2018.10.26 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:ポルトガル~極東の国から、西の果てへ

今年9月、ポルトガルの首都リスボンと、第二の都市ポルトを訪れた。ユーラシア大陸の最西端に位置するポルトガルは、歴史的にアジア諸国や日本とのゆかりも深い国である。しかし、「西の果て」だけに極東の日本からは遠く、日本からの直行便もない。そのせいか日本からの旅行者も多くないのだが(約83,000人(2014年)*[1])、最近では雑誌でも取り上げられるようになってきている。実際に行ってみると、他の西欧諸国とは異なるほのぼのとした明るさに満ちている。今回は、その一端をご紹介したい。

 まずはリスボン

ポルトガルの首都リスボンは、北緯38度、西経8度付近に位置する。北緯38度は日本でいえば仙台に相当するが、地中海性気候に属し、最も寒い1月の平均最低気温が8.3度と穏やかな気候である。ただし、最も暑い8月の平均最高気温は28.3度まで上がる。2018年は日本各地でも猛暑となったが、リスボンでも8月4日に観測史上最高となる44.0度を記録した。なお、ポルトガルのタイムゾーンは英国と同じであり、これもスペインやフランスなど、近隣の西欧諸国とは異なるところだ。

リスボンにはパリ発の朝一の航空便で到着した。リスボン空港は市街地に近いところにあり、バスで約30分、6ユーロ(1ユーロ=130円で換算(以下同じ)すると、780円*[2])で市の中心部まで行くことができる。道が空いている時間であり、タクシーでもバスでも大差ないと思いバスを利用した。バスは、大きな荷物置き場がある以外、普通の市バスと変わらず、固く小さいシートが並んでいるタイプだが、各STOPボタンの脇にUSB端子が付いている。短い時間でもスマートフォンを充電できるのだ。こういう仕組みがあるということは、犯罪のリスクが少ないのだろうか。スマホを出せないような場所ではこのような設備は置かないだろう。

リスボンは「7つの丘の街」とも呼ばれる。とにかく坂や階段が多く、アップダウンが激しい。街歩きには有名な路面電車に揺られて移動するのもよい。5つの路線のうち、観光客に有名なのは28号線であるが、他の路線も楽しめる。新型車両もあるが、数多くの旧型車両も走っており、風情がある(冷房はないが)。なお、リスボンの都市交通は「viva viagem」または「7 colinas」という市内交通カードや「Lisboa Card」のような乗り放題パスでも、現金でも利用することができる。ただし、路面電車の場合、市内交通カードでは1乗車1.3ユーロ(169円。ただしカード代0.5ユーロが別途必要)、現金では1乗車2.9ユーロ(377円)と価格が大きく異なる。

リスボンのケーブルカー

【写真1】リスボンのケーブルカー
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影。画像の一部を加工したものあり)

サンタ・ジュスタのエレベーター

【写真2】【写真3】サンタ・ジュスタのエレベーター

サンタ・ジュスタのエレベーター

このほか、市内ではバスや地下鉄、ケーブルカーも利用できるが、公共交通として面白いのは、「サンタ・ジュスタのエレベーター(Elevador de Santa Justa)」である。バイシャ(「低いところ」という意味)地区と高地シアード地区を結ぶ市民の足として1902年に造られたものだが、今では観光名所となっており、特に上りに乗るには何十分も待たねばならない。古風な木の内装のエレベーターの中には椅子が備えられており、最初に乗った数人は座ることができる。たまたま待ち行列の前方にいたので座ってみる。エレベーターは45mの高さをゆっくりと登る。とはいえ、座りたいと思うほど時間がかかる訳ではない。日本語で話しかけてくれた係員と話している間にあっけなく到着してしまう。1分もかかっていないだろう。いくら人気とはいえ、ピストン輸送すればこんなに待つ必要はないように思われる。なぜこんなに待たなくてはならないのか。このエレベーターは有料だが、料金をエレベーター内で係員が収受する仕組みになっているのが一因である。交通カードやパスを持っている客(筆者も)はセンサーに触れるだけだが、現金で払う客も多い。料金は5.15ユーロ(670円)と実に細かく設定されており(カードでも現金でも同額)、現金での支払いの場合、客か係員がユーロセントの小銭を出さねばならない。これに時間がかかっているのだ。乗る前に支払う仕組みにするか、現金の扱いをやめてカードだけにすれば待ち時間は大幅に短縮されると思われるが、そんなことは既に検討されており、承知の上でのことなのだろう。カードと現金で価格差の大きい市電やバスでも現金で払う人がいて、やはり精算が済むまで発車できない光景を何度も見かけた。これが流儀なのかも知れない。

