2023.10.12 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:「夏休みの自由研究として、高校『情報』の教科書を読む」

Image hy Gerd Altmann from Pixabay

弊社は、情報通信分野におけるリサーチとコンサルティングのプロフェッショナルとして、様々な分野でICTを活用した課題解決を支援していますが、その中でも教育関係は力を入れている分野のひとつであり、自治体の教育情報化支援などの実績も上げているところです。

(イラスト出典「いらすとや」)

(イラスト出典「いらすとや」)

ところで、教育とICTといえば、学生、生徒の教育の内容についても、社会の情報化の進展に対応した大きな変化があるようです。高等学校の「情報」科目において、2022年度から共通必修科目の「情報Ⅰ」が設けられ、2025年度からは大学入学共通テストの出題科目にもなります。SNSなどでも、この科目の中身はすごい! と話題になっていて関心が湧いたので、ちょうど夏季休暇の時期でもあり、教科書を買い求めて読んでみることにしました。

(今回読んだ高校「情報Ⅰ」の教科書)

(今回読んだ高校「情報Ⅰ」の教科書)

まず、高校で学ぶ「情報」とはどういう科目なのか、学習指導要領に沿って見てみます。同要領では、その目標について、「情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ、情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を……育成することを目指す。」としており、導入部としての「情報Ⅰ」と、発展的科目の「情報Ⅱ」が設けられています。

このうち「情報Ⅰ」の内容は、

  1. 情報社会の問題解決(情報と情報技術を活用した問題解決、情報に関する法規・制度、情報セキュリティ、情報モラルなど)
  2. コミュニケーションと情報デザイン(メディアの特性とコミュニケーションの特徴、情報デザインの考え方とそれを使った表現技能など)
  3. コンピュータとプログラミング(コンピュータの仕組み、アルゴリズム、プログラミングによるコンピュータ活用の方法、モデル化とシミュレーションなど)
  4. 情報通信ネットワークとデータの活用(情報通信ネットワークの仕組み、情報セキュリティの技術、情報システム、データ活用の方法など)

と、盛り沢山の内容になっていますが、いずれも現代の情報社会において、身に着けておくべき知識、技能といえるでしょう。

なお、「情報」という科目自体は2003年度に創設され、「社会と情報」(情報の活用、ネットワークとコミュニケーション等が中心)、「情報の科学」(プログラミング等コンピュータの活用が中心)のいずれかを選択して学ぶことになっていました。今回それらを統合して共通必修科目として「情報Ⅰ」が設定されたことで、すべての生徒がプログラミングやコンピュータを使った問題解決を学ぶことになりました。

また、情報教育は小中学校では、算数・数学、理科、技術・家庭などの科目の中で、指導内容に応じてコンピュータやネットワークを活用し、またプログラミングやデータ活用を体験するようになっており、それら学習内容との適切な接続が求められています。

今回は、この「情報Ⅰ」の教科書を2種類入手し、比較しながら読んでみました。うち1種類の構成は、上記学習指導要領の構成に沿った順番、組み立てとなっており、もう1種類のほうは記述の順番を少し入れ替えていますが、もちろん要領の求める内容を網羅しています。世の中の受け止めとしては、プログラミングを学ぶことが強調されている(これまでは2つの選択科目のうち「社会と情報」を学習する学校が圧倒的に多かった)ようですが、実際にはそれは内容の一部であり、社会の情報化とは何か、情報をどう理解しどう発信するのか、情報を使ってどう課題を解決するのか、といった点が非常に重要視されているように感じられます。

では、もう少し具体的にいくつかの項目で中身を詳しく見てみます。

(1)プレゼンテーション

「コミュニケーションと情報デザイン」の内容のひとつとして、「プレゼンテーション」が取り上げられています。自分の意見や提案、研究の成果などを、限られた時間の中でいかに効果的に伝えるか? 確かにコミュニケーションの手段として学ぶことは有用と思われます。

