2018年4月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ユースケースに応じた5Gインフラ構築が鍵 ~電話は4G(LTE)、高度なデータ通信は5G



2018年2月26日~3月1日、バルセロナで開催のモバイルワールドコングレス(MWC)2018では、5Gが展示や講演の中心で関連する通信機器などが注目を集めていました。しかし、昨年末にようやく標準化団体の3GPPで、4G側で通信制御を行うNSA (Non-Stand Alone)でのネットワーク構成が標準化された段階であり、5G周波数も最終決定しておらず、スマートフォンやタブレットなどのデバイス類の展示はありませんでした。具体的な製品イメージではなく、もっぱら高速・大容量や低遅延のデモで5Gのコンセプトとユースケースを紹介することに重点が置かれていて、気運の盛り上げが狙いといったところでした。

標準化活動は今年の6月に、5G単独で運用するSA(Stand Alone)を含めて、リリース15で最初の仕様が策定される予定ですので、いよいよ本格的な開発が進むことになります。国内でも、情報通信審議会の下にある新世代モバイル通信システム委員会と技術検討作業班(主任 三瓶政一 大阪大学大学院工学研究科教授)は昨年11月に再開して3.7、4.5、28GHz帯の5Gの技術的条件等の検討を鋭意進めています。今年夏頃までに技術条件を策定する予定で、その上で2018年度内の周波数割当が進むことになります。この流れから新聞各紙が「5G 世界で来年一斉に 日本も前倒し検討」(2018.2.27『日本経済新聞』)、「モバイル 主役は5G」(2018.2.27『読売新聞』)、「5G実用化 高まる足音」(2018.2.28『フジサンケイビジネスアイ』)と報道したのも十分に頷けます。標準化活動が進み、ベンダー各社が通信機器を開発して売り込みを図るべく、MWC2018の場を利用する意図はよく理解できます。

その一方でスマートフォンを製造するベンダー各社は4Gベースの新製品を発表してはいたものの、5Gの勢いのなか、残念ながら行き詰まり感があり、デバイスではなくインフラ機器への注力の変化が感じられました。

5Gインフラの構築が間近に迫るなか、ここでは新たな課題として以下の2点を取り上げたいと思います。その第1は、MWC2018の会期中に通信会社5社(AT&T、China Mobile、Deutsche Telekom、NTTドコモ、Orange)連名で発表された「ORAN Alliance(Open Radio Access Network Alliance)」です。このORAN Allianceは、5Gをはじめとする次世代の無線アクセスネットワークをより拡張性が高く、よりオープンでインテリジェントに構築することを目的に、(1)オープン化・仮想化とビッグデータの活用、(2)汎用サーバーの利用推進と専用機器部分の最小化、(3)APIの規定とオープンソースの利用推進、に取り組むとしています。これは、いわば5G機器ベンダー側からの専用機器による囲い込み戦略に対する通信事業者側からの汎用製品・ソフトウェア利用による対抗策とも取れる行動です。5Gインフラの構築では従来より高い周波数を利用することから、セルの範囲が狭く多数の基地局の効率的かつ低コストな設置が不可欠となるため、汎用サーバー等を利用して展開する必要があると通信事業者の認識が示されています。世界の有力な通信機器ベンダーも、例えば、中華電信とEricssonおよびNokiaとの間で5G運用促進協力合意書に調印したと報道があり、また、「通信事業者と企業を仲介 ノキア、5G商戦で攻勢」(2018.3.6『日経産業新聞』)をかけて対抗しているので、過去の新技術によるインフラ構築に見られたように当初の協力・協調関係から、価格等発注・運用を巡るせめぎ合いの段階に進んできていることが分かります。ここではベンダーもまた、通信事業者と同様に5Gのユースケースの開拓を進めています。

つまり、5Gインフラ構築にあたっての2番目の課題は5Gのユースケースにどう応じるのかということです。即ち、音声通話は4Gで充足しているのでデータ通信分野でのユースケースを予測し、提携パートナーとコミットしてネットワークインフラを構築していく方法です。これまでは通信事業者がBtoCによるサービス展開を前提に、新技術の新しい周波数を活用して面的にエリアを順次拡大することで利用者の需要に応えてきました。音声通話のエリアカバーは2Gの時点でほぼ満たされていたので、サービスエリアの拡大はデータ通信の高速化が中心でした。2G時代のメールやiモードサービスなど、3Gの時のスマートフォンの普及と動画通信利用が急速に拡大して、今日の4GつまりLTE(Long Term Evolution;長期継続的進化)を迎えています。この間ではデータの高速通信サービスがユースケースの中心であることは明らかだったので、通信需要を意識して順次エリアを拡大するだけで特にサービスの提供者(BtoBtoCの真中のB)と連携しなくてもすみやかな展開ができました。

しかし、5Gでは使用する周波数帯や帯域幅など技術的な適用条件が大きく異なってくるので、長期にわたって4Gコアネットワークに5Gのスモールセルが重畳するヘテロジニアス・ネットワークとなります。既存周波数帯で制御信号を扱い(C-plane)、広帯域が確保し易い5Gの高周波帯でユーザーデータを扱う(U-plane)ことでモビリティと安定した品質を確保することになります(C/U分離)。もちろん、5Gの導入当初はユースケースは超高速通信の動画サービスが中心でしょうが、続いて多数同時接続、低遅延に対応したサービスが提供されるので、いよいよユースケースに応じた5Gインフラの構築が鍵となってきます。加えて、エッジコンピューティングやネットワークスライシングなどが導入されていきますので、ますますユースケースをどのように見定め、提携パートナーとどうコミットしていくのかが通信事業者にとっては何より重要なことになります。通信インフラ構築の歴史上、これほど提携パートナーを意識した取り組みは初めての経験です。常設エリアを構成する基地局の展開に加えて随時エリアの基地局構築も必要です。イベント対応、遠隔操作、遠隔医療などユースケースの特定と提携パートナーの選定・コミットメントは通信事業者の事業戦略で最重要の取り組みになります。

こうなると、従来のあまねく公平思想や電話にみるユニバーサルサービス志向から距離を置く必要があるし、約款サービスとは異なる取り扱いとなる相対契約の領域を拡大する規制緩和を進める必要が生じます。電話サービスを前提としない通信インフラ構築はこれまでになかった経験と挑戦です。周波数割当でもこの事態に備えておかないといけません。人口カバー率を前提とした周波数割当の評価基準もオークションの是非の判断も見直す必要がありそうです。エッジコンピューティングやネットワークスライシングも含めてユースケースと提携パートナーの特定とコミットメントを与件として5Gインフラ構築に臨むことが必要になります。インフラ構築を急ぎ過ぎては投資回収リスクが過大となり、逆に遅れては競争に遅れを取るだけでなく産業全般のイノベーションの支障となるし、地域振興に貢献できなくなることになりかねません。5Gインフラ構築の舵取りの難しさが際立ちます。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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