情報通信総合研究所では、情報通信(以下、ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「ICT関連経済指標」を作成し、四半期ごとに公表しております。「InfoCom ICT経済アップデート」について2024年1-3月期がまとまりましたのでご報告いたします。
【2024年1-3月期のポイント(前年同期比)】
2024年1-3月期のICT経済は、総合指標が前年同期比1.7%増と3期ぶりに増加に転じた(2023年10-12月期:同マイナス1.2%から2.9ポイント改善)。財・サービス別にみると、ICT財生産は同2.3%増と6期ぶりに増加に転じた(2023年10-12月期:同マイナス4.5%から6.8ポイント改善)。加えて、ICTサービスは、同1.5%増と前期の減少から増加に転じた(2023年10-12月期:同マイナス0.1%から1.6ポイント改善)[1](図表1)。
今期のICT経済は、供給サイドの財生産では半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置が増加に転じ、電子部品、集積回路の増加幅が拡大した。半導体受託生産大手のTSMCの熊本県への進出に加え、生成AI用のサーバ需要拡大や中国の半導体内製化による需要の増加が背景にあると考えられる。ICT財の在庫は、減少幅が拡大し、在庫減少局面にある。一方、ICTサービスは、通信業の増加幅が拡大したことにより、増加に転じた。
需要サイドをみると、ICT消費は11期連続で減少したがその減少幅は縮小している。スマートフォンなどの本体価格が円安や部材価格の高騰を背景に増加したことに加え、スマートフォン等通信・通話使用料の減少幅が縮小したことが背景にある。また、ICT設備投資(民需)は4期連続で減少した。要因は、サーバを含む電子計算機等の減少継続や通信機投資が減少に転じたことが挙げられる。
ICT輸出は、金額ベースで5期ぶりに増加に転じた。数量ベースでは10期連続で減少しているが減少幅は大幅に縮小しており、円安によるプラスの影響がある。品目別にみると半導体製造装置が増加に転じ、半導体等電子部品は増加幅が拡大した。ICT輸入は、金額ベースで前期の増加から減少に転じ、数量ベースでは6期連続で減少した。通信機が減少に転じたことに加え、半導体等製造装置の増加幅は縮小、半導体等電子部品は減少幅が拡大した。
世界的な半導体市場が回復傾向となる中、輸出が牽引する形で電子部品・デバイスの在庫調整が進み、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置の生産は増加に転じている。この需要増加を牽引しているのは、生成AI用データセンターで用いられる半導体等の需要である。加えて、車載分野での需要は堅調さを維持しており、足元では中国等でのスマートフォンの新モデル向けやパソコン、タブレット向け電子部品の生産が増加している。一方、底堅い需要で半導体市場を支えてきた産業機械向けや自動車向けは伸びが鈍化している。今後について、2024年後半以降、世界の半導体製造装置は、大手主要メーカーの巨額の投資計画に伴い成長が期待される。国内では、パワー半導体関連工場向けに加えて、TSMC、北海道のラピダスなどを中心とする新規投資向けの需要が拡大する見通しであり、年後半にかけてICT経済は回復基調となることが見込まれる。
【2024年1-3月期の動向】
(ICT経済総合)
- 国内ICT経済は前年同期比1.7%増と3期ぶりに増加し、前期(2023年10-12月期)に比べて2.9ポイント改善した(図表1)。
(ICT財)
- ICT財は前年同期比2.3%増と6期ぶりに増加に転じ、前期(2023年10-12月期)に比べて6.8ポイント改善した(図表1)。
- 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置は増加に転じ、電子部品、集積回路は増加幅が拡大した(図表3)。
(ICT在庫)
- ICT在庫は前年同期比24.3%減となり、前期(2023年10-12月期)に比べると減少幅が9.9ポイント拡大した(図表4)。
- 電子デバイスと集積回路の減少幅が拡大した。
(ICTサービス)
- ICTサービスは前年同期比1.5%増と増加に転じた。前期(2023年10-12月期)に比べて1.6ポイント改善した(図表1)。
- 通信業は増加幅が拡大し、受注ソフトウェアは増加幅が縮小した(図表5)。
(ICT消費)
- ICT消費は前年同期比1.1%減と11期連続で減少し、前期(2023年10-12月期)に比べると0.2ポイント悪化した(図表1)。
- スマートフォン等の通信・通話使用料は減少幅が縮小し、スマートフォン等の本体価格は増加幅が縮小した(図表6)。
(ICT設備投資)
- 民需(除く船舶・電力・携帯電話)は前年同期比2.2%減と4期連続で減少した。前期(2023年10-12月期)に比べて5.7ポイント改善した(図表1)。
- 通信機は減少に転じたが、電子計算機等は減少幅が縮小した(図表7)。
- 官公需は前年同期比20.4%増と5期連続で増加した。
(ICT輸出入)
- ICT輸出(金額ベース)は前年同期比9.4%増と5期ぶりに増加に転じた(図表1)。半導体製造装置は増加に転じ、半導体等電子部品は増加幅が拡大した(図表8)。
- ICT輸入(金額ベース)は前年同期比2.5%減と減少に転じた(図表1)。通信機は減少に転じ、半導体等製造装置は増加幅が縮小、半導体等電子部品は減少幅が拡大した(図表9)。
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【関連サイト】ICT経済分析
[1] 鉱工業生産指数は、2023年4月分確報より基準年次を2015年から2020年へ基準改定されている。そのため、今回は暫定的な措置として、2015年基準データを2020年基準データの伸び率で延長した。
「InfoCom ICT経済アップデート」の主な内容
- 情報通信産業のマクロ経済への寄与度及び個別品目(サービス)の寄与度の分析
財・サービスの生産面、需要面について、ICT関連経済指標を作成し、マクロ経済の動向を示す総合経済指標の増減に対して、情報通信産業の寄与について定性的、定量的に分析。 - 情報通信の在庫循環分析
情報通信生産と情報通信在庫の循環を分析。
※ICT関連経済指標は、九州大学篠﨑彰彦研究室で開発された指標を、情報通信総合研究所で維持・更新し、必要に応じて改善しているものです。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
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