2021.5.10 ICT経済 ICTエコノミーの今

社会的孤立を防ぐシェアリングエコノミー -2021年シェアリングエコノミー調査報告 第4回-

2021年シェアリングエコノミー調査報告の第4回は、社会とのつながりを取り上げる。

[前回の記事]
シェアリングエコノミー躍進のエンジンは幸福度の増進
-2021年シェアリングエコノミー調査報告 第3回-

(シリーズ一覧はこちら)

前回の報告では、シェアリングエコノミーが大きな経済的価値を生む背景に幸福度の増進効果があることを示した。幸福度に影響する要素には、対人関係や社会との関係といった「関係性」がある。これにはシェアリングエコノミーの重要な特性である人と人とをつなぐ効果が影響するので、さらに掘り下げた調査を行った。既存研究で挙げられている3項目[1]の内容からシェアリングエコノミーに関連する要素を抽出し、「社会とのつながり」を示す5つの調査項目にまとめ、アンケート調査で確認した。

図1 既存研究とアンケート項目の関係

図1 既存研究とアンケート項目の関係

調査結果の図2をみると、シェアリングエコノミー利用者(資産・サービスの提供者と利用者の双方、以下同様)は、非利用者よりも社会とのつながりが強いと言える。

図2 シェアリングエコノミー利用者と非利用者の社会とのつながりの比較

図2 シェアリングエコノミー利用者と非利用者の社会とのつながりの比較
出典:「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」(情報通信総合研究所)

割合が高いのは「助けを求める相手がいる」「孤立感を感じない」であるが、中でも「孤立感を感じない」は日本において重要である。日本は少子高齢化が進み、世帯人員が減少している。都市部では近所との交流が全くない人も増えており、老人の孤独死が問題になっている。他にも、社会から孤立してしまう人の増加は犯罪や貧困等の問題につながる。これらの問題に対して、シェアリングエコノミーは人と人とをつないで社会的孤立を防止することで解決に貢献できる。

以下、シェアリングエコノミーの社会的孤立防止効果がどのような側面で有効なのかをみるために、「孤立感を感じない」の回答割合をセグメント別にみていこう。

■年代別

シェアリングエコノミー利用者の年代別の 「孤立感を感じない」の回答割合をみると60代が突出して高い。シェアリングエコノミーは高齢層の社会的孤立を防止する効果が高いと言える。

図3 年代別の「孤立感を感じない」の回答割合

図3 年代別の「孤立感を感じない」の回答割合
出典:「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」
(情報通信総合研究所)

高齢になる程ICTリテラシーが低い人が多いためシェアリンングエコノミーの利用者が少なくなる傾向があるが、利用者の中にはヘビーユーザが存在する。

例えば、民泊の「Airbnb」では評価の高い経験豊富なサービス提供者をスーパーホストと呼んでいるが、日本では高齢のスーパーホストが紹介されているのをよく目にする。学びたい人と教えたい人をマッチングするスキルシェア「ストアカ」でも、外食産業に定年まで勤務した人が包丁の研ぎ方を教えるサービスが有名である。

最近では新聞記事で高齢層のシェアリングエコノミー利用が取り上げられる等の動きがあり、着実に高齢層の利用が広がっている。高齢層の社会的孤立を防止する効果は今後高まっていくと期待される。

■資産・サービスの提供・利用別

資産・サービスの提供者・利用者別の「孤立感を感じない」の回答割合をみると「提供のみ」「提供・利用」の回答割合が同じくらい高いのに対して、「利用のみ」が低い。

図4 提供者・利用者別の「孤立感を感じない」の回答割合

図4 提供者・利用者別の「孤立感を感じない」の回答割合
出典:「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」
(情報通信総合研究所)

前回の報告で、シェアサービス提供者が自らの資産やスキルを社会に役立てることが幸福度向上に繋がっていることを述べた。同様に、シェアサービス提供者が自らの資産やスキルを提供して感謝されることで利用者とのつながりが生まれ、「孤立感を感じない」ことに繋がっていると考えられる[2]。実際、家事スキルシェアの「タスカジ」では、サービス提供者が「拡張家族」の一員と言われるほどサービス家庭と深い関係を築く事例がある。他のシェアサービスでも、サービスを利用するのが主目的ではなく、サービス提供者に会いたいからサービスを利用するというケースがある。

個人が企業のようにサービス提供できる点は、シェアサービスが既存サービスと大きく異なる点の1つである。これが社会的孤立を防止する効果につながっていると考えられる。社会的孤立を防止するにはシェアサービス提供者を増やしていくことが有効である。

◇◆◇

以上みてきたように、シェアリングエコノミーは少子高齢化が進む日本における大きな課題である社会的孤立を防止する効果がある。今後、老人の孤独死等を防ぐために、高齢層のサービス提供者を増やしていくのが効果的である。

今回取り上げた調査結果の詳細は、「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」(https://www.icr.co.jp/publicity/3703.html)として販売している。市場規模予測、新型コロナによるユーザの増加の動向、ユーザの特性やシェアサービス事業者との連携のメリット等を記載している。

第5回は最近注目度が増しているSDGsへの貢献効果を取り上げる予定である。

リンクバナー「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」

◇◆◇

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(参考)シェアサービスの説明とサービス例

(参考)シェアサービスの説明とサービス例

[1] 内閣府 幸福度に関する研究会「幸福度に関する研究会報告(案)」
https://www5.cao.go.jp/keizai2/koufukudo/shiryou/4shiryou/2.pdf

[2] 「社会とのつながり」の他の4項目及び前回取り上げた「幸福度」5項目でも「利用のみ」が低くなっており、シェアリングエコノミー利用者と非利用者の違いの要因は資産・サービスの提供にあることが考えられる。

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