2024.3.28 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

経済安全保障推進法の重要インフラ事業者の届出義務

1.はじめに

「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(令和4年法律第43号)(経済安全保障推進法、以下「法」という)は一部が既に施行されているが、法第3章の「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」の届出義務は本年5月17日に適用開始の予定である。本稿は、適用開始を控えて、法の概要を確認するとともに、制定された政令・省令や関係省庁が公開している解説文書を踏まえ、安定提供を求められる事業者の立場からどのような対応を行う必要があるのか、を概観しようと試みるものである。

2.法の概要

法は、第1章総則第1条(目的)において、安全保障の確保に関する経済施策として、次の4つの制度を創設することを定めている。

(1) 特定重要物資の安定的な供給の確保(法第2章)
(2) 特定社会基盤役務の安定的な提供の確保(同第3章)
(3) 特定重要技術の開発支援(同第4章)
(4) 特許出願の非公開(同第5章)

それぞれ重要な制度であるが、本稿では、(2)について概観する。

この制度の背景と目的は、法が策定を求める基本指針[1](以下「基本指針」という)の「はじめに」に記載されているように、近年の厳しい安全保障環境や地政学的な緊張の高まりにより、海外ではインフラ事業へのサイバー攻撃の事案が多く発生している中、インフラ事業者のサプライチェーンの過程において設備に不正機能が埋め込まれたり、機器の脆弱性に関する情報が必要外の第三者に流失してしまったりする可能性等が高まっているとみられ、インフラ事業者の安定的な役務提供に支障が生じると国民の生存を脅かす等のおそれがあるため、インフラ事業者が設備の導入を行う前に、政府が当該設備の導入等に伴うリスクを把握し、そのリスクを低減又は排除する必要がある、ということである。

その認識を踏まえ、制度は、対象分野を定め、それぞれの分野における対象事業者を指定し(法50条)、指定された対象事業者は、定められた重要設備(「特定重要設備」)の導入と同設備の維持管理等の委託に関する計画書を事前に届け出て(法52条1項)、審査を受ける、とする。原則30日間の審査期間(この間は、特定重要設備の導入を行い、又は重要維持管理等を行うことはできない)[2](同3項)が設けられ、事業所管大臣が審査し(同4項)、審査の結果「届け出られた導入等計画書に係る特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいと認めるとき」は、計画の変更による導入・委託の開始又は中止を勧告することができる(同6項)。勧告を受けた特定社会基盤事業者は勧告を受諾すれば勧告に沿って行動し(同8項)、当該事業者が勧告を受諾しない又は受諾の旨の通知を行わない場合は、事業所管大臣は当該事業者に応諾しない正当な理由がなければ勧告の内容を命令できる(同10項)。この命令に違反すると、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科される、との罰則が適用される(法92条)。

対象分野は、内閣府の制度の概要の解説文書[3]においてわかりやすく紹介されており、電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの14である。なお、今後、一般港湾運送事業を追加する動きになっている。

3.特定社会基盤事業者の届出義務

(1)対象となる事業者

法50条は前述の14の事業について、その提供を行う者のうち、主務省令で定める基準に該当する者を主務大臣が指定できるとしており、2023年11月の関係省庁の告示により、14の事業にわたり延べ210の事業者が指定されている(「特定社会基盤事業者」という)。

電気通信分野では、総務省の告示[4]が、KDDI、沖縄セルラー、ソフトバンク、NTTドコモ、NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、楽天モバイル、NTTリミテッド・ジャパン、LINEヤフーの10の株式会社を特定社会基盤事業者に指定している。

(2)電気通信分野の対象となる設備等:事前審査を受ける対象となる設備

法50条は、「特定重要設備」の定義として、「特定社会基盤事業の用に供される設備、機器、装置又はプログラムのうち、特定社会基盤事業を安定的に提供するために重要であり、かつ、我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されるおそれがあるものとして主務省令で定めるものをいう。」と定めているところ、電気通信分野については、総務省の省令[5](以下「本省令」という)1条1号において、次のとおり定めている(紙幅の関係上、イとニを記述し他を略す)。

イ 第一種指定電気通信設備を設置する者(この者は、同省令2条1号イにおいて特定社会基盤事業者の指定基準に該当するとされている)にあっては、その者が設置する第1種指定電気通信設備のうちの、次のいずれかに該当するもの、(1)交換機能を有する電気通信設備(2)電気通信設備の制御機能(仮想化した機能を制御するための機能を含む。)を有する電気通信設備(3)通信の接続又は認証に係る加入者管理機能を有する電気通信設備

ロ及びハ 略

ニ 基地局を設置して第5世代移動通信システムを使用する携帯無線通信による電気通信役務を提供する者(この者は、同省令2条1号ニにおいて特定社会基盤事業者の指定基準に該当するとされている)にあっては、その者が設置する電気通信通信設備のうち、上記イ(1)から(3)までのいずれかに該当するもの(第5世代移動通信システムを使用する携帯無線通信による電気通信役務の用に供するものに限る)

ホ 略

これらの特定重要設備について、総務省は「電気通信分野における経済安全保障推進法の特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度の解説」(令和5年11月29日、総務省国際戦略局参事官室、以下「総務省解説」という)[6]において、固定系電気通信設備については「・端末系交換設備 ・中継系交換設備(以下略)」、移動系電気通信設備については「・3GPPにて標準化された以下の機能区分を有する設備―CU(以下略)」などと具体例を表形式で紹介しているので、参照されたい。

(3)対象となる場面:事前届出による審査を受ける場面とは

法52条1項は、「特定社会基盤事業者は、他の事業者から特定重要設備の導入を行う場合(中略)又は他の事業者に委託して特定重要設備の維持管理若しくは操作((中略)以下この章(中略)において「重要維持管理等」という。)を行わせる場合には」、計画書を主務大臣に届け出なければならない、と届出を行う場面を定めている。では、「導入」と「重要維持管理等」とは何か。

導入について、基本指針、政令[7](以下「本政令」という)、本省令において定義を確認することはできなかった。

重要維持管理等については、本省令9条で、一 維持管理 二 操作、と定めているのみであるが、手掛かりが基本指針等にある。具体的には、基本指針では、「維持管理とは、特定重要設備の機能を維持するため、当該特定重要設備の保守点検、機器・部品の交換、プログラムの更新を行うこと等をいう」「操作とは、特定社会基盤役務を安定的に提供するため、特定重要設備を運用し制御する操作を行うこと等をいう」としており、前述の総務省解説では、維持管理には、「例えば、セキュリティアップデートなどのソフトウェア更新や、現に動作させている設備や部品が故障した場合に設備や部品を入れ替える行為、また、定期的な動作確認や保守点検が該当」するとし、日常的なバク修正や、清掃を行う場合などは、該当しない。操作には、「特定重要設備を動作させ特定社会基盤役務に直接的に影響を与える行為や特定重要設備の内部パラメータを変更する行為(具体例:ネットワークの正常性監視や異常時の解析や、トラフィック増や新サービス追加、経路変更等に対応するための当該設備の設定の変更)などの運用や制御等を行うことが該当」する、と記されており、参考になる。

なお、特定重要設備を導入する場合に該当するが届出を不要とするケースとして、法は同項で「(当該特定社会基盤事業者と実質的に同一と認められる者その他の政令で定める者が供給する特定重要設備の導入を行う場合(当該特定重要設備に当該政令で定める者以外の者が供給する特定重要設備が組み込まれている場合を除く。)を除く。)」と定め、「実質的に同一と認められる者」として、本政令10条で、当該特定社会基盤事業者を親法人等とする子法人等及び、国の機関、地方公共団体などを定めている。なお、「親法人等」「子法人等」は同条に定義があるので、参照されたい。

また、法52条1項はただし書きで、届出について「導入を行い、又は(中略)重要維持管理等を行わせることが緊急やむを得ない場合として主務省令で定める場合には、この限りでない。」と例外を定めており、本省令11条が4つの要件を示してその場合を定めているが、緊急やむを得ない場合の具体例として、基本指針には「災害時等の場合に」と記されている。なお、この場合は導入等計画書を遅滞なく届け出る必要がある(法52条11項)。

(4)届け出る計画書:計画書に記載すべき事項

導入等計画書の提出を行うに該当すると判断した場合は、計画書を提出する。計画書に記載すべき事項については、法52条2項に定めがあり、本省令では10条において、特定重要設備の導入を行う場合にあっては様式第6(1)、重要維持管理等を行わせる場合にあっては様式第6(2)を定めているので、以下、それらにより記載すべき事項を見ていく。なお、イ、ロ、ハは法52条2項2号及び3号の列記事項を指す。

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4.今後に向けて

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] 「特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する基本指針」(令和5年4月28日閣議決定)https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin2.pdf

[2] 基本指針では、これを「禁止期間」と称している。

[3] 内閣府「経済安全保障推進法の特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度について」(2024年3月4日) https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/ infra_gaiyou.pdf

[4] 総務省告示第388号(令和5年11月17日)

[5] 総務省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特定社会基盤事業者等に関する省令(令和5年総務省令第64号)

[6] https://www.soumu.go.jp/main_content/0009153 92.pdf

[7] 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令(令和4年政令第394号)

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