2018年7月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Microsoftの組織再編から見る事業動向~インテリジェント・クラウドを軸にしたトランスフォーメーション



2018年5月上旬に開催された米Microsoftの開発者向け年次イベント「Build 2018」の基調講演で、サティヤ・ナデラ(Satya Nadella) CEOは、「世界は一つの巨大なコンピューターになりつつある」という見通しを示した。Microsoftは3月にクラウド事業を基軸に据えた大規模な組織再編を行っている。本稿では、Azureを中心として「世界のコンピューター化」を見据える同社の最近の動向を追う。

組織再編

Microsoftは3月末に大規模な組織再編を発表した。2014年以降Microsoftはビジネス寄りの事業構造に移行し、エンタープライズ事業に軸足を移しつつある。これまでコア事業だったWindows事業は新たに創設された2つの事業部門の傘下に分割して配置され、Windows事業の位置づけは後退した。

新設されたのは「Experiences & Devices」と「Cloud + AI Platform」の2つの事業部門。2016年に発足した研究部門「AI+Research」は変更なく、今後も継続して3つ目の部門として全組織横断的に連携する役割を担う(図1)。

Microsoftの新組織

【図1】Microsoftの新組織
(出典:「Satya Nadella email to employees: Embracing our future:
Intelligent Cloud and Intelligent Edge」等の情報を参考に作成)

「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」

2014年以降Microsoftは、「モバイルファースト、クラウドファースト」を標榜してきたが、イノベーション時代の到来に向けて、2017年に「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」構想を発表した(図2)。

Intelligent Cloud+ Intelligent Edge

【図2】Intelligent Cloud+ Intelligent Edge(出典:Microsoft News Center)

 ナデラCEOはこれまでに社員とビジョンの共有を図ってきた。その概要は大きく3点。1つ目は、コンピューティングがクラウドからエッジを行き来し、さらに緊密に連携するということ(ubiquitous computing)。2つ目はAIの影響力が知覚(perception)と認知(cognition)の領域で急速に向上を遂げている状況にあるということ。3つ目は、現実世界と仮想世界が近づきながら、人とモノ、人と人の活動範囲や関係性が認識され、より豊かな「経験」ができるようになるというものだ。

新構想に照らすと、上述の新組織の「Experiences & Devices」がエッジソリューションに該当する。Windows OSやデバイス、端末の管理を行う「Enterprise Mobility and Management」等クラウドと連携するデバイスの制御を行う。もう一つの組織「Cloud + AI Platform」は従来の「Cloud & Enterprise」を母体にし、Azureやクラウド関連の事業チームで構成されている。

過去にMicrosoftはデバイス向けのOSや特定のアプリケーションを作ってきたが、今やWindowsやiOS、Androidといった個別のOSではなく、ユーザや多様なユーザーグループのためのOSを作ろうとしている。その進展を支えるのがAIである。アプリケーションであれプラットフォームであれ、AIによってタイミングやニーズの変化を取り込みつつ自らが付加価値をつけながら変化していくことが求められることから、AIはMicrosoftの戦略の中心軸を担っている。 

「巨大なコンピューターになりつつある世界」

上述のとおり、2018年5月に開催された「Build 2018」の基調講演でナデラCEOは、「世界は一つの巨大なコンピューターになりつつある」という見方を示した。「コンピューティングはあらゆる人、場所、モノに入り込んできている。それは機会であり、永続的な機会となりうる」と捉え、「Azureは世界のコンピューターに向かっている(Azure is being built as the world’s computer)」と語った。

この発言が意味するものは、世の中のアプリケーションについて特定の環境・条件の制約を受けず、分散処理、イベントドリブン、サーバーレス等の多様な環境で機能できるようにするということだ。AzureによりMicrosoftは、クラウドからエッジまで、ユビキタスコンピューティングやファブリックコンピューティングに適応させていく方向に向かっていく。

世界のコンピューター化に向け、Microsoftはオープン化への取り組みも強化している。2018年6月4日(現地時間)、MicrosoftはGitHubを75億ドル(約8,240億円)で買収すると発表した。GitHubはオープンソースの共有プラットフォームを提供する企業の中では最大手だ。同日付のWired.comの報道によると、その規模はMicrosoftやGoogleの競合サービスをはるかにしのぐという。Apple、Amazon、Facebook、Walmart等の大手企業だけでなく、米国政府もオープンソースのソフトウェア開発プロジェクトにGitHubのシステムを利用している。MicrosoftはGitHubの買収により開発環境を整備し、幅広い開発者の参画を通じてMicrosoftのクラウドにオープンソースのアプリケーションを増やしていこうとしている。

Microsoft自身のトランスフォーメーション

Microsoftの組織再編は、事業モデルの変更を事業領域に反映させて拡張させていくことを意味している。今やプラットフォームはクラウドでありWindowsではないということだ。ビジネスモデルも、従来のOSとビジネスツール中心の製品販売から、クラウドベースのサービスやソリューションでの提供に変わってきている。

特徴的なのは、事業領域の変更とともに会社組織についても戦略に合わせて変更したことである。クラウドやAI、IoTなどの技術の導入が進み、パソコンがコンピューターの主軸でない世界に変わりつつある中で、新たな戦略であるインテリジェントクラウド、インテリジェントエッジが今後数年のMicrosoftの指針となる。このことが、Microsoftにとって、自社の「トランスフォーメーション」に取り組む契機となったことも特筆すべきことと言える。

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