2015年7月2日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

ミリ波(60GHz帯)を用いた非接触高速大容量データ転送の可能性―2020年東京オリンピック・パラリンピックを目指して―



5月27日~29日に東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2015」では、主に第5世代移動体通信(5G)の研究開発が話題となっていて、無線通信技術の開発と同時にNFV(ネットワークの仮想化)の活用が取り上げられていました。このワイヤレスジャパン展示会は今年で20回目ということで、第1回の開催当時は携帯電話契約者数が数百万レベルで当面1千万契約を目指していた時代だったとの主催者の挨拶でした。モバイル通信システムがようやく1G・アナログ方式から2G・デジタル方式に移行する頃で、現在2020年を目途に5Gの開発に取り組んでいることは、高速大容量に進む継続した研究開発に対して改めて感心させられます。


ただ、この間モバイルサービスを中心に見てきた者としてはその一方で、5年後に迫っている東京オリンピック・パラリンピックの時に世界に向けて発信する日本の情報通信サービスが具体化されていないことが残念でなりません。世界から注目を集める最大のスポーツイベントなので、情報通信の分野ではまず混乱なく平穏に安全に運営されることが第1であり、サイバーアタックの防御とトラフィックコントロールが何よりも大切であることは当然のことです。ゴールドパートナー第1号(カテゴリーは通信サービス)となったNTTの役割には特に大きなものがあります。既にNTTは業界を超えて情報共有や連携を図るべく取り組みを強化しており、協力体制がとられています。しかしこれだけでは、人の目に付かない縁の下の役目だけなのでうまくいって当然との評価だけです。


問題は利用者の目に見え、手に触れることができる新しい製品やサービスがまだはっきりしていないことです。オリンピック・パラリンピックのスポンサーになることの意味は、大会を支援する企業と堂々と名乗れるだけでなく、自らの企業イメージを重ねて製品やサービスのショーケースの機会が持てるということです。現時点の話題は放送系では4K・8Kテレビ放送であり、通信系ではモバイルの5G、情報系ではクラウド利用の翻訳サービスなどです。最近、パナソニックとNTTが提携して、多言語対応のデジタルサイネージや好きな角度から競技を見られる多視点映像システムなどに取り組むと発表がありましたので、ようやく具体的な製品・サービスのイメージが固まりつつあるようです。2020年までにはあと5年しかありません。具体的な姿を見定めて、研究開発と国際的な標準化を急がないと世界への普及拡大へと繋げる日本発の製品・サービスとしては間に合わなくなります。オリンピック・パラリンピックを実証実験や単なる新技術の紹介で終わらせてはなりません。世界の人々に日本発の製品・サービスをアピールするショーケースの場として活かすチャンスですから、早めに世界に方向性を示しておくことが望まれます。そうでないとなかなか評価をしてくれず広がりを持つことはありません。


そうしたなか先日のワイヤレスジャパン2015の展示で興味を持ったものがありましたので紹介したいと思います。NTTと日本無線のブースで展示・説明されていた「ミリ波非接触高速転送技術」、“かざすだけで大容量コンテンツを瞬時に転送”する次世代Transfer Jetが大変面白いと感じました。これは、国際的に非免許周波数帯域と設定されている60GHz帯のミリ波を用いて、1対1の10cm未満の近接大容量データ転送を行うもので10Gbpsの高速転送が可能となります。現在開発中の5Gの目標性能は、高速通信(ピークデータレート10Gbps以上)、大容量化、低遅延化(無線区間1ms以下)、低コスト&省消費電力、多数端末との接続であり、これらをすべて満足すれば高速の大容量通信が高い信頼性で可能となるので、これ以外の近接非接触型のデータ転送は不要となる印象を持ちます。しかし他方で、5Gであってもモバイル通信の限界を避けられないことを忘れることはできません。それは狭い範囲で1度に多くの利用者が接続すると通信速度が下がり安定度が低下することは残念ながら克服することはできないということです。1対多のモバイル通信のもつ宿命なのです。そこで、このミリ波(60GHz帯)を用いた非接触高速無線技術に5Gモバイルネットワークのオフロード型として注目しています。データ転送能力は1時間の動画映像でも1秒程度での転送が可能となりますので、オリンピック・パラリンピック会場やパブリックビューイングなどで動画付パンフレットとして配布できるようになります。まさにTouch and Get環境ができることになりますが、このためには各種のゲートやサイネージのほか、キオスク端末、自動販売機、公衆電話などに転送機器(モジュール基板)を埋め込んでおく必要があります。加えて、そこで何を取り込むのか、流通コンテンツは何が求められるのか、さらに事業性あるビジネスモデルをどう作り上げていくのかなど解決すべき項目は数多くあります。ただ、スポーツ会場やエンターテイメント会場など多くの人が集まり、特定の関心の下で動画等の大容量通信が起り易い環境ではモバイルのインフラネットワークに加えてオフロード通信環境が必要条件となっています。現在はWi-Fiがその役割を担っていて各地で整備が進められていますが、オフロードといってもWi-Fiもやはり1対多の通信なので多数の接続においては速度や安定性の低下は避けられないのが実態です。


そこで発想を転換して1対1の通信(転送)とすることで、高速性と信頼性を保証した大容量データ転送を行おうとする訳です。非接触近接型とすることでモビリティは放棄する一方で、高速性・信頼性を確保してオフロードとして機能するものです。転送に必要なモジュール基板のコストは大量生産で大幅に下げることができますので、やはり問題はどのようなコンテンツをどの場面で転送するのがよいのか、その需要が実際あるのか、イベントやスポーツ会場運営者や交通系・物流系の事業者との協力・提携を始め、どのような(動画)コンテンツに要望があるのか、著作物としての処理をどうするのかなど広い分野での協力が不可欠となります。


ちょうど2020年のオリンピック・パラリンピックという一大イベントが見込まれる今こそ、サイバーアタック防御のためインフラ事業関係者が協力体制を構築しているのと同様に、新しいモバイル通信オフロード方式と動画コンテンツの流通方策の創造のために関係者の協議・協力の場が求められます。もちろん、メーカーが中心となっている既存のTransfer Jetコンソーシアムの取り組みも取り入れる必要がありますし、国際標準化では非接触カードで十分に目標が達成できなかったことを踏えて、官民あげて標準化活動を推進することが課題となります。さらに、業界を始めとする各種の展示会やフォーラムに出展し幅広い分野の専門家やマスコミメディアなどに取り上げてもらう工夫もまた重要な方策です。2020年まであと5年しかありませんので、国際標準に則り具体的な製品を作ってサービスとして普及していくには相当急がなければなりません。世界に向けた日本発のミリ波(60GHz帯)を用いた、5Gネットワークのオフロード型データ転送サービスが2020年東京オリンピック・パラリンピックで動画パンフレットとして普及・活用されることを楽しみにしています。


スマホやタブレット向けに、プレミアム(シート)サービスとして動画パンフレットが取得できるとなるとチケットやシートのプレミアム感が一層高まり満足感も増すことでしょう。また、特定の場所でのパブリックビューイング会場でも有料の動画パンフレットの販売(転送)が可能となると新しいビジネスモデルが成立します。こうした新しい動画付の各種のサービスに期待しています。

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