2018年12月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

プライベートLTEの登場と5Gビジネスモデルの今後


【写真1】鉱山を走る無人トラック(出典:英テレグラフ)

プライベートLTEとは「企業内Wi-FiのLTE版」

スマートフォンの普及とともに存在感を増したWi-Fiは、「企業や個人が、免許不要帯域の周波数を活用して、自営(プライベート)設備として使う」ことを想定して開発され、普及してきた。また、店舗のWi-Fiを来店客が使えるようにしたり、通信事業者が自社顧客向けにキャリアWi-Fiとして屋外でもサービス提供したりと、その提供形態は様々な形に広がってきた。

一方、スマートフォンとともに普及したLTEは「携帯電話事業者が、免許周波数を活用して、公衆(パブリック)サービスを提供する」ための通信規格として開発され、世界で普及してきた。使えるエリアでいえばWi-FiよりLTEの方が広いのだが、提供形態は変わらずであった。

しかし、昨今、海外では「プライベートLTE」が少しずつ広がりつつある。これはLTE方式の自営設備を活用するというものである。LTEではあるが、通信事業者による公衆サービスという仕組みではなく、むしろWi-Fiの仕組みに近い。携帯電話事業者以外の企業がLTE網を構築するわけだ。

海外で進むプライベートLTE

プライベートLTEは、国内より先に海外で普及が進みつつある。その利用シーンは多岐にわたるが、プライベートLTEの提案に積極的なNokiaによれば、「ターゲットは、主に公共系。公共安全(警察、消防等)、ユーティリティ(電力、ガス等)、航空、鉱山、運輸等。鉱山では、コマツの南米・北米事業が好例だ。人が行くことができない環境下での作業のための、トラックの自動運転、ショベルカーの遠隔運転は既に実用化済み」とのことである。

ICTソリューションにおけるコネクティビティの選択肢として、Wi-Fiの採用は一般的だ。なぜなら、周波数免許は不要、設備は手軽、対応端末は多く、ランニングコストが計算できるからだ。特に通信コストの面で、通信事業者が提供するLTEはパケット従量課金であるため、大容量通信を頻繁かつ長時間行うユーザーにはランニングコスト面でWi-Fiが魅力的だ。「LTEでシミュレーションしたら、通信料金だけで百億円単位になってしまったクライアント企業がある」(Nokia)とのことだ。

だが、LTEの機能面での魅力がプライベートLTE導入の決め手になったケースもある。資源開発では世界有数の存在であるRio Tinto社では、豪州の鉱山で従来使っていたWi-Fi設備をプライベートLTEに更改し、重機の遠隔運転等に活用している。LTEの「通信エリアの広さ」や「重要トラフィックの優先制御」といった機能が、鉱山作業での安全性と効率性の向上をもたらしたとのことだ。

LTEの通信エリアが広いことで、基地局設備の数をWi-Fiよりも少なくできることも強みだ。豪州の事例では、Wi-Fiでは30基以上の設備でエリアを作っていたものが、LTEへの切り換えで4基になったとのこと。以前よりもLTEの基地局そのものが廉価になってきているが、30基から4基になるとなればトータルコストはかなり抑えられることになる。

さらに基地局ごとにその周辺設備を作るケース、例えば「太陽光発電設備を基地局ごとに設けるケースなどでは、基地局のための費用よりも周辺設備の費用が上回るケースもあり、基地局数が減ることは導入企業にとってのコストダウン効果が大きい」(Nokia)という実態もあるようだ。

機器にもよるが、プライベートLTEの基地局は30万円程度で入手できるものもある。運用のためのコア網機器などがパッケージとして販売されているケースもあり、LTE設備は既に一般企業が購入できる機器となっている。

プライベートLTEは国内では提案段階

では、国内ではどうだろうか。実は、既に国内でも公共安全分野で導入に向けた取り組みや提案が行われており、以下がその主な領域である。

(1)構内PHS向け

いわゆるビルのPHS内線電話である。PHSはレガシーな国際規格であるが、技術開発が進み、最新の「sXGP」方式は、TD-LTEに100%互換となっている。

(2)900MHz自営用移動通信システム

自治体や物流事業者等が利用してきた業務用の無線通信網である。これをLTE方式に更改しようと、総務省を中心に検討されている。

(3)警察、消防無線

既存の警察無線、消防無線を、公共安全用で共用の無線システムとして構築しようとする提案が総務省の懇談会で議論されている(図1)。

NEC説明資料(総務省 電波有効利用成長戦略懇談会)

【図1】NEC説明資料(総務省 電波有効利用成長戦略懇談会)2018年2月
(出典:https://www.soumu.go.jp/main_content/000533331.pdf)

 (4)CATV事業者

CATV事業者の多くが保有する地域BWA免許を活用し、プライベートLTEを使って地域のバックホール回線に活用するという提案をする機器ベンダーもある。

このように、国内でのプライベートLTEはまだ提案段階であり、本格的なソリューションとしての導入事例は見当たらない。その理由として、以下の2点が挙げられる。

  1. 携帯電話事業者が免許周波数を企業向けにリースできない
    現在の携帯電話事業者向けの周波数免許は、通信事業者の設備を公衆向けに使わせる前提であるため、企業の自営設備向けに、企業内用途のみで使うことができない。
  2. Wi-Fi帯域をLTEで使えない

