はじめに

2015年に採択されたパリ協定に基づいて、各国は気候変動対策に取り組み、企業においても、気候変動対策の経営戦略への反映など脱炭素を推進する。世界の主要通信事業者は、カーボンニュートラル達成の目標年度を公表し、ネットワークのエネルギー効率化などを推進するとともに、自社サービス活用などによる気候変動対策を進める。本稿は、欧州の通信事業者VodafoneおよびTelefonicaによる主な取り組みを紹介し、カーボンニュートラルに向けた通信事業者の役割について考察する。

欧州の通信事業者の環境目標と主な取り組み

Vodafone^[1]

環境目標

Vodafoneは2030年までに自社の炭素排出量をゼロ、2040年までにバリューチェーン全体でゼロにすることを目標としている。また、2025年までに、世界の営業地域における使用電力100%を再生可能エネルギーからの電力で賄うことをめざし、欧州事業では2021年7月に100%を達成済である。

主な取り組み

自社事業において、ネットワークでは3Gネットワークの段階的停止、より効率的な機器の導入を進め、データセンターでは低電力・冷却技術の導入により、エネルギー消費の最適化に取り組んでいる。また、Vodafoneは、2025年までにネットワーク廃棄物の100%リユース・再販・リサイクルをめざし、電子機器廃棄物削減に注力する。

Vodafoneは、サプライヤー評価基準における環境・社会的基準の比重を高めるなど、サプライヤーと協力して気候変動対策に取り組んでいる。同社はまた、IoTサービス（物流、車両管理、スマートメーター、製造活動など）の提供を通じて、顧客の排出量削減を支援する。2021年10月より、環境負荷低減に向けた取り組みの一環として、再生プラスチックを使用した 「Eco-SIM」 カードを顧客に提供している。

Telefonica^[2]

環境目標

Telefonicaは、2025年までに主要市場（スコープ1・2）で、2040年までにバリューチェーンおよびラテンアメリカでネットゼロ（カーボンニュートラル）達成を目標としている。同社はまた、再生可能エネルギー利用100%について、欧州・ブラジル・ペルーでは2019年に達成済であり、ラテンアメリカでは2030年の達成を目標とする。

※スコープ1：事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
※スコープ2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

主な取り組み

自社事業においては、多数のエネルギー効率化イニシアティブを推進するなど、排出量の削減に取り組んでいる。Telefonicaは自社戦略に環境問題を取り入れ、サステナブル債券を活用したグリーンプロジェクトでは、メタルのネットワークをエネルギー効率が高い光ファイバーへ切り替えることに重点を置いている。

Telefonicaは、2021年7月にSDGsを戦略に統合したレポートを発表し、SDG9（産業、革新、インフラ）に焦点を当て、サステナブルで回復力のある高品質のインフラ(LTE、5G、光ファイバー)とサービスを展開するとしている。同社はまた、「Sustainable Innovation Initiative」などを通じて、社会や環境に影響を与えるスタートアップなどの技術的ソリューションに投資している。

通信事業者等の連携による取り組み

カーボンニュートラルに向けて、複数の通信事業者等の連携による取り組みも広がっている。2021年3月、欧州の通信事業者（ドイツテレコム、Orange、Telefonica、Vodafoneなど）を含むICT企業26社は、EUのグリーン・デジタル化を支援する「European Green Digital Coalition」（欧州グリーン・デジタル連合）を創設した。^[3]同連合は、政策立案者や専門家と協力して、気候変動に対抗するデジタルソリューションへの投資と実装を促進する。また、2021年5月、通信事業者５社（ドイツテレコム、Orange、Telefonica、Telia Company、Vodafone）が協力し、携帯電話の「Eco Rating」（エコ評価表示スキーム）を欧州24カ国で開始した。^[4]消費者が最もサステナブルな携帯電話を特定して比較し、サプライヤーに端末の環境への影響低減を促すもので、参加事業者や対象地域も拡大している。通信事業者は、社会のデジタル化とともに、ICTを活用したエネルギー消費削減、環境のサステナビリティに向けて大きな役割を担っている。