サイバネティック・アバターとプライバシー ~3段階の展開・転回を踏まえて~ 「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載5回
1.CAとプライバシー
サイバネティック・アバター(CA)において、プライバシーが重要な法律問題として指摘されている[1]。例えば連載第3回において検討したVTuber裁判例の中にも、(秘匿されていた)VTuberの「中の人」が誰であるかを暴露したことがプライバシー侵害とされた事例等が含まれている[2]。
ここで、プライバシーについて、山本龍彦は三段階の展開・転回を指摘する。すなわち、プライバシー論は、歴史的に見て、「宴のあと」事件[3]における古典的な私生活秘匿権から自己情報コントロール権へ、そして構造論へと展開・転回しているという[4][5]。本稿は、このような三段階にわたる展開・転回を踏まえ、CAとプライバシーの問題を私生活秘匿権(2)、自己情報コントロール権(3)、そして構造論(4)という3類型に分けて検討する。
なお、CAとプライバシーに関する重要論文として、石井夏生利「サイバネティック・アバターとプライバシー保護を巡る法的課題」[6]や同「アバターのなりすましを巡る法的課題:プライバシー保護の観点から」等[7]、CAのプライバシーを「なりすまし」の観点から検討する論文がある。たしかにCAの「なりすまし」は重要な問題である[8]。しかし、なりすましという問題に関連する権利利益は、プライバシー以外にも肖像権、名誉権、氏名権、アイデンティティ権等多岐にわたる。よって、第8回において「なりすまし」について別途総合的に検討したい[9]。
また、いわゆる自己決定権や自律権としてのプライバシーも重要であるものの、本稿はいわゆる情報プライバシーに限定して検討する[10]。
2.私生活秘匿権
(1)「宴のあと」基準
宴のあと事件においては、いかなる場合に私生活の公開が違法となるかという文脈において、「公開された内容が(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること、(ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によつて当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする」と判示されている。すなわち、私生活の公開事案で、①私事性、②秘匿性及び③非公知性の要件を充足した場合にプライバシー侵害となることが示されたものである。現時点でも様々な裁判例において、この「宴のあと」基準が適用されている[11]。この基準が適用される典型例はVTuberの中の人を晒す行為によるプライバシー侵害の事案である[12]。
なお、プライバシー侵害について違法性阻却が問題となることがある。一般には比較衡量による判断の結果として、違法性の有無や受忍限度の範囲内か否かが判断される。例えば最高裁は、前科に関し、ノンフィクション逆転事件[13]では「ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない」とした。長良川事件[14]においても、最高裁は、上記ノンフィクション逆転事件を引用して「プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する」とした上で「本件記事が週刊誌に掲載された当時の被上告人の年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによって被上告人のプライバシーに属する情報が伝達される範囲と被上告人が被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要」としている。
(2)CAの活動の保護
ア 秘匿性が認められ得るCAの活動
CAは様々な活動を行っているところ、CAの活動の中には例えばVTuberがその配信する動画内で実施する活動のように、基本的にプライバシーの問題がないようなものはあるだろう[15]。
しかし、CAの活動内容によっては秘匿性を有することもあり、それがますます増加していることを指摘しておきたい。例えば「お砂糖」とも呼ばれる恋愛関係等がメタバース上で成立するところ、そのような関係にあるCA同士のメタバース上における活動に秘匿性が認められることはあるだろう。また、メタバースで寝る人も増えているところ、寝言等の睡眠中の言動にも秘匿性が認められることはあるだろう。
そして、アバターを透明化して他人(この場合はプライバシー侵害の被害者)に見えないようにすることで、密かにこのような様子を覗き見たり、メタバース上のワールドの設計の際に、当該ワールドにおいて発生しているCA同士のやり取りをすべて密かに録画したりすること等は、技術的には可能である。
このような秘匿性が認められるCAの活動が、例えば2人だけのプライベートな空間で行われていれば、非公知性があり、それを密かに公開する等の行為は受忍限度を超えると判断されるだろう[16]。
イ メタバースのオープンスペースでの活動に関する議論
しかし、公道等のいわゆるパブリックスペースにおける行為については、撮影等を受忍すべきだとされ、少なくとも、違法性が阻却されないかを比較衡量に基づき判断する際において本人にとって不利に解される可能性がある。そして、CAについても「プライベート性のないメタバース上の空間について、公道などと同じく撮影等を受忍すべきパブリックスペースと捉えるべきかは、引き続き議論すべき課題との見解も示されている」[17]とされる。
ここで、メタバースでは特定少人数のみに限定した交流が可能な空間が構築され、その中において秘匿性の高い内容も含む情報のやり取りがされているという場合がある。このような空間であれば、パブリックスペースという理解は及ばないだろう。
問題は、一応オープンワールドであって、誰でも自由に入ることができるものの、時間帯であるとかそのワールド全体における位置関係等を踏まえ、(本人たちが既に想定している一部の人を除く)他人に見られることはないだろう、と考えて行った活動である。このような、潜在的には誰でも見ることができるものの、実務上は見られないという状況をどのように評価すべきか、以下非公知性と違法性阻却事由について検討しよう。
ウ 非公知性
一般には、一部で公開し/されているだけでは、ただちに非公知性は否定されないとされている。
例えば、石に泳ぐ魚事件控訴審[18]は、「被控訴人の顔に大きな腫瘍があること」も含めた事実関係を「いずれも被控訴人がみだりに公開されることを欲せず、それが公開されると被控訴人に精神的苦痛を与える性質の事実というべきであるから、本件小説の公表はプライバシーの侵害に当たるというべきである」としている[19。そして、普段の生活で顔を晒しているからといって、その外貌に関わる事実を本人の意思と関係なく公刊物で公表してよいことにはならないとも指摘されているところである[20]。
また、インターネットに関し、既に一部掲示板やSNSで同種の投稿がされていても、それだけを持って非公知性は否定されないとする裁判例が多い[21]。
そこで、いわばメタバースの片隅で潜在的には誰でも見ることができるものの、実際上はほとんど誰にも見られないという状況において行った行為というのは、それが単に見ようと思えば見ることができたというだけで、直ちに非公知性は否定されないだろう。
エ 違法性阻却事由
そして違法性阻却事由についても、その具体的な状況において問題となる事実を公表されない法的利益がどのようなものかに基づき判断されるだろう。
例えば、メタバースの規約がどのようになっているか、そのメタバースを利用するCAユーザーの間においてそのような行為が公開されることを予期しているか(CA同士の撮影を含む交流においてどのような慣習があるか)、何らかの予期がされていたとして、具体的な撮影や公開の態様等がそのような予期の内容と合致しているか等が判断要素とされるのではなかろうか。
なお、「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」[22]や「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」[23]等の議論は一定程度参考になるものの、その状況において撮影されていることが予見される/予見できるようにしているか、という点において、リアルワールドとメタバースでは相違がある場合も多いように思われる。だからこそオープンメタバースにおいては運営事業者がガイドライン等を公表して、そのような予見を可能とすることが重要である。
3.自己情報コントロール権
(1)メタバースにおける情報漏えいに対するコントロールの必要性
メタバースにおいても、情報漏えいが発生している。例えば、企業の開設したメタバースで情報が漏えいしている等とする報道がある24。また、漏えい事故に備えたメタバース情報漏えい保険も売り出されている25。
そして、江沢民事件26において、最高裁は学籍番号、氏名、住所及び電話番号につき、「このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」として本人に無断での警察への提供を違法とした。また、ベネッセ事件27においても最高裁は、氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所及び電話番号等について「上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである」とした上で、かかる情報が漏えいしたことでプライバシーを侵害されたとする。
上記のようなメタバースの情報漏えいに対しては、そこで漏えいした内容が住所氏名等いわゆる宴のあと基準を満たすものでなくとも、プライバシー侵害が認められる可能性がある。
(2)CAと自己情報コントロール
ここで、自己コントロール権説の一部である自己のイメージコントール説28がCAにおいて脚光を浴びている。石井は「サイバネティック・アバターとプライバシー保護を巡る法的課題」29において、CAを用途に応じて使い分けられるのが自己のイメージコントロール権を行使する行為だとする30。
ペンネームで小説を書くこと等を通じて、どのようなイメージを誰にどのような範囲で見せるかのコントロールをすることは元々可能であった。その後、SNSの匿名アカウント等によってその可能性が増大した。そして、CAはまさに外見(年齢、性別)、声(ボイスチェンジャー)、空間等の現実世界において存在する多様な制約を突破して、自由に、そのなりたい自己を、(多くの場合には、空間を選択し、場合によっては空間そのものを独自に作り上げることにより)存在したい空間において実現することができる可能性があるところにその特徴がある31。
このように、自己情報コントロール(自己のイメージコントロール)を実現するためにCAを利用するという側面があることからは、CAにおいてはその自己情報コントロールを尊重するべきであり、かかる側面は具体的な事案におけるプライバシーの法解釈論においても反映されるべきであろう。
4.構造論
