世界の街角から:福岡県糟屋郡新宮町相島
コロナ禍の2021年8月、前年度から継続している業務のため福岡県糟屋郡新宮町相島へ向かった。当時は福岡県から緊急事態宣言の延長がなされるなど、世の中では「第5波」のタイミングであった。
当然、積極的に出張できる状況ではなかったが、万全の準備(ワクチン接種、PCR検査)をおこなうことで島への渡航が許可されていた。本稿では、コロナによる緊急事態宣言下での福岡県や離島である相島の様子を紹介していく。
コロナ禍の福岡
航空会社における「ドル箱」路線といわれる、羽田―福岡路線を利用する機会は過去にもあったが、通常であれば福岡路線は、観光客、ビジネス利用客等で、どの時間帯も機内は満席に近い状態であると認識していた。ところが、コロナ禍ということもあり、当時の機内は空席が目立ち、自身の座席も1列に1人という状況であった。であれば、他の搭乗客がいないのでリラックスできるかと思っていたが、そこまで機内に搭乗客がいないと、逆に客室乗務員から忘れられていないかと不安になるほどの静かなフライトであった。
福岡空港へ降り立つも、空港内は閑散としており、土産店も臨時閉店していた。博多駅近くのホテルを予約していたため、博多駅を降りホテルに向かったが、その途中でも同様で、普段は賑やかな駅前広場であるが、当時は、大規模なPCR検査会場となっており、受検する人が列を作っていた。
駅ビル内の店舗についても臨時休業もしくは時短での営業がほとんどであり、飲食店においては、チェーン店も含め時短営業もしくはテイクアウトのみの営業となっていた。
出張者が出張先での食事を考える際には、ネットで近場の「美味しい店」や「人気・行列」などを検索することが多いと思うが、この時は緊急事態宣言の延長が騒がれていたため、飲食店も営業時間帯の判断を当日決め、店舗を開いていたようだ。そのため、検索結果では「通常営業」と記されていても、いざお店の前に行くと「臨時休業」になっているなど、リアルタイムで飲食店の営業時間を把握することが難しく、スマホをもってウロウロしつつ飲食店の前まで到着するも、結局食事にはありつけない状況が続いた。そのため、夕食はコンビニエンスストアで弁当を購入し、ホテルの部屋で食べることになった。
ホテルのレストランについても同様に臨時休業となっており、食事の提供は皆無であった。出張者にとって僅かな楽しみである、ホテルの朝食も中止となっていたため、結局は前夜にコンビニエンスストアでおにぎり等を購入し朝食としていた。
美味しい食事を楽しみにしていた博多ではあるが、残念なことに、朝夕ともホテルの部屋でのコンビニご飯での食事となった。
新宮町の有人離島 相島
今回の出張での目的地である、相島について紹介したい。相島は福岡県糟屋郡新宮町に属している有人離島で、位置は福岡市の北、玄界灘に位置し、糟屋郡新宮町の新宮漁港から北西約7.5㎞の距離にある。島の形も特徴的であり、「ハート型」の島として飛行機で上空から見ることができる(写真1、2)。
島の大きさとしては、面積が1.22㎢、外周6.9㎞と、徒歩で半日もあれば、島内を散策できるサイズの島である。
島までのアクセスは新宮町漁港から相島港間を結ぶ、町営渡船(フェリー)「しんぐう」にて20分程度(写真3)。
人口は270人[1]程度であり、高齢化率が60%とやや高い状況。新宮町では、相島の人口減少と少子高齢化を改善すべく、島民や各種団体からなる相島活性化協議会を発足し、産業振興や移住促進を進めている。
観光としては島の北東、長井浜に「相島積石塚群」があり、当初、積石群が発見された時は、「元寇時の防塁」や「元寇戦死者の墓」と考えられていたが、その後の調査で、これまでの説が覆り、4~7世紀代に造られた古墳群として、現在までに254基の石塚群が確認されており、平成13年8月には、国指定史跡となっている(写真4)。
産業としては、ほとんどの世帯が漁業に従事しており、島の一部においては、大手真珠ブランドの養殖場がある。
そして、特徴的なのが相島は「猫の島」として有名で、「CNNが選ぶ世界猫スポット[2]」にも選ばれており、島内のいたるとこに猫がたくさんいることだ。猫は島民にも可愛がられており、コロナ以前は猫目当ての観光客が国内外から大勢来島していたことから、人懐こい猫が生息している。島民に猫の数を聞いてみると、実際の数は把握されていないが「島民より多い」とのことで、筆者が現地のベンチに座っていると、たくさんの猫が寄ってきて、膝や肩の上までよじのぼった(写真5、6)。
のどかな島風景のなかで、島内のICTについて観察すると、島民や観光客が往来に利用する、渡船フェリー「しんぐう」のチケット販売機が確認できる(写真7)。島内では数少ないICT機器だと思われるが、相島においては、令和2年度に「高度無線環境整備推進事業」の補助金が交付され、海底光ファイバーの整備が完了し、高速・大容量無線通信の利用が既に可能となっている。今後はICT活用の高度化に伴う、移住・定住促進や教育、観光、漁業等の分野でのICT利活用が進んでいくことが期待されている。
日本における島嶼(とうしょ)
前述にて紹介したとおり、相島においては、国の補助金を活用した海底光ファイバー整備がなされ、島内でのICT高度利用が進むことが期待されているが、政府が進める「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」では、日本全国の離島への海底ケーブル等整備を進めることが検討されている。
本稿の最後では、「島国」としての日本における、島嶼の構成について触れておく。
日本は14,125の島嶼から構成されている。このなかには本州、北海道、四国、九州、沖縄本島の5島が含まれており、この5島を除いた14,120が離島と定義されている。この数だけ聞いても「日本は島国」という言葉があてはまるが、この14,120の離島のうち有人島[3]は416島あり、有人島のうち離島振興法などの法対象となる島は305島となる。一方で無人島は13,705島もあり、日本の離島におけるほとんどが無人島であることも驚くべき事実であるが、これらの無人島も含む離島の立地により、日本の領域や海洋資源の利用など、排他的経済水域等が確保されており、その面積が約447万㎢(世界6位の広さ)と国家戦略的にも重要な役割を担っている(図1)。
島嶼の役割
前述のとおり、排他的経済水域を今後も国家資産として活かすためにも、離島への高度インフラ推進は国家戦略として重要であることが窺える。
今回は相島を訪れた機会に合わせて、日本の島嶼の構成について記したが、約300島ある有人離島を今後も訪れる機会があれば各島の状況を記していきたいと考えている。
ちなみに事前に調べた結果、コロナ禍での相島ランチは「コンビニで購入し持参するのが良い」と判断したために、福岡での食事すべてがコンビニエンスストアで購入することになったのは残念であった。せめてもと、相島では、港で海を見て、猫とたわむれながらおにぎりを食べるのをイメージしていた。ところが、港でおにぎりを取り出した瞬間に数十匹の猫に周りを囲まれて、海岸線を逃げながらおにぎりを食べることになった。目論見は外れてしまったが、良い思い出となった。
[1] 相島活性化協議会 https://aino-shima.net/
[2] http://edition.cnn.com/travel/article/where-cats-outshine-sights/index.html
[3] 令和2年国勢調査結果に基づく有人離島の数を都道県に聞き取り。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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