2024.8.13 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:多良間島のピンダとビーチ

【図1】多良間島の位置 (出典:多良間村 https://www.vill.tarama.okinawa.jp/about/gaiyou/)

本誌のこのコーナーでは、筆者が出張で訪れた日本国内の離島の紹介を幾度かさせてもらっているが(投稿一覧はこちら)、今回の出張島巡りは、東京から1,900km、沖縄本島から南西に約200km、宮古島と石垣島の間に位置する多良間島である[1]。多良間島は沖縄県の宮古諸島に属しており、隣の水納島とで多良間村を構成している。多良間島の周囲には「多良間ブルー」といわれるほどの青く美しい珊瑚礁の海がある。また、近隣の宮古島や石垣島と違い、観光地化もそれほど進んではおらず、手つかずの自然の原風景から、水納島とあわせ沖縄県の中で唯一「日本で最も美しい村[2]」として認定された村である。ゆったりと流れる島時間と自然豊かな多良間島について紹介したい。

沖縄県宮古郡多良間村の多良間島

多良間島は沖縄県宮古郡多良間村に属し、面積は約19平方キロメートルと東京都渋谷区の1.2倍程度、島の一周は約19kmと車で30分、自転車でも2時間ほどで一周できてしまう楕円型の島である。主な産業は、さとうきびや葉たばこ等の栽培や畜産業で、肉用牛の生産、製糖などが盛んである。人口は1,068人(2023年)で、村の公表資料では、2000年に1,338人とあるので、減少傾向にある。

多良間島へのアクセスは、宮古島から約25分、1日2往復のプロペラ機による定期便と宮古島平良港から2時間、1日1往復のフェリーの運航が基本となる。多良間島へ渡る手段としては宮古島からのこの2種類[3]しかなく、天候に左右される移動手段のため、宮古島に足止めとなる可能性もある。そのため、多良間島への上陸についてはスケジュールに余裕があるほうが望ましい。

今回は宮古島から空路で多良間空港に降り立った。空港から宿舎までの移動手段は、レンタカーかバスしかなく、島内にタクシーは走っていない(写真1~3)。

【写真1】多良間空港

【写真2、3】多良間空港とバス (出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

【写真2、3】多良間空港とバス (出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

【写真1、2、3】多良間空港とバス
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

 

【写真4】宮古島つよし君

【写真4】宮古島つよし君

多良間空港付近を散策していると、出迎えてくれたのが、「宮古島つよし君」である(写真4)。もともとは宮古島で交通安全・事故防止のために設置されていた警察官型人形で、宮古島では「宮古島まもる君」として有名人?であり、設置場所は観光名所となっている。宮古島内には複数のまもる君の兄弟たちが設置されているが、多良間空港前にいる「つよし君」は、唯一宮古島の島外に設置されているレアな設定となっている。

多良間島の山羊

つよし君を写真におさめていると、つよし君の背後に山羊がいることに気がついた。事前の調べで多良間島には山羊が多く、「人口と同じくらい山羊がいる」との情報を把握していた。山羊が多いといっても、町外れの平原の柵の中にたくさんの山羊が放牧されていることを想像していたが、空港の目の前に山羊がいることに驚いた。しかも紐につながれていることから、飼い主がいるようで、草が茂っている場所に放置されている。人間にも慣れているのか、こちらが近づいても逃げるようなこともなく、「メエエェエー」と鳴きながら寄ってくる。撫でられることにも慣れており、ペットのような振る舞いを見せてくる。

その後、バスで宿舎まで移動したが、車窓から道のいたるところにたくさんの山羊が放し飼いにされているのが見えた。多くの山羊には首輪があるが、なかには首輪もなく尖った角を持つ「野生の山羊」もうろうろしていた(写真5~10)。

【写真5、6、7、8、9、10】多良間島の山羊

【写真5、6、7、8、9、10】多良間島の山羊

まピンダ」のブランドで山羊肉の生産・販売、山羊料理(特に山羊汁)の普及活動をおこなっている[4]。なかでも特徴的なものを紹介すると、「ピンダアース大会」と称して、多良間村内外から集まった山羊同士が闘う闘山羊大会が毎年5月と10月に村の一大行事としておこなわれている。大会では集まった山羊を軽量級・中量級・重量級に分けトーナメント方式で最強のピンダを決めている。今回の多良間島訪問は3月ということもあり、大会観戦はかなわなかったが、ピンダアース大会で使用される檻を見ることができた。オフシーズンの檻は子山羊たちを遊ばせるための遊具として使われていた(写真11)。

