2018年5月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

世帯の小規模化がもたらすBtoC向け通信市場の将来



今年1月、国立社会保障・人口問題研究所は国勢調査結果に基づいて世帯数の将来推計を発表しました。これによると、夫婦と子の世帯や三世代同居等の大規模世帯が減少し、単独世帯が2040年には約4割に達する大きな割合となり、世帯の小規模化が一層進むと推計されています。これまでさまざまな場面で想定してきた戦後の「標準的世帯」モデルであった夫婦と子の割合は、2015年の27%から2040年には23%に減少する一方で、単独世帯は2015年時点でも最大の割合で35%でしたが、2040年には39%へと大幅な増加となっています。この間(2015年~2040年)の世帯総数は5333万世帯から5075万世帯へと258万世帯、4.8%減少していくなかで、単独世帯が8.3%増加していくことになります。他の夫婦のみ、ひとり親と子の世帯数はほぼ同数、三世代同居等の大規模世帯が大幅に減少するなかでの単独世帯の増加は、平均世帯人員を2015年の2.33人から2040年には2.08人に押し下げることになります。なお、世帯総数は2023年の5419万世帯でピークを迎えて、その後は減少に転じていきます。

以上の背景には、もちろん人口の高齢化があり、世帯主の高齢化が進み65歳以上の高齢世帯が増加すること、また高齢者の独居率が上昇することが指摘されますが、加えて、生涯未婚率(注)の1990年代以降の急上昇、特に男性の未婚率が1980年当時の数%から現在では約25%に上昇し、2040年には30%程度にまで高まると試算されていることがあります。

つまり、世数の小規模化は人口の高齢化とともに、未婚率の上昇によって急速に進むことが予測されていて、これまで政府を始めさまざまな分野(例えば、税制、年金、社会福祉、住宅など)で前提としてきた「標準的世帯」モデルが大きく変容を遂げていることがよく分かります。家族類型のあり様がここまで変化する見通しである以上、特に関連が大きい住宅市場においては対応が必須となるし、国・自治体の政策も将来を見据えた変化が急務となっています。

当然のことですが、世帯の小規模化はBtoC向け通信市場の将来にも大きな変化をもたらすことでしょう。BtoC向け通信サービスはもっぱら世帯構成員が共用する前提で、住宅用固定電話回線が主役の座を占めてきましたが、利用者個々が通信サービスの主体となるモバイル通信サービスが爆発的な普及を遂げた今日、世帯単位の普及という指標はもはや意味を持たなくなっています。単独世帯はもちろん、世帯内で共用する機会が乏しくなっている世帯の通信サービスは、住宅設置の固定回線では使用頻度からみて無駄と感じられるようになっています。加入電話等の固定電話サービス契約数が大幅に減少している現実にそのことが窺えます。さらに世帯の小規模化がこの流れに拍車を掛けることになります。即ち、BtoC向け通信市場での固定回線不要論の登場がそれです。個人向けの通信サービスである以上、それぞれがモバイル(無線)端末を持って無線アクセス回線に接続すればBtoC向け通信サービスは満たされるので、それぞれの世帯、特に小規模化した世帯にまで固定回線(光アクセス)は不用ではないかという極論が成り立ちます。その場合は、光ファイバー回線は無線基地局までのフロントホール/バックホールでもっぱら使われ、個別の世帯(住宅)には無線基地局からのモバイルアクセス回線か、場合によっては固定無線アクセス回線が用いられることになります。これは無線によるモバイルと固定通信サービスの統合を想定した意見です。このためには、デバイス類もスマートフォンだけでなく、タブレットやPCなども本格的なBtoC向け通信サービス用に開発する必要がありますし、放送サービスとの融合、つまり小規模世帯用のテレビ機能の取り込みなども求められます。その際には放送事業にみられる中立性論議だけでなく、番組・コンテンツに係る著作権の弾力的な取り扱い、例えば著作権者の権利保護と同時にネット配信事業とのバランスの柔軟な調整なども重要な要素となります。

しかし何よりも大きな構造変化は、BtoC向け通信サービスでは光ファイバー回線の需要が無線基地局までのフロントホール/バックホールに移行していくということでしょう。固定電話サービスは2024年1月にIP網に移行する予定ですが、いずれ現在の銅線ケーブルによる住宅への配線自体を取り替える必要が生じます。これまでは光ファイバーによる配線で対応してきましたが、今後の人口減少、山間地等での空き家の増加などを考慮すると、光ファイバーによる銅線ケーブルの置き換えにも限界があります。現在までのところ、国による地方自治体を通じた補助金によって、山間地等地域での光ファイバー回線によるブロードバンド化が進められてきましたが、人口構造の変化、世帯数の減少、空き家の増加などを踏まえたブロードバンド普及策に移行する必要がありそうです。

つまり、光ファイバー回線は無線基地局までとして、利用者個々に対してはモバイル回線(または固定無線回線)でブロードバンドサービスを展開する方が構築と保守両方とも低コストとなるのではないかと思われます。世帯数の変化にも柔軟に対応することが容易になります。固定電話サービスのIP網へのマイグレーションの先、ブロードバンドサービスのユニバーサル化に向けた構造改革を、人口減少、世帯の減少・小規模化のなかで進める時期が迫っています。通信のユニバーサルサービスでは電話サービスにだけに止まらず、一定水準のデータ通信・画像通信までを対象とする、有線と無線(固定とモバイル)の垣根を取り払った改革が必要な時を迎えているのではないでしょうか。背景には、5Gが到達する高速サービスがもはや光ファイバー回線(FTTH)のレベルに及ぶという技術サイドのイノベーションがあり、かつ、4Gモバイルサービスのエリアカバーが既に光ファイバーのエリアカバーに並ぶ程度になっている現実があります。通信サービスでは、BtoCはモバイル(無線)サービスで、BtoBは固定ブロードバンド回線で、BtoBtoXは両方の相乗りでというパターンが効用の高い選択肢だと思います。個人・企業等の利用者、またICTサービスの恩恵を受ける消費者にとっても望ましい姿となります。

そのためには、情報通信サービスに関するさまざまな規制や市場競争のあり方などについて、根本的な問題にまで立ち帰って議論しておかなければなりません。5Gや光ファイバーの高速広帯域化や大量データ処理、AIなど技術イノベーションの急速な進展が、通信インフラに関する制度設計の再構築を迫っているのだと思います。固定回線サービスとモバイルサービスの統合、ブロードバンドサービスのユニバーサルサービス化、そのための条件不利地域への補助と負担、事業者間の競争構造などは少なくとも検討すべき対象でしょう。世帯数の減少、世帯の小規模化はこれから継続して長期に渉って社会経済に対して影響を与えることは間違いありません。単純な縮小均衡ではなく、成熟社会のなかでイノベーションに貢献する通信インフラを構築・運用していく責務が私達にはあるのですから、前向きな取り組みを避けてはなりません。

(注)50歳時の未婚割合、45~49歳と50~54歳の未婚率の平均値

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