2018年9月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

電波関連産業の成長展望と電波有効利用の課題



総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」(座長 多賀谷 一照 千葉大学名誉教授)は、本年7月に報告案の取りまとめを公表し、その後、1カ月間の意見募集を経て、報告書を策定しました。今回の報告書は、同じ多賀谷座長の下に検討された「電波政策2020懇談会」報告に続くもので、2030年代の社会の姿を展望して、実現すべき電波利用社会のトレンドや目標を設定しています。

2030年代の電波利用社会(ワイヤレス社会)がもたらすワイヤレス関連産業の規模を次のとおり予測していて、我が国の全産業の生産額に占める割合が、2015年の約4%から2040年には12%へと3倍に拡大するとしています。

(兆円)

 2015202020302040
電波関係産業24314556
電波利用産業12284756
合計365992112

 特に、サービス業、流通業、製造業、その他の産業分野において、電波を利用する規模が大きく伸長していくと見込んでいるのが分かります。もちろん、本来の通信・放送インフラ分野やプラットフォーム領域で電波を使う産業規模も現状から倍増の30兆円に達するとしています。

 今年6月に閣議決定された成長戦略「未来投資戦略2018」の中では、ワイヤレス産業それ自体への言及はありませんが、交通・輸送、医療、農業、公共、インフラ分野など各所において電波の利用が前提となっていて、ワイヤレス産業の拡大は成長戦略の要と捉えられています。

 それには、民間・産業利用の周波数の確保が必要であり、今回の報告書では、短期的に2020年の5G実現に向けて、28GHz帯で最大2GHz幅、3.7GHz帯および4.5GHz帯で最大500MHz幅の合計約2.5HGz幅の周波数を確保して、2020年度末までに既存の携帯電話用や無線LAN用を含めて合計で約4GHz幅の周波数確保を目指すことを打ち出しています。

 加えて、将来の周波数帯域確保の目標として、5Gの次の無線システム(Beyond5G)への約10GHz幅を始め、次世代モビリティシステム、次世代衛星システムなどの外、公共安全LTEがあり、全体を合わせると約110GHz幅とぼう大な周波数が必要となると想定しています。併せて、現状のシステムの利用形態を踏まえるとこれらの新しいシステムの導入のためには、約29GHz幅の再編や共用が必要と予想されるので、今後の電波の有効利用方策の実現こそが、我が国の成長戦略の要諦になります。電波は限られた国民共通の資源であるだけに国家管理の下にあり、世界各国と足並みを揃えながら国際競争に臨んでいかなければなりません。「未来投資戦略2018」に定める重点分野を推進するためにも、民間利用・産業利用の周波数をスムーズに、能率的に確保する必要があり、無線システムごとの技術課題の解決と周波数の再編・共用のためのインセンティブや負担調整の方法などの検討を早急に進めていく必要があります。

なかでも、今回の懇談会報告のなかで取り上げられた電波の有効利用を図るためのインセンティブとして、非効率な利用に対し返上を進め、移行を促す仕組みを検討することを取り上げていることは大いに評価できます。携帯電話等の基地局に係る開設計画認定期間終了後の周波数帯について、カバー率、トラフィック状況、利用技術などの有効利用計画の策定と総務大臣の審査は、モバイル通信事業者の事業評価に大きなプレッシャーとなると思います。通信事業者によって、電波の有効利用の程度に差が生ずることは当然あり得るので、周波数返上や移行等の新しいインセンティブになることが期待できます。

2番目に、従来指摘されてきた公共用周波数の有効利用方策にようやく着手する方向が示されたことに注目しています。これまでは、公共業務用の無線局の性格から無線免許に関する情報等を公表してきませんでしたが、これからは逼迫する周波数状況を踏まえ、官官・官民の周波数共用の推進が求められているので、公共用周波数の見える化の促進を求めています。見える化と言っても、公共業務の内容に立ち入ることが目的ではなく、電波の有効利用度合いを評価することが目的なので、電波の発射状況調査の拡充を進めて、対象無線局のより正確な運用実態を把握するよう見直しを求めています。

この点に関し、総務省の試算では、重点調査対象システム数を10年で一巡する内容で、3年間で最大60億円と提示されていることに対し、「規制改革推進会議・投資等ワーキンググループ」の6月27日、電波規制改革フォローアップ会合で、東洋大学 山田 肇 名誉教授は、“移動無線システムの世代交代が10年周期程度で進行するなか、「重点対象システムを10年で1巡」との総務省方針は遅すぎて、拡充が必要”とのコメントを提出しています。確かに10年で一巡では、周波数の確保、再編・共用が急がれている現状において実効ある措置には結び付かないでしょう。今回の報告では、電波の有効利用が行われていない無線局に対して公共用であっても電波利用料の徴収に言及しているものの、前述の電波の発射状況調査の拡充と併せて、公共用周波数の有効利用にインセンティブが働く仕組み作りを求めています。公共用周波数の有効利用方策として、公共機関が共同して利用できる「公共安全LTE(PS‐LTE)」の導入検討を取り上げているので、これこそ早急な実現を望みたいところです。

最後に、規制改革推進会議から投げ掛けのあった周波数割当制度の見直しに関しては、経済的価値を踏まえた割当手法を取り入れることとし、経済的価値に係る負担額の配点が過度に重くならないようにすると述べて、いわゆるオークション制度については、引き続き最新の動向を注視するとされています。

私は、これについては現状妥当な線の結論と思っています。ワイヤレス関連産業を活用した成長戦略や周波数の長期再編プランに基づき、再編・共用を進める以上、今後は、これまでと違って同一無線システムの中で、一の者が専用する周波数帯を見出すことは実際上困難になると想定できるので、再編・共用を前提とした制度設計・運用を行う必要があると考えるからです。今回の「電波有効利用成長戦略懇談会」報告書によって、成長戦略におけるワイヤレス産業の重要性が広く世の中に認識されることを期待しています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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