構造論は、情報システムやデータベースは、畏怖の対象でありながらも不可避、という両義性を有していることから、システム構築を前提に、その構造やアーキテクチャーをどのように設計すべきか、どのように濫用の危険を防ぐかという点について関心が高まり、いわば建造物の耐震構造検査にも似た構造審査が行われるべきとする32。
住基ネット最高裁判決33は、管理対象情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報である氏名、生年月日、性別及び住所から成る4情報等に過ぎないこと、「住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令等の根拠に基づき、住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと、受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は、懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること、住基法は、都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を、指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして、本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない」こと等からこれを合憲とした。
マイナンバー最高裁判決34も、番号利用法が個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うことに加えて、特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこととしており、規制の実効性を担保するため、これらに違反する行為のうち悪質なものについて刑罰の対象とし、一般法における同種の罰則規定よりも法定刑を加重するとともに、独立した第三者機関である委員会に種々の権限を付与した上で、特定個人情報の取扱いに関する監視、監督等を行わせることとし、また、番号利用法の下でも、個人情報が共通のデータベース等により一元管理されるものではなく、各行政機関等が個人情報を分散管理していること等から、上記システムにおいて特定個人情報の漏えいや目的外利用等がされる危険性は極めて低いこと、さらに、個人番号はそれ自体では意味のない数字であること、情報提供ネットワークシステムにおいても特定の個人を識別するための符号として個人番号が用いられていないこと等から、仮に個人番号が漏えいしたとしても、直ちに各行政機関等が分散管理している個人情報が外部に流出するおそれが生ずるものではないし、個人番号が漏えいして不正に用いられるおそれがあるときは、本人の請求又は職権によりこれを変更するものとされていること等を総合すると、「番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等に関して法制度上又はシステム技術上の不備があり、そのために特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない」とした。
これらは憲法13条の解釈論ではあるものの、どのような構造(法制度やシステム技術上の構造等)が存在し、それによって法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているか否かを問題としたものと理解される。
メタバースにおける構造やアーキテクチャー35がCAのプライバシーを保護するようなものとなっているかという点は、この構造論から問題となるだろう。特に、プラットフォームが場合によっては国家以上に多くの情報を収集しているところ、Metaのように、元々巨大プラットフォームとして多数の情報を収集済みの事業者がメタバースを運営することもある。このような観点からは、CAのプライバシーやその活動の自由を守るため、利用規約や撮影に関する技術的禁止等を含むメタバースプラットフォームの努力が重要であり、それが不足した結果として、プライバシー侵害が発生した場合、場合によってはプラットフォームが責任を負うべきとされることもあるだろう。
5.CA活動の自由を守るために
それでは、どのように、メタバースをプライバシーの観点からCAにとって安全安心な場所とするべきだろうか。
ここで、筆者としては、各メタバースがそれぞれのポリシーを持つこと自体は問題がないと考える。すなわち、一部のプラットフォームの利用規約では、空間内に持ち込まれるコンテンツが権利処理されているものであることを前提として、当該プラットフォーム内におけるスクリーンショット撮影やカメラ撮影を、相互に、許可なしに行えるルールとしているものがある36ところ、筆者としてそのような相互の撮影を可能とするポリシーを持つこと自体が直ちに問題だとは考えていない。
但し、以下の4点には留意すべきだろう。
まずはそのポリシーないしルールを周知し、執行することである37。例えば、原則として当該プラットフォームでは相互に撮影可能であり、それが嫌であればプライベート空間を利用し、当該空間内に招待する相手に撮影をしないことを約束させる等、どのようにすればそのメタバース上でCAのプライバシーを確保することができるかをユーザーに丁寧に教示する等が最低限必要だろう。また、ユーザーの利用方法が必ずしも、ルールに整合していない場合において、プラットフォーマーがモデレーションでルールに整合させようとしない場合(例えばルール上は撮影禁止であるにもかかわらず、通報されてもプラットフォームが対応しない場合)には、そのようなプラットフォーマーの行為が問題となることがあるだろう。
