2019年1月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

大山古墳(仁徳天皇陵)でAR・VR体験

昨年11月中旬、大阪府堺市堺区大仙町にある大山(だいせん)古墳に行ってきました。天気のよい秋の1日、ほどよいハイキングを兼ねた古代の歴史ロマンと世界文化遺産登録を目指す地元の意気込みを感じた探訪でした。大山古墳は一般には宮内庁の認定名である「仁徳天皇陵」として知られていますが、研究者の間では被葬者が誰かは不明確なので教科書では「大山古墳」の名前が使われています。ただ、今回現地を訪れてみると観光パンフレットなどには仁徳天皇陵古墳となっていて、そちらの呼称が随所で見られました。やはり、世界一大きい墳墓として特定の天皇の墓であるとの思い入れがあるのだと思います。

大山古墳(仁徳天皇陵)正面

大山古墳(仁徳天皇陵)正面
大きな森と丘にしか見えない。

この大山古墳(仁徳天皇陵)をはじめ、同じ大阪府羽曳野市にある誉田山(こんだやま)古墳、即ち、応神天皇陵を含めて、堺市・羽曳野市・藤井寺市にまたがる4~5世紀の古墳群、天皇陵と陪塚(ばいちょう)を合わせた49基が世界文化遺産登録を目指しています。地域の名前をとって「百舌鳥(もず)・古市古墳群」として登録活動を展開しています。

大山古墳入口にある横断幕

大山古墳入口にある横断幕
地元・堺は盛り上っている。

ところで私が何故、急に古墳に興味を持ったのか、どうして大山古墳を見に行ったのか、少し説明を要します。本欄2017年7月に掲載した「復元された前方後円墳を体験-AR・VRの活用を考える」で書いたように、歴史遺物・遺跡の復元は歴史や文化の継承にとって極めて重要な役割を果していること、また実際の復元工事(造築)の前に、ITを使ってAR・VRによってビジュアルな再現を図ることができること、を提案してきました。さらに2017年11月にも、青森の「三内丸山遺跡でAR体験」を本欄に掲載して、AR・VRによるビジュアルなインパクトの効果を述べてきました。そして、今回の大山古墳(仁徳天皇陵)探訪でのAR・VR体験となった次第です。

その前に、この大山古墳(仁徳天皇陵)について少し解説しておきます。墳丘の大きさは長さ486m、高さ35m、周囲は三重の堀を含めて全長840m、全周は2.8kmに及ぶ巨大な墳墓で、クフ王のピラミッドや秦の始皇帝陵を上回る規模です。これだけのものを5世紀前半に造った大和王権の権力の大きさと国力誇示の強さを感じざるを得ません。当時の倭国統一の意欲と対外勢力への対抗力の表われでしょう。歩いて1周するのに、近くの陪塚などを見物しながら約1時間かかりました。

外堀沿いの直線道路

外堀沿いの直線道路
脇まで住宅が並ぶ。

周囲を巡っても墳丘の姿はまったく分りませんので、どうしても、かぎ穴型の前方後円墳を見たくて、電車でひと駅となりにある堺市役所の21階展望ロビーに上がりましたが、やはり見えたのは大きな森の姿だけ、かぎ穴型の形状は最後まで見ることはできませんでした。残念でした。(注)

21階から見ても森の姿だけ

21階から見ても森の姿だけ
堺市の中心に近く完全に住宅地の中

結局、前方後円墳の形を見たのは、古墳近くにある堺市博物館のなか、百舌鳥古墳群シアターの大型スクリーンでのVR映像ででした。三次元コンピュータ・グラフィックスを駆使した映像体験では前方後円墳の形状だけでなく、築造当時の姿や当時の海から見た時(例えば、中国や朝鮮半島からの来訪者が見た)の圧倒する印象など実際には復元できない歴史遺跡を目にすることができました。さらに博物館の一角では「仁徳天皇陵古墳VRツアー」もあり、ヘッドマウントディスプレイを装着することで上空300mからの360°映像と築造当時の姿、石室内部の様子などをCG映像で楽しむことができました。AR・VRによる歴史遺産の継承は遺物・遺跡の復元とともに、私達の歴史に対する意識を涵養するのに効果があることを再度実感した次第です。

ただ残念ながら、今回のAR・VR体験では人々や被葬者の人物像などは描き切れていません。天皇陵の発掘と研究は考古学の分野ではほとんど手付かずの状態なので仕方のないことでもあります。宮内庁は皇室の祖先の墓である陵墓については、発掘はもとより、これまで外部の立ち入りすら厳しく制限してきました。この大山古墳(仁徳天皇陵)では、昨年10月下旬~12月上旬の間、宮内庁は初めて地元堺市と共同発掘を行いました。私が訪れた時も、遠くの内側の堤にブルーシートが掛けられているのが見えて、発掘現場を知ることができました。堤に石敷きと円筒埴輪の列が発見されたと発表がありました(2018年11月23日 日経新聞記事)が、公開したのは報道関係者と研究者団体にだけで一般公開は行われていません。被葬者や同時代の人々にまで辿り着くのはまだまだ大変なことです。

貴重な世界文化遺産登録の機会なのですから、百舌鳥・古市古墳群の全体像をITを用いてAR・VRでビジュアル化すると同時に、古墳群を辿る、人々や人物のストーリーをAR・VRで描いてこそ、歴史(ヒストリー)の継承ができると考えますが、いかがでしょうか。

(注)前方後円墳のかぎ穴型が最もよく分かるのは、口惜しいですがグーグルマップの航空写真です。一度、ご覧下さい。

関連記事:

関連キーワード

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS