のメリットと課題
  • キャリアによって異なるオープンRANへのスタンス
  • オープンRAN時代にサプライヤーとキャリアに求められること

なお、本稿ではキャリアにネットワーク製品を提供する事業者のことを「サプライヤー」と呼んでいる(一般的には「ベンダー」という表現も用いられる)。また、現在オープンRANにおいては業界団体「O-RANアライアンス」の取り組みが中心的な位置を占めていることから、オープンRANのメリットや課題についてはO-RANアライアンスの取り組みの方向性を踏まえて記載している[1]

2.欧州大手キャリアの取り組み

欧州大手キャリアはこれまでオープンRANに積極的に取り組んできた。MWC Barcelona 2022では、Vodafone(ボーダフォン)、Telefonica(テレフォニカ)、Deutsche Telekom(ドイツテレコム)等から取り組み内容について発表があった。3キャリアの最近の主な取り組みについて以下に記載する。

Vodafone(ボーダフォン)

Vodafoneは欧州大手キャリアの中でもいち早くオープンRANを商用ネットワークに導入しているキャリアである。2020年8月に、英国ウェールズでオープンRANの4Gサイトを稼働させ、英国で初めてオープンRANを商用導入したキャリアになったことを発表した[2]。2021年6月には、欧州でのオープンRAN展開に向けた戦略的パートナーとして、Dell Technologies、NEC、Samsung、Wind River、Capgemini Engineering、Keysight Technologiesの選定を発表した[3]。様々なサプライヤーから調達する製品を統合してRANを構築することを狙う(マルチサプライヤーと表現される)。さらに2022年1月には、これら戦略的パートナーの協力を得て、英国サマセット州の都市バースにおいて英国で初めてのオープンRANの5Gサイトを稼働させている[4]

MWC Barcelona 2022では、2030年までに欧州のモバイルネットワークの30%をオープンRANベースにする計画を発表した[5]。計画のとおりに進展すれば、約30,000のサイトがオープンRANベースとなる見込みである。Vodafoneはまずはルーラルエリアが展開の対象になるとしている。

Telefonica(テレフォニカ)

Telefonicaも商用ネットワークへのオープンRAN導入に取り組んでいる。2021年9月、Telefonicaのコアマーケットである4カ国(スペイン、ドイツ、英国、ブラジル)において、NECと提携しオープンRANの商用導入に向けた試験を実施すると発表した[6]。2022年にオープンRANベースのサイトを少なくとも800カ所で稼働させ、さらに2025年までに新規サイトの50%をオープンRANベースとする計画である。2022年1月には、独ミュンヘンにおいてスモールセル[7]型のオープンRANサイトを稼働させたと発表した[8]。混雑エリアにおけるネットワークキャパシティの増強を目的としたものである。

同社は、MWC Barcelona 2022でオープンRAN導入計画の全体像を紹介した[9]。まず2020~2022年を「フェーズ0」として試験期間に位置付け、各サービス提供国で10~20程度のサイトにおいてオープンRANを導入する。次の段階として2022~2023年を「フェーズ1」として初期構築期間に位置付け、各サービス提供国で200程度までのサイトにおいてオープンRANを導入する。そして2023年以降は「フェーズ2」として大規模構築期間と位置付け、2025年までに新たに導入するRANの30~50%にオープンRANを導入する見込みである。また、オープンRAN展開における初期パートナーも発表しており、Vodafoneと同じくマルチサプライヤーでのRAN構築を見据えている(図2)。

【図2】TelefonicaのオープンRAN展開における初期パートナー

【図2】TelefonicaのオープンRAN展開における初期パートナー
(出典:Telefonica)

Deutsche Telekom(ドイツテレコム)

Deutsche Telekomは、ドイツ北東部の都市ノイブランデンブルグにオープンRAN環境を構築して検証を進めている。2021年6月の発表によると、「O-RANタウン」と呼ばれるこの取り組みを通してマルチサプライヤーでのオープンRANサイトを最大で25カ所設置し、4Gおよび5Gサービスを提供する計画である[10]。O-RANタウンの初期サイトは、Dell、Fujitsu、Intel、Mavenir、NEC、Supermicroによって構築される。Deutsche Telekomは今後サプライヤーの組み合わせを変えてO-RANタウンを拡大する方針も示している。