【写真11】ピンダアース大会で使用される檻で遊ぶ子山羊

【写真11】ピンダアース大会で使用される檻で遊ぶ子山羊

多良間島の山羊汁

多良間島には宿泊施設は数カ所あるが、今回は村営の「夢パティオたらま」に宿泊した。コテージを複数の宿泊客でシェアするスタイルであり、相部屋ならぬ相コテージとなる。コテージ内には、共用のキッチン、バス、トイレ、リビングの他に個室の寝室が3部屋ある。今回の出張で筆者は2泊したが、個室はベットしかないため、他の宿泊客と一緒に共用のリビングで接する時間も長く、挨拶からはじまって談笑していると、すっかり打ち解けてしまい、夜はキッチンで料理を作ってもらい、お酒までご馳走になるなど、相コテージの楽しさを実感した(写真12~14)。

【写真12、13、14】夢パティオたらまコテージ

【写真12、13、14】夢パティオたらまコテージ

宿泊客と話をすると、ダイビングや島散策を目的としている人が多いが、「山羊汁」を目当てに渡島している人もいた。山羊汁については、滋養強壮に加えて薬用効果があるといわれ、食べる人の体質によっては失神、鼻血等の副作用があるといわれている[5]。筆者も興味があり、機会があれば本場の山羊汁を試したいと思っていたが、感染対策としての行動制限がなくなりコロナ禍の収束が見え始めたタイミングということと、本格的な観光シーズンでもないためか、村内に点在する山羊汁店はどこも閉店していた。

しかし、山羊汁の看板がある店舗の前を歩くと何とも言えないワイルドな臭いが漂っていた。先にも触れたように村は島おこしの一環として山羊料理の普及をかかげており、山羊汁の通信販売をおこなっている店舗も多い[6]ため、おそらく通販用の山羊汁の仕込みをしていたのであろう。

筆者の場合、山羊汁の仕込みの臭いを嗅いだだけで、目から涙が出るほどこみあげるものがあり、精力がつくというより興奮状態になることから、さすがに興味本位で山羊汁を試すほどの勇気は出なかった。

多良間ブルー

冒頭で紹介したとおり、多良間島は周囲が珊瑚礁で囲われており、「多良間ブルー」といわれるほどの綺麗な海が魅力である。また、多良間島のビーチは管理者がいるような有料のビーチではなく、島の外周が自然のままの砂浜と海で構成されている。そのため、砂浜の距離も長く、手つかずの自然なビーチを満喫できる。

残念ながら筆者の滞在期間中は雨と曇りの天気で、ほとんど晴れ間も見えない日々であったが、雨の合間にビーチに降り立つことができた。

ビーチに立つと、オフシーズンという時季と天気が冴えないこともあってか観光客もいない、プライベートビーチのような空間が広がっていた。雨の後ということもあり、海は驚くような青さではなかったが、綺麗な色をした海面を見渡すことができた(写真15~18)。

【写真15、16、17、18】多良間島のビーチ

【写真15、16、17、18】多良間島のビーチ

せっかくなので、裸足になり、ひざ下まで浅瀬に浸かってみたが、南国とはいえ3月の海は冷たかった。ビーチを堪能した後で帰りの小道を歩いていると、役場からの注意が書かれた看板に気がついた。看板には、エイやハブクラゲ[7]防止用のネットを設置していないため、浅瀬まで危険生物が近づいてくるので、ひとりでは絶対に海に入らないようにとあった。筆者は青ざめて即座に足に刺された跡などないか、痺れやふるえがないかを確認した。違った意味で「多良間ブルー」を堪能することができた瞬間だった。

[1] 2022年3月の多良間島への出張訪問記録。

[2] NPO法人「日本で最も美しい村」連合が認定。小さくても素晴らしい地域資源や美しい景観を持つ村の存続のため、失ったら二度と取り戻せない日本の農山漁村の景観・文化を守りつつ、最も美しい村としての自立を目指す活動。

[3] 漁船をチャーターし渡島も可能である。

[4] https://www.vill.tarama.okinawa.jp/about/chikusan/taramapinda/

[5] https://kyoudo-ryouri.com/food/2907.html

[6] https://taramanousan.thebase.in/

[7] https://www.pref.okinawa.jp/kurashikankyo/petgaiju/1018721/1005068/1005069.html

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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