ドローン管制サービスに関する動向(前編)
はじめに
世界各国でドローンの本格活用が開始されている。ドローンに搭載されたカメラを通じて独自の動画や写真の撮影を行ういわゆる「空撮」のみならず、ドローンに搭載されたカメラ、センサーなどを活用して農作物の育成状況の確認や、建築現場でより正確な測量を行うといった利用も行われている。
ドローンを活用したビジネスの拡大も注目に値するが、最近では今後利用が拡大し、空中を飛び交うドローンが増加する状況を見越してドローンの飛行を支えるような取り組みも見られるようになってきている。こうした複数のドローンが空域を飛び回る際に安全に航行を実現する方法の一つとして注目されているのがドローン管制だ。
そこで、本稿では前編と後編に分けて、ドローン管制に関する動向について紹介したい。
ドローンビジネスの動向
ドローン管制サービスの紹介を行う前に、現在のドローンの商用活用に関する状況について紹介しよう。ドローンを商用活用する典型的な事例としては、ドローンに搭載したカメラやセンサーを活用した、農林水産業、土木・測量、(インフラ等の)点検、空撮、物流、防犯等が挙げられるが、技術の発展等に伴ってこれらにとどまらない活用が期待されている。また、上述した分野で本格的な商用活用が始まっているものもあれば、今後の利用が期待されている分野もある。
経済産業省は、ドローンの飛行レベルを4段階に分けたロードマップを公表している(「空の産業革命に向けたロードマップ」経済産業省(2017年5月))[1]。このロードマップ等を簡単にまとめたものが次ページ表1となる。現時点では、ドローンの操縦者がドローンを目視できる範囲内での活用が行われており、上述した分野では農林水産業、土木・測量、点検、空撮等での本格的な活用がこれに該当する。Amazonがドローンを活用して、配送を行うということが報道で取り上げられているが、前述の経済産業省が想定するロードマップでは、ドローンが操縦者の目に見える範囲を超えて利用される目視外飛行の本格的な導入ついては2018年以降(ただし、無人地帯の飛行)、ビルや家屋のある街の中をドローンが飛び交うという状況は2020年台にそれぞれ実現されることが想定されている。
ドローン全体の市場規模を見ていこう。ドローンビジネスについては数多くの数値が推計されているが、日本に関してインプレス総合研究所[2]はドローンビジネス市場を「機体」、「サービス」、「周辺サービス」の3つに分類し、その3つを合計した国内のドローンビジネス市場は2022年には2,116億円になると推計している。中でも、ドローンを活用した「サービス」が1,406億円と3分類の中で最も大きくなると推計しており、今後もドローンを活用したビジネスが拡大
していくことがここから読み取れるだろう。また、同研究所は「サービス」の分野別の市場規模に関しても推計を行っている。同じく2022年の推計値を見てみると、2022年に最も市場規模が大きいものとして予想されているのは「農業」(500億円)と推計されており、ついで「検査」(358億円)、「測量」(168億円)となっている。また、次に世界全体の推計数値となるが、ドローンの世界全体の出荷台数はスカイウィングスの公表した資料によれば、2025年には1,200万台になるという。この数値には、上述したようなビジネスで活用されるもの以外のホビー目的で利用されるものも含まれているが、将来的には我々の身近な所でドローンが利用されていくことが考えられるのである。
ドローンの飛行を支えるドローン管制サービス
以上では、ドローンビジネスの動向について簡単に説明をしてきた。前述のように、今後、様々な分野でドローンが活用されるようになることが予想される。そのような状況のもとで考えられるのが、ドローン同士や、ドローンとヘリコプターといった有人飛行機が接触し、民家などの人口密集地へ落下するということだ。また、空中は地上と違って自由に飛行することが可能であると考えられるが、ドローンは比較的低空を飛行すると思われるので、高いビルやマンション等に住む人にとっては意図せずプライバシーが侵害される可能性も存在する。
このような状況はドローンの商用利用にとっては望ましくないだろう。そこで、ドローンの運行を管理する「ドローン管制サービス」に注目が集まってきている。ドローン管制サービスは前述のようにドローンの運行を管理するものであるが、その内容は多方面にわたり、ドローンの飛行計画を近隣の空港や当局と共有するといったものから、ドローンの飛行状況の把握を行うといったものまで幅広く提供されている。筆者の知りうる限りにおいては、一義的に「ドローン管制サービス」を定義したものはないと考えている。
