2018年8月29日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

NPOにおけるICT利活用動向 ~ICTを活用したNPOの課題解決の方向性



NPOとは、‘Nonprofit Organization(民間非営利組織)’の略で、企業が利益を得て配当することを目的とする組織であるのに対し、NPOは社会的な使命を達成することを目的にした組織である。誤解を受けやすいが「非営利」とは、組織が利益を上げても「構成員など関係者に分配しない」という意味であり、利益を上げて事業に再投資をすることは禁じられていない。収益を非営利活動に関する事業に使う必要があるNPOは最も社会的還元力が強い組織のひとつだと言えるのではないだろうか。上記事実もあり、2018年1月31日の国会審議において、NPOを補助金の対象とすることが提案された。具体的な補助金の活用方法として、ICTによる生産性向上が言及されたこともあり、今後、ICT活用によるNPOの生産性向上は国家戦略のひとつとして扱われる可能性が現実味を帯びてきている。政治や経済、介護、地域づくりなど様々な分野でNPOの存在感が高まってきていると言える。今回、「NPOを支援するためのNPO」である日本NPOセンターの基盤開発チームリーダー土屋一歩氏、事務局スタッフの三本裕子氏に、同センターのNPOへのICT利活用支援事業について話を伺った。本レポートでは、同センターの事業紹介を通じ、NPOが直面する課題や、ICT活用ニーズについてもタイムリーに捉えていく。

―日本NPOセンターについて教えてください。

認定特定非営利活動法人日本NPOセンターは、民間非営利セクターに関する基盤的組織としてNPOの社会的基盤の強化を図ることをミッションとし、1996年に設立されました(法人化は1999年)。そのミッション遂行のために、企業や行政の皆様とパートナーシップを確立することを理念としています。2018年3月末時点で正会員数は648(NPO会員370、自治体8、企業51、個人会員219)に上ります。「事業の7本柱」の1本目である「情報事業」では、主にNPO法人のデータベース化等による情報開示の基盤を提供します。またソフトウェア寄贈仲介等を通じてNPOのICT化を支援しています。

―情報事業の事業内容を教えてください。

センター設立当初から、NPOに関する情報をまとめ、機関誌として発行しています。1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されました。NPO法(第二十八条)では、法人の事業報告書や役員名簿、定款等を開示することが義務づけられています。NPO法人制度として初めて情報公開が規定された点でも画期的でしたが、NPOは自分たちの活動を信頼してもらうため、NPO自ら情報公開が重要だと考えました。ただ当時はインターネット黎明期でもあり、自分たちのホームページを持っている団体が多くありませんでした。より簡便に利用できる情報公開の方法が必要だと考え、日本NPOセンターが2001年に開設したのが全国NPO法人データベース「NPOヒロバ」です。開設当初はNTTコミュニケーションズにも支援をしてもらいました。公開された情報を通じてNPO法人の現状を誰もが理解できるようにすることで、多くの市民や企業が活動に参加することを促すことと、そうした状況を明らかにすることで民間非営利セクター全体の発展に寄与することを目的としています。四半期に一度、各所轄庁の情報をもとに、新たに認証・解散されたNPO法人の基礎情報を収集し、追加するほか、団体自身が自主入力できるシステムを備えています。また、法人情報のほか、NPO法人による分析やQ&Aなども掲載しています。時代とともに活用方法に工夫を加えるため、リニューアルを数回実施しました。

「NPOヒロバ」HP

【図1】「NPOヒロバ」HP
(出典:http://www.npo-hiroba.or.jp)

 ―その中で特に注目すべきICT活用施策はありますか?

NPOへのICT支援の大きな転機としては、2009年に非営利団体向けソフトウェア寄贈プログラム「テックスープ(TechSoup Japan)」の運営を開始したことが挙げられます。テックスープとは、米国サンフランシスコを拠点にICT支援を行う社会企業TechSoup Globalが始めた、ICTに関するリソースとサポートを提供する仕組みです。元々、米国マイクロソフトが社会貢献活動の一環として自社製品をNPOへ寄贈する際に、その仲介を行ったのがTechSoup Globalでした。その後シリコンバレーを中心にこの取り組みに賛同するIT企業が増加しました。現在は日本NPOセンターを含め世界の70のパートナー団体とともに事業展開されています。日本では、マイクロソフト、シマンテック、アドビ システムズ等10社以上の企業から、ソフトウェアやクラウドサービスの提供、ハードウェアのディスカウント等の協力を得ています。国内約5,800のNPOが登録をしており、2018年3月末までで、累計で4,300以上の団体に対して、市場価格で33億円5,000万円相当のソフトウェアやICTサービスの寄贈仲介をしてきており、ある程度のインパクトを持つICT支援をしてきたと自負しています。

