2023.9.28 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ビジネス・プロセス・アウトソーシング市場の動向

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ビジネス・プロセス・アウトソーシング(以下、「BPO」という)は、業務運営を担う組織ではよく耳にする語である。これまでの自組織において社員・構成員を自ら抱えて業務運営を行うという形態と比較して、当該組織以外のリソースを活用して運営する形態であり、多くの組織が人手不足に直面する状況にある今日の日本においてその関心は高いと思われる。本稿ではBPO市場の動向を概観していくこととしたい。

1.BPOの定義

BPOの定義について考察する。まず公共機関の定義を調べてみたが、近年明確な定義を述べている資料を見つけることはできなかった。なお、時期が古くなるが、経済産業省が2014(平成26)年に公表した「サービス産業の高付加価値化に関する研究会報告書」では、BPOサービス(Business Process Outsourcing)として、「事務処理的なバックオフィス業務の一部の外部委託。財務会計、給与計算、採用、人材育成、コールセンター、マーケティングなど」と紹介されている。[1]

次に、BPO事業を展開している企業や調査会社のサイトで確認してみたが、おおよそ前出の定義と同じであった。

以上から推察するに、BPOとは端的には「業務プロセスを外部に委託すること」と言えるのではないか。但し、単なる委託にとどまるのではなく、BPOの実施により、発注者は業務の効率化や改善が実現されることを期待しており、受託側は受託する業務の運営経験や効率化等のノウハウを活用し、発注者の期待に応えることが求められていることに留意すべきであろう。

2.BPO市場の動向

前節で述べたように市場の定義が具体的でなく市場の確定を行うことが厳しいと見込まれることから、ここでは、市場の動向に関して代表的なBPO企業の直近の決算資料(公表されているもの)から定性的な特徴を読み取っていく。なお、代表的な企業としては、いくつかのサイトで代表的なBPO企業として名前が記されている企業のうち決算資料が公表されている6社とし、具体的には、トランス・コスモス株式会社、富士通株式会社、凸版印刷株式会社、株式会社パソナ、りらいあコミュニケーションズ株式会社、株式会社ベルシステム24とした。また、海外市場に関する記述は、それと判別できるものは取り上げていない。

まず市場の成長・発展については、成長が見込まれるとする企業が多く、その要因として、多くが人手不足とコロナ禍を経ての生活様式の変化を挙げている。

トランス・コスモス株式会社は「進展するデジタル技術や長引く人手不足などを背景に、引き続き、アウトソーシングサービスに対する底堅い需要が続いて」おり、その背景として進展するデジタル技術や長引く人手不足を挙げている。また、富士通株式会社は、BPOとは言及していないものの、「レガシーシステムのリプレイスメントやモダナイゼーションへの投資は今後も堅調に増えると予測」しており、「さらに、AI(人工知能)やデータ活用などデジタル化に向けた投資は、(中略)社会システムや生活様式の変化に向けたニーズもあり、今後も拡大する」としている。凸版印刷株式会社でも「生活様式の変化に伴うデジタル需要の増加や地球環境に対する意識の高まりなど、新たな需要が見込まれて」いるとしており、パソナ株式会社も、「BPOサービスの需要は引き続き強く、(中略)前期に続いてwithコロナへと社会環境が移行する中で、(中略)民間企業からは(中略)DX推進に関連した需要が継続してい」る、との認識だ。

また、りらいあコミュニケーションズ株式会社は株式会社KDDIエボルバと2023年9月に経営統合し新会社を発足させているが、前者は、その背景について、合併契約締結のお知らせの中で、「業界においては日本国内の労働人口の減少等の構造的な要因により今後も堅調に推移することが予想されております。(中略)しかし、(中略)競争環境の激化と、労働市場のひっ迫は想定以上のスピードで進んでおり、コンサル領域・IT 領域を中心とした機能強化による高付加価値化・差別化や、デジタル技術の活用による人的リソースに依存したビジネスモデルからの変革が急務となっております。」としており、市場の見方は他の代表的な企業と同様であると窺える。

では、次に、どのように発展していくのか、である。それについては、以下の点が見て取れる。まず、BPOにより提供するサービスは単なる人材の提供にとどまらず、むしろデジタル技術の活用と組み合わせて人手不足をカバーし、高付加価値化を実現することが期待されていること。そして、そのデジタル技術は、メタバース、生成AI、VOC等を想定していると窺えることである。