ドローン運行に関する様々な要素を含む「ドローン管制サービス」ではあるが、大まかに分類するならば、図1のように分類できると考えられる。
特にドローンをビジネス活用する場合、自社のドローンをどのように飛行させるか、あるいは、事前の計画通りに飛行を行っているのかということを確認する必要がある。つまり、ドローンを活用する企業別にドローン管制サービスが存在するといえる(図1の(1))。限定的な地域でドローンを活用する場合は、上述した企業別のドローン管制サービスの活用を行えば問題はない。しかし、技術の発展や規制の緩和により、より長時間稼働でき、長い距離を飛行できるようになれば、各社のドローン管制サービス自体をつなぎ、ドローン全体の運行を管理するような、ドローン管制サービスも必要になるだろう(図1の(2))。このようなドローン管制サービスが整うのはまだ先のことになるかもしれない。しかし、現時点で、ドローン管制システムの課題として指摘されているのが、企業別のドローン管制サービスをハンドオーバーしたり、ドローン管制サービス同士が連携し合ったりするような仕組みの構築である(図2)。
冒頭で述べたように、現時点では、ドローンは操縦者の目視内で運行することが義務付けられており、上記した「ドローン管制サービス」が本格的に必要となる状況はもう少し先の話になるだろう。しかし、目視外でのドローン活用に備えて、民間企業、政府機関、業界団体等が、実際にサービスの提供や実証実験を開始している。
では、具体的には、どのようなプレイヤーが存在するのだろうか。
ドローン管制サービスに関わる主要なプレイヤー
ドローン管制サービスに関わる主要なプレイヤーのここ1~2年の動向(サービス提供、提携等)を図2にまとめた。この取り組みはまだ揺籃期にあるので、この図に出ているプレイヤーがすべてではないことに注意されたい。
この図にある「企業」で示されるプレイヤーは、前述した「企業別のドローン管制サービス」を既に提供、または提供を目指して実証実験を行っている企業だ。また、「政府機関、業界団体等」に示されるプレイヤーは、「統一型のドローン管制サービス」の実現を目指して、民間企業等と共に実証実験を行っている。
図3の「企業」の項目を見てもわかるように、ドローン管制サービスに参入を試みている企業はバラエティに富むということだ。例えば、「PrecisionHawk」、「AirMap」、「Skyward(Verizonが買収)」、「Unifly」は、ドローン管制サービスを事業の中心に据えている企業であるが、一方で、通信事業者はこれらの企業と提携等を行うことによって、この市場への参入を試みているようにも考えられる。
複数のプレイヤーが提携して、ということは「企業」のみにとどまらず「政府機関、業界団体等」においても、企業と連携を行いながら「統一型のドローン管制サービス」の実現に向けて模索しているという状況が見て取れる。こうした取り組みに早々に着手したのは米国である。特にNASAは2015年から、Amazon、Google、AT&T、Verizonといった民間企業と共に実証実験に取り組んでおり、2020年には実用化を目指している。
まとめ
本稿では、ドローンの商用サービス等の活用、市場規模を示した後に、ドローンの商用利用を支える仕組みである、ドローン管制サービスに関する概要と課題を紹介した。後編では今回紹介したプレイヤーの具体的な取り組み、目的を明らかにするとともに、規制面の状況について報告する。
[1] 2017年5月19日https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/kaiteiroadmap.pptx
[2] インプレス「2016年度の国内のドローンビジネス市場規模353億円(前年度比102%増)、2022年度には2116億円に拡大 『ドローンビジネス調査報告書2017』3月23日発行」プレスリリース、2017年3月22日 https://www.impress.co.jp/newsrelease/2017/03/20170322-01.html
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