プレゼンテーションの流れは、「企画→資料作成→リハーサル→発表→評価・反省(→次回に生かす(フィードバック))」とされています。それぞれのポイントとして、

  • 企画
    伝える内容の確認、対象者の把握、シナリオと時間配分を考える
  • 資料作成
     文字のフォントや色を変えたり箇条書きにしたりするなど分かりやすさを工夫、表やグラフを活用
  • リハーサル
    実際の資料を使い声を出して練習、人に聞いてもらってチェック
  • 発表
    大きな声で歯切れよく適度なスピードで話す、身振り手振りを加えるなど聞き手の注意を引く、質疑応答を設ける
  •  評価・反省
    良かった点と要改善点を自己分析、聞き手に評価シートを記入してもらう、評価を次の機会に生かす

などとなっています。私たち社会人にも求められ、かつ難しい技能ですね。

また、企画から評価・反省、フィードバックまでの流れが「PDCAサイクル」になっていますが、この項目に限らず、教科全体を通して、問題解決のための技法としてPDCA的なプロセスが強調されています。

(2)データの活用

こちらは、「情報通信ネットワークとデータの活用」の内容の一部となります。データの活用の手順は、「データの収集→データの整理→データ分析→データの可視化」となります。それぞれのポイントは、

  • データの収集
    ネット上のオープンデータの活用の仕方
  •  データの整理
    データの性質の尺度水準(名義尺度、順序尺度など)による分類、コーディングなど
  •  データ分析
    表計算ソフトの活用、データの並べ替えと抽出、関数の使い方
  • データの可視化
    グラフの作成とその留意点

などとなります。また併せて、クロス集計や相関関係・因果関係、回帰分析などのデータ分析の手法を学びます。データサイエンスへの導入にもなっているかと思います。

このように、かつて私たちが高校で学んだ内容、学び方とは相当異なる教育が実践されるであろうと考えられ、学習指導要領でいうところの「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)が最も典型的に展開されることになると思われます。実際の授業では、コンピュータ演習室などで実際に機器に触っての演習も行われることでしょう。

ひとつ気になるのは、この教科を教える先生方も大変であろう、あるいは十分に指導できる人材はそろっているのか? ということですが……文部科学省のWebサイトでは、この教科についての特設ページが設けられていて、先生向けの「授業・研修用コンテンツ」、「実践事例」など、授業の参考となる素材が用意されていています。また、現場の先生方が既に様々な工夫をされていることもよく分かります。生徒向けにも動画が作られていて、自分でこれらを見ながら学ぶこともできそうです。

(文部科学省ウェブサイト特設ページの一部、 https://www.nttls-edu.jp/joho/)

(文部科学省ウェブサイト特設ページの一部、https://www.nttls-edu.jp/joho/)

ここまで、高校「情報」の教科書を眺めつつ、併せて関連のウェブサイト、資料等も見てきましたが、情報教育の流れを作ってきた方々に敬意を表したいと思います。また、この学習内容は、既に社会人になっている人や、私自身も含め中高齢者にとっても非常に有用ではないかと感じました。今注目の「リスキリング」の第一歩として、高校の「情報」から始めるのもいいのではないでしょうか。さらに学びたければ、放送大学の講座などに発展的な内容があります。

リスキリングについては、政府も「人への投資」として大々的な支援を打ち出しており、それらは大いに行うべきものと思いますが、一方でお金をかけずとも、学び直しの材料は身近なところにあるように感じました。

(主な参照図書、資料等)

  • 教科書
    高等学校情報Ⅰ』(坂村健ほか著、数研出版株式会社、令和3年検定済、令和5年印刷・発行)

『最新情報Ⅰ』(萩谷昌己ほか著、実教出版株式会社、令和3年検定済、令和5年印刷・発行)

  • 高等学校学習指導要領(平成30年3月30日文部科学省告示第68号)および同解説
  • 文部科学省ウェブサイト「高等学校情報科に関する特設ページ
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416746.htm

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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