2023.10.12 DX InfoCom T&S World Trend Report

中堅中小DXの今(2)東京商工会議所

Image by Mohamed Hassan from Pixabay

はじめに

本誌2023年9月号では、中小企業のDXの実態と課題、今後の展望について中小企業のDXを現場で支援しているITコーディネータ協会へのインタビューにて伺った内容を「中堅中小DXの今(1)」として取り上げた。

インタビューでは、第1に、中小企業は大企業に比べ、DXの進展が遅れているものの、コロナ前に比べ着実に進展していること、第2に、経営とIT両方の知識を備えているITコーディネータは、ITの知識やノウハウが不足している中小企業に対して知識やノウハウの共有等によるDX支援の役割を担っていること、第3に、中小企業は大企業に比べ意思決定が早く、試行錯誤を重ねながらITツールの利用を進めており、取引先を含めたサプライチェーン全体の連携によるデジタル化の対応が中小企業のDXを進展させていること、第4に、産業界の自らの取り組み、具体的には中小企業共通EDIのような業界連携が今後より重要になってくること、第5に、生成AI技術は業務効率化と人手不足への対応として有効な手段であり、手軽に導入・活用ができるため、中小企業と大企業の間のDXへの取り組みのギャップを縮小する可能性があると期待されていることが明らかとなった。

そこで、中小企業の経営課題の解決に向けたIT活用の現状を把握すべく、東京商工会議所中小企業部副部長ものづくり担当課長、兼調査・統計担当課長、兼IT活用推進担当課長の長嶋収一氏、主任松浦啓志氏、副主査山口あかり氏にインタビューを行った。その内容を本稿「中堅中小DXの今(2)」として紹介する。

中小企業の景況感

東京商工会議所が四半期に1度行っている東京23区内の中小企業の景況感に関する調査「東商けいきょう」の集計結果[1]によると、2023年4~6月期の業況DI(「好転」の回答割合-「悪化」の回答割合。前年同期比、全業種)は7.7となり、前年同期と比べ20.2ポイント改善し過去最高となった(図1)。インタビューでは「コロナ後の景況感はかなり良くなっている。ただ、人手不足でお客さんが来ても対応できないという課題は、業種問わずに多い。建設業でも職人を確保できない。人手不足でビジネスのチャンスを見逃している」とコロナ前からの人手不足が景気回復の過程で課題として再び浮上しているとの指摘があった。

【図1】業況DIの推移(前年同期比・全業種)

【図1】業況DIの推移(前年同期比・全業種)
(出典:東京商工会議所「東商けいきょう 2023年4~6月期集計結果
(中小企業の景況感に関する調査)」(2023年6月13日))

特に人手不足については「同じ業種でも、大企業、中小企業の差が出る。賃上げも大企業のほうが有利で、人が集まる。中小企業も賃上げを頑張っているが、その規模は大企業と異なる」と解決が難しい点にも言及された。

さらに、新たに顕在化する課題として「コロナの中でゼロゼロ融資を国が実施していたが、その返済が7月から本格化する。返済で資金繰りがうまく回らなくなる懸念が出てくる」との指摘もあり、中小企業の業況は全体としては回復傾向にあるものの、労働力や資金繰りの課題を抱えている企業も存在している状況である。

IT導入の状況

このような中、東京商工会議所では都内中小企業におけるIT導入の実態について調査を実施している。2021年度の調査では、7割の中小企業が何らかのITを導入しているという結果だったが、2023年7月に東京商工会議所が実施・公表した「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」によると、レベル2(紙や口頭でのやり取りをITに置き換えている)、レベル3(ITを活用して社内業務を効率化している)、レベル4(ITを差別化や競争力強化に積極的に活用している)を足し合わせたおよそ8割の中小企業でIT「導入」が広がりを見せていることが示された(図2)。背景には、コロナ禍における非接触対応や社会的なデジタル化の動き、コロナ関連の補助金・助成金の充実によりIT導入が促進されたことなどが挙げられている。

【図2】デジタルシフトの状況(導入・活用レベル)

【図2】デジタルシフトの状況(導入・活用レベル)
(出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査集計結果」(2023年7月12日))

一方でインタビューでは課題も指摘された。「コロナ後、ITを導入したが、未導入の状態に戻った企業もあり、例えばFAXが一番安心という声も聞く。また、IT導入が業務効率化や売上拡大、競争力強化につながっていない企業も依然として多い。我々の支援の目的は、ITを導入した後その活用にシフトすること、活用のレベルを上げること」だという。

【調査要領】
▽期間:2023年5月15日(月)~5月25日(木)
▽対象:東京23区内の中小企業2,847社(回答数:1,096社(回答率38.5%))

▽項目:業況、売上、採算(経常利益)、資金繰り、民間金融機関の貸出姿勢
▽方法:WEBおよび経営指導員による聴き取り
▽従業員規模構成:5人以下:420社(38.3 %)、6~20人以下:287社(26.2%)、21~100人以下:270社(24.7%)、101人以上:119社(10.9%)

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
以下ご覧になりたい方は下のバナーをクリックしてください。

東京商工会議所の取り組み

まとめ

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1034372

当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。

情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。

調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら

関連キーワード

手嶋 彩子(主席研究員) 張 怡(研究員)の記事

関連記事

メンバーズレター

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

メンバーズ登録(無料)

各種サービスへの問い合わせ

ICTに関わる調査研究のご依頼 研究員への執筆・講演のご依頼 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信サービスの専門誌の無料サンプル、お見積り

InfoCom T&S World Data Book

グローバルICT市場の総合データ集の紹介資料ダウンロード