2026.1.15 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

デジタル技術を活用したウェルビーイング(Well-being)の向上

AIによる生成画像です

はじめに

政府の経済財政政策に関する基本的な方針である「経済財政運営と改革の基本方針」(通称:骨太の方針)では、令和元年度以降、毎年Well-beingに関連する内容が盛り込まれている。令和元年度から3年度にかけては、主にWell-beingに関する指標群を構築し、各種取り組みのKPIとすることが掲げられてきた。現在は、国民生活を11分野に分類し、アンケート調査や統計データをもとに作成した指標を一覧化したものが内閣府ホームページで公表されている[1]。令和4年度以降は、Well-beingを指標化するだけでなく、個人・社会全体が目指すべきゴールとして位置づけ、令和7年度にはWell-beingの視点から施策をさらに深化させる方針が掲げられている。

このように、我が国の政策方針においてもWell-beingの重要性は高まっている。本稿では、デジタル技術の活用にも着目しつつ、Well-beingをめぐる現状について整理したい。

Well-beingの定義と概念整理

ウェルビーイング(Well-being)は、Well(よい)とBeing(状態)を組み合わせた言葉であり、世界保健機関(WHO)の「健康」の定義をもとに、「身体的・精神的・社会的にすべてが満たされた、持続的に幸福な状態」と説明されることが多い[2]。似たような概念を表す言葉として「Happiness(幸福、幸せ)」や「Welfare(福祉、幸福)」が挙げられるが、Happinessは、一時的な幸せの感情を表す言葉であり、持続的な幸福状態を意味するWell-beingとはニュアンスが異なる。また、Welfareは、医療・福祉領域で用いられることが多く、社会的弱者を支援・保護する意味合いが強い。

Well-beingは上記のように定義されることが多いものの、抽象的かつ広い概念であるため、さまざまな解釈が存在する(表2)。個人を想定するか国や地域を想定するのかによっても異なるものの、個人を想定したWell-beingについては、概ねWHOの定義にある3要素(身体的・精神的・社会的)が含まれている。さらに、これらに経済的要素を含めるものや社会的要素を「個人との関係」「地域との関係」といった形で細分化して定義するものも存在する。いずれにしても、どれか一つの要素だけが満たされていればよいわけではなく、複数の要素がそれぞれ良好な状態にあることがWell-beingであると解釈できる。

 

主な言及内容

平成25~30年度

Well-beingへの言及なし

令和元年度

我が国の経済社会の構造を人々の満足度(well-being)の観点から見える化するため「満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)」の構築を進め、関連する指標を各分野のKPIに盛り込む。

※令和2年度、3年度も同様。

令和4年度

(多極化・地域活性化の推進)

東京一極集中の是正、多極集中、社会機能を補完・分散する国土構造の実現に向け、(中略)地方発のボトムアップ型の経済成長を通じ、持続可能な経済社会の実現や個人と社会全体のWell-beingの向上、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す。

令和5年度

(質の高い公教育の再生等)

持続可能な社会づくりを見据え、多様なこどもたちの特性や少子化の急速な進展など地域の実情等を踏まえ、誰一人取り残されず、可能性を最大限に引き出す学びを通じ、個人と社会全体のWell-beingの向上を目指す。

令和6年度

(誰もが活躍できるWell-being が高い社会の実現)

需要の創出に加え、家計が可処分所得の継続的な増加を通じて成長の恩恵を実感できるよう、構造的な賃上げを社会に広げ定着させるとともに、(中略)健康意識の向上を図り、自らのキャリア設計の下で希望に応じて働くことで生涯所得を拡大させ、潜在的な支出ニーズを顕在化させていく。こうした「賃金と物価の好循環」や「成長と分配の好循環」の拡大・定着を通じて、希望あふれるWell-beingの高い社会の実現を目指す。

令和7年度

(人中心の国づくり)

「人材希少社会」に入っている我が国においては、人中心の国づくりを進めることが重要である。国民の不安を取り除き、公教育の内容や質を充実させるとともに、自己実現を可能とする環境を整備し、国や地域の経済社会を発展させ、ふるさとへの思いを高めることができるよう、あらゆる施策を総動員する。これらを通じ、国民一人一人にとって、Well-being(幸福度)の高い、豊かさ、安心・安全、自由、自分らしさを実感できる活力ある経済社会を構築する。

(Well-being(幸福度)の視点からの施策の深化)

Well-beingの高い社会の実現に向け、働く、学ぶ、健康、子育て、地域の生活に関連する基本計画や大綱において、生活のWell-being改善につながる実効的なKPIの設定を進めるとともに、Well-beingの把握を継続・強化する。次世代の社会生活や価値観の変化を反映する経済指標を検討し、将来的なSNA国際基準への反映も見据えた取組を推進する。