    スマートフォンが対応している免許不要帯域で、ブロードバンド用途となるとWi-Fiが運用される2.4GHzと5GHzが対象となるが、ともに機器の技術基準適合の観点から、LTE方式での利用には制度見直しが必要である。

したがって、既に免許帯域で運用されているシステムをLTEに更改する、というケースでの導入が先行すると考えられるのだが、近い将来、この周波数をめぐる環境も変わりそうだ。

パナソニック『プライベートLTEネットワークシステム』2018年11月発表

【図2】パナソニック『プライベートLTEネットワークシステム』2018年11月発表
(出典:パナソニックシステムソリューションズ報道発表「地域の公共サービスの向上やデジタル・ディバイドの解消、防災・減災対応に貢献する『プライベートLTEネットワークシステム』を開発」
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2018/11/jn181129-1/jn181129-1.html)

自営用5G帯域で「プライベート5G」

LTE方式は、将来的に5Gへのアップグレードが可能な通信規格である。したがって、プライベートLTEは将来的にプライベート5Gへの移行を視野に入れることができる。

その5Gであるが、総務省が2018年11月に発表した5G向けの新たな周波数帯域の免許割当案では、通信事業者向けの周波数帯域とあわせ、自営用での利用を想定した帯域も確保されており、その案のまま確定すれば、5G方式で使える自営設備向けの周波数帯域が確保されることとなる(図3)。

 したがって、国内でプライベートLTEの導入が既存設備の更改から進むのとほぼ同時期に、5G用帯域でプライベート5Gの導入が進む可能性がある。

5G向け周波数割り当て案

【図3】5G向け周波数割り当て案
(出典:総務省「第5世代移動通信システムの導入のための周波数の割当てに関する意見募集」(2018年11月)https://www.soumu.go.jp/main_content/000582765.pdf)

プライベートLTEが5Gニーズを開拓するシナリオ

国内では、5Gの本格商用展開が2020年に予定されているが、これに先立ち近年は世界の通信業界の各プレイヤーが協力・競争しながら、5Gのニーズ開拓、ユースケース探しを行ってきた。高解像度画像の低遅延配信による遠隔医療や、AR/VR映像配信、ロボットの遠隔操作などがその代表例であり、ソリューション向けの色が濃い。

しかし、果たしてそうした無線ブロードバンドのソリューションが5G必須かというと、実際には「LTEでも実現できるが、5Gの方がより望ましい」というものが多い。

これまで、世界の通信業界は5G向けのユースケース提案について、5Gの高機能をアピールするにあたり、LTEとの比較で語ってきたケースが多い印象だ。しかし、ソリューション用途という面を強く意識すれば、LTEと5Gの機能差を前面にしたアピールより、Wi-FiとLTEの機能差を前面にしたアピールの方が、利用企業からはわかりやすいのではないか。そして、LTEの機能は魅力的だが通信料金が嵩んでしまうことから導入に至らないケースでは、プライベートLTEが効果的な選択肢になる可能性は十分にあるだろう。

したがって、5Gニーズの開拓という目的に向けては、プライベートLTEが市場を開拓し、そのアップグレードとして5G導入が進む、というステップは現実味がありそうだ。5Gソリューションが、プライベートLTEが開拓した市場を後追いする形で広がるというシナリオである。

ビジネスモデルでも、プライベートLTEは5Gに先行する

このことは、5Gでよく論点とされる「5Gのビジネスモデル」に対するひとつの現実解を示しているのではないだろうか。すなわち、ソリューション向けでは、「回線数×従量料金」というモデルと、「自営設備としてのソリューション」というモデルが併存するということだ。

また、通信事業者の5G設備と、企業等による自営5G設備が併存するとなれば、ソリューション提供にあたっての通信事業者の立ち位置としては様々なケースが想定される。事実、海外での公共安全向けLTE導入事例を複数見比べてみると、設備の「所有者」「運営者」「建設者」は一様ではない。公衆サービスとしてのLTEでは、この3つはすべて通信事業者であるが、ソリューションにおいては、分離しているケースが一般的であり、かつ通信事業者はどの役割を受け持つことも可能だ(表1)。

海外における公共安全向けLTEシステム導入比較

【表1】海外における公共安全向けLTEシステム導入比較
(出典:各種情報より情総研作成)

プライベートLTEの登場は、LTEが携帯電話事業者から解放され、Wi-Fiのように様々なプレイヤー(SI事業者、固定通信事業者、機器ベンダー等)が活用できる時代の到来を意味する。携帯電話事業者は5G時代に、どのポジションでどのような付加価値を出すのかを決める段階にある。それは一律ではなく、導入ケースによりフレキシブルなものになるのではないだろうか。

(2019年7月9日追記)本レポートで取り上げた自営用5G周波数帯域は「ローカル5G」として、制度整備が進められている。

【写真1】鉱山を走る無人トラック(出典:英テレグラフの以下URL記事より) https://www.telegraph.co.uk/technology/news/11940333/Driverless-trucks-transport-iron-ore-at-Rio-Tinto-mines-in-Australia.html

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

関連キーワード

ITトレンド全般 年月別レポート一覧

2022 (19)
2021 (63)
2020 (61)
2019 (63)
2018 (78)
2017 (26)
2016 (25)
2015 (33)
2014 (1)
2013 (1)
2012 (1)
2010 (1)

InfoCom World Trend Report

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS