2015年4月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

京都発の食事、私の体験

今月はICTから離れた話題ですので冒頭御承知おき下さい。


3月初めに久し振りに京都に行ってきました。近しい親戚を訪問するのがその目的でしたが、その際に少し面白い経験をしましたので取り上げたいと思います。短い滞在の間に、2回自然食(菜食)を食べる機会があり、和食ブームの中、京都という土地柄をさらに観光面や文化面で際立たせるものを感じましたので私の感想を述べてみます。


自然食(菜食)のひとつが精進料理です。京都に着いた日に昼食のために市内のお寺に行って精進料理を頂きました。それは黄檗禅宗の伝統に基づく普茶料理「普(あまね)く衆人に茶を施す」というもので、油の揚げ物などを用いた中華料理風の精進料理で観光客向けにアレンジされたコース料理でした。年配者を連れていましたので珍しい雰囲気の中でおいしい食事をしたいと思い、初めて訪れた場所です。手入れの行き届いた静かなお寺の庭をガラス越しに見ながらの手の込んだ味付けのしっかりした、とてもおいしい料理でした。私がそれまで知っていた料理店などの薄味の精進料理とは違い、外国人観光客にも好まれる味付けで、また季節感のある野菜や自然の花などを調理したもので私には初めての体験でした。多くの観光客を引き付けていることがよく分かりました。もちろん、精進料理ですから肉類・魚介類などは用いられておらず、和食とは異なるものです。


和食は、2013年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されて世界に発信され、訪日観光客を引き付ける要素となっています。「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」、「栄養バランスに優れた健康的な食生活」、「自然の美しさや移ろいの表現」、「正月などの年中行事との密接な関わり」といった特色を持つ和食の成立に大きな影響を与えたものに、仏教とともに日本に伝わった精進料理があります。例えば、茶席で提供される懐石料理など和食の原点と考えられるものが数多く存在します。また、精進料理では食材が野菜類・豆類に限定されているので、調理法や調味料などさまざまな工夫がみられ、これが和食の奥深さを生み出してきたと言われています。精進料理については私はまったく不勉強で、仏教の説く不殺生の教えに基づいていることくらいしか知りませんが、私達の日常の食事にも食材や調味料など大きな影響を与えています。


話題は変わって、その日の夕食にはいわゆる自然食(オーガニック)の洋食を食べましたので、それについて感じたことです。自然食といってもマクロビオティック風の穀物・豆類と野菜だけで作るイタリア料理でした。味付けも盛り付けも本格的なイタリアンで小さなお店なのにとてもおいしく沢山のメニューを楽しむことができました。そこは私の親類がオーナーシェフを勤めているのですが、特に予約が必要となるような立派なレストランではなく、テーブルが10脚くらいしかない小さな店構えです。しかし自然食ブームの中、健康指向の人達がよく通ってくるとのことでした。私が食事をした当日も平日の夜でしたが若い人達が何組も食事をしていました。ここでも白状しますが、私は自然食にも、ましてやマクロビオティックにもまったくの素人で詳しくありませんので、食材と味付けくらいしか分かりません。でも、京都という土地柄か、和食や精進料理の伝統が根付いていることからなのか、高級料亭の日本料理や本格的なフランス料理などだけでなく、こうした特色ある洋食にも人気があることを初めて知った次第です。


ここで私は、訪日外国人が急増している京都という場所を改めて考えさせられました。増え続ける外国人観光客を受け入れられる余地を持つ観光地は京都しかないとさえ言われるくらいに、日本各地の観光インフラは未整備・不足しているのが実態です。幸い京都には古くから日本各地からの観光団や修学旅行生達を受け入れてきた歴史があり、宿泊先や訪問先、観光案内人や説明資料などが他の地域より余裕があるように見受けられます。さらに以前に比べて、無料Wi-Fiなどの通信施設の整備も進められています。加えて、さすがに京都と思われる取り組みとして、道路に面した建物看板の撤去や建物の高さ制限が進められて街なかの大通りの見通しがよくなり、空が広がったような感じがします。京都を訪れる観光客向けの施策として、こうした地道な努力は欠かせません。


そこで食事のことに話を戻しますと、京都の伝統で観光客が求める和食は何より大切な「おもてなし」資産ですが、それだけでは十分とは言えません。世界には信仰や信条から食べ物に禁忌や決まり事、特別な考えを持つ人達が沢山います。食事こそ多様性に最も富んだ文化・伝統であり、生き方であることを忘れてはいけません。和食だけでは、ベジタリアンの人達、イスラム教を信仰する人達にはすべてを満たせないのです。肉類や魚介類を食べない人達は欧米にも、アジアにも本当に大勢います。その人達こそ、これから数多く日本を訪れることになりますし、日本人の間にも自然食・健康指向の人達はますます増えていくと予想できます。


和食や中華、洋食、エスニック料理といったパターン化された分類でなく、精進料理でも、オーガニック食でも、またマクロビオティックでも、ベジタリアンでも受け入れられる多様な食事の場の提供こそ、これからの京都にふさわしいと感じました。私達はともすると観光では日本のおもてなしを重視するあまり、食事でも日本風のワンパターンを押しつけていないか考えておく必要がありそうです。京都という日本文化のコアの場所だからこそ、グローバルに発信し世界中から多様な人達を迎えるために、伝統を活かした精進料理や自然食・健康食を指向する菜食も含めて用意しておく必要があります。グローバル化とは根本的なところでは多様性を受容することであり、単純に米国化ではありません。特に21世紀前半の今日、発展するアジアやイスラム圏の人達との交流の機会が増えるので、食事提供面での多様性は何より大切です。京都という古い土地柄だからこそ、こうした取り組みの必要性を感じた次第です。


今回はICTとは離れた私事にこだわった内容になりました。グローバルに向けた京都発・日本発が続くことが活力に繋がると思っています。

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