誰しも一日何度も利用し、最もプライベートな空間である場所。人によっては、そこで考え事をしたり、本を読んだりする人もいる。最近ではスマホを持ち込んでゲームをしたりする人も多いとか。完全に周りと遮断され、あの小さな空間であることが人に安心感を与えるようだ。
ただ自身が子供の頃のトイレは決して快適な空間とは言えなかった。特に田舎の祖父母の家では、長い廊下の突き当たりにあり、夜は一人で行くのが怖い場所だった記憶がある。その後、水洗化が進んだことで家の外に近い場所から、内側に設置されるようになり、暗くて怖い場所から脱却したことで、大きな進化を遂げた。日本においては洋式の普及が、よりゆっくり滞在できる空間を作り出すことにもつながった。
設備としても、フタが勝手に開いたり、音楽が流れたり、いい香りが出て来たり、泡で掃除をしてくれたり、高機能化がどんどん進み快適性UPが進んでいる。ちなみに、便座を自動で上げ下げできる機能は、上げたままにする男性と、下げておいて欲しい女性の永遠の対決であった夫婦喧嘩の種を減らすことにも貢献した画期的な機能とも言われているのはご存じだろうか。お心当たりの方はご検討を⁉
家庭レベルもさることながら、ビルや公共施設におけるトイレは様々なテクノロジーを駆使し、利便性と快適性を追求する空間として進化がめざましい。
あるオフィス水回り意識調査*によると、約7割のオフィスワーカーが「トイレ・化粧室」を仕事のモチベーションに影響する場所として重要視しており、約半数の人がトイレを気分転換の場所に使っているとのこと。いまやトイレは仕事に大きな影響を与える場所となっているという実態もあり、様々な改良の取り組みが行われている。
その最先端の事例を2つご紹介したい。
1つ目は、2027年に日本一高いビルとなるTOKYO TORCHが建つ東京駅近くの常盤橋再開発PJの一つで先日竣工した常盤橋タワーの3F。このフロアは、カフェテリアラウンジや共用キッチンなどもあるビル就業者向けの共用スペースとなっており、そこに設置されたのが「nagomuma restroom」という最先端のオフィス向けトイレ。
各個室は六角形の形状で、「くつろぎ」や「ひらめき」など4種類の異なるコンセプトで内装が施されており、個室に入ると、快適な照度の照明がつき、各部屋のイメージに合わせた音楽が流れる。また個室の中に洗面カウンターがあり、手洗い&化粧直しが個室の中でできるのは女性には特にうれしい仕様(写真1、2)。

【写真1】
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

【写真2】

【写真3】
様々なIoT対応がされており、入り口には利用状況が一目でわかるサイネージが設置され(写真3)、空き状況を確認し、好みの部屋を選んで入ることができる。また照明、自動水栓、ソープディスペンサーから便座にいたるまで、すべての機器に無線モジュールを内蔵し、自動で照度や水温の調整、補充の管理を行い、さらには清掃やメンテナンスの最適化のためのデータとしても活用できるシステムとなっている。
実際に利用してみたが、こんな快適な空間であれば、少しの間、一人きりの時間を楽しみ、気分の切り替えを行い仕事の能率があがるのではないかと思う。
2つ目は、日本財団が渋谷区で行っている「THE TOKYO TOILET」というプロジェクト。公共トイレはともすると暗い、汚いなどの理由で利用を躊躇したり、暗い閉鎖空間は犯罪が起こりやすい場所となっていることもある。そこで、このプロジェクトでは世界的なクリエイター16名が参画し、クリエイティブの力で社会課題を解決する空間をデザイン。年齢、性別、障害を問わず、誰もが快適に利用できる公共トイレの設置を目指している。現在、既に区内12カ所に設置されており、こちらは私が犬の散歩でよく行く代々木公園に隣接した「はるのおがわコミュニティパーク」のもの(写真4)。

【写真4】
遠くから見ても目立つ明るいガラス張りの建物で、透明なため、中に誰か潜んでいるかもという不安がなく、安全に利用できる。透明なトイレ⁉ と心配になるが、中に入り鍵をかけるとセンサーによりガラスが不透明になる仕組みとなっているのでご安心を。また中が見えることで、誰しも清潔に利用しようという気持ちが働く効果もあるようで、センサー技術とデザインの融合により快適な空間が作り出されている。
誰もが必ず使う場所であるからこそ、できるだけ快適に利用したい場所がトイレ。
トイレのレベルは民度の高さを表すとも言われており、日本のトイレは元々、清潔で使いやすいが、様々なテクノロジーを活用することで、ますます快適な空間に進化している。
もちろん、最後は利用する人それぞれが他者への配慮を持って、誰もが気持ちよく利用できる空間にしていくことが大切。まさにユニバーサルな空間への進化を今後も期待したい。
※TOTO「オフィス水まわり意識調査」(2018)
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。
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