【表1】骨太の方針におけるWell-beingへの言及
(出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」をもとに作成
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/honebuto-index.html)

 

発表主体

Well-beingの定義や解釈

WHO

次の3要素が持続的に満たされた状態

•   身体:身体的な健康、活力、病気や不調がない

•   精神:精神的な安定、ポジティブな感情、ストレスへの対処

•   社会:他者や社会との良好な関係性、安心感、社会的な役割や居場所がある

マーティン・セリグマン博士

(米国)

次の5つの要素からWell-beingが構成される。頭文字を取って「PERMA(パーマ)モデル」と呼ばれる。

•   P=ポジティブな感情:うれしい、楽しいなどの感情

•   E=エンゲージメント:何かに没頭している

•   R=人間関係:他人との良好な関係

•   M=人生の意味や目的:人生の意義や目的を感じている

•   A=達成感:何らかの達成感を感じている、または達成に向かっている

タル・ベン・シャハー
博士

(イスラエル)

次の5つの要素によってWell-beingが高まる。頭文字を取って「SPIRE(スパイア)モデル」と呼ばれる。

•   S=精神的ウェルビーイング

•   P=身体的ウェルビーイング

•   I=知性的ウェルビーイング

•   R=人間関係におけるウェルビーイング

•   E=感情的ウェルビーイング

Gallup, Inc.

(米国)

次の5つの要素からWell-beingが構成される。

•   キャリアに関する納得感:仕事、家事、勉強などに情熱を持って取り組めている

•   人間関係の円満さ:他人との良好な関係

•   経済的な充足感:安定した収入など、経済的にうまくいっている

•   心身の健康:心身ともに健康である

•   地域とのつながり:地域社会とのつながりを感じられる

国連

世界幸福度ランキング(国単位)では、次の6要素を考慮して算出している。

•   1人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、他者への寛容さ、腐敗の認識(国への信用)

OECD

Better Life Index(国単位)では、次の11要素を考慮している。

•   住宅、所得と富、雇用と仕事の質、社会とのつながり、知識と技能、環境の質、市民参画、健康状態、主観的幸福、安全、仕事と生活のバランス

内閣府

(日本)

満足度・生活の質を表す指標群(Well-beingダッシュボード)では、次の11要素を掲載している。

•   家計と資産、雇用と賃金、住宅、仕事と生活(ワークライフバランス)、健康状態、教育環境・教育水準、社会とのつながり、自然環境、身の周りの安全、子育てのしやすさ、介護のしやすさ・されやすさ

【表2】Well-beingの定義や解釈
(出典:各種資料をもとに作成)

 

SDGsとの関係

2015年9月の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標であり、17の目標と169のターゲットから構成されている。その中の目標3には「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」が掲げられており、身体的な要素が強いものの、Well-beingと重なる点も多い[3]。また、目標8「働きがいも経済成長も」や目標11「住み続けられるまちづくりを」などもWell-beingと関係している。総じて、SDGsは地球全体が満たされた状態になることを目指しており、Well-beingな社会の実現とその価値観は合致している。

こうした背景もあり、また、SDGsの目標年が2030年であることから、SDGsに続くポストSDGsとしてSWGs(Sustainable Well-being Goals)が有力視されている。2024年9月に国連本部で開かれた「未来サミット(Summit of the Future)」では、ポストSDGsの具体像は示されなかったものの、同サミットで採択された「未来のための協定(Pact for the Future)」では、Well-beingという言葉が数多く用いられている[4]。また、2030年以降の取り組みについては、2027年9月に開催予定の「SDGサミット(SDG Summit)」で検討する[1] 内閣府「満足度・生活の質に関する調査」論が活性化することが予想される。

日本では、2021年3月に企業コンソーシアム「Well-being Initiative」が発足し、Well-beingという概念と新たな指標を、これからの時代の社会アジェンダとして位置づけていくための活動を展開している。2025年10月には「SWGs宣言」[5]を公表し、SWGsをSDGsに続く次の目指すべきビジョンとすることや、SWGsの中核をなす重要指標としてGDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)が提案されている。

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デジタル活用の事例

まとめ

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] 内閣府「満足度・生活の質に関する調査」https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/index.html

[2] WHOは1946年に定めた「世界保健機関憲章」(1948年発効)において、「健康」について「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」と定義している。https://japan-who.or.jp/about/who-what/identification-health/

[3] 外務省「JAPAN SDGs Action Platform」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal3.html

[4] https://www.un.org/pact-for-the-future/en

[5] https://well-being.nikkei.com/news/swgs-declaration_20251006.pdf

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