「テックスープ」リーフレット

【図2】「テックスープ」リーフレット
(出典:https://www.techsoupjapan.org/)

またICTサービスの寄贈仲介後の利活用支援も必要と考え、2014年に「NPOのためのICT支援者ネットワーク」を立ち上げました。全国のNPO支援センターのなかで、特にICT利活用支援に力を入れているセンターをメンバーとするネットワークで、「NPOのためのICT利活用ガイドライン」の作成やICT関連の研修、ICT関連企業との対話等をプロジェクトチームごとに行っています。ICT関連企業との対話のなかでは、例えば、日本のマイクロソフトや、アマゾン、アドビ等の企業とネットワークメンバーが、NPOのICT利活用や支援についての悩み、今後の連携の可能性等についてディスカッションをします。こういったつながりがあることで企業やNPOの持つニーズを結びつけたり、ネットワークを通じて地域のNPOと情報を共有したりすることが可能になります。

 ―NPOを取り巻くICT利活用について、どのような課題がありますか?

一般的にNPOは民間企業に比べ、ICT利活用に後れを取っていると言えます。例えば、昨今企業ではマイクロソフトのOffice 365の導入が進んでいますが、NPOでは自団体にICTに詳しい者がいないといった理由で、導入を躊躇する団体も少なくありません。世の中のICTの変化に伴い、意識は持ちつつも、何から始めたらいいのか分からず悩んでいる団体も多く存在しています。一方で、若年層メンバーが中心となっている団体などでは、ICTをうまく活用し社会的課題の解決を考えているケースもあります。例えば、関西のNPOが連合体となり、子どもの貧困サポートパッケージづくりを提案した「コレクティブフォーチルドレン」の活動※では、子どもや家族がどんな状況でどんな支援が必要なのかが分かるように、そうした情報にアクセスできる環境をつくり、これらの情報をデータベース化することで、分析と支援のノウハウを構築していくといったことをしています。このような団体が生まれてきていることを考えますと、若年層が中心となる組織はICT利活用のイメージが付きやすいのだと思います。ただNPO全体の総数からみると、ICTを使いこなしている団体は少ないと言えるでしょう。

※Collective for children事業内容HP http://cforc.jp/

 ―ICTの利活用想定シーンはどのようにお考えですか?

ICT利活用には、大きく2つのステップがあると考えます。ステップ1では実務に直接役立つ活用を想定しています。例えば、NPOは活動の支援者からの会費や寄付が組織を支える大切な財源となるのですが、テックスープを活用しICT環境が整ったあと、団体の所有するデータベースをどのように効率よく管理し、運用するかについての方法を学んでいく必要があります。また、広報に必要なツールの活用や、簡単なクレジット引き落としサービスの利用等について、ICTを実務として利活用していければいいと思います。ステップ2では、上記でも紹介したような社会課題解決に向けてICTを利活用したアイディアをどんどん団体が出していければいいと思います。

―今後の展望について教えてください。

ICTの利活用が、NPOの業務負担を減らし、新しい課題解決方法の発見や、組織の運営方法の改善に生きていくのではないかと思います。NPO、企業といった枠組みを超えてアイディアをお互いに出し合いながら、一緒にサービスをつくっていけたらいいなと思います。NPOは幅広い概念です。当センターは広くNPOを支援していますが、団体により規模やITニーズは異なります。今、我々は過渡期にきています。ICTリテラシーがあまり高くない団体、ICTを駆使し時代の先に行こうとしている団体と、それぞれへの支援方法は異なります。これまではテックスープという仕組みを使い、提携企業のサービスを各団体へ提供することが支援の中心でした。今後はICTに強いNPO、全国にあるNPO支援センター、企業と連携し、ICTを利活用することで世の中に新しい価値を提供していくことが我々の宿題でもあるし、可能性でもあると感じています。

取材を終えて(まとめ)

日本NPOセンターでは情報事業のなかで、データベースの開設、ソフトウェア寄贈プログラムの運営、ICT利活用方法のサポートといった情報・技術両方の支援を時代に合わせ多面的に行っている。今回は彼らの取り組みを通じ、NPOを取り巻くICT利活用の課題についても現場の生の声を聞くことができた。NPOでは様々な年代や背景を持つプレイヤーが活躍しており、各団体の必要とする支援も異なる。日本NPOセンターが掲げているNPOの目指す姿である「社会的定着と信頼性の確保」、「社会に対してのメッセージの発信力の拡大」のためには、団体それぞれのニーズに合わせたICT利活用支援が必要であることを実感した。特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されてから、今年で20年目を迎える。NPOのICT化が進む過渡期を迎えている今、NPO、自治体、企業の連携(協働)により、共に知恵を出し合うことでICTによる社会的課題解決にさらに寄与できるのではないだろうか。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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