世界の街角から:カジランガ国立公園(インド世界自然遺産)~ゾウに乗ってサイを見る
2018年末から2019年初めにかけてインドを訪れた。世界一のインドサイ生息地がインドにあると知り、北東部に位置するカジランガ国立公園に向かった。当地で野生動物を観察するサファリツアーに参加した模様をお伝えしたい。
アッサム州へ
カジランガ国立公園が位置するのはインド北東部、紅茶で有名なアッサム州だ。ヒマラヤ山脈の麓にあり、東はナガランド州、マニプール州、西はバングラデシュ、西ベンガル州、北はブータン、アルナーチャル・プラデーシュ州、メガラヤ州、南はミゾラム州、トリプラ州に接しているアッサム州は、この北東7州(「7 Sisters」)の中核を成している。
アッサム州へはデリーから国内線で向かう。3時間ほどのフライトで同州の州都グワハティに到着。そこからは車に乗り東を目指す。途中食事や休憩をはさみながら約5時間車に揺られてカジランガ国立公園内の宿泊先に着いた。
カジランガ国立公園
カジランガ国立公園はインドの世界遺産の一つであり、インドで初めての自然遺産として1985年に登録された。1905年に開園し100年以上の歴史があり、インドで最も野生動物の保護に成功している公園といわれる。インドサイのほか、トラ、水牛、シカ、ゾウ、野鳥などの野生動物が生息している。
インドサイは1900年代の初め、狩猟・密猟により数10頭まで激減したが、現在約2,300頭まで回復している。野鳥の種類も豊富で約1,200種類が確認されている。ベンガルトラも120頭ほど生息しているが、滅多に見られないとのこと(滞在中、同じホテルに宿泊していた人が幸運にもベンガルトラに出会い、ホテルのフロントに名前が張り出されていた)。
カジランガ国立公園の湿地帯には大河ブラマプトラ川が流れている。6~9月は雨期でモンスーンの豪雨により公園の大半が水没する。そのため11~2月の乾季のみ公開される。年末年始は観察のベストシーズンで国内外の旅行者が訪れる。
目の前を横切るサイ
カジランガ国立公園には3泊し、合計5回サファリに参加した(朝3回、午後2回)。以前スリランカの国立公園で参加したサファリでは、ジープはデコボコ道を猛スピードで疾走し、振り落とされまいと必死に手すりにしがみついていたことが未だに記憶に新しい。1回のサファリは3~4時間で体力的にきつい。今回も覚悟した。
宿泊先にやってきたジープ3台に分かれて乗りサファリ開始。先頭のジープにレンジャーが乗り込み、動物を見つける度にドライバーに合図し車を止める。
1回目のサファリでサイを発見。少し遠めではあるが、スマホのカメラでもその姿を収めることができた。
その後近くの草むらからサイがひょっこり現れた。その場に居合わせたジープは皆エンジンを切った。サイは人や車が近くにいても気にするそぶりを見せなかった。ゾウと異なるのはこの点だろうか。スリランカのサファリでゾウに遭遇したジープのドライバーは身振り手振りで後続のジープにバックを促した。ゾウは興奮すると鼻を振り上げて車をひっくり返すこともあるという。数台のジープが数珠つなぎになってバックしゾウと距離を置いていた。
サイは左から右に向かって一歩一歩踏みしめるように道を横切った――カメラのシャッター音、鳥のさえずり、そよ風に揺れる草がこすれ合う音――道を渡ったサイはゆっくり向きを変え再度道を横切り、もと来た茂みに入っていった。サイの姿が草むらに消えるやあちこちから深いため息が聞こえた。
ゾウに乗ってサイを見る、エレファントサファリ
エレファントサファリはカジランガ国立公園の観察ツアーの目玉だ。通常朝5時と6時の2回、観光客が多い時期は3回行われる。参加時間帯は指定できず、森林局が決定し前日の夜に確定する。ゾウの数に合わせて参加者の配分調整を直前まで行っているようだ。
ゾウ乗り場は2階建ての東屋造りになっており、さながらタクシー乗り場のよう。ゾウ使いの乗ったゾウが1頭ずつ乗り場にやってきて2~3人ずつお客さんを乗せる。エレファントサファリには銃を持ったレンジャーも同行する。
湿地にはエレファントグラスという高さ4~5メートルのススキが生えている。ゾウが好んで食べる草でネピアグラスとも呼ばれる。ゾウに乗ってエレファントグラスの草原に分け入り、ジープからは見えない草原の奥にいる動物たちの生態を観察する。
夜明け前は動物が活発に活動する時間帯であり、朝もやの中、ダウンジャケット・手袋・帽子・マフラー等防寒服に身を包み出発。お客さんを乗せて仕事をする親ゾウの後を子ゾウがついてくる姿は微笑ましい。親も子も道すがら鼻で草を引き抜いて食べながら歩いていた。
ゾウ乗り場のタワーから離れると、聞こえてくるのはゾウがかき分けるエレファントグラスのざざっざざっという音ばかりになる。霧がかかった白っぽい草原の中にサイのシルエットが浮かび幻想的な光景だ。サイのほか、水牛やシカ(ホッグディア)、イノシシなども見ることができた。
インドも寒い
インドというと年間を通じて灼熱の太陽が照り付ける常夏のイメージがあったが、デリー空港に到着した瞬間、そのイメージはあっさり打ち消された。北部ではちょうど冬を迎えていた。デリーの新聞に「5年ぶりの寒波到来」という記事が出ていた。数年ぶりの寒さとはいえ、北部では通常2~3カ月ほど冬に相当する時期があるという。
アッサム州では一日の温度差が大きく朝晩は摂氏5~10度、日中は晴れれば25度ほどまで上がる。この時期は日没が午後4時半ごろなので暖かい時間はごく短く、体感的には東京の冬より寒かった。宿泊先ではお湯が出るのはありがたかったが、暖房設備は無く室内は底冷えした。就寝時はフリースやセーターを着込みベッドに潜り込んだ。
今回この地で身をもって実感したのは、年末年始は真冬並みの身支度が必要だということ。落ち着いて充実した動物観察の時間を過ごすためにも、厚手のダウンコート、携帯カイロなど防寒対策をしっかりとして出かけられることをお勧めする。
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