発見のモニュメント

【写真4】発見のモニュメント

到着した後は鉄のらせん階段を上ると展望台があり、眼下にリスボンの街並みが広がる。夜に上がると、美しい夜景を楽しむことができる。他の欧州の街と同様、ネオンサインのようなものはほとんど見えない。ただし、展望台は中空にあり、柵は低い。高所恐怖症の人にとってはスリリングな場所である。

リスボン市内には、ほかにも有名な観光地がたくさんある。その一つが「発見のモニュメント」である。15世紀前半のポルトガル王国の王子であり、「航海王子」の名を持つエンリケを先頭に、約30人の当時の探検家、芸術家・科学者・地図制作者・宣教師が並ぶ。中には、日本への布教で知られるフランシスコ・ザビエルもいる。本国の面積だけを見れば大国とはいえないポルトガルが世界史の中で大きな存在感を持つに至ったのは、さまざまな動機に基づく航海であったことを思い起こさせる。 

 

西の果てへ

次の日は郊外に出てみる。大西洋に面する街シントラへは、リスボンから電車に乗れば1時間弱で到達できる。某夢と魔法の王国を思わせるようなペーナ宮殿や、クエストゲームの主人公気分が身をもって味わえるレガレイラ宮殿などを巡るのも楽しい。

ペーナ宮殿

【写真5】ペーナ宮殿

レガレイラ宮殿

【写真6】レガレイラ宮殿

その後に目指すのはユーラシア大陸最西端の岬であるロカ岬である。
どの観光地も混雑しているのだが、シントラからロカ岬へ行くバスも例外ではなく、立って乗るのがやっとであった。それでも運がいい方で、満員となったバスは途中の停留所を容赦なく通過する。待つ人々が憤然としている。無理もない。時刻表によれば、バスは30分に1本しかないのだ。ところが、シントラの街を出ると、バスは途中の停留所で停車し、1人の女性を乗せた。地元の人と思しきかの女性は運転手と親しげに会話している。しばらく走ると、また1人別の女性を乗せた。どうも運用が微妙である。

 シントラから45分くらいでロカ岬に着く。ここで乗客のほとんどが下車する。
岬の周辺は切り立った崖になっている。先端には、ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスによる有名な一節「ここに地終わり海始まる(Onde a terra acaba e o mar começa)」が刻まれた碑がある。碑の先から、崖下に広がる海とそこに射す一条の光を見下ろすと、さまざまな土地に向けて船出した人々の気持ちが想像できる(ような気がする)。東の国の東京から西の果てまで来た、との感慨がある。

ロカ岬

ロカ岬

【写真7】【写真8】ロカ岬

岬の観光案内所では「最西端到達証明書」なるものを発行してくれる。11ユーロ(1,430円)と安くはないが、せっかくなので発行してもらう。綺麗な写真と上述の詩が掲載されており、裏には日本語を含む各国語での説明がある。係員がカリグラフィーで名前と日付を記入し、封蝋で刻印してくれる。

到達証明書

【写真9】到達証明書

なお、崖の手前には柵があり、越えてはならないとの注意書きもあるが、多くの人々がそれを無視して柵を越えたところで写真を撮っていた。SNSの影響も多分にあるのだろうが、これはやめておく方がよい。実際、ここで足を踏み外して亡くなった人もいるそうだ。

海岸の崖の上だけに風が強く肌寒い。感慨は深いものの、1時間ほどもいれば十分である。先程のバスが満員だったので、帰りもどうなることかと思ったが、さほどではなかった。どうやら臨時便が運行されていたようである。

