2020年4月7日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

新型コロナウイルス感染流行・拡大から学ぶもの



中国武漢発とされる今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本に及び始めて以来約3か月、政治経済から日常生活までさまざまな影響があり、改めて考えさせられることが多くありました。人類全体の危機、国家国民への試練と受け取めて冷静に辛抱強い忍耐の時と思っています。そもそも人類の歴史は感染症との闘いの連続であり、世界では欧州のペストや新大陸での天然痘など人口の激減を招いた事例が数多く見られます。日本は島国のため、世界の感染症流行からは比較的隔離していましたが、それでも奈良時代の天然痘の流行、江戸時代のコレラの拡大など歴史に名を残した感染症が数多く見られます。日本の歴史の流れに多大な影響を与えてきたのも事実です。

さらに近年になっても、SARS(重症急性呼吸器症候群、2003年発生)、MERS(中東呼吸器症候群、2012年発生)、新型インフルエンザ(2009年発生)の事例があり、パンデミック宣言となった新型インフルエンザの時には日本でも感染者2000万人以上、死亡者200人と報告があります。それに比べると今回の新型コロナウイルスでは既に日本国内(クルーズ船を除く)の感染者数3906人、死亡者数80人(4月6日現在)に達していて、医療提供態勢の機能不全(医療崩壊)への不安がつきまとい危機感が極度に高まっています。今回の新型コロナウイルスは指定感染症(2類相当)に政令指定されていて、病院での入院隔離措置が定められているので、感染者数が急激に増えると病院への収容が追い付かず医療崩壊を引き起こすことに繫がります。そこで感染陽性患者隔離措置の柔軟な取り扱いに変化しています。感染症の流行・拡大に対する危機管理については、島国日本のお陰でSARS、MERS流行の際には水際作戦が有効に機能して、日本国内ではあまり大きな問題とならず、既に一般の人達の記憶から消え去ってしまっています。そこで今回の新型コロナウイルス感染症の拡大となって危機管理の重要性に改めて気が付かされたという訳です。そこで危機管理においては、次の3点を踏まえて取り組む必要があると私は考えています。

第1は、指導者のリーダーシップと国民市民のフォロワーシップの関係が何より大切なことです。感染症拡大を防ぐためには何より国民市民が外出を控えるなどの日常行動の変化(行動変容)が必要となりますが、そのためにはリーダー(指導者)とフォロワー(国民市民)との信頼関係とコミュニケーションが何より大切です。人の行動変容は、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期という5つのステージを通るので、その人が今どこのステージにいるかを把握してそれぞれのステージに合わせた働きかけが求られます。今回の新型コロナウイルスの場合には、年令層によって感染症状が異なっているので、世代それぞれが感じる危険度合に違いが生じていて行動変容ステージが年令層によって異なっていると考えられます。こうなるとリーダーは行動変容ステージ毎に信頼関係に基づいたコミュニケーションを取る必要が生じます。リーダーの発信力・対話力が必須条件となります。他方、聴く側の国民市民にもフォロワーシップと内容への理解力と受容力が必要となります。常に判断基準を他人に求めて自分の判断を回避しようとする姿は頂けません。リーダーへの健全な批判は当然ですが、自分の行動の是非は自分で判断し責めを負うべきものです。それこそが健全なフォロワーシップを持つ国民市民の責務だと思っています。

第2は、感染症の危機こそICTの出番ということを強く認識すべきです。テレワーク(在宅勤務)やオンライン教育など、今まであまり進んでいなかった取り組みをこの機会に一気に進める時でしょう。仕事の内容や性格によってはテレワークに不向きのものもあるし、オンラインの授業はどうしても少人数の場合に有効で、多人数では効果が出にくい面がある(これはオンサイトでも同じ?)など効用と限界についてもっと研究を積み重ねる必要があります。ただ、ICTの活用を進める際に最も大切なことに、これまでの制度や慣行を弾力化・柔軟化することがあります。株式会社の運営であれば、取締役会や株主総会にインターネット等を利用して遠隔地からの出席や開催場所に一堂に会さずにバーチャルな形態で参加する方法などを具体的に検討するべき時です。一堂に会するリアルな形態とは違った制度や慣行を構築しておく必要があります。行政府や国会(議会)などでも、テレビ会議やインターネット等の手段を利用した会合、例えばネット上での緊急閣議の開催や公文書決裁などイノベーションに挑戦する場面は沢山あると思います。いつまでも署名や公印・社印などにこだわっているとICTの時代に遅れを取ることになります。そのためにも社会基盤としてトラストサービスの整備・確立が急がれます。

最後に第3として、緊急事態宣言に関連する課題を取り上げてみます。3月13日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」改正法が成立し、施行日の3月14日から2年を越えない範囲に限定して適用されています。改正特措法のなかで最重要なのが、総理大臣が発した緊急事態宣言の条項です。総理大臣が期間や区域を定めて緊急事態宣言を出しますが、その結果都道府県知事が実施可能となる措置が決められています。例えば、臨時医療施設の土地・建物の強制使用、医療用品や食品の収用・保管命令といった医療提供態勢のために強制力や罰則を持つ規定がある一方、感染拡大防止の措置として最優先となる住民の外出制限や各種イベントの開催制限、さらに店舗・事務所等の閉鎖、多人数の集合の禁止など個人の基本的人権及び私権の制限に係る強制力はなく、すべて要請レベルを原則としているに過ぎません。特に改正特措法の付帯決議では私権の制限を必要最小限のものとすることを明示しています。感染症による国家的危機に対するこうした法の建て付けは明らかに諸外国とは違っています。緊急事態宣言の下でも強制力を持つ私権の制限に制約が強い日本の法制度には違和感を感じざるを得ません。外国と国際的な協力を行なう際に足枷となって信頼を得られなくなってしまう懸念がありそうです。これからのグローバル化の時代は人々が国際的に移動・交流することが一層増加すると予想されるので、感染症が流行・拡大する危険が高まっています。その中で日本だけが私権の制限を避けて通ることは国際的な信用問題ともなりかねず、むしろ国益に反することにもなり得ます。経済への影響と離れて生命の安心・安全を中心に据えた取り組みが重要です。

以上の3点は現下の新型コロナウイルス感染症の収束(終息まで待たずに)が見通せた時に、改めて国民レベルで議論して意思決定しておく必要があると考えます。そのためにも、第1で指摘したようにリーダーとフォロワーの間の信頼感、リーダーシップとフォロワーシップの健全で前向きな緊張関係の醸成が何より望まれます。

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