動物好きが集まって野生動物を見に行こうということになりスリランカを訪れた。現地3泊、全行程をバスで移動するツアーで約800キロメートルを旅した。現地で接した豊かな自然、歴史遺産、街の様子をご紹介したい。
スリランカについて
スリランカへは成田空港から直行便があり、約9時間のフライトでバンダラナイケ国際空港に到着する(写真1~4)。初代大統領の名前を冠したこの空港は、スリランカ最大の都市コロンボに近く、コロンボ国際空港とも呼ばれる。スリランカの首都はコロンボだったが、1985年にスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテに遷都され現在に至る。
北海道の8割ほどの面積の国土に約2,200万人が暮らす。公用語はシンハラ語とタミール語。その他にそれぞれの言語を話す民族をつなぐ言葉(連結語)として英語が使われている。宗教は仏教が約7割を占め、ヒンズー教、イスラム教等が続く。
スリランカは観光資源が豊富だ。世界遺産も8つ登録されており、シーギリヤロックや古都キャンディは代表的な遺跡として知られている。2010年にニューヨークタイムズ紙の「訪れるべき国No.1」に選ばれ、近年ではスリランカを訪れる観光客が増加しているという。
四方を海に囲まれていることからビーチリゾートが多く、サーフィンやダイビングといったウォータースポーツが盛んで施設も整っている。沖合にはクジラやイルカの観察ができるスポットもある。国土の約10%を国立公園や自然保護区が占めており、スリランカ固有種を含む多様な野生動物にも出会える。また内陸部には丘陵地帯があり、植民地時代に英国が開発した避暑地は今も欧州風の街並みを残している。
旅のルート
今回の旅は現地のガイドさんが全行程に同行しバスで移動した。ニゴンボ、ヤーラ、キャンディの3カ所に宿泊し、次のルートで観光先を巡った。
- コロンボ(図1の①、空港)→ニゴンボ(同②)
- ニゴンボ→ヤーラ(同③)
- ヤーラ→ヌワラ・エリヤ(同④)→キャンディ(同⑤)
- キャンディ→ピンナワラ→コロンボ(同①、空港)
ヤーラ国立公園
最初の目的地のヤーラ国立公園は、島の南東部、インド洋に面した所に位置している。ニゴンボからは海岸沿いの国道を南下しひたすら走る。途中数回の休憩をはさみ、約8時間後にヤーラに到着した(写真5~写真8)。
先に記したように、スリランカには国土の10%ほどを占める国立公園や自然保護区があり、ゾウ、ワニ、ヒョウ、クジャク等の多様な野生動物が生息している。ヤーラ国立公園の面積は約1,000平方メートルで国内2番目の広さを誇る。日中は日差しが強いため動物も休んでいることが多いため、サファリツアーは通常、1日2回、早朝と夕方に設定されている。
翌朝5時、早朝サファリに参加するため、まだ暗いうちにジープに乗ってホテルを出発した。私道から一般道に入った途端、ドライバーは猛スピードで公園を目指す。早朝サファリは人気が高く、可能な限り早く受け付けを済ませる必要があるようだ。公園に着いた時、既に砂ぼこりで髪はばさばさになり、指も通らなくなっていた。全身で風を受けるため、とにかく寒い。マスクと暖かい服装は必須だ。
ホテルで用意してもらったお弁当を食べながら開園を待つ。その間にも観光客を乗せたジープが続々と集まってくる。その数100台を優に超える。
入り口のゲートを抜けるとでこぼこ道が続く。舗装されていない道はこういう感じなのか。がたがたとよく揺れる。サファリの車には6名前後が乗ることができる。運転席より高い位置に座席が設置されているため視界は良いが、高い分通常よりも揺れを感じる。手すりにしがみついていても振り落とされそうになる。(写真9、10)
6時を回って辺りが明るくなり、水場や草原が見えてきた。数珠つなぎになって走行していたジープは分かれ道に至るとそれぞれ左右に散っていった。草原には水牛やサンバー(シカの一種)などの群れが見える。その奥には地平線に沿って濃い緑色の森が続いている。「イアアーン、イアアーン」という、ネコのような、それとも少し違うような鳴き声が聞こえてきた。クジャクだそうだ。クジャクが鳴く鳥だとは知らなかった(写真11)。
ヤーラ国立公園には300頭前後のスリランカゾウがいるといわれる。今回運良く、数回ゾウを間近で見ることができた。群れではなく単独行動をしているゾウだった。発信機が取り付けられているゾウもいた。過去に人に危害を加えたことがあるゾウには発信機を取り付けて行動を監視しているそうだ(写真12)。
公園内には地図も標識もない。一見の観光客の立場では今どこに向かっているのか、どの辺りにいるのか全く見当がつかない。ジープのドライバーはどこに行けばどの動物がいるのか、経験上わかっているように見えた。
私たちが乗ったジープは3台編成だったが、先頭を走るジープは決まっており、そのドライバーがチームのリーダーだった。対向車がくると一旦停止し、先方のドライバーと言葉を交わしたり、運転中に頻繁にスマホで誰かと話をしたりしていた。通話が終わると決まって猛スピードで走りだす。急に方向転換することもあった。木々が連なる見通しの悪い、細くて曲がりくねった道を疾走する。後ろに座っている私たちは無言のまま柱や手すりにしがみつくばかりだった。悪路に体が左右に揺さぶられ、頭と胃の辺りも何となく気持ち悪い。座席の上ではお尻が弾む。
「もう勘弁してほしい」と思う頃、視界が開けた所で車が止まった。ドライバーがこちらを振り返り、遠くの岩を指して小声で言う。「あそこにレオパードがいる」。狂喜する我が方。双眼鏡を取り出し皆で観察。ドライバーは車を下りて満足そうな表情で私たちを見つめていた。
なかなか出会えない珍しい動物を見つけ私たちに見せてくれようとする情熱が伝わってきた。ドライバー同士のネットワークを通じた情報収集、一刻も早くかつ安全に現場に送客するための運転技術、最適な撮影スポットを確保するための迅速で強気な意思決定など、サファリドライバーのリーダーの条件を垣間みる思いがした。
ヌワラ・エリヤ(Nuwara Eliya)とキャンディ(Kandy)
スリランカをアボカドに見立てると、ちょうど「種」の部分に丘陵地帯がある。ヌワラ・エリヤはこの地域にある。ヤーラ国立公園から内陸の国道に入り、山道を北上していった。階段に踊り場があるように、山道を上る途中には大小の集落があり、商店街や学校、寺院、教会等が見られた(写真15~18)。
緩やかなカーブを描きながら坂道を上るにつれ、山々の緑はさらに深まっていく。ヌワラ・エリヤは標高2,000メートルの高地にある。年間を通じて爽やかな気候であり、ハイキングやトレッキングを楽しむにはもってこいの環境だったこともあり、植民地時代に英国人はこの一帯を避暑地として開発した。
青々とした芝生が広がる湖畔、英国風の別荘や建物が立ち並び、競馬場、ゴルフ場、公園なども作られた。「リトル・ロンドン」とも称されるこの街は現在も当時の雰囲気を残しており、欧州からの観光客で賑わっている(写真19)。
また、ヌワラ・エリヤはセイロンティーの産地としても有名で、五大産地の一つに数えられている。この地の赤土も茶葉の栽培に適しているそうだ。茶畑の一角には紅茶の精製工場が複数あり、茶の生成方法と工程を見学させてくれる(写真20~22)。
次の訪問先は古都キャンディ(Kandy)。ヌワラ・エリヤから北に向かって3時間かけて山道を下っていく。標高差1,500メートルの移動だ。日没後、真っ暗な空を埋め尽くすように星がきらめく。星は大きく、近くに見える。バスの車窓から、移動プラネタリウムさながら満天の星を見つめているうちにキャンディに到着した。
キャンディは15世紀から19世紀までスリランカのシンハラ王朝の最後の都だった。1988年、街全体が世界文化遺産に登録された。キャンディの街のシンボルの「仏歯寺」には、国の宝である仏陀の歯が納められている。歴代の王朝はこの仏歯を祀ることでその正当性を誇示してきたといわれる。仏歯は年に一度、夏に開催される「ペラヘラ祭り」で公開される。華麗な衣装を身にまとったゾウの背中に仏歯が載せられ、キャンディの街を練り歩く。このお祭りを一目見ようと国内外から観光客が集まり大変な賑わいを見せる(写真23、24)。
仏歯寺の西側からキャンディ駅に向かって歩くと、地元の人で賑わう白い建物が見えてくる。キャンディの市場(Kandy Market)だ。中庭のある2階建ての建物で、1階には食料品を中心とした商店が集まっている。そこでは野菜・果物をはじめ、肉・魚等が売られている。特にスパイスの種類は豊富で、色とりどりのスパイスが店頭を飾っている(写真25、26)。
ピンナワラのゾウの孤児院(Pinnawala Elephant’s Orphanage)
最後の訪問地は、キャンディの西30キロメートルほどの所にある「ピンナワラのゾウの孤児院」。ジャングルで親を亡くしたり、親とはぐれたりして孤児になったゾウを保護する施設として1975年に開設された。現在は孤児はおらず、病気や怪我等により治療を要するゾウが暮らしている。
ゾウの孤児院では餌やりやミルクやりの体験もでき(有料)、ゾウのテーマパークとも言える観光スポットになっている。ゾウ使いに先導された大小さまざまの数十頭のゾウが公道を横切る様子を目の前で見ることができる。水の中では小ゾウ同士でじゃれ合ったり、大きな体を横たえて全身で水浴びに興じたりしているゾウたちの無邪気な姿は、いつまで見ても飽きることがない(写真27~31)。
最後に
旅行中に覚えた言葉は「アーユボーワン」。スリランカの挨拶の言葉だ。直訳すると「長生きして下さい」という意味だが、「はじめまして」、「こんにちは」、「こんばんは」、「さようなら」など幅広い場面で使える。スリランカには複数の民族、宗教、言語があるが、「アーユボーワン」はそのような違いを超えて、誰もが共有できる挨拶の言葉なのだそうだ。胸の前に両手を合わせてこの挨拶をすると、満面の笑みで同じ挨拶を返してくれる。挨拶の言葉を一つ覚えただけでもその国に対する愛着が増すような気がする。
機会があれば改めてスリランカを訪れてみようと思う。その際は、望遠レンズつきのカメラを持っていきたい。動物の写真を撮りながらスマホのカメラの限界を知った。双眼鏡の中で出会った動物たちへの想い。スマホの問題だけでないことを十分理解しつつも、カメラへの憧れが募った旅でもあった。
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