2025.6.12 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

スマホ特定ソフトウェア競争促進法の意義と課題(3)

本稿は「スマホ特定ソフトウェア競争促進法の意義と課題」の第3回目です。

前稿「スマホ特定ソフトウェア競争促進法の意義と課題(2)」では、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下、「本法」とする)に関して、規制対象事業者の指定等(3.)と具体的な規制の内容の一部(4.(1))について整理した。これに引き続き、本稿では規制対象事業者に対する具体的な規制の内容(4.(2)①~③)について整理していく。

4.規制対象事業者に対する規制とエンフォースメント

前記(1)では、本法の規制とエンフォースメントについて概観した。以下では、禁止事項、遵守事項およびエンフォースメントの内容と特徴について個別に整理していく。

(2)禁止事項

①取得データの不当な使用(5条)

モバイルOS、アプリストアまたはブラウザを提供する事業者は、他社のアプリの利用状況や売上、仕様等の非公開データを取得できる立場にある。例えば、Appleは、デベロッパーの製品やサービスに関して取得・利用するデータについて、診断情報、技術情報、利用情報および関連情報の収集を行うことを明らかにしている[1]。

当該事業者は、このようなデータを他社と競合ないし類似する自社の商品やサービスの開発・提供のために使用することで、自社を競争上有利な立場に置くことができる。このような状況は競争上のイコールフッティングの阻害につながりうるため、当該行為を防止する必要がある。そこで本法5条は、指定事業者が、モバイルOS、アプリストア、ブラウザを他社が利用することに伴って取得した非公開データを、当該他社と競合ないし類似する自社の商品やサービスの開発・提供のために使用することを禁止している。

ここにいう他社と競合ないし類似する自社の商品やサービスには、個別ソフトウェアのみならず、スマートフォンと併せて利用される周辺機器など個別アプリ事業者が提供する商品やサービスも含まれうる[2]。というのも、上記データの使用はこれらの商品やサービスの開発にも用いることができ、イコールフッティングが阻害される危険性が認められるためである。

本法5条の適用に関しては、正当化事由の勘案は一切認められない。もっとも、取得データの使用は本来的にはイノベーションにつながりうるものであることから、指定事業者が提供するモバイルOSの処理速度などを改善するためにアプリのデータを使用することまでは禁止されるものではないと考えられている[3]。

なお、本法5条における使用禁止対象となるデータの具体的内容は公正取引委員会規則で定められるが、本稿脱稿時点[4]においてその具体的内容は確定していない。他方で、本法の施行に向けて公正取引委員会規則やガイドラインの内容について検討している、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会(以下、「検討会」とする)においては、指定事業者が取得可能なデータを網羅的にカバーできるようにしつつ、市場変化に伴う取得データの変化にも柔軟に対応できるようにし、かつ指定事業者および指定事業者の提供するプラットフォームを利用する関係事業者の予見可能性を確保するという観点から、使用禁止データの範囲が検討されている[5]。

具体的には、モバイルOS、アプリストアまたはブラウザを提供する事業者ごとに、データが生成される場面などに着目して網羅的に使用が禁止されるデータを類型化して公正取引員会規則に規定し、それらの具体例をガイドラインに列挙するという方向性が想定されている[6]。例えば、モバイルOSを提供する指定事業者については、①ユーザーの属性に関するデータ(氏名や年齢等の利用者の属性、端末固有のID、IPアドレス、クレジットカード番号や金融機関の口座番号等支払に必要なデータ)、②個別ソフトウェアの利用状況や作動状況に関するデータ(個別ソフトウェアのインストールないしアンインストールの状況、利用時間や利用頻度等)、③個別ソフトウェアの仕様等(個別ソフトウェアのサービス内容、個別ソフトウェアが利用するOS機能の一覧、その他個別ソフトウェアの技術的仕様)などが想定されている[7]。

②個別アプリ事業者に対する不公正な取扱い(6条)

モバイルOSないしアプリストア提供事業者は、規約やアプリに対する審査を通じて、個別アプリ事業者に一定の制約を課す可能性がある。例えば、アプリにおける利用者情報のトラッキングについて利用者の同意を得るための表示方法に関する条件を設定することや、年齢制限を設定したうえで当該年齢に見合った内容となっているかなど青少年保護の観点からの審査が想定されよう。これらの事業者による審査はいわば個別アプリ事業者にとっての「関所」として位置づけられよう[8]。