MWC Barcelona 2022のプレス向け発表では、2023年にはO-RANが商用導入の選択肢になるという見通しを示し、現在そのパートナー企業の選定段階にあると述べている[11]

オープンRANベースのネットワークを構築した(または構築する)事業者として、日本では楽天モバイル、米国ではDish Network、ドイツでは1&1が知られている。これら事業者はモバイルサービスの提供に当たり新たにネットワークを構築した(または構築する)、いわゆる「グリーンフィールド事業者」である。一方、これまでに紹介した欧州3キャリアはオープンRAN到来前から構築・運用しているネットワークを有する、いわゆる「ブラウンフィールド事業者」であり、オープンRAN導入における「出発点」がグリーンフィールド事業者とは異なることは改めて述べておきたい。

3. オープンRAN導入のメリットと課題

キャリアがオープンRANの取り組みを推し進める理由として、特定サプライヤー依存(「ロックイン」とも表現される)からの脱却が挙げられる。これまで多くのキャリアは自社が選定したサプライヤーからRAN製品を一式で調達してネットワークを構築してきた。これは見方を変えるとキャリアがそのサプライヤーに依存するということでもある。一般的に、調達において特定の売り手に過度に依存することはコストや収益性の面で不利な立場となりやすい。キャリアは、オープンRANを推し進めることにより、コスト低減を含む以下のメリットを享受できると考えられている(ただし、懐疑的な考えを示すキャリアや業界関係者も存在する)。

キャリアが期待するメリット

(1) コスト低減

  • オープン化により新たなサプライヤーの市場参入が促され、市場競争が進むことで、RAN製品の市場価格が下がる
  • スケールメリットの働きやすい汎用サーバーを利用することでハードウェアコストを低減できる

(2) 柔軟性向上

  • サプライヤーの多様化により製品の選択肢が増えて多様なエンドユーザーニーズに対応できる
  • ネットワーク機能をソフトウェア化することで機能の変更・追加に柔軟に対応できる

(3) サプライチェーン多様化

  • 特定サプライヤーへの依存度が低下し様々なリスク(カントリーリスク、セキュリティリスク、等)への対応が容易となる

ただし、オープンRANのメリットとしてキャリアが何を重視するかは、技術開発や標準化の進展、事業環境の変化等によって変わっていくものと思われる。例えば、2021年11月にキャリア担当者向けにグローバルで実施された調査では、オープンRANへの取り組みにおいて「サプライヤーの多様性を高めること/特定サプライヤーへの依存を低減すること」(該当率21%)は依然として重要視されているが、「機能導入においてより迅速かつ大きなコントロールを有すること」(該当率25%)がより重要視される結果となっている[12]。また、2021年に締結されたオープンRANに関する覚書(Memorandum of Understanding:MoU)に基づき欧州キャリア5社(Deutsche Telekom、Orange、TIM、Telefonica、Vodafone)が2022年3月に発表した「オープンRAN技術要件リリース2」の一連の文書の中では、オープンRANに求めるエネルギー効率について言及されている。オープンRANでは、クラウディフィケーション[13]、ディスアグリゲーション[14]、AI技術の活用によって、従来RANよりもエネルギー効率に優れることが期待されている[15] [16]

一方、オープンRANの課題としては、以下の点について挙げられることが多い。

指摘される課題

(1) 従来の一体型設備に匹敵する処理パフォーマンスの実現

  • 従来はRAN専用の一体型設備が担ってきた高速処理を汎用サーバーとソフトウェアによって安定して実現しなければならない(汎用サーバーのみでは不足しがちな処理能力を補うため、現在はアクセラレーターにより処理を高速化する手法が用いられている)[17] 

(2) マルチサプライヤー環境の統合(インテグレーション)

  • 相互接続性は用意されているとはいえ、商用環境でサービス提供を行う上で必要なパフォーマンスを発揮できるよう構築・検証する必要がある。
  • 仮想化RAN(virtualized RAN:vRAN)[18] においては物理リソースを適切に割り当てる必要がある。これは通信ネットワーク品質に直結する重要な要素である。

(3) 既存ネットワークとの融合・共存

  • 世界の大半の通信キャリアには既に稼働しているネットワークがある。これらの既存ネットワークはオープンRANを前提としては作られていないため、既存ネットワークにオープンRANを入れていくことはネットワーク構築・運用の複雑性を高め、サービス品質やオペレーション効率を低下させる要因となる場合がある。

