シェアリングエコノミー躍進のエンジンは幸福度の増進-2021年シェアリングエコノミー調査報告 第3回-
2021年シェアリングエコノミー調査報告の第3回は、幸福度を取り上げる。
[前回の記事]
シェアリングエコノミーの驚異的な成長!
-2021年シェアリングエコノミー調査報告 第2回-
前回の報告では、シェアリングエコノミーの市場規模が2030年度で14兆円を超え、大きな経済的価値を生むことを示した。一方、シェアリングエコノミーの価値は経済的側面からだけでは計り切れない。そこで、経済的側面以外の価値をとらえるため幸福度をアンケート調査で確認した。ここでの幸福度を計測するための指標として既存研究[1]を参考に以下の5項目を設定している。
図2の幸福度のアンケート結果をみると、シェアシェアリングエコノミー利用者(資産・サービス提供者と利用者双方を含む)は、非利用者より幸福度が高い割合(「とても高い」「高い」「やや高い」の割合)が大きい。
残りの4つの指標についても、利用者の幸福度の高さを非利用者と比べるために指標化して表すと以下のようになる[2]。生活の裕福さ他4指標全てでシェアリングエコノミー利用者の方が高い結果となった。
以下では、シェアリングエコノミー利用者の幸福度が高い背景を探ってみる。
幸福度が高い背景
シェアリングエコノミー利用者の「生活の裕福さ」が高いのは、資産や隙間時間及びスキルを使って収入を得られるためであろう。シェアリングエコノミーを利用すれば、収入を得にくい人(何らかの理由で就労機会に恵まれない人等)でも収入を得ることが可能であり、そうした人たちも含めて幅広い人の「生活の裕福さ」を高めていることを物語っている。
余暇の充実、将来への希望を表す「生活の順調度」が高い背景には、シェアサービスが提供者と利用者の間にネットワークを作り、それを強化することが寄与していると考えられる。シェアサービス利用者は趣味の相談や観光案内等の娯楽、子育てや家事等の援助が得られる一方、提供者は収入が得られる。提供者と利用者のつながりが強くなり、娯楽・援助・収入等が安定的に得られるようになることで双方の「生活の順調度」が高まると考えられる。
危険な目に合わず安心して生活ができる「生活の安心・安全度」が高いのは、シェアサービスには、災害時の避難場所を提供してもらえるもの、困ったときに助けてもらえる(子供を預ける、お金を集める等)もの等が提供されているためだと考えられる。
他人から信頼されているか、社会的な地位があるかという「社会から認められている度合い」が高い背景には、シェアサービス提供者が自らの資産やスキルを社会に役立てることができる点が表れていると考えられる。
以上を総括すると、シェアシェアリングエコノミー利用者の幸福度が高い要因は、シェアサービスの特色である、個人がサービスを提供できる点、ユーザ同士のつながりが生まれる点にあるといえる。
経済的要因が注目されることが多いシェアリングエコノミーだが、その普及の背景には、経済的要因以外の要因の貢献、つまり幸福度の向上がある。
以下、幸福度が高いのはどのようなサービスなのかを見ていこう。
サービス別の幸福度
図4はサービス別の「各項目を総合した幸福度」[3]を大きい順に示している[4]。
特に幸福度が高い3サービスの事例には以下がある。
上記サービスでシェアするスキル、部屋、マイカー等の有形・無形の資産は、利用されないアイドルタイムがあり、100%活用できていなかったものだ。それらをニーズと結びつけることで、人々の幸福度の向上につなげることがシェアリングエコノミーの価値だと言える。
幸福度向上効果の活用
シェアリングエコノミー利用者が増えることで、世の中全体の幸福度を高めることが可能である。GDPでは計れない幸福度も高めなければならないという課題が世界的に議論されているが、シェアリングエコノミーはこの課題の解決に貢献する。
また、自治体では課題解決のためにシェアリングエコノミーを活用する動きが広がっているが、同時に地域の幸福度向上も期待できる。実際、情報通信総合研究所が進捗管理・分析を行った総務省「平成30年度シェアリングエコノミー活用推進事業」[6]においても、当初想定していなかった成果として、サービス提供者の精神面の充実が確認されている。
また、企業も顧客満足度向上等のためにシェアリングエコノミーの幸福度向上効果を活用することが可能だ。小田急電鉄が提供する「ONE(オーネ)」はユーザが1IDで複数のシェアサービスを利用できる。ユーザの幸福度が向上することで、顧客満足度の向上、顧客の支出拡大、顧客との取引関係の長期継続等も期待できる。
◇◆◇
以上みてきたように、シェアリングエコノミーは既存の有形・無形資産をニーズと結びつけることで人々の幸福度を向上させる。これが市場規模の拡大につながっている。
今回取り上げた調査結果の詳細は、「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」(https://www.icr.co.jp/publicity/3703.html)として販売している。市場規模予測、新型コロナによるユーザの増加の動向、ユーザの特性やシェアサービス事業者との連携のメリット等を記載している。
第4回はユーザの特性の1つである「社会とのつながりの強さ」を取り上げる予定である。
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[1] 袖川 芳之・田邊健「幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係があるのか ~」『ESRI Discussion Paper Series 』No.182(2007)における幸福度の6因子の内で、個人に関連する「裕福な生活環境」「順調な生活の展開」「生活の安全・安心」「社会的承認」を参考とした。
[2] 指標化は、回答結果の「とても高い」に6、「高い」に5、「やや高い」に4、「やや低い」に3、「低い」に2、そして「とても低い」に1と数値を割り当て、平均値を計算したものである。
[3] 図3の幸福度をサービス別に計算したもの。複数サービスユーザは除いて計算している。
[4] 各サービスの説明は巻末の参考にまとめている。
[5] Anycaの平均受取金額はWebサイトからの引用。東京23区内を主要な受け渡し場所に設定し、1回以上シェア経験があるクルマ(シェア回数上位100車種)の平均受取金額(2018年の実績値)。
[6] https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/sharing_economy.html
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