もっとも、規約や審査の名目で、モバイルOSまたはアプリストア提供事業者が個別アプリ事業者に対して不当に差別的な取扱いをする可能性もあり、その場合にはイコールフッティングが確保されず、排除効果が生じやすくなるという意味で、個別ソフトウェアに係る競争環境が歪曲されることになる。そこで、本法6条は、モバイルOSまたはアプリストアに係る指定事業者が、個別アプリ事業者によるモバイルOSまたはアプリストアの利用に係る条件設定や当該条件に基づく取引の実施について、不当に差別的な取扱いその他の不公正な取扱いを禁止している。

本法6条では「不当に」「不公正」という文言が用いられているが、本法はあくまで「事前規制」であり、独禁法と同様の文言があるからといって、同法におけるような公正競争阻害性の立証が要求されるわけではない[9]。また、ここにいう「差別的」については、指定事業者以外のすべての個別アプリ事業者に対して等しく制約を課す場合も含むという解釈もありうるとの見解[10]が示されていたが、検討会においても、合理的な理由なく、個別アプリ事業者に対して自己と異なる取扱いをすることをも意味するとの理解が示されている[11]。

なお、合理的な理由の有無について、検討会では、当該取扱いをする目的、当該目的のために他に取りうる手段の有無および内容、ならびにそのような取扱いによって他の個別アプリ事業者が受ける不利益の内容および程度等を総合的に勘案する方向性が模索されている[12]。例えば、子ども向けアプリに対して不適切なコンテンツを提供しないことを求める基準や、アプリ内課金を提供する個別ソフトウェアに対して、ダークパターンを防止するためのスマートフォン利用者への情報提供の実施を求める基準を審査基準として追加する場合には合理的な理由が認められると考えられている[13]。

③モバイルOS指定事業者による妨害等(7条)

本法7条は、モバイルOS指定事業者の行為を2つ禁止している。1つは、アプリストアの提供妨害等(1号)である。モバイルOS提供事業者が当該モバイルOSのインストールされたスマートフォンについて、他の事業者がアプリストアを提供することを技術的あるいは契約上不可能として、いわゆるサイドローディングを禁止した場合、アプリストア間の競争が制限されることになる。そこで、本法7条1号は、モバイルOSに係る指定事業者が、アプリストアを指定事業者によって提供されるものに限定するなどして他の事業者によるアプリストアの提供を妨害する行為や、スマートフォン利用者が他の事業者によって提供されるアプリストアを利用することを妨害する行為を禁止している。ここで禁止される妨害行為には、これまで日本において徴収されてこなかった手数料を規約等の改定によって新たに徴収することなども想定されている[14]。

もう1つは、スマートフォンの動作に係る機能の利用妨害(2号)である。スマートフォンの動作に係る機能はモバイルOSによって制御されているが、当該機能を活用した商品やサービスを提供する事業も想定される。例えば、音声出力機能は音楽配信サービス等を提供する個別ソフトウェアそれ自体において利用されるし、ウェアラブルデバイスとスマートフォンのペアリング機能は当該ウェアラブルデバイスの設定・操作のための個別ソフトウェアの提供にも利用される。

そのような各種事業の展開が想定される中で、モバイルOS提供事業者が、他の事業者に対して当該機能の利用範囲を技術的あるいは契約上限定すると、当該機能を活用した商品やサービス間の競争が制限されることになる。そこで、本法7条2号は、モバイルOSに係る指定事業者に対して、モバイルOSによって制御されるスマートフォンの動作に係る機能のうち、指定事業者等が個別ソフトウェアの提供に利用するものを、同等の性能で他の事業者が個別ソフトウェアの提供に利用することの妨害行為を禁止している。

もっとも、モバイルOS提供事業者はスマートフォンにおけるセキュリティ確保やプライバシー保護といったスマートフォンの利用者の利益を確保するための取り組みを実施することがある。そのような取り組みの一環として、サイドローディングを禁止することやモバイルOSによって制御される機能の利用を制限することがありうる。そのため、本法7条但し書きにおいて正当化事由が設けられており、サイバーセキュリティの確保等のために必要な行為であり、他の行為によってその目的を達成することが困難であるときには同条違反が正当化されうる。なお、ここにいう「サイバーセキュリティの確保等」の内容としては、サイバーセキュリティの確保、プライバシー保護、青少年の保護その他政令で定める目的が明文で列挙されている。