4. キャリアによって異なるオープンRANへのスタンス

本稿冒頭で紹介したVodafone、Telefonica、Deutsche Telekomは一般ユーザーにサービスを提供する「パブリックネットワーク」でのオープンRAN展開を進めているが、一方で異なる展開方針を示すキャリアやオープンRANに消極的なキャリアも存在する。以下では英BT(EE)、米AT&T、米T-Mobile USのスタンスを紹介する。

BT(EE):プライベート環境を想定

BT(EE)はMWC Barcelona 2022においてオープンRAN導入方針に言及した[19] 。BT(EE)は、オープンRANのイノベーションが素晴らしいペースで進んでいると称賛しながらも、同社にとって現時点ではネットワーク構築の方法にはならないとし、あくまで顧客ファーストという前提において特定ユースケースでの利用に限定されるという考えを述べた。またその背景として、現在英国で最も優れているとするネットワーク品質を今後も維持することの必要性を挙げた。

BTはこれまでに、オープンRANとそのネットワークのアーキテクチャーの強みは現時点ではスモールセル、プライベートネットワーク、ニュートラルホスト[20] 等の環境で発揮されると述べている[21] 

AT&T:屋内ネットワークから開始

AT&TはO-RANアライアンスの立ち上げにおいて主導的な役割を担ったキャリアとされるが、VodafoneやTelefonica等と比較するとオープンRANの商用ネットワーク導入に積極的な様子はこれまでのところ見られない。同社はオープンRANの導入を2022年から始める見通しを示しているが、その対象は屋内ネットワークとしている。屋内ネットワークは屋外ネットワークほど複雑ではないからだという[22] 

AT&Tは、2021年4月に米国連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)に宛てた文書の中でオープンRAN導入に関する課題感に言及している[23] 。キャリアにとってO-RANに限らずオープンなネットワークアーキテクチャーに移行する上での課題は、ネットワークの信頼性、整合性、パフォーマンスを移行期間中も維持し続けることであると述べている。

T-Mobile US:商用導入には時期尚早

T-Mobile US は、2021年4月にFCCに宛てた文書において、オープンRANはいくつかの理由からいまだ完全な商用導入の準備ができていないと指摘している[24] 。その一例として同社は、マルチサプライヤー環境下での運用が意図されていない既存ネットワークへのオープンRAN導入の実現性に対し疑問を呈している。

ここで紹介したブラウンフィールド事業者は、既存ネットワークにオープンRANを導入することの難しさを指摘している。そもそも、VodafoneやTelefonicaらの取り組みも、まずはルーラルや局所的なエリアというネットワークの複雑性が比較的少ない領域から行われていると理解できる。楽天モバイル、Dish Network、1&1といったグリーンフィールド事業者では大規模なオープンRAN導入が行われてはいるが、それらは世界的にもごく一部の事業者であり、多くのブラウンフィールド事業者では、マクロサイト[25] ではルーラルエリアを中心とする4G/5Gサービスのカバレッジ拡大、スモールセルでは屋内カバレッジやプライベートネットワークでの利用が中心になると思われ、既存ネットワークとの本格的な融合・共存に向けてはまだ距離があると言えそうである。

5. おわりに:オープンRAN時代にサプライヤーとキャリアに求められること

最後に、オープンRAN導入の進展が予想される今後に向けて、サプライヤーおよびキャリアに求められることについてまとめる。

サプライヤー

短期的には、キャリアによって異なるオープンRAN導入方針を理解し、キャリア(場合によってはプライベートネットワークを求める企業顧客)のニーズに沿った製品を提供することが重要となる。

中長期的には、技術やエコシステムの成熟度に関するキャリアの懸念を解消していくことで多くのキャリアを顧客にできる可能性があるとともに、ブラウンフィールド事業者の既存ネットワークとの融合・共存の方法をキャリアとともに確立していくことが必要となる。VodafoneやTelefonica等のブラウンフィールド事業者ながらオープンRANを積極的に推し進めるキャリアの取り組みや、日本国内で得た知見を武器に海外キャリアへのオープンRANベースのネットワークソリューション提供を本格化している楽天モバイル/楽天シンフォニーの今後の展開が注目されるところである。また、エネルギー効率の観点など、キャリアから新たに提示されるニーズへの対応も求められる。