また、ユーザーの利用によって慣習が成立することがある。例えば、ルール上は相互に撮影可能でも、「この範囲では撮影しない」という慣行が形成されることがあり、そのような慣行に対する期待を保護すべき場合もあるだろう。
さらに、通常のSNSよりもCAの方が保護すべき情報の多様性があるという点も指摘できる。すなわち、CAであれば例えばモーショントラックにより身体全体の動きを反映させたり、表情をトラックさせたりする等、広範囲の情報を反映させることができる。このような観点からは、CAとの関係でも安易にSNSと同程度の構造(プライバシーの観点からの安全性)であれば大丈夫だ、と判断すべきではない。つまり、メタバースにおいては、いわゆる構造審査において要求されるプライバシー保護のレベルが上がるということが指摘できよう。
加えて、ユーザーが必ずしもルールを詳細に確認しないこと等からは、プライバシーバイデフォルト、つまりデフォルトでプライバシーが守られるようにすることや、プライバシーデザインで事前の設計においてプライバシーが守られるようにすることは、直ちに義務ではないものの、それは望ましいベストプラクティスであろう38。
本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授及び情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員に貴重な助言を頂戴し、また、早稲田大学博士課程杜雪雯様及び同修士課程宋一涵様に脚注整理等をして頂いた。加えてWorld Trend Report編集部の丁寧なご校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。
- 誠子夜火猫(金子敏哉)「知的財産権の対象としてのアバターの名前・肖像(あるいは私自身)」法学教室2023年8月号を参照。なお、メタバースにおいても参照の可能性の高いプライバシーに関する書籍として、斉藤邦史『プライバシーと氏名・肖像の法的保護』(日本評論社、2023)は必読である。
- 東京地判令和2年12月22日(D1-law文献番号29063032)及び東京地判令和3年6月8日(D1-law文献番号29065053)参照。
- 東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号2317頁。
- 山本龍彦『プライバシーの権利を考える』(信山社、2017)3頁以下。
- なお、近時、いわゆる四段階目として、曽我部説(例えば曽我部真裕「憲法上のプライバシー権の構造について」毛利透編『人権II』所収)や音無説(音無知展『プライバシー権の再構成:自己情報コントロール権から適正な自己情報の取扱いを受ける権利へ』(有斐閣、2021))等が論じられることがある(その批判的検討につき、斉藤前掲注1・28頁以下)が、ここでは言及しない。なお、斉藤は、最高裁がプライバシーに「属する」情報(プライバシー固有情報)と「係る」情報(プライバシー外延情報)を区別(斉藤前掲注1・84頁以下)するとした上で、人格的自律権説では自己情報コントロール権の枠外とされるプライバシー外延情報について、私人間における手段的・予防的保護法益を補完的に提供するものとして信頼としてのプライバシーの意義を論じる(斉藤前掲注1・101頁)。
- 石井夏生利「サイバネティック・アバターとプライバシー保護を巡る法的課題」人工知能36巻5号(2021)578頁以下。
- 石井夏生利「アバターのなりすましを巡る法的課題:プライバシー保護の観点から」情報通信政策研究6巻1号(2022)1頁以下。
- メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」(2023年5月)<https://www.kantei.go.jp/ jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten_seiri.pdf>(2023年8月10日最終閲覧、以下同じ)33頁も参照。
- なお、複数名の「中の人」がいたり会社が運営したりしているCAの場合に関連し、取締役会議事録等の会社関係の文書が公開された事案(大阪高判平成17年10月25日平成17年(ネ)第1300号裁判所HP)では、任意開示等した取締役会議事録をみだりに公表されることがないという会社の期待ないし利益は法的保護に値するとされており、法人が問題となっているにもかかわらず、一種のプライバシー的な利益の保護を認めている(佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務』(弘文堂、第3版、2020)181-183頁は反対)ところ、本稿ではこの点をこれ以上深くは検討しない。
- この点については、新保史生『プライバシーの権利の生成と展開』(成文堂、2001)96頁以下(特に135頁以下)及び410頁以下を参照。
- 松尾剛行著『最新判例にみるインターネット上のプライバシー・個人情報保護の理論と実務 [勁草法律実務シリーズ]』(勁草書房、2017)91頁。
- 前掲東京地判令和2年12月22日及び東京地判令和3年6月8日参照。
- 最判平成6年2月8日民集48巻2号149頁。
- 最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁。