周知のとおり、本法は独禁法の補完立法であるが、独禁法上も正当化事由の判断が問題となりうる。そこでは目的の正当性と手段の相当性の観点から判断が行われる[15]。本法では、目的に関して、あらかじめ勘案しうる事項が限定列挙されている。また、補完立法という性質から、本法における正当化事由の判断についても独禁法において正当と認められる目的の範囲内で、法の趣旨に照らして正当化事由として認めるべき事項を政令で規定することが志向されている[16]。具体的には、上記にいう「その他政令で定める目的」として、犯罪行為の予防が想定されてきたが[17]、検討会においてはユーザーの安全性確保、法令違反行為の防止、ユーザーの利便性(モバイルOSおよび個別ソフトウェアの効率的な作動やユーザーインターフェースまたはユーザーエクスペリエンスの統一性)確保も検討項目とされており[18]、今後どのように整理されることになるかは注視する必要があろう。

さらに、本条では「他の行為によってその目的を達成することが困難であるとき」との文言が使われている。そのため、本条による正当化事由の判断における手段性評価には、独禁法の「手段の相当性」よりも厳格な基準が用いられていると言える。指定事業者から、サイバーセキュリティの確保等を理由とする正当化が主張されることは当然に予想されるが、手段の観点から厳格に判断されることが見込まれる[19]。

[1] See, Apple, Apple Developer Program License Agreement <https://developer.apple.com/support/ terms/> accessed: 7 May 2025.

[2] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会「第5回検討会 議事録」(2024年12月16日)(https://www.jftc.go.jp/file/241216_gijiroku_5.pdf, 2025年5月8日最終閲覧)31頁〔稲葉僚太デジタル市場企画調査室長発言〕。

[3] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会・前掲注2)31頁〔稲葉僚太デジタル市場企画調査室長発言〕。

[4] 本稿は2025年5月7日に脱稿した。

[5] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会・前掲注2)30頁〔稲葉僚太デジタル市場企画調査室長発言〕。

[6] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会・前掲注2) 30頁〔稲葉僚太デジタル市場企画調査室長発言〕。

[7] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局「第5回検討会 資料3 事務局提出資料」(2024年)(https://www.jftc.go.jp/file/5-3_smartphone_ jimukyokushiryou.pdf, 2025年5月8日最終閲覧) 3頁。

[8] 稲葉僚太ほか「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律について」公正取引887号(2024)39頁参照。

[9] 稲葉ほか・前掲 39頁。

[10] 滝澤紗矢子「スマートフォンソフトウェア競争促進法の全体像」ジュリスト1603号(2024)36頁。

[11] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局「第8回検討会 資料1 第6条・第13条 事務局資料」(2025年)(https://www.jftc.go.jp/file/8-1_ smartphone_jimukyokushiryou.pdf, 2025年5月8日最終閲覧)8頁。

[12] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局・前掲8頁。

[13] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局・前掲8頁。

[14] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局「第6回検討会 資料1 第7条・第8条・正当化事由(総論)事務局資料」(2025年)(https://www.jftc.go.jp/file/6-1_smartphone_ jimukyokushiryou.pdf, 2025年5月8日最終閲覧) 5頁。

[15] 滝澤・前掲注10)37頁。

[16] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局・前掲注14)13頁。

[17] 稲葉ほか・前掲注8)39頁。

[18] スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する検討会事務局・前掲注14)13頁。

[19] 滝澤・前掲注10)37頁。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。

情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。

調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら

関連キーワード

成冨 守登の記事

関連記事

InfoCom T&S World Trend Report 年月別レポート一覧

メンバーズレター

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

メンバーズ登録(無料)

各種サービスへの問い合わせ

ICTに関わる調査研究のご依頼 研究員への執筆・講演のご依頼 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信サービスの専門誌の無料サンプル、お見積り

InfoCom T&S World Data Book

グローバルICT市場の総合データ集の紹介資料ダウンロード