キャリア

キャリアは、マルチサプライヤーによるRAN構築を志向する場合は、マルチサプライヤー製品を統合するインテグレーション能力(またはインテグレーターをマネジメントする能力)が求められる。MWC Barcelona 2022において、Turk Telekomは様々なサプライヤーの製品を組み合わせて運用していくことは簡単ではないとし、現時点ではシステムインテグレーターの活用は避けられないと指摘している[26] 。また、オープンRANへの継続的な取り組みによってキャリアは将来的にはオープンRANを自ら扱うことができるようになるだろうとも述べている(図3)。

【図3】MWC Barcelona 2022オープンRAN関連パネルセッションの様子

【図3】MWC Barcelona 2022オープンRAN関連パネルセッションの様子
(出典:MWC Barcelona 2022「OpenRAN: The Next Step」)

今後、サプライヤーがどのような技術革新を成し遂げ、どのようなソリューションを提案するのか、そしてキャリアがどのようにインテグレーション能力を高めつつオープンRANのメリットを生かしたネットワークを構築していくのか、更なる展開に注目したい。

[1] 「O-RAN」という表現はO-RANアライアンスが策定しているオープンRAN規格を指す場合が一般的だが、オープンRAN(Open RAN)の略称として用いられる場合もある。

[2] Vodafoneニュースリリース“Vodafone becomes first UK mobile operator to switch on live OpenRAN site”(2020/8/6)

[3] Vodafoneニュースリリース“Vodafone selects key partners to build Europe's first commercial Open RAN network”(2021/6/14)

[4] Vodafoneニュースリリース“Vodafone switches on first 5G OpenRAN site”(2022/1/19)

[5] Vodafoneニュースリリース“OpenRAN in ‘30% of Vodafone European network by 2030’ ”(2022/2/28)

[6] Telefonicaニュースリリース“Telefónica and NEC to build Open RAN live pilots in 4 global markets as a key milestone toward mass deployment”(2021/9/14)

[7] 比較的狭いエリアをカバーするサイト。

[8] Telefonicaニュースリリース“O2 / Telefónica aktiviert Deutschlands erste Open RAN Mini-Funkzellen”(2022/1/17)

[9] MWC Barcelona 2022,“OpenRAN: A Vision of 5G and the Future of 6G”

[10] Deutsche Telekomニュースリリース“Telekom switches on O-RAN Town in Neubrandenburg”(2021/6/28)

[11] Deutsche Telekomニュースリリース“MWC Barcelona 2022: From pocket-sized TV productions,‘Angels’and Beethoven and technology for people”(2022/2/21)

[12] Light Reading,“Designing and deploying cloud native open RAN”(2021/12/27)

[13] RAN製品においてクラウド技術を用いること。

[14] RAN製品がハードウェアとソフトウェアに分離された状態。

[15] O-RANアライアンス(https://www.o-ran.org/ecosystem)

[16] テレコム・インフラ・プロジェクト(https://telecominfraproject.com/OpenRAN-MoU-Group/)

[17] 従来サプライヤーからは、現時点ではオープンRAN 製品の性能は従来の一体型 RAN製品に及ばず、ユニット単位でコストを比較してオープンRAN製品の採用によってコスト削減を達成できたとしても処理性能には差が生じる、という指摘がなされている(https://ecfsapi.fcc.gov/file/1117953022367/ Ericsson%20Open%20RAN%20ex%20parte%20Nov%2017%20FINAL.pdf)。

[18] 仮想化技術を用いて汎用サーバーに実装したソフトウェアでRAN機能を実現する仕組み。

[19] MWC Barcelona 2022,“OpenRAN: The Next Step”

[20] 通信キャリアに貸し出すことを目的に外部事業者が保有・提供する通信インフラ設備。

[21] Fierce Wireless,“BT, Orange like open RAN for private networks before macro”(2021/9/8)

[22] Light Reading,“AT&T to take open RAN indoors first”(2021/6/14)

[23] FCC(https://www.fcc.gov/ecfs/file/download/AT
&T%20Comments%20to%20FCC%20NOI%20(04.28.21).pdf?folder=1042871504579)

[24] FCC(https://ecfsapi.fcc.gov/file/10428043552
3172/T-Mobile%20Comments%20on%20Open%20
RAN%20NOI.pdf)

[25] 広いエリアをカバーするサイト。

[26] MWC Barcelona 2022,“OpenRAN: The Next Step”

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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