例えば、トランス・コスモス株式会社は、「コロナ禍で再認識されたDXの推進やカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上に向けた課題解決につながるサービスへのニーズが高まってい」る、との認識だ。そしてメタバースの活用について、「VR(仮想現実)およびAR(拡張現実)技術を用いたバーチャル空間とVR接客サービス」の一部企業への提供開始により、「Web上でリアル店舗に訪れたような臨場感でショッピングを体験することが可能とな」るとする。また、生成AIについては「顧客接点のデジタルフロントをすべてカバーする(中略)サービスの強化へ向けて、(中略)ChatGPTを活用したサービスの開発を推進し」、「独自のチューニング、学習手法、運用技術の開発を行い(中略)サービスの高度化を実現」するとともに、「自社で提供しているサポートデスク支援ツール」に、「生成AIを活用した(中略)サービス提供を開始」することで、「サポートデスク利用者が求めている回答を均一な品質で素早く提供することが可能となり(中略)お客様企業の業務最適化を実現」する、としている。

富士通株式会社と凸版印刷株式会社は前出のとおり、AIやデータ活用などデジタル化にニーズがあり拡大すると見込んでおり、ベルシステム24株式会社は「顧客接点多様化に伴う対応領域の拡大とVOC(Voice Of Customer)などを駆使したデータ活用により、業務品質や付加価値の向上に努めるとともに、新たな事業領域開拓が求められている」としている。

3.営業の最前線―「自治体DX展」訪問記―

前節までBPO市場の定義、市場の動向について見てきた。市場の動向においてはその特徴として発展が見込まれていること、また発展はデジタル技術の活用による人手不足のカバーと高付加価値化の実現を通じたものとなること、具体的なデジタル技術としては、メタバース、生成AI、VOCが想定されていることが確認できた。

この節では、その発展を進める取り組みについて、昨今業務の範囲が広がる中で職員の確保に悩まされている自治体への営業の最前線を紹介したい。

営業の最前線は展示会で見聞することができると考え、「自治体DX展」を訪れた。東京ビッグサイトで2023年6月28日から30日までの3日間開催された「自治体・公共Week2023」の一部であり、主催者発表では、3日間で19,909人が来場した。

但し、同展示会は、他の5つの専門展示会――地方創生EXPO(地域PR、観光・インバウンド支援他)、スマートシティ推進EXPO(まちのスマート化・コンパクト化を推進するサービス他)など――と合わせて構成され、かつ会場はつながっており、来場者は1回の入場手続きでいずれの展示にも訪問が可能な状況であったことから、BPOとは異なる関心を持った来場者も含まれていると思われる。

さて、自治体DX展の具体的な展示の内容については、DX展という名称が付されているとおり、出展者の強みとするDX商材を訴求する展示が多かったように思う。具体的にはクラウドサービスやWeb利用の効率化、RPA等の紙ベースの事務処理のDX化、音声認識システムによるコールセンターや会議の業務効率化などを出展し来場者への訴求を行っていた。

そうした中で、目を引いたのは次の2つの出展であった。

その一つは、自治体にクラウドを導入することによる自治体職員の業務効率の向上、データ管理の効率化、それらによる自治体職員の業務配分の見直しを提案するものであった。自治体の個々の業務のDX導入例としては入り口の提案であるように感じるが、多忙な自治体職員が優先順位の高い業務から従事していくためには、業務の効率化は土台となる。その土台を活かして、自治体の住民の課題解決を推し進めていくことにつなげる狙いであろう。また、情報セキュリティ機能についても訴求していた。住民の個人情報は漏洩してはならない重要な情報であり同時に自治体の業務のベースとして利用・活用されなければならない情報である。情報を保護しながら、効率化を通じてその先の課題解決までにつなげる訴求には自治体関係者が高い関心を持つように感じる。

なお、このクラウド導入の訴えにおいては生成AIへの言及もあったが、そのトーンは積極的というよりも慎重さが窺われた。生成AIそのものを課題解決手段として訴える考えがなかったものと推察されるが、この点は生成AIの活用による効果とリスクを見ながら検討されていくことになるものと思われる。