- なお、上記のとおり、そのVTuberの活動について「このVTuberの中の人は●だ」と投稿することはプライバシー侵害になり得る。
- スワッピングパーティーにおいて全裸で立っている写真の掲載について東京地判平成2年3月14日判時1357号85頁は写真をみだりに公表されないという利益の要保護性を認める。佃・前掲注9)134頁はこれをプライバシーとするところ、これと同様に考えることができそうである。
- Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会報告書」(2023年7月18日)<https://www.soumu.go.jp/main_content/000892205.pdf >33頁。
- 東京高判平成13年2月15日判時1741号68頁。
- なお、上告審である最判平成14年9月24日集民207号243頁は「原審の確定した事実関係によれば、公共の利益に係わらない被上告人のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にない被上告人の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害された」としている。
- 佃・前掲注9)136頁。
- 松尾・前掲注11)113-114頁。大阪地判平成24年7月17日裁判所HP参照(平成23年(ワ)第4576号)、東京地判平成26年7年17日(Westlaw Japan文献番号2014WLJPCA07178001)、大阪地判平成20年6月26日判タ1289号294頁等を参照。なお、例えば東京地判平成9年12月22日判時1637号66頁は公開チャットの内容に対して直ちにプライバシーにあたらないとせず、事実認定の問題として処理(佃・前掲注9)196頁参照)しているところ、一度公表されても態様は様々で、現実にどのように公開利用されているかにより個々の結論が異なるとされる(佃・前掲注9)197頁)。
- IoT推進コンソーシアム、総務省、経済産業省「カメラ画像利活用ガイドブック0」(2022年3月)< https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220330001/20220330001-1.pdf>
- 個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」(2023年3月)<https://www.ppc.go.jp/files/pdf/ cameragazou_yushikisyakentoukai_houkokusyo.pdf>
- Jurgita Lapienytė, Siemens Metaverse exposes sensitive corporate data, April 17, 2023, available at https://cybernews.com/security/siemens-metaverse-data-leak/.
- https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2666A0W3A120C2000000/
- 最判平成15年9月12日民集57巻8号973頁。
- 最判平成29年10月23日判時2351号7頁。
- 棟居説及び曽我部説、なお、この相違について石井・前掲注7)I-A6-7頁参照。
- 石井・前掲注6)581頁。
- 成原慧「メタバースのアーキテクチャと法:世界創造のプラットフォームとそのガバナンス」Nextcom52号(2022)27頁も参照。
- 「メタバースと現実世界の大きな違いは、アバターを用いることで外見の制約から解放される点にある。ユーザーは、アバターを自由にカスタマイズし、メタバースの世界では、なりたい自分になることができる」(石井・前掲注7)I-A4頁)、「外見を自由にコントロールできることは、自己のイメージや自己像を自由に形成できることを意味し、自己の希望する態様でメタバースという新たな世界に参加することを可能にする。」(石井・前掲注7)I-A5頁)等参照。なお、分人(平野啓一郎『私とは何か:「個人」から「分人へ」』(講談社、2012))の概念は、このようなアバターを利用した複数の自分とその自己実現を示す意味で重要な概念である(石井夏生利「自己イメージの形成とアイデンティティ権-メタバースのアバターを中心に-」情報通信政策研究7巻1号I-B3頁)。
- 山本・前掲注4)9-11頁。
- 最判平成20年3月6日民集62巻3号665頁。
- 最判令和5年3月9日裁判所HP参照(令和4年(オ)第39号)。
- 成原慧『表現の自由とアーキテクチャ』(勁草書房、2016)19頁等参照。
- メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議・前掲注8)42頁
- プラットフォームとは異なる文脈であるが、著作権者が、二次創作ガイドラインでやって良いこと、悪いことを定めたり、ゲームメーカーが配信ガイドラインで、ゲーム配信の条件(例えば「配信禁止区間」の設定)等を明記したりしていることもこれに類似するだろう。
- そして、このような考えは手続保障を重視する方向性と言えるところ、結果的には新保説(新保・前掲注10))とも相通じるところがあるように思われる。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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