ポルト街歩き

Alfa Pendular

【写真10】Alfa Pendular

ポルトガル第二の都市はポルトで、国名の由来にもなったと言われる街である。「ポートワイン」の名前を聞いたことがある方も多いだろう。ポルトはリスボンの北方約270kmの場所にある。ポルトへは、リスボンから特急「Alfa Pendular」に乗れば3時間弱で到達できる。
列車はリスボン市内のリスボン・サンタ・アポローニア(Lisboa Santa Apolónia)駅から発車する。タクシーの運転手に念を押し、少し早目に駅へ向かった。リスボン駅というものはなく、目的地によって出発する駅が分かれているので注意が必要である。

ポルトガルでも長距離列車のチケットは入国前に鉄道会社のサイトで予約・購入可能であり、筆者が利用した早期割引料金でも同様である。日本で旅行会社を経由して手配するよりも安くて早い。英語にも(ほぼ)対応している。プリントアウト等でバーコードを準備しておけばよく、窓口でチケットを発券する必要さえない。どこでも窓口は混んでいることでもあり、これはありがたい(余談かつ以前にも書いているのでここでの詳述は控えるが、日本でもぜひ同様になってほしいと思っている)。

チケット

【写真11】チケット

9時ちょうどにサンタ・アポローニア駅を出た列車は大学都市として有名なコインブラなどに途中停車しながら、定刻11時50分にポルト・カンパーニャ駅に到着した。

ポルト・カンパーニャ駅はポルトの街外れにあり、市街地までは地下鉄で移動する。食料品などの市場で有名なボリャオン(Bolhão)駅を降りると、すぐに大きなアズレージョ(装飾タイル)に目を奪われる。アルマス礼拝堂である。

アルマス礼拝堂

【写真12】アルマス礼拝堂


リスボン程ではないがポルトも坂の多い街である。しかし市内中心部を観光するだけなら、歩いて回っても良い運動と思える程度だろう。有名な観光地の一つにポルト・サン・ベント(Porto São Bento)駅がある。これは街の中心に近いところにある駅で、長距離列車はほとんど発着しない。したがって今回使うことはないのだが、それでも行く価値がある。駅の中にあるアズレージョがとても美しいのである。ポルトガルの歴史的情景が描かれた大きなものも圧巻だが、汽車が描かれた小さなアズレージョも楽しい。

ポルト・サン・ベント駅のアズレージョ

【写真13】【写真14】ポルト・サン・ベント駅のアズレージョ

ポルト・サン・ベント駅のアズレージョ

レロ書店

【写真15】レロ書店

ポルトはドウロ川河口に広がる街で、ポルト・サン・ベント駅の南側には大きな二重構造の橋がある。これは「ドン・ルイス1世橋」という名が付いており、橋の名は世界遺産の登録名にも含まれている。上段はメトロと歩行者だけが利用できる。橋を渡ると、ポートワインのワイナリーがいくつもある。せっかくなので立ち寄って試飲してみる。甘みがあるが、いわゆる甘口ワインとは異なる深みがある。

ほかにも、市の象徴とも言われるClérigos Tower(クレリゴスの塔)から街を見下ろしたり、「ハリー・ポッター」シリーズに影響を与えたとも言われる(*[3])レロ書店(Livraria Lello)で本を買ってみたりするのも楽しい。ただし、書店に入るにはチケット(5ユーロ(650円))が必要である。チケットは書籍代に充当できることもありそれはまあいいのだが、チケットを買うにも行列であり、買ってから店に入るにも行列で、航空便の時間が迫っていたので、少々焦った。時間の余裕は大切である。

ポルトガルの食とワイン

パステル・デ・ナタ

【写真16】パステル・デ・ナタ

リスボンでもポルトでもさまざまな名物料理を試してみた。これだけでも際限なく書けそうだが、ここではリスボンの「パステル・デ・ナタ」と、ポルトのタコ料理、そして各地で食べられるスープをご紹介したい。