目を引いた出展のもう一つは、自治体の、住民の課題解決をより具体的に訴えるものである。

その展示内容は多岐にわたり、かつサービスや技術の紹介というより自治体のどのような業務でどのような課題解決を行ったか・行おうとしているか、に訴求点が置かれているように感じた。以下、達成される成果別にその概要を記す(表1)。

【表1】自治体DX展の展示内容概要

【表1】自治体DX展の展示内容概要
(出典:情報通信総合研究所作成)

以上はあくまでも筆者の目を引いた展示内容に過ぎないし、これが営業最前線のすべてでもないであろう。

が、前節に記した市場の動向に沿った営業活動が展開されている、あるいは展開されようとしていることが窺われる。すなわち、人手不足であっても自治体として取り組むべきこと、取り組みたいことがあり、その実施・推進にあたってはデジタル技術を活用したBPO企業へのアウトソースが一つの方策であり、そのアウトソースにおいては、業務の効率化・改善を優先する自治体業務もあれば、自治体の魅力を増大させる高付加価値型の業務もある。そうした中で、デジタル技術の活用により人手不足のカバーはもとより付加価値創出も期待したいという自治体ニーズがあり、それを受けて自治体の課題を解決していくという提案が行われている、ということである。

なお、BPO企業側の訴求活動の視点からすれば、重要なことは、発注者の期待に応えてBPOの提供により効率化・改善や高付加価値化を実現することであって、自治体業務について言えば自治体や住民の課題の解決の道筋や手掛かりをBPOの内容として提案・提供していくということであろう。その道筋が見えなければ、自治体関係者や発注する立場の側にとってはBPOの意義・期待が直接的に感じられない、ということになるかと思う。

4.今後の展望

上述の展示会の出展内容からも、BPO市場においては、市場の動向で記した方向性が今後も展開されていくことは明らかであろう。

今後は、これに加えて、デジタル技術の進展に伴い、その活用によるBPOの提供が進展・拡大していくものと思われる。そして、既に提案・実用化されているデジタル技術に加えて生成AIの活用が増大していくであろう。生成AIは目下のところアウトプットをそのままチェックせずに個々の業務に活かすことにはためらう声もある状況であろうが、BPOが効率化も目指すものであるならば、生成AIの活用も当然に検討される。それが活用できる業務分野がさらにBPO市場の業務に加わっていくのではなかろうか。また、メタバースについても、効率化・改善や高付加価値化につながる活用方法を生み出すことにより、これを活用した業務分野が同様に拡大していくものと思われる。

そして、自治体や行政におけるBPO市場の展望、デジタル技術の活用に関しては、2025年度末までの実施の方針を掲げ、政府が進める「ガバメントクラウド」の動きも加わってくる。同時点までの実施から遅れる扱いを認める動きもあるようだが、その実施内容、時期についても注目していかなければならないだろう。

BPO事業者が想像力を働かせ、自治体や住民、また企業や企業の顧客とのコミュニケーションを通じて、デジタル技術を活用して課題解決に取り組み、人手が足りない等の課題を乗り越えて、安心・安全で利便性の高い社会の実現に貢献していくことを期待したい。

(参考資料)

  • トランス・コスモス株式会社(2024年3月期第1四半期決算四半期報告書)
  • 富士通株式会社(四半期報告書 第124期第1四半期 自2023年4月1日至2023年6月30日)
  • 凸版印刷株式会社(2024年3月期第1四半期報告書)
  • 株式会社パソナグループ(第16期(2023年5月)第3四半期報告書)
  • りらいあコミュニケーションズ株式会社(2023年3月期有価証券報告書)
  • ベルシステム24株式会社(第10期第1四半期報告書(2023/03/01―2023/05/31))
  • りらいあコミュニケーションズ株式会社「三井物産株式会社が出資するOtemachi Holdings合同会社との合併契約締結及び株式会社KDDIエボルバとの合併契約締結に関するお知らせ」(2023年7月20日)

※前記Webサイトに報告書(案)と報告書概要(案)が会議にて配布されていると解することができるが、報告書および報告書概要は経済産業省サイトで確認できなかったため、第7回配布資料を紹介している。

[1] サービス産業の高付加価値化に関する研究会(第7回)配布資料(METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/service_koufukakachi/007_haifu.html

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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