2018年7月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

コーポレートガバナンス改革でCFOの役割・機能に注目



先月6月1日に、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂(東証)と新しく策定された「投資家と企業の対話ガイドライン」(金融庁)が公表され、実施されました。コーポレートガバナンス・コードは2015年6月に適用が開始されたもので、企業経営の実務面で、取締役会構成(独立社外取締役の配置、多様性の推進など)や運営、情報開示の促進、株主との対話の推進などで大きな影響をもたらして来ました。2014年8月に経済産業省が公表した、いわゆる「伊藤レポート」による提言、特にROE8%以上の目標設定と併せて、日本企業全体に与えたインパクトには大きなものがありました。2017年度決算(東証1部上場企業)では、ROEはいよいよ10%を超え、10.4%に達していて急速な改善を見せています。企業価値の持続的成長を目指す枠組み作りは順調に進んでいるように見えます。

今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂と対話ガイドラインのなかで、私が注目しているのは、監査役(監査委員などを含めて)に求める知識として、具体的に財務・会計・法務が取り上げられていることです。もちろん、監査役の選任にあたっては、適切な経験・能力が求められることは当然なのですが、それに加えて、財務・会計・法務に関する知識を有する人材の選任を提言しているのです。

私自身、電電公社、NTT、NTTドコモを通じて、長く経理財務部門と法務部門の担当を務めてきましたので、こうした人材が「経営人財」として企業価値創造に必要とされることは十分に理解できます。むしろ、監査役人材としてだけでなく、取締役会メンバーにも、社外取締役としても必要な知識だと思っています。実際、現役退職後に社外取締役などを経験してみると、日常の事業運営自体では畑違いで経験に乏しく判断に悩むことは数多くありましたが、自分が長く経験して知識を有する財務・会計・法務面では、提言や意見を述べて取締役会での議論に貢献し得たと感じています。

また、こうした財務・会計・法務の知識を有する人材では、専門家として会計士や弁護士を監査役や社外取締役に多く選任しています。それはとても有効なことですが、専門知識だけでなく、さらに企業経営の素養を合わせ持つ人材こそ、監査役や取締役会メンバーには貴重なことは言うまでもありません。

実務面では、子会社やベンチャー企業の運営にあたっては、日頃からの財務・会計・法務といった経営管理面の押さえが大変重要で成功の鍵を握っているので、この面の人の配置に注意が払われていますが、問題は人の育成が間に合わないことです。ましてや、「経営人財」となると危機的状況ではないかと思います。それは、単なる経験や知識だけでなく、企業経営面の見識が併せて求められるからです。企業内での若い頃からの体系的な育成と産業界での人材のプール・交流が必要でしょう。その意味で、今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂と対話ガイドラインが監査役に求める知識を具体的に指摘したことは第一歩だと評価できます。

加えて、私は自分の経験から、CEOだけでなくCFOの選解任についても、コーポレートガバナンス・コードに取り入れてもらいたいと思っています。「経営人財」として財務リテラシーが不可欠であるだけに、育成にあたってもCFOの役割には大きなものがあります。経営執行
及び取締役会の責務において、CFOの役割・機能をより一層明確にする必要があると思います。CFOはいわば、経営執行においては組織内野党の機能を果さざるを得ません。単純に財務リテラシーのある人材では務まりません。その意味で、企業経営の実務面でのチェック&バランス、牽制機能が期待される存在です。例えば、米国SOX法では財務報告の信頼性について、CFOにもCEOとは別個に署名が要求されていて、同様の刑事責任を負う立場にあります。企業価値創造を目指す「経営人財」の幅を広げ、リスク管理やESG要素まで目配りできる、社内の優秀な価値創造者を育成・開発するのは、CEOだけでなくCFOの役割でもあります。

今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂と対話ガイドラインで、監査役に必要な知識を提言したことで、監査役の役割が一層重要になり、経営執行サイドへの影響力が増すものと思います。そこで、さらに一歩踏み込んで、経営執行面でのCFOの機能を明らかにして、コーポレートガバナンス改革の実効性を一層高める取り組みが進展することを期待しています。

今月は、私の財務・会計・法務の実務経験から、少々“身内びいき”、あるいは我田引水的な話となりました。日本の会社経営上、ガバナンス改革というとどうしても、取締役会の権限・責務や社外取締役の監督機能、監査役の役割など会社法制上の制度設計が中心課題として取り上げられることが多いのですが、ガバナンス改革がある程度進んだ今日、さらに踏み込んで経営執行面での役割と責務を体系化して議論しておくべき時期ではないかと思い、このテーマを取り上げてみた次第です。

CEOの選解任の方法や手続、相談役・顧問の配置などの提言や指摘はもちろん大切ですが、日頃からの継続した企業価値創造においては、経営執行体制のあり様こそが前提となるだけに、さらなる議論が必要だと感じています。

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