パステル・デ・ナタはカスタードクリームの入ったタルトである。リスボンのジェロニモス修道院で発明されたとも言われているそうだ。修道院にほど近い場所にある老舗パステイス・デ・ベレン(Pastéis de Belém)では店内で食べることができる。軽い気持ちでつまんでみたが、美味しいのでおかわりを頼むと、今度は焼き立てが供された。熱々で、パリッとした皮と甘いクリームのバランスが良い。持ち帰る人も多いが、機会があれば、店内で食べるのがお勧めである。

ポルトでは、ホテルで教えてもらったレストランでタコのフライとタコご飯のセットを試してみた。さまざまな魚介料理を食べられるのを楽しみにしていたが、期待に違わぬ味だった。フライになった大きなタコは柔らかく、タコを食べているとは思えない。ご飯もタコの味がしみて、混ぜご飯とはまったく異なる味が楽しめる。

タコ料理

【写真17】【写真18】タコ料理

タコ料理

それから、ポルトガルではカルド・ウェルデ(緑のスープ)のほか、多様なスープが食べられるのも楽しみである。どのレストランにもスープがあり(「本日のスープ」だけのこともあるが)、食事のたびにスープを頼んだが、それぞれに味が違って面白かった。

また、酒精強化ワインであるポートワインのほかにも美味しいワインがたくさんある。有名どころだが、原産国で飲むヴィーノ・ヴェルデ(「緑のワイン」の意)が良かった。アルコール度数が低めの若いワインで、味もさっぱりとしたものが多く(微発泡のものもある)、魚介類によく合う気がする。ポルトより北側のミーニョ地方が原産だが、リスボンでも楽しむことができる。

通信事情(ローミング付き)

最後に旅行者向けの通信事情について触れておきたい。とはいえ、あっけないほど簡単かつ便利であった。プリペイドSIMを買うことにして、リスボン空港の到着口を出たところのVodafoneのショップに行くと、音声・データ通信込み(500分の国内・欧州経済圏(EEA)内通話・SMS*[4]、30分の国際電話・SMS(相手国限定*[5])、5GBのデータ通信)で20ユーロ(2,600円、VAT込)のプラン(「Vodafone Travellers」)を勧められた。この後に行くフランス、ベルギーでも同様に使えるという。これも、本誌でもご紹介してきた域内ローミング料金廃止の効果なのだろうか。了解して店員さんにiPhoneを渡すと、目の前でSIMを入れ換え、日本のSIMを「失くさないようにね」と返して、サクサクと開通させてくれる。説明、設定(2台)、支払いすべて含めて15分もかからなかったと思う。応対してくれた店員さんのスキルにもよるのだろうが、もっと大変だろうと覚悟していたので、驚き、かつ感謝した。その後に移動した各国での通信も良好であった。

終わりに

ポルトガルの「ほのぼの感」の理由を考えてみる。地中海と大西洋に面する温暖な気候と、そこに生きる人々の優しく、のんびりした様子がほのぼのとした雰囲気を作り出しているのではないかと思う。会った人々は皆真面目で親切だった。飛行機で隣り合わせた人にお勧めのレストランを聞いても、筆者のガイドブックを見ながら、一つ一つにコメントをくれたりする。公共の場では、細かい金額を現金で払う人もおり、それはそれで一人一人丁寧に対応される。後者はすぐにイライラするタイプの人向きではないかも知れないが、「郷に入りては」と我慢するのではなく、まあいいか、と思えるのは、皆が平等かつ親切丁寧に、そしてゆっくり対応されるからかも知れない。ポルト空港で、出発ロビーに流れるのんびりしたギターデュオの生演奏を聴きながらそのようなことを考えた。また来たいと思える国である。

出発ロビーのギターデュオ

【写真19】出発ロビーのギターデュオ

※記載の情報は訪問当時の筆者の体験によるものです。ご旅行される場合は、最新の情報をご確認ください。

*1 日本旅行業協会(JATA)「6.海外旅行者の旅行先トップ50(受入国統計)」の2014年のデータによる。一例として、隣国スペインの1/5以下。

*2 市内までの定価。さまざまな割引がある。

*3 ハリー・ポッターシリーズの著者J. K. Rowlingは過去にポルトに住んでおり、この書店を訪れていたとされる。

*4 EU加盟国、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー

*5 米国、カナダ、アンゴラ、ブラジル、豪州